艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

131 / 227
閑話 4 鹿島の士官学校回顧録 3

「ぐぬぬ、鹿島ー! 羨ましすぎデース! 隊長とそんな甘酸っぱい生活を4年間も送ってたなんてー!!」

 

気が付けば、遠くで聞き耳を立てることに我慢が出来なくなったのか、金剛が近くの席に座りなおしていた。

いや、殆どの艦娘が大神と鹿島を中心に集まりなおしている。

 

「うふふっ、それはもう大変でしたが、楽しい4年間でしたよ。体育祭では友達の女生徒とチアガール姿で大神くんや加山くんたちを応援したこともありましたし、あと浴衣姿で近くの花火大会に行ったりもしましたね。あとは……クリスマスとか、初詣とか、バレンタインとか!」

「「「ぐぬぬぬぬ……」」」

 

指折り数えてイベントを思い出す鹿島に歯軋りする艦娘たち。

しかし、明石はとある事に気付く。

 

「鹿島さん、それって皆さんで行かれてたんですか? グループでの活動みたいな感じだったんですか? 大神さんと二人きりって言うのは?」

「それは殆どなかったかな、出来ればみんなで鹿島くんを護りたかったし」

「なーんだ、それなら少し安心したデース」

 

しかし、鹿島の笑みは止まらない。

 

「そんなことはありませんよ。イベントは皆さんで行くことが多かったですけど、送り迎えしてもらってたときは二人きりの方が多かったですよ。大神くんに部屋に上がってもらったこともありましたし。何より4年目、最後のクリスマスは二人っきりで――」

「いいっ!? 鹿島くん、流石にそれを話すのはやめよう!」

 

大神が何故か慌てた様子で鹿島の言葉を止めようとする。

 

「クリスマス!? 二人っきり!? 鹿島、何があったんデスカー!?」

「聞き捨てなりませんね。大神さんの医師として情報の公開を要求します!!」

 

だが、そこまで聞かされて黙っていられる金剛たちではない。

鹿島を止めようとする大神を押さえつけて鹿島の言葉に耳を傾ける。

 

「そこまで言われたら、喋っちゃいますね♪」

 

 

 

 

 

「もうすぐクリスマスですね」

「そうだね、鹿島くん」

 

二人で歩く道に冷たい風が通り抜ける。

商店街には赤と緑のイルミネーションが見え、木々にも飾り付けが行われている。

いわゆるクリスマスムードだ。

 

「まあ、例年通り、加山が取り仕切ってくれるはずだから、俺たちはそれを待てば――」

 

いつも通りクリスマスを楽しめば良いか、そんな風に考えていた大神の言葉を鹿島が遮る。

 

「あの! それなんですけど、今年は二人っきりでお祝いしません? 私の部屋で」

「え……、え?」

 

意を決した様子で、大神をじっと見つめて尋ねる鹿島の言葉に言葉を失う大神。

 

「ダメですか、大神くん? 大神くんとクリスマスをお祝いするの、今年で終わりになってしまうから今年は特別なことをしたいんです!」

「そうか……来年は俺達、もう卒業してしまうからね。うん、鹿島くんがそう望むならいいよ」

「良かった……もしかしたら、断られるんじゃないかって思っちゃいました」

 

ぱっと花が咲くように、笑顔を見せる鹿島。

この笑顔を引き出しただけでも、良かったのかもしれない。

 

しかし、クリスマスといえば付きものなのがプレゼント。

いつもはプレゼント交換という形で行っていたから気楽に考えていた大神だが、今回は違う。

鹿島の為に贈らなければいけないのだ。

花やケーキなどのなくなってしまう物は多分ダメだろう、特別なクリスマスを鹿島が望んでいるのであれば、もっと思い出に残るものにしないと。

定番というとあとは装飾品だろうが、けれども家族以外の特定の女性の為に贈ったことなど大神にはないので、今一つピンと来ない。

誰かに相談するか、と一瞬考える大神だったが、それではますます意味がない。

 

「少なくとも、鹿島くんの為に考えて選んだものでなければダメだよな……うーん」

「うふふっ」

 

そんな様子で考え始める大神の姿を見て、嬉しそうに微笑む鹿島であった。

 

 

 

そして、クリスマスイブ当日。

それは狙ったかのように休日で、大神は予めプレゼントとシャンパンを購入してから鹿島の部屋を訪れていた。

予定時刻にほど近い時間。

何回か上がったことのある部屋なのだけれども、妙に緊張してしまう大神。

流石に二人でクリスマスを祝うことの意味を分からないほど、物を知らない訳じゃない。

加山に例年の集まりには行かないことを伝えたときには、卒業かとからかわれた。

 

「いかんぞ、大神」

 

