艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十一話 3 看病の始まり

保健室から大神をつれ大神の部屋に向かう間宮たち。

幸い、肩を落とした金剛や鹿島が後を追ってくる気配はない。

あの調子で大神の部屋でドタバタされたら堪ったものではないので、良かったというべきだろう。

 

「まあ、少しかわいそうかなとは思いましたけど」

「誰がかわいそうなんですか、間宮さん?」

 

隣を歩く伊良湖が間宮に尋ねる。

 

「金剛さんたちのこと。あの子達の熱意と大神さんへの好意は間違いないんでしょうけど、あの調子で大神さんの看病をされたら治るものも治らなくなってしまうわ。だから、かわいそうだけど心を鬼にしないと」

「あはは……」

 

説教中はいつも鬼が居ますよ、とは面と向かっていえない伊良湖は苦笑するしかない。

 

「皆さん、多分、今度は面会を求めてくるんじゃないかなー。でもその辺りは間宮さんの裁量にお任せします。大神さんの体調回復の負荷になってるなら追い出しちゃって構わないですよ。大神さんは多分、会いたいと言ってる艦娘にはあまり厳しくは出来ないでしょうし」

「そうだね、明石くんの言うとおり、俺だと負荷になっても面会に応えてしまいそうだから」

 

もう大神の性格をある程度は理解しているのだろう、明石が間宮に大神の手綱を託す。

 

「あらあら、そこまで信頼されちゃっていいのかしら? もし私が大神さんを独り占めしたくなったら誰も止められなくなってしまいますよ?」

「いいっ!? ま、間宮くん?」

「なんて、冗談ですよ。さ、大神さん、部屋に着きましたよ」

 

そんな冗談を間宮が言っている間に、大神の部屋に到着する。

司令室とは異なり私室であり、極秘の物がある訳ではないので、掃除は不在の間に担当のものが行っていた。

 

「それでは、間宮さん、私も自室に戻って休みます。順調そうでも最低一日一回連絡を。もし何かあったらすぐ私を呼んでくださいね」

「明石さんの方は大丈夫? 伊良湖ちゃん、一応明石さんを部屋まで送って行ってあげて頂戴」

「あ、はい! 分かりました、間宮さん」

「そうしてもらえると助かります。大神さんの前に私が倒れたらお話になりませんからね」

 

そうして明石を部屋まで伊良湖が送っていき、大神の部屋には間宮と大神の二人が残される。

二人は私物もさして多いわけではない部屋をベッドまで歩いていく。

 

「大神さん、疲れていたりしませんか?」

「情けない話だけど、お腹の辺りがちょっと重い感じだね。明石くんの言うとおり身体の中が疲労しているのかな」

「それだと、今日は体を拭いたりしない方がいいかもしれませんね。早くベッドで休んで下さい」

「いや、まだ暑いし、汗も掻いてしまったからね。出来れば休む前に拭きたいところかな」

 

確かに大神の額を見るとじんわり汗をかいている。

大神の言う体調からすると、あんまり身体は冷やさないほうがいいと間宮は思うのだが、大神が休む前にさっぱりしたいと言うのなら手伝ってすばやく終えるべきだろう。

 

「分かりました、大神さん。じゃあ、私はタオルと着替えを用意しますね」

「え、間宮くん、何を言ってるんだい? 体を拭くなんて一人で出来るよ!」

 

大神は慌てて間宮を止めようとするが、ここで止まる間宮ではない。

 

「ダメですっ、大神さんは病人なんですから座って待っていて下さい。あ、でも、あの……下を拭くのは出来ればお願いしてもいいですか?」

 

珍しく、実に珍しく頬を赤くして大神に目配せする間宮。

大神はコクリと小さく頷いた。

 

そしてベッドに座り、上半身裸になった大神の体を用意したタオルで間宮が拭き始める。

裸になった大神の胸と背中にはうっすらと丸い傷痕が残っていた。

 

「大神さん、これ……」

「ああ、狙撃された傷痕だね。霊的回復で治癒したからもっと傷痕は見えなくなっていく筈だけど、今はまだ傷痕が見えてしまうかな」

 

何気なく大神は答えているが、あのときの艦娘は自分も含めて酷かった。

大神が死んでしまうと悲しみにくれ、我を忘れてしまった。

 

「いまはもう、大丈夫なんですか?」

「ああ、傷口周辺は癒えてるから、こっちは心配要らないよ、って間宮くん、何を!?」

 

驚く大神をよそに間宮は大神の傷痕に軽く口づけをした。

少し涙が滲んでしまった目を大神に見られないように素早く涙をふき取りながら。

 

