大神は出撃する前に先ず米田、山口両大臣に司令室より連絡を行っていた。
無論、自らの回復と現在は無事であることを報告する為である。
『米田閣下、山口閣下、ご心配をおかけしました。』
『今回ばかりは、艦娘に助けられたな、大神。俺達ももうダメかと思ったぞ』
『はい。明石くん、有明鎮守府のみんなに助けられました。いくら感謝してもし切れません』
『そうだな。だが、今お前のなすべきことはそっちが先じゃねえ。詳細な報告も後でいい』
『もちろんです。これより華撃団はAL/MI、そして本土に迫る深海棲艦の撃退に移ります。一人たりとも本土の地は踏ませません! あと自分を狙撃した深海棲艦から事情を聞きだして――』
『そっちの方はいい。裏切り者については陸軍の憲兵隊、そして月組で絶対に見つけ出す。お前を狙撃した深海棲艦は戦力としても強力だ。下手な事をすると痛い目を見かねない、全力で叩け!』
『了解しました! では失礼致します』
そして連絡を切り、続いてAL方面の永井司令官に連絡を取ろうとする。
しかし、すぐには繋がらない。何かあったのだろうか。
「あの、大神さん何か飲み物でも準備しましょうか?」
「ありがとう、でも、今は明石くんの健康診断を受けていられないから、下手に物を口に含むのは避けたほうが良いんだ」
「分かりました、でも本当に良かったです……」
未だに涙ぐむメルの薦めを断ると、ようやくALと連絡が繋がる。
『大神さん!!』
『響くん?』
しかし現れたのは永井司令官ではなく響であった。
泣いて泣いて、赤く泣きはらした目をそのままに、大神の姿を見て再び泣き始める。
『よかったぁ……動いてる、喋ってる。大神さん、本当に生きてるよぉ……』
『ああ、俺は生きている。心配をかけたね、響くん』
大神の生を感じ取ってはいても、直接無事な姿を見ることは全く違うことらしい。
そんな響の様子を暖かい眼差しを送る大神だったが、あまり無駄話をしている余裕はない。
『それで、永井司令官は?』
『ああ、ここに居るとも。全く心配かけさせおって、わしゃ、ここで死ぬかと思ったぞ』
『それは失礼しました。それで、そちらは反撃に移れますか?』
『ああ、先程お主が息を吹き返したことを感じ取って、戦意が戻っておるよ。だが、やはり、実物を見るのは段違いじゃな、摩耶などお前の姿を見た途端やる気全開じゃぞ』
『ちょ、永井のおっさん! 勝手なこと言ってんじゃねー! あ、隊長……』
摩耶が永井の発言を止めようと前に塞がるが、それで姿が見られていることに気がつくと、慌てて髪や泣き顔を隠す為の化粧のチェックを行い始めた。
クスクスと笑い声が高雄たちから上がる。
『よ、隊長。無事でよかったぜ』
『ありがとう、摩耶くん。心配をかけてしまったね』
『全くだぜ。だけど見てなよ、ALの敵増援はボコボコにしてやるぜ! だから、さ……』
『なんだい、摩耶くん?』
『帰ったら……あたしのことも、褒めてくれよな?』
『ああ、もちろんだとも』
『絶対だかんな! 約束だぜ!!』
大神と約束をしたことで気をよくした摩耶がウキウキしながら画面外に出る。
『まあ、そんな感じじゃ。こっちの心配はもうせんでいい。恐らくじゃが、今回の3箇所の襲撃、本土襲撃艦隊が一番精強な筈、そちらこそ気を抜かんようにな』
『ええ、もちろんです!』
それでALとの連絡を切り、続いてMI方面と連絡を取ろうとする。
今度はすぐに繋がった。
が――
『大神さん!!』
『大神隊長!!』
『隊長ー!!』
『隊長!!』
『隊長さん!!』
『隊長!!』
『隊長!!』
『大神さん!!』
『隊長!!』
『隊長さん!!』
『大神隊長!!』
『隊長!!』
12人の艦娘が所狭しと画面内に詰め掛けていた。
『『『無事なんですね!!』』』
画面に映ろうとぎゅうぎゅう詰めになりすぎて、全員の顔が歪んでいる。
メルやシー、大淀などの秘書艦がちょっと吹いている。
『ちょっと、みんな狭すぎるデース! 隊長との連絡は私が取りますから、離れるデース!!』
『何を言ってるのかしら? 増援は攻略時と同じく空母を中核とした部隊が予想されるわ。なら大神隊長と連絡を取るのは私以外に最適役はいません』
加賀と金剛が大神との連絡役を取り合おうと鍔迫り合いをしている。
『加賀ばっかりずるいわよー! 私だって正規空母、引き下がらないんだからー』
『そうよね、今度からは私達だって負けません!』
『なっ!? 二航戦、あなたたちも参戦するというの?』
しかし、今回は蒼龍や飛龍も引き下がろうとしない。
