光の柱が降り立った本土近海、いや、硫黄島近海は大神と明石の合体技によって浄化された。
これで深海棲艦は、南方ルートから本土に近づくことすら難しくなるだろう。
今回の防衛だけでなく、未来のことを考えたとしても完全なる防衛成功だ。
そうなると、大神の気にかかるのはAL・MIに現れた敵の増援。
戦闘前の連絡ではみんな完全に戦意を取り戻し、万全に近い状態に見えたが大丈夫だろうか。
そう考えた大神だったが、
『大神さん、本土防衛成功したんだってね。ALの方は敵を撃退させたよ』
『大神隊長、本土防衛おめでとうございます。MIの方も敵増援を壊滅させました。でも、命がけで大神さんを救った明石さんはともかく、私を差し置いて五航戦の子なんかと合体技をしたのは納得いきません。説明をお願いします』
こちらから連絡をする前に、AL/MIから大神へと連絡が入るのであった。
ただ、赤城、瑞鶴と自分を除け者にして、合体技を次々とされたことに加賀がかなり嫉妬して怒っているようだ。
「うふふっ。ねえねえ、同じ一航戦の赤城さんだけじゃなくて私にも先を越されちゃったけど、今どんな気持ち? どんな気持ち?」
そんな加賀の怒りを感じ取った瑞鶴が、加賀を全力で囃し立てる。
「ふっ、ふん。貴方の能力補正程度なら、どうせキス一つない味気ない合体技の筈よ。そんな合体技なら……」
「お生憎様。大神さん、本当にすごかったんだから……うなじにキスするだけじゃなく、耳を甘噛みしたり、首筋にキスマーク付けられたり、鎖骨を舐められたり……もう、私、最後までされるのかと思っちゃった♪ これは大神さんに操を立てるしかないわっ♪」
両頬に手を当てながらイヤンイヤンと身体をくねらせて恥ずかしがって見せる瑞鶴。
いや、どこからどう見ても加賀へのあてつけであるが。
「それに私言っちゃったし。何でもするって。大神さんのためならどんな事だって、何だってしますって。早速今日から大神さんにご奉仕しないと」
「ぐぬぬ……月のない晩ばかりとは思わないことね」
ここまで言われると、加賀にも返す言葉はない。
布を噛んで悔しがることしか出来ない。
ただ、瑞鶴は致命的なミスを一つしていた。
姉の翔鶴の事を完全に忘れていたことである。
「そうね、瑞鶴。私達同じ部屋なんだし、月のない晩ばかりとは思わないほうがいいわね」
「え……しょ、翔鶴ねぇ? もしかして、怒ってる?」
「ううん、怒ってなんかいないわよ? ちょっと頭にきているだけ」
表情では笑っては居るが、翔鶴は目が完全に笑っていない。
翔鶴との付き合いの長い瑞鶴は、姉の機嫌がレッドゾーンに突入したと悟る。
危険だ。
「しょ、翔鶴ねぇ! 大神さんにご奉仕するって言っても、私一人じゃ出来ないことも多いから、手伝ってほしいな~」
「あらあら。瑞鶴ったら、家事のお勉強サボったりするからよ。仕方ないわね」
必死に翔鶴にゴマをすった甲斐もあってか、翔鶴の機嫌は上向きになる。
その間、大神は響や朝潮と連絡をとり、AL/MIの状況の詳細を確認する。
全体的に見ても完全勝利といっていい。
後始末としての諜報戦などは残されているが、主担当は別になるし、ここで区切るべきだろう。
そう思い、大神はコートをかけた黒髪の艦娘を抱いたまま、全員を呼ぶ。
「よし、みんな! いつもの奴をしよう!」
「「「はーい!」」」
艦娘達が大神の傍に近づいてくる。
長門が明石との合体技で浄化されたもう一人の艦娘を抱き抱えてやってくる。
「いくよっ、みんな。せぇの――」
「「「勝利のポーズきめっ!」」」
本土防衛戦に参加した艦娘だけでなく、AL/MIでもそれぞれ思い思いの勝利のポーズを決めるのであった。
なお、本土決戦で救出された艦娘は共に駆逐艦、磯風と天津風であった。
いずれも駆逐艦離れしたスタイルでなかったことに、瑞鶴がホッとしたとかしないとか。
『大神くんが、敵本土侵攻部隊を全滅させたようだ。AL/MIの増援も撃破したし勝利したと言ってもいいだろうね』
『ああ、今回ばかりは大神と艦娘に助けられた。下手すれば本土壊滅だったからな』
『問題はそこだ、海軍に裏切り者がどれだけ根ざしていたと言うのもあるし……』
『渥頼は尋問中だ。自白剤を使ってでも吐かせろとは言ってある』
『とは言え、情報の裏取りなど考えれば時間がかかるだろう。二度とこんな馬鹿な事をさせないよう裏切り者は根絶させなければならない』
『ああ、多少時間がかかってでも完全に、確実に根絶させなければ意味がない』
二人の会話が一旦止まる。
裏切り者の燻り出しは確実に行わねばならない。
だが、今回露になった問題はそれだけに留まらない。
『あと今回明らかになった、艦娘の大神くんへの過度の依存も放置できないな』
『ああ。花組の頃から若干その気はあったようには思っていたが、艦娘の方はより顕著だ。戦えないのは流石に不味い。いっそ、一回荒療治することが必要かもしれないな。大神に有明を離れてもらうくらいの』
『とは言え、主たる理由もなしに艦娘から大神を引き離そうとしたら、何が起きるか分からんぞ。鎮守府に篭城やストライキでもされたら、世間体の面でも最悪だ』
『丁度いいタイミングというか、こういうのが来ていた。こいつを利用するのはどうだ?』
そう言って、米田はイザベラ・ライラック大統領からの支援依頼の書類を引っ張り出した。
地中海奪還の為の。
次回予告
赤城さんたちの独断専行、大神さんの狙撃。
本当に色々な危機がありましたが、
みんなの力でAl/MI作戦は勝利を得ることが出来ました。
でも、怨念に汚染された弾丸で狙撃された大神さんは、戦えたといっても傷痕は残っていました。
精密検査の結果、2週間は安静にして居ることを明石さんに言い含められた大神さん。
そう言う明石さんも大神さんを救う為に無茶をしたので、同じ位安静が必要だそうです。
そうなると、必要になるのが大神さんのお世話役。
やあやあ我こそはと、あちこちで火花を散らす艦娘たち。
あの、火花を散らす暇があったら、早く大神さんのお世話をしたほうがいいと思うんですけど。
なら、お前がやれって?
私が? 給糧艦が?
次回、艦これ大戦第十一話
「間宮、伊良湖の大神さん看病日誌」
次回は暁の水平線じゃなくて、大神さんの部屋で美味しい料理で勝利を刻みますね。
……大神さんにも色々刻んでほしいと思うのは、我がままでしょうか?
「どういう呼び方をするのがいいのかな? 少尉さん……大佐さん、なんか違う。隊長さん……大神さん……一郎さん…………えーと、……あなた……って、私何言ってるんだろう!」