「その後はずっと大神さんが鹿島さんを送り迎えしてたんですか?」
「そうだね。それから基本的には、俺が卒業するまではずっと鹿島くんの送り迎えをしてたよ。ブラックダウンが起きて、鹿島くんの待遇はマシにはなったけど、最後の方だったからね」
さらりと回答した大神に、艦娘たちに衝撃走る。
なんてこった、4年間も大神さんが送り迎えしてくれただと。
羨ましい、羨まし過ぎる。
「まあ、鹿島くんの男性に対する警戒心が和らいだ後は、加山とか女生徒たちも外出を兼ねて加わったりもしたんだけど」
「そうですね、途中からは皆さんでちょっと外出する様な感じの日もありました。大神さんの懇意の方だけあって、私に対しても蔑視とかしない人たちでしたし。女性のお友達も出来ました」
思い出に浸るように盛り上がり始める二人。
そうはさせぬぞと明石が話題を振る。
「あれ、女性の方はなんで一緒になってたんですか?」
「流石に俺一人でずっと鹿島くんを護りきれると思うほど、自惚れてはいないからね。鹿島くんを護ると決めた段階で、信頼できる人たちを男女を問わず加山と一緒に集め始めたんだ」
「それが、海軍では今をときめく大神大佐に近かった人として、一種の評価を受けている訳ですから人生何が起きるか分かりませんよね、うふふっ」
いや、ちょっと待てと明石は一瞬考え込む。
「鹿島さん以外に大神さんに親しい女性が居たなんて初耳ですよ!」
「あれ? 言っていなかったっけ?」
「言ってません! 聞いてません! 鹿島さんはなんでそんなに安穏としているんですか!?」
「もう済んだことですから」
「あ、鹿島くんの女友達といえばこんなこともあったな」
「ちょっと相談したいんですけど、いいでしょうか?」
いつものように鹿島を送る途中、鹿島はちょっとまじめな表情で大神を見上げてそう言ってきた。
「ああ、いいけど。どうしたんだい?」
大神は鹿島のほうを見やり、そう返す。
「今日、友達から相談されたんです」
「相談って? 俺に話してもいいことなのかな?」
「ええっと、私だけでは回答し辛くて……出来れば手伝ってもらえればと」
男性視点も必要なのかな、と大神は納得する。
「その友達なんですけど……好きな人が居るらしいんです」
「え? ちょっと待ってくれ、恋の話なら俺は役に立たないよ」
「とりあえず聞いてもらうだけでも。お願いします、大神くん!」
「分かった。でも、あんまり役には立てないかもしれないから」
恋の悩み、なんて相談が鹿島から自分に来るとは思わなかった。
「それでですね。その子の好きな人が、その……大神くんと同級生の男の子らしいんです」
自分と同級生の男の子という辺りで、鹿島が大神のことを見つめて来た。
鹿島が自分の事を好きなのかと思ってしまい、一瞬ドキっとさせられる大神。
「……それで、どんな相談なのかな?」
「その子が言うには、不安なんです。仲が良ければ良いほど、不安になってくるんです」
「不安か。どんな不安なんだい?」
「本当にわた、その子達は仲良しなのか。仲良しと思っているのは女の子の方だけで、相手の子から見たら、仲がいいとは思ってないかもしれないんじゃないか、って」
「……うーん、相手が自分の事をどう思っているか、か」
相談したい気持ちになるのは判る気がする。
確かに他人の心ほどわからないものはない。
「私、どう答えたらいいんでしょうか?」
鹿島は悩んでいるようだ。
相談内容は鹿島自身の悩みでもあるように大神には見えた。
だから、ふとこんな言葉が大神の口をついて出た。
「もし鹿島くんがその立場だったら、どうするんだい?」
「ええっ? ……えっと、そうですね……私だったら……でも、私は艦娘ですから……こんな私に仲良しと思われても相手に迷惑に――」