MI攻略までと全く違う二人の態度に加賀が驚愕する。
そんな艦娘の様子に暖かい眼差しを送る大神だったが、何度も言うようにあまり無駄話をしている余裕はない。
今連絡役を取り合っている誰かと通信するのは、後々角が立ちそうだったので、翔鶴を選ぶことにする大神。
『えーと、翔鶴くん、いいかな?』
『あ……はい! 隊長!!』
最初こそ、大神の様子が一瞬でも早く見たいと思わず前に押しかけてしまった。
が、その後再び後ろに戻ろうとした翔鶴だが、大神の呼ぶ声に輝くような笑顔を見せる。
逆に沈む金剛たちだったが、大神の指示とあっては仕方がない。
大人しく下がる。
『それでMIの方は大丈夫かい?』
『はい! 当初は隊長の死に目に会えないなんて嫌だと言う声さえありましたが、もう大丈夫です! 今、こうやって隊長の無事なお姿を見ることが出来て万全です! MIへの敵増援の撃破、お任せください!!』
『分かった、翔鶴くんを第一艦隊旗艦、金剛くんを第二艦隊旗艦として増援を撃破してくれ!』
『『『了解!!』』』
その返信を持って通信が切れる。
これでAL方面もMI方面も、もう問題はないだろう。
あとは、本土を狙う部隊に対して決戦を挑むのみ。
だが、大神の脳内にある艦隊編成は狙撃される前と若干異なっていた。
そのことも合わせて説明しなければいけないだろう。
「大淀くん、みんなはブリーフィングルームに集まっているよね?」
「はい。大神隊長が連絡を取り終えるのを、皆さん待っていますよ」
「分かった、俺達も向かおう」
ブリーフィングルームに向かおうとする大神たち。
しかし、その途中で一人の艦娘が大神を待っていた。
「隊長さん!」
瑞鶴である。
「どうしたんだい、瑞鶴くん? ブリーフィングルームから外に出て」
問う大神だが、瑞鶴の用件は大体予想出来ている。
「それは……すいませんでした、隊長さん!! 私のせいで狙撃を防ぐことが出来ずに!!」
「瑞鶴くん!?」
大神に対して土下座をする瑞鶴。
流石にいきなり土下座されることは予想出来ていなかったのか、驚く大神。
「何を言っても言い訳にしかならないし、どんなに謝ったって謝り足りないのは分かってます! でも、謝らずには居られなかったんです!! ごめんなさい!!」
額を床にこすりつけ、涙を再び滲ませながら大神に謝る瑞鶴。
けれども、そんな瑞鶴の姿をずっと他の艦娘に見せるのはあまり良くない。
「みんな、すまないけど先にブリーフィングルームに行っていてくれ」
「分かりました、手短にお願いしますね」
そう言い残して大淀たちがこの場を立ち去る、これで残されたのは大神と瑞鶴だけだ。
「そんなに謝らなくてもいいよ、瑞鶴くん。顔を上げてほしい」
「でも、この罪をどうやったら償えるのか分からないんです!!」
「分かった。なら、そう思うなら次の戦いに君も参加してくれ、瑞鶴くん」
「え……」
大神の言う言葉を理解できずに、思わず顔を上げる瑞鶴。
「やっと顔を上げてくれたね」
そう言って、しゃがんで瑞鶴の涙をふき取る大神。
そして瑞鶴を立ち起こす。
「何言ってるんですか……隊長さん。私を? あんな取り返しの付かないミスをした私を、本気で艦隊に入れるんですか?」
「ああ、もちろん本気だよ。敵空母棲姫は聞く限り今までで最強の敵空母だ。こちらも可能な限りの戦力で挑みたい。有明に残る正規空母は二人。瑞鶴くん、君を出さない理由はないんだ」
「でも、私、取り返しの付かないミスをして……」
「一つのミスは一つの成功で取り返せば良い、汚名なら返上すれば、名誉なら挽回すれば良い。確かに事が事だから大変かもしれないけど、それだけ頑張ればいいんだ」
大神の言葉に大きく揺れ動き、戸惑う瑞鶴。
「……隊長さんは、私を許してくれるんですか?」
「勿論だ、俺はこうやって生きている。許すも何もないよ、行こう瑞鶴くん」
「隊長さん……」
そうやって手を差し出す大神。
だが、感極まった瑞鶴は大神の胸に飛び込んだ。
「隊長さん……隊長さぁんっ!」
「瑞鶴くん?」
「隊長さん! 私、何でもします! 隊長さんのためならどんな事だって、何だってします! それが隊長さんのためになるなら!!」
大神の胸で泣きじゃくる瑞鶴。
しばしの間、瑞鶴の背中を軽く叩き、瑞鶴が泣き止むのを待つ。
そして、泣き止んだ瑞鶴を連れブリーフィングルームへと移動する大神。
だが、そんな時、
「死ねぇ! 今度こそ本当に死にやがれ、大神ぃぃぃぃっ!! 艦娘は俺のものなんだー!!」
影から凶刃が大神に向けて振るわれた。
だーれだ