「早く傷痕が見えなくなるように、おまじないです。大神さん」

「それは良く効きそうだね。ありがとう、間宮くん。あと下の方は自分でやるから――」

「では、反対側を向いていますね。終わったら声をかけてください、洗濯物を出してきますので」

「ああ」

 

そうして、大神が下半身を拭き始め、衣服を下ろす衣擦れの音が聞こえてくる。

ただそれだけの筈なのに、反対側を向いた間宮は顔がどんどん赤くなっていく。

 

『――あれ? どうして?』

 

別に大したことではないと思っていた筈なのに、今の大神の姿が気になって仕方がない。

今大神はどこを拭いているのだろうかとか、変な事を考え始めてしまう。

僅かな時間しか経ってないのに、もう何十分も経ったかのように感じる。

やがて大神は身体を冷やしていないだろうか、と、心配が募る。

 

「大神さん? まだでしょうか?」

「ああ、もうちょっと――」

 

そう答える大神の声が近くに聞こえる。

どうして、大神の声が近くに聞こえるのだろうか?

もしかして――大神がすぐ後ろに居るのだろうか?

何の為に?

 

『――っ!?』

 

そこで間宮は気付く。

この部屋には間宮と大神の二人しか残っていないことに。

もし、大神が間宮を望んだら、戦闘力皆無の間宮が抵抗する術などないと言うことに。

 

『何考えているのよ、間宮! 大神さんがそんなことする訳ないじゃない!!』

 

あんまりワタワタしていると、大神に怪しまれてしまう。

でも、衣擦れの音がだんだん近づいているようにも思える。

ここで振り向くべきだろうか、でもまだ拭き終わってなかったら、失礼だし。

 

そんな風に間宮がためらっていると、

 

「間宮さーん、明石さんを送って来まし――大神さん!!??」

「伊良湖ちゃん!?」

「伊良湖くん!?」

 

明石を送り終えた伊良湖がノックなしで大神の部屋の中に入ってきた。

ちょうど下着を取り替えようと、大神が下着に手をかけた状態のときに。

 

そして、間宮は大神が服を脱ぐのを反対側を向いて待ち、顔を赤くしている、ように見えた。

 

伊良湖が一瞬考えて出した結論、それは――

 

「失礼しました……後はお二人で、ごゆっくりどうぞ…………」

 

ドアを再びゆっくりと締める伊良湖。

最初、大神たちは伊良湖が何を言っているのか分からなかった。

 

次の瞬間、伊良湖が誤解していると気付いた二人は伊良湖を追いかけようとして慌てだす。

 

「伊良湖くん、待ってくれ! ――うわぁっ!?」

「伊良湖ちゃん、それは誤解なの! ――きゃあぁぁぁっ!?」

 

だが、ズボンを下に下げた状態で慌てて駆け出そうとした大神は、当然の如くバランスを崩し先に居た間宮に抱きついた。

ズボンを下に下げた状態で。

 

もっと言うと、パンツ一丁の状態で間宮に抱きついた。

 

大神の勢いに押され、押し倒される間宮。

その上に大神がのしかかる、パンツ一丁の状態で。

そのまま間宮の豊かな胸に顔を埋めてしまう大神、パンツ一丁の状態で。

 

「きゃあっ!? やんっ、大神さん、離れてください!」

「ゴ、ゴメン! すぐ離れ――」

 

胸に顔を埋められ、服を通り越して大神の吐息を感じて喘ぐ間宮。

すぐに間宮から離れようと、慌てて床に両手を突こうとする大神。

しかし、

 

「え――お、大神さん?」

 

大神が起き上がるために突いた両手には、ちょうど間宮の両腕があった。

意図してのものでは勿論ないだろうが、起き上がって間宮の胸から顔を上げた大神は、間宮を押し倒して、抵抗する間宮の両腕を押さえつけたように見える、パンツ一丁の状態で。

 

「間宮くん、今はな――間宮くん?」

 

大人しくなった間宮に疑問の声をかける大神。

 

「え、あの……えと、大神さん……優しくしてくださいね」

 

顔を赤らめて視線を僅かに大神から逸らす間宮。

腕の力も弱まり、色々受け入れる覚悟が出来たようだ。

 

「いや、違うんだ、間宮くん! 今離れるから!!」

 

そこにちょうど伊良湖が戻ってきた。

 

「大神さん、間宮さん、早とちりしてごめんなさ――大神さん、何を!?」

 

今度はもっと言い訳が聞かない状態だ。

さあ、どうする大神。

 

 

 

 

 

しばらくして、事情を説明し伊良湖がようやく納得した後、大神は気疲れもあり眠りについた。

伊良湖はノックを忘れたことを間宮にこってり絞られるのだった。


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