「そんなことはない! 少なくとも、俺は鹿島くんと仲が良いと思っている!!」
「大神くん!? あ、いや、その、えっと……」
鹿島の両手を取り、鹿島を見つめて、大神は断言する。
自分が嘘偽りなど言ってないと示す為に。
見つめられた鹿島は顔を朱に染めている。
「鹿島くんは違うのかな? 俺の独り相撲だったとしたら……ごめん、気をつけるよ」
「そんなことありません! 私だって大神くんと仲良しだって思っています! でも、最近、大神くんと二人で帰る事が少なかったから、私、不安になって……」
大神に見つめられて、決定的なことを口走る鹿島。
だが、大神がそのことに気付いた様子はない。
「鹿島くん? ごめん、鹿島くん。変なこと聞いてしまったね」
「い、いえ、良いんです! 私こそごめんなさい」
「……それより、相談の方はいいのかな?」
「ええっ?」
鹿島が、何で気付いていないのと目を丸くした。
でも、今更自分のことだったなんて改めて言える訳がない。
おまけに自分の欲しかった回答は全部得られてしまった。
どうしたものか。
「ええっと……そうですね、自分の立場になって考えてみたんですけど、後悔しない方法を取るしかないんじゃないかな、と」
自分の好きな人には迂遠な方法なんて必要ない。
恋の鞘当てなんて時間の無駄。
打てば響くように応えてくれる。
なら、体当たりでぶつかっていくしかない。
それが鹿島が掴んだ後悔しない方法だった。
「そうだね。自分の後悔しない方法を、自信を持ってするしかないだろうね」
「ありがとうございます。その子にはそう伝えますね」
少なくとも鹿島は自信が付いた。
もう迷うことなんてない、後はそれ以上を掴み取るだけだ。
「そうか。あまり役に立てなかったかもしれないけど、俺で良ければまた相談に乗るよ」
「そんな事ありません! 役に立ちました! 絶対!!」
こう言われたら、大神は信じない訳にはいかない。
「それならいいんだ」
そうして大神はいつものように鹿島を送り届ける。
翌日から迷いを振り切った鹿島の本格的な攻勢が始まるのだった。
「――という相談を受けてね、そういえばその相談の結果を聞いてなかった。相談相手の子は結局どうしたのかな、鹿島くん?」
とのたまう大神。
鹿島だけでない、明石たちからも信じられないという視線を浴びる。
「え? 俺なんか変な事いったかな?」
「まあ、良いんですけどねー」
ちょっと髪をいじりながら拗ねた表情を見せる鹿島。
けれどあの相談をしなければ、鹿島は迷いを抱えたまま本格的な攻勢に出れず、4年の間にそのまま士官学校の女子に大神を掻っ攫われたかもしれなかった。
そういう意味では必要な相談だったのだろう。
鹿島が迷いを振り切る為には。
「もう一回聞くけど、その子はどうなったのかな? 幸せになってくれてるといいんだけど」
大神の問いに鹿島が大神の片腕を抱き締め、満面の笑みで答える。
「ええ、もう幸せ全開ですよ!!」
だが、大神は知らないことが一つあった。
相談の後、鹿島は自分の身を護る為、そして大神に近づこうとする女性をブロックする為、
『鹿島の身も心も全て大神のもの、全て大神に捧げた。そして大神はそれを受け入れた』
と喧伝していていたのだ。
大神が信頼する生徒仲間の中には、それでも尚、大神に想いを寄せる女性も確かに複数居た。
だが、それらから鹿島は大神の隣を死守してきたのだ。
毎日大神が送り迎えしてくれることも、鹿島の必殺武器の一つだったのは言うまでもない。
回想シーン、本当は大神さんは鹿島に敬語使ってますが、エピソード全部敬語ってのはなんかイメージに若干合わなかったので、敢えていつもの口調にしています。そこはご承知置き下さい。
書けば書くほど、なんで大神、鹿島に落ちなかったんだって気になってきたw