艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十話 9 本土近海邀撃戦 3

「ナンドデモ……シズメテ……アゲル……」

 

2体並ぶ戦艦棲姫から、轟音と共に16inch三連装砲の砲弾が放たれる。

 

「総員回避! 回避後、大和くんと武蔵くんは右側の戦艦棲姫に集中して砲撃を! 確実に落としていくぞ!!」

 

回避指示の後、敵の巨砲が海に水柱を上げる。

だが至近弾でもない砲弾。

気にする必要はない。

 

武蔵の、大和の主砲が戦艦棲姫へと照準を合わせる。

 

「了解だ! 全砲門、開けっ!!」

「敵艦確認! 弾着確認射撃準備よし! 全主砲薙ぎ払うわよ!!」

 

その声と共に放たれた2撃の主砲斉射は、共に戦艦棲姫に直撃する。

 

「キャァ!」

 

『火』で強化された2発の砲撃によって、戦艦棲姫は中破状態へと追い込まれる。

 

「よし、二人はそのまま片方の戦艦棲姫を集中攻撃し撃破してくれ! 赤城くん、瑞鶴くんは第二次攻撃隊で空母ヲ級の撃破を!」

「「了解、第二次攻撃隊、発艦!!」」

 

大神の声に答え、赤城たちが攻撃機を発艦させる。

先程の航空戦で、全ての艦載機を失ったヲ級に赤城たちの攻撃を防ぐすべはない。

一撃にて沈められる。

 

「愛宕くんは俺の援護をしてくれ! 俺は戦艦ル級flagshipを落とす!」

「ヨーソロー♪」

 

その言葉と共に大神はタービンを稼動させ、ル級に急接近する。

大神に照準を合わせようとするル級だったが、戦艦並みの砲撃を行う愛宕を前に、それは困難を極める。

何とかあわせようとしても、大神の急加速、急減速、ターンを織り交ぜた3次元機動の前にすぐに見失ってしまう。

 

そして、大神がその二刀の刃の間合いへと接近する。

 

「狼虎滅却! 紫電一閃!!」

 

移動中に十分に霊力を練った大神が横一文字にル級を斬りつける。

flagshipの戦艦とは言え、その装甲は二刀の前では紙屑同然。

必殺技の一撃でル級は沈黙した。

 

「やったぞ!」

 

同時に武蔵たちが、戦艦棲姫の一人を砲撃にて止めをさした。

残るは戦艦棲姫一人。

 

だが、辺りは若干暗くなり始めている。

確実に撃破するために夜戦に移行するべきか、一瞬考える大神。

 

そんな大神を激励するかのように、武蔵たちが戦艦棲姫へと砲撃を行う。

完全に照準を合わせることなく行われた砲撃であるが故に、直撃はしていない。

 

だが、その水柱によって戦艦棲姫の視界は一瞬とは言え消える。

絶好のチャンスが武蔵たちによってもたらされる。

 

「今だ大佐!!」

 

武蔵が、

 

「止めの一撃を!!」

 

大和が振り返り、大神を促す。

これに応えないような大神であるわけがない。

 

「ああ、行くぞ! 明石くん、いこう!」

 

そう言って明石に手を伸ばす大神。

しかし、明石の手はすぐ大神とは重ならない。

明石の方を見やる大神。

 

「明石くん?」

「大神さん……瑞鶴さんみたいにあんまり激しいことは、しないで下さいね?」

 

先程の瑞鶴の合体技を見ていただけに、期待半分、不安半分の明石。

そして恐る恐る伸ばされた手が大神と重なった。

 

 

 

 

 

思えば人魚姫同様、一目惚れだったのかもしれない。

 

警備府で新任の少尉と紹介されたときから。

 

今でこそ見られることに抵抗もなくなったけど、

最初はスカートの横から覗く腰のラインを見られるだけで恥ずかしかった。

大神に見られていると意識するだけで恥ずかしくて仕方なかった。

白衣なしでは大神と会うことを躊躇うくらいに。

 

でも、大神の傍にいることが嬉しくて仕方なかった。

 

私を護る為、生身と刀一振りで深海棲艦の前に歩み出たときは嬉しくて仕方がなかった。

 