後頭部を軽く叩き、邪念を追い出して、チャイムを鳴らす大神。

すぐに玄関に駆け出す足音が聞こえてくる、そんなに慌てなくてもいいのに。

 

「大神くん! いらっしゃい!!」

 

鹿島は赤のセーターにケープ、帽子とサンタを模したクリスマス用の衣装に身を包んでいた。

満面の笑顔で大神を迎え入れる鹿島に、一瞬みとれる大神。

 

「……ああ、お邪魔するよ、鹿島くん」

 

そう言って鹿島の部屋の中に入る大神。

部屋の中は簡単にではあるが、女の子らしくクリスマス調に飾られている。

テーブルの上には出来たてのローストチキンが乗せられ、更に前菜のスモークサーモンのミルフィーユやポタージュなど手が込められた事が一目で分かる料理が並べられていた。

しかも全て鹿島の手作りだ、どれだけ手間をかけて大神を待っていたのだろうか。

 

「せっかくだから、お料理の方も頑張っちゃいました」

「こんなに……鹿島くん?」

「あっ、大神くん、ダメッ!」

 

もしかしたらと思い、鹿島の手を取ってよく見てみる。

目立った傷は無いように見えるが、小さな火傷や、皮一枚の切り傷などがあった。

今日の料理で出来たものだろう。

 

「ちょっと気合入れ過ぎちゃって。あんまり見ないで下さいね、大神くん」

「鹿島くん……」

 

小さく舌を出す鹿島の様子に、大神の胸が熱くなる。

その熱さを落とすように、大神は鹿島の手にキスをした。

お姫様に騎士がなすように。

 

「ふぁっ!? ……大神くん?」

「ありがとう、鹿島くん。こんな美味しそうな料理、このシャンパンじゃ釣り合わないかな?」

「そんなことありません。さっ、大神くん、料理が冷めないうちにお祝いしましょう!」

 

部屋の入り口から中へと手を引き、大神を鹿島が導いた。

鹿島の部屋に上がるときいつも座っている所に大神が座ると、鹿島がキャンドルに火を灯してから電気を消す。

 

「うふふっ、このほうが雰囲気が出るかなーって」

 

キャンドルの明かりに照らされて笑う鹿島は、まるで女神のように綺麗で、大神は声を出すことも忘れて、しばしの間鹿島を見つめ続ける。

 

「……大神くん?」

 

席に着いた鹿島は大神の動きが止まったことが気になって、大神を見る。

鹿島は、大神の瞳に自分の姿が映りこんでいるのを見た。

 

「ヤダ、大神くん。そんなに見つめられたら、私……」

「――っ! ゴメン、鹿島くん! シャンパンを注ぐよ!」

 

恥ずかしがる鹿島の様子に、ようやく我に返る大神。

慌ててシャンパンの栓を抜き、二つのグラスに注ぐ。

しかしそんなことをすると、シャンパンの泡は激しくたってしまう。

 

「うふふっ。大神くん、そんなに慌てないで」

「あっ、そうだね。ゴメン」

 

微笑む鹿島に言われて、ゆっくりとシャンパンを注ぎなおす大神。

丁度いい量になったところでボトルをワインクーラーに入れる。

 

「じゃあ、大神くん」

「鹿島くん」

 

お互いにグラスを持ち上げ、近づける。

 

「「Merry Christmas」」

 

互いに小声で呟いて、グラス同士を軽く合わせる。

小さな音が鳴った。

二人っきりのクリスマスは始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

「「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」」」

「ぐはぁーっ!」

「うふふっ」

 

艦娘たちの歯軋りの音が聞こえる。

なんじゃそりゃー、と誰かが叫んでも全くおかしくない。

そして、大神は悶絶して血反吐を吐いている、病気ではないので問題はない。

そんな様子を見て鹿島は上機嫌だ、そのときのことを鮮明に思い出してきたらしい。

 

「隊長ー! 鹿島の色香に乗っては駄目デース!! しっかりするデース!!」

「大神さん! 気を確かに!!」

「いやいやいや、前の話だから今言われても!!」

 

金剛と明石が大神を揺さぶっている。

が、大神の言うとおり、これは去年のクリスマスの話。

今言われたところで過去が変わるわけではない。

 

「どうします? これ以上聞きたくないんでしたら、お話やめましょうか?」

「ここまで来て途中でおしまいだなんて、納得できる訳ないデース!!」

「そうです! 毒食らわば皿までですよ! 鹿島さん、最後まで話しちゃってください!!」

 

ここまで来ても、大神さんなら。

大神さんならきっと。

 

と、確たる理由もなく大神を信じて先を急かす金剛たち。

 

「分かりました、じゃあ最後まで話しちゃいますねっ」




自分いつから合体技かいてるんだっけ?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。