艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第九話 4 独断専行、そして破滅

宵闇の中を赤城、加賀、蒼龍、飛龍、利根、筑摩の6人、1艦隊は駆ける。

MIに向けてただひたすらに。