そのせいだろうか、

 

徹夜でボサボサになった髪を大神に見られかけて慌てふためいたり、

シャワーを浴びている大神さんのシャワー室に乱入したり、

足を滑らせて大神に抱きとめられ、キスしかけたり、いろんなことを大神にした。

 

今から考えればキス未遂は残念だったかもしれない。

 

 

いや、それだけではない、

 

艦娘の医師役として大神のサポートを幾度もしてきた。

大神専任の医師として、幾度も傷ついた大神を治療してきた。

有明鎮守府では大神に最も近い艦娘の一人だった。

 

大神が現れてから、明石の生活は大神のためにあったようなものだ。

ううん、大神の為に自らの力を役立てられることが嬉しかったのだ。

戦闘では殆ど役に立てない工作艦。

そんな自分でも大神に奉仕できることが幸せで仕方がなかった。

 

そして、狙撃された大神の命をこの世に繋ぎとめた。

自分の命を全て大神に捧げる覚悟で。

大神は怒ってしまうかもしれないけど、明石はあの時の選択を後悔しては……いない。

 

「人魚姫みたいに海の泡となって消えたとしても、それが大神さんのためなら……」

「明石くん、そんなの許さないよ。俺の前から消えてしまうなんて許さないから」

 

そういって大神は明石を抱き締める。

明石が自らの前から消えることを許さないとばかりに。

 

そして、明石の存在を確認するかのように明石の身体にキスの雨を降らせる。

ああ、大神が居てくれる、こうして傍にいてくれるだけで、触れられるだけで明石は例えようのないほどの幸せを感じてしまう。

 

「大神さん……私、幸せです。大神さんに出会えて、共に過ごせて」

「明石くん」

「ごめんなさい……やっぱり本当は少し怖かったんです。大神さんと会えなくなる事が。傍に居られなくなることが」

「やっと言ってくれたね、明石くん。俺も怖かった。明石くんが消えてしまうんじゃないかって」

 

大神の言葉が涙を流してしまうくらいに嬉しい。

ああ、自分はこの人が好きなのだ、愛しているのだ、こんなにも。

 

「大神さん、愛しています……人魚姫みたいに消えずに、ずっと貴方の傍に居たいんです……」

「俺もだ。明石くん……俺の傍にいてほしい。俺は王子様じゃないけど、構わないかい?」

「はい、大神さん。王子様よりも貴方がいいんです、貴方じゃなきゃ嫌なんです」

 

そう涙ながらに告白した明石と、大神の唇が重なる。

 

『幸せな人魚姫、愛の軌跡』

 

 

 

 

 

二人の言葉と共に大神たちから天に向かって霊力が伸び上がる。

それに誘われ、天上から桃色と白き光の柱が水面へと降り立ち、そして螺旋を描きながら急速に広がっていく。

 

光の柱が降り立った本土近海は浄化される。

大和、武蔵たちと砲撃戦を演じ、一人残された戦艦棲姫も浄化される。

 

「ダメナノネ……」

 

その言葉を最後に戦艦棲姫は浄化され消滅していく。

浄化され一人の艦娘へと姿を変えていく。

 

いや、それだけではない。

 

本土近海に残る全ての深海棲艦が浄化されていった。

 

長門たちに殲滅されていた深海棲艦も。

 

撃ち漏らされ、有明鎮守府の艦娘に掃討されていた深海棲艦も、全てが浄化されていった。

 

『隊長! 敵別働隊、本土侵攻部隊の完全な全滅を確認しました! 本土防衛成功です!!』

 

歓喜に喜ぶ大淀の声が響き渡る。

 

 

 

 

 

「大神さーん、なんか……瑞鶴ちょっと不満なんだけど~。ふてくされるぞー?」

「にゃ~、隊長ぅ……睦月もちょっと不満ですぅ……」

 

だが、浦風を支えている為とは言え選ばれなかった睦月と、合体技でえっちな意地悪をされまくった瑞鶴は不満そうだった。

でもそこは喜ぶべきところかもしれないぞ、瑞鶴。




明石さんの方は超正統派合体技です。
これが最後に控えていたからこそ、瑞鶴は変化球になりましたw

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