艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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閑話 9 白露型特訓します? 終

そして夜、時は既に消灯時間。

夜間灯のみが小さく灯っており、廊下を照らしている。

足柄たちは寝間着に着替えて、大神の部屋の近くまでやってきた。

 

「いいわね、全員揃ってるかしら?」

 

流石に大声を出せば他の艦娘に気付かれてしまう為か、足柄の声も小さい。

それにつられ朝潮たちも小さな声を出す。

 

「朝潮、師匠がお呼びとあれば即参上です」

「白露、今度こそ一番乗りするんだもん」

「村雨、準備オッケーよ」

「夕立も準備万端っぽい~」

「ねえ、足柄さん、本当に夜這いなんてするの? これ以上やっちゃったら、大淀さんだけじゃなくて、金剛さんとか鹿島さんとか、本気で敵に回しちゃうよ?」

 

いや、一人だけ寝間着に着替えていない時雨が、足柄の暴走を制止しようとしている。

ただでさえ大神が検査中ということで、秘書達もなかなか会えずどこかピリピリしているのだ。

大神に夜這いしたと知られたら、ただではすまない。

 

「うぐっ、それは……でも、ここで諦める訳にはいかないのよ!」

「足柄さん、声大きいよ」

「あれ、こっちから話し声がするデース、足柄っぽい声デスネー」

 

足柄たちの話し声を察知したか、何故か近くに居た金剛が近づいてくる。

このままでは金剛に鹵獲され、

 

『刑を申し付けるのデース! 市中引き回しの上、磔! 獄門デース!!』

『いやーっ!?』

 

と極刑を言い渡されるに違いない。

 

「ほら、みんな身を隠すわよっ」

 

流石にそれはゴメンだと、近くの部屋、と言うか大神の部屋に忍び込んで身を隠す足柄たち。

 

「ええっ? 大神さんの部屋に隠れたら、もっと言い逃れできなく……」

 

どんどんドツボに嵌っていっている様に思う時雨、それは多分間違いではない。

 

「あれー、誰も居ないデース。気のせいデスカネー?」

「本当に足柄さんが居たんですか、金剛さん?」

 

足柄の居た場所に近づき、辺りを見回す金剛と鹿島。

ある意味最も恐ろしいペアが、二人で大神の部屋の外を見回りしている。

大神の部屋の中に居ることがバレたらどうなるか、部屋の外の様子を伺う足柄たちに戦慄が走る。

 

「ゴメンネー、気のせいだったかもしれないデース」

「いいえ、足柄さんのことです。昼の明石さんの襲撃と言い、もう何をするか分かりません」

 

昼間の事はある意味大神を助けた側面もあるのだが、傍から見れば大神とラブラブする為に検査していた医師を襲撃した事実しか残らない。

 

仏の顔も三度まで。

 

追い出すだけで済ませてきた大淀も、次は流石に許すつもりはない。

弱っている大神に夜這いするものが出ないよう、お互いを見張る為に金剛たちで構成された『大神さんの貞操を守り隊』は、もし足柄を捕捉したら、鹵獲の必要はない、殲滅しても構わないと大淀から連絡を受けている。

 

「まだ検査中の大神くんの弱った身体に付け込んで、襲うだなんて許せません!」

「勿論デース、鹿島。足柄を見つけたらギッタンギッタンにお仕置きしてあげるデース!」

 

気勢を上げる金剛たちに、寒気で身体を震わせる足柄。

ここが足柄にとって、最後の引き返せるポイントだ。

 

「師匠、引き際が肝心です」

 

朝潮の言うとおりである。

これ以上部屋に残らず、大神が寝ているうちに速やかに離脱するべきだろう。

 

「でも、隊長の寝姿を一目だけ――できれば、ちょっとくらいならキスでも――もっと出来れば、ベッドインを!」

「「「だあっ」」」

 

それでも、自分の欲望にまっしぐらな足柄に、ずっこける時雨たち。

そんな弟子たちを放置して、大神の寝顔を見る為に、大神のベッドにそそくさと近寄る足柄。

 

「これが隊長の寝顔……イヤだ、寝顔も、イイお と こ♪」

 

イカンイカンと、流れ落ちる涎を拭き取る足柄。

正しくその姿は残念美人。

 

だが、足柄は一つ大事なことを忘れていた。

大神は二天一流の、剣術の達人なのである。

そんな至近距離で邪気を発していて、寝ているとは言え大神が気付かない訳がない。

 

「何やつ!?」

 

大神は飛び起きて、敵かと反射的に神刀滅却を携える。

そんな大神の姿に、足柄はベッドから飛び離れると、

 

「みんな撤退よ、撤退~」

 

そのまま全速力で大神の部屋から外に逃走した。

 

「あっ、待って下さい、師匠ー!」

 

朝潮も少し送れて足柄の後を追っていく。

その一部始終を聞いて、彼女達を捕まえ、否、殲滅する為に『大神さんの貞操を守り隊』が、

 

「御用だ!」

「御用だ!」

「御用デース!」

 

と彼女達を追いかけていく。

艦載機まで持ち出してるので、彼女達が御用となるまでそう時間はかからないだろう。

 

となると、次に確認するべきは大神の部屋。

まだ不埒者が残っているかもしれない。

 

「隊長、ご無事ですか!?」

 

大淀が大神の部屋の中を確認する為に入っていく。

 

「ああ、もう大丈夫だよ、大淀くん。ありがとう」

 

そういう大神だったが、違和感はある。

と言うか、ベッドの膨らみ方が明らかに変だ、何人か隠れているのだろう。

 

「そうですか。では念のために、部屋の中を確認しても宜しいでしょうか? そのベッドとか」

 

