艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第二話 3 妖精さん阿鼻叫喚

ドアの向こうから聞こえる男性――大神の声に、慌てふためく明石。

 

「ちょっと待ってください!」

 

言うが早いか、鏡の前に戻って手早く手櫛で髪を大雑把に整えていく。

 

「ぶぎゅ」

 

戻る途中に何かを踏ん付けてしまった様だ、ああ、妖精さんごめんなさい。

癖っ毛でなくてよかった、こういうときに手間取らなくてすむ。

幸い、鏡で見る限り目の下にくまはできていないらしい。最低限の化粧で大丈夫だろう。

 

後は、白衣でスカート横から見える腰のラインを隠せば――

 

「お待たせしましたっ。大神さん、何の用でしょうか? キラキラっ」

 

対大神用フルアーマー明石の完成。

両手を顔に近づけて、上目遣い。ポーズも完璧だ。

ドアを開けて明石は満面の笑みで大神を招き入れる。

 

「き、キラキラ?」

「何やってんだ、明石」

 

艦娘たちはドン引きしていたが。

 

 

 

 

 

「なるほど、それでもう一本の刀を探しに私のところに来たんですか、なーんだ」

「そういうこと~。天龍ちゃんの刀の予備があったよね~」

「ありますよ。ちょっと待っててくださいねー」

 

納得がいったとばかりに再整理したばかりの荷物の中に戻っていく明石。

時々何かを踏んづけてしまっているらしく、「むぎゅ」とか「ぶにゃ」とか「ひでぶ」とか聞こえてくる。

何が蠢いているのか、変な想像をしてしまい大神は戦慄する。

 

と、大神のズボンが引っ張られる。

 

「ん?」

「タイチョーサン タイチョーサン」

 

下に視線をやると、2~3頭身の小さな子が大神の足元に居た。

明らかに人間のサイズではない、一体なんだと言うのか。

 

「何だこれ?」

「大神さん、見たことないんですか? 妖精さんですよ」

 

怪訝な顔をする大神に、付いて来た吹雪が横から答える。

 

「妖精?」

「ええ、ここに居るのは工廠妖精さんですね。私たちも装備のこととかでお世話になってるんですよ」

「へぇ……」

 

足元の妖精を猫のようにつまみ上げると、妖精は大神のことを指差す。

 

「タイチョーサン! タイチョーサン!」

「可愛いですよねー」

 

喜んでいるようだ。可愛いといえば可愛いかもしれない。

普段から親しんでいる吹雪にとっても可愛く見えるらしく、目を輝かせている。

 

「ソレ! ソレ!」

「ワタシニモ ワタシニモ」

 

妖精が起き出してきた様だ。大神の周りに妖精が集まりだす。

何人かは大神の腰に帯刀した神刀滅却を指差している。

 

「見たいのかい?」

 

妖精の意図を悟り、問う大神。

神刀滅却の何が妖精たちを惹きつけるのだろうか。

 

「ミタイ! ミタイ!」

「ミセテ! ミセテ!」

「分かったよ、ちょっと待っててくれ」

 

言いながら大神は神刀滅却を鞘より抜き放つ。

途端に刀身より強い霊力が溢れ出した。

 

「レイリョク! レイリョク!」

「イヤサレルー イヤサレルー」

「ミニシミル ミニシミル」

 

神刀滅却から溢れ出した霊力の波動を受け、妖精たちは歓喜の声を上げる。

霊的存在であったのかと、大神は得心する。

であれば、妖精たちが手がけた艦娘の装備も霊的装備の一つといっていいだろう。

 

「道理で、神刀滅却が深海棲艦によく効くわけだ」

「大神さーん、刀の予備持ってきましたよー、ってそれ大神さんの刀じゃないですか!? 私にも見せて、いえ、触らせてくださいよー!」

 

そこに一振りの刀を携えた明石が戻ってくる。

抜き放たれた神刀滅却に目の色を変え、駆け寄ってきた。

 

「明石くん。下、下に気をつけて」

「ん? 大神さん、大人気ですね。どいてどいてー、そんなことより大神さんの刀を! キラキラ、ねぇっ!?」

 

妖精さんを蹴散らし、目を輝かせて大神へと迫る明石。

そんな事をすれば、機嫌を損ねた妖精さんに後で酷い目にあうというものだが、目の前の餌に気が行ってしまっているようだ。

再び両手を顔に近づけて、上目遣いで大神にお願いする。

 