大淀の声に布団がビクッと震える。

大神の頬に冷や汗が流れる。

 

「なんて、冗談です。隊長がそういうのなら大丈夫なのでしょう、早くお休み下さいね」

 

でも、大神がベッドを隠れ場所として提供したのなら、分かっていて庇うつもりなのだろう。

大神がそのつもりなら、ここはあまり追求するのも無粋か。

 

「あ、ああ。大淀くんたちこそ、あまり無理はしないでくれ」

「分かっています、隊長。日付が変わる前には解散して眠りますね」

 

そうして、大淀は大神の部屋を辞して、大捕り物と言うか殲滅劇に再参加するのであった。

しばらくの後、真っ黒こげの重巡と縄で縛られた駆逐艦が演習場に引っ立てられるのであった。

 

 

 

「もう大丈夫だよ、みんな」

 

大淀が去って行った後、大神が隠れている艦娘に声をかける。

 

「「「ぷはー」」」

 

布団をめくり返し、白露たちが深呼吸をする。

非情な事にとっとととんずらこいた師弟に出遅れて、部屋であたふたしている白露たちを大神が問題ないかと庇うことにして寝ているベッドを提供。

大神のベッドに潜り込んで、あの大淀から隠れるには息も殺さないとダメだ、と必死で呼吸を我慢していたらしい。

もうしばらく大淀があの場所に居たら、息を我慢しすぎて自爆して捕まったかもしれない。

 

「大淀さん、怖かったよ~」

「そうよね~、流石は筆頭秘書艦」

「あれ、時雨が起き上がらないっぽい?」

 

夕立の声に時雨を見やる白露たち。

 

「ごめん、みんな、腰が……抜けちゃったかも」

 

時雨は大淀の気に当てられて恐怖で腰が抜けたらしい。

大神の腰に抱きついた手を剥がして上手く起き上がろうとしたが出来ず、四苦八苦していた。

 

「んーん、うわあっ!? ごめんなさい隊長!?」

「時雨くん、大声を出したらダメだよ、しー」

 

ベッドに手を付いて起き上がろうとしたが失敗して転げて、大神の胸の中に納まる時雨。

大声を出して離れたくても、腰に力が入らずに離れることが出来ない。

更に声を出すことも制止されると、静かになった部屋のせいで寝間着ごしに耳から大神の鼓動がトクントクンと聞こえる。

それに濃厚な大神の匂いが胸元から匂う。

 

時雨は5感の過半、嗅覚と触覚と聴覚、あと視覚を大神色に染め上げられ、目がグルグルし出す。

考えないようにしても、残る味覚ではどうなのだろうかと考えてしまう。

 

『ダメだよ、時雨。こんなヘンなこと考えてたら隊長に嫌われちゃうよ!』

 

顔を朱に染めながら、変なことを考えないように必死に目を瞑る時雨。

 

「大丈夫かい、時雨くん?」

 

そんな時雨をあやす様に大神が背中をさする。

ところがどっこい、外界の刺激を遮断しようとしていた時雨には、それは過激な刺激過ぎた。

 

「んっ、ん~っ!!」

 

大神に抱きついて必死に声がもれ出るのを我慢する時雨。

でも、そんな様子は他の3人から見るとラブラブしているようにしか見えない。

 

「む~、時雨だけラブラブずるいっぽい!」

 

夕立が時雨の反対側から大神に抱きつく。

 

「時雨、それはバッドジョブよ~、こうなったら村雨も!」

「がーん、わたしがいっちばん最後?」

 

出遅れた白露と村雨が上から大神に覆いかぶさる。

 

「ちょっ、みんな? 大淀くんたちが行ったうちに部屋に戻って――」

 

流石に一晩匿う気はなかった大神が部屋に戻るよう促すが、

 

「時雨が動けるようになるまで無理っぽい~。大神さん、お話聞かせて聞かせて~」

 

そう、肝心の時雨が大神に抱きついたまま離れられ、いや離れようとしなかった。

この状態で3人だけ返す方が翌日誤解されそうだ。

夕立の言うとおり、時雨が動けるようになるまで待つべきだろう。

ある種の諦念と共に、大神は白露たちが疲れて眠りに付くまでおしゃべりに付き合う事にした。

 

大神の予想通り、翌朝まで大神のベッドで寝て、大淀に怒られる一同だった。

 

 

 

 

 

ちなみに、足柄は金剛にとっ捕まり、電柱に一晩磔の刑となった。

 

「次は、次の特訓こそは成功して見せるんだからー!」

「まだ言うデスカー、足柄ー! 邪念を落としてあげマース!」

 

と、金剛がはたきでまだ喚く足柄の身体をはたく。

 

「いたっ。あいたっ! 分かった、もうやらないから――」

「ほんとデスカー?」

 

でも、日付が変わって金剛が寝た後には、次の特訓を考え始めていたらしい。

懲りない艦娘である。

 

 

 

そして、朝潮には大淀と翔鶴からのお説教が待っていた。

いや、正確には足柄に感化され過ぎたところの矯正といったところか。

とてもではないが一晩では終わる見込みが立ちそうになかったので、時間をかけて行われた。

結果、少しは落ち着いたのかもしれない。

 

 

 

 

 

だが――数日後、

 

 

 

 

 

「師匠、阿賀野さんたちがもっと強くなりたいといっているそうです」

「決まったわね」

 

いや、落ち着いたのだろうか?

 

 

 

 

 

『大神さんの貞操を守り隊』構成メンバー

瑞鶴、鹿島、金剛、大淀、翔鶴、愛宕

(一航戦、二航戦は処罰中)

(駆逐艦は早く寝るべしと対象外)




誰が白露型1嫁で、誰が2嫁か、もう皆さんお分かりでしょう。

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