「分かったから。明石くん、妖精さん踏んでる!」

「やったー! こんな見事な霊刀触るの初めて~、るんたっ!」

「アカシズルイ アカシズルイ」

「モテナイミガツライ ツライ」

 

ステップを踏んで嬉々として喜ぶ明石、反対にジト目で明石を見ている妖精たち。

大丈夫かなあと思いながら、大神は明石に神刀滅却を手渡す。

 

「ああ、もう柄を握ってるだけで霊力が伝わっているのを感じちゃいます!」

「そ、そうか……それはよかった」

 

やたらハイテンションな明石に冷や汗をかきながら、大神は答える。

 

「柄頭に宝玉がついているんですねー。霊剣としての格を感じちゃいますね!」

「あ、ありがとう」

 

まあ、喜んでもらえたのならそれでいいか。

 

「何か、試し切りしたい気分ですねぇ! そうだ、持ってきた予備の刀を試し切りしちゃダメですか!?」

「「「ちょっと待てー!」」」

 

それは本末転倒だ。

慌てて大神たちは明石を制止するのだった。

 

 

 

「ごめんなさい……大神さん。つい、はしゃいじゃって……」

「いや……分かってもらえればそれでいいんだ」

「ハンセイスベシ ハンセイスベシ」

 

先ほどと一転してシュンとなる明石。

制止後された妖精たちのお説教が効いたらしい。

 

「それで、これが俺の二刀目の候補ってことでいいのかな?」

「ええ、そうです。天龍さんの荒っぽい使い方にも耐えられる代物ですから、大丈夫だと思いますよ」

「コラ、いつオレが荒っぽい使い方をしたんだよ!」

「イツモ イツモ」

「カタナノテイレタイヘン スゴクタイヘン」

 

あんまりな明石の評価に口を挟む天龍だったが、妖精さんに迎撃され沈黙する。

横目で苦笑いしつつ、大神は明石から刀を受け取り、そして二刀を抜き放った。

皆から少し離れ、軽く素振りして具合を確かめる。

 

「「「おおー」」」

 

二刀を軽々と扱う大神に皆は感嘆の声を上げる。

 

「どうです、具合は?」

「そうだね、重さも長さも問題ないかな。あとは――」

「やっぱり試し切りですよね! あ、昨日やってた、「狼虎滅却!」ってのでやって下さいね!!」

 

やはり嬉々として試し切りを勧める明石。

ちょっと引いた大神だった。

けれども、

 

「確かに最高出力の技、必殺技で試し切りしてみないと意味ないか」

「ですよねっ! こんなこともあろうかと、バルジ用の装甲板も用意しておきました!」

 

何処からか明石は装甲版を取り出した。

厚みは結構あるが、斬鉄を習得している大神に切れない程ではない。

刀の具合を確かめるにはちょうどよい具合だ。

と言うか、なんでさっき出さなかった。

 

「じゃあいくぞ!」

「よっしゃ、隊長の必殺技、初めて見れるぜ!」

「ヒッサツ! カナラズコロス!」

 

万力で固定し、置き台に置いた装甲板に正対し二刀を構える大神。

高まる霊力を感じて、盛り上がる一同。いや、殺さないから。

 

「狼虎滅却!」

 

高まった霊力のままに吼え、天龍の刀を振りかぶり、

 

「紫電一閃!!」

 

横一文字に切る。

装甲板はバターのように切り裂かれ、分断された上側が斬撃の勢いのままに吹き飛ぶ。

そして、整理されたばかりの荷物に向かって飛んでいった。

 

「え」

「エ」

 

大きな音を立てて荷物が崩れさる。

つい先ほどまで、徹夜して整理したばかりの荷物が。

明石と妖精たちの顔が凍りついた。

 

「大神さん」

「タイチョー」

 

不穏な空気を感じ、一歩下がろうとする大神。

が、大神の足元には妖精たちがすでに集まっており、足の踏み場もない。

 

「お片付け手伝ってくださいね?」

「オテツダイ! オテツダイ!」

 

大神に逃げるすべなし。




アイテム
天龍の刀:火力+5


ようやく2-1で書くはずだった内容が書けたw

あと、明石の夏ボイスは可愛すぎる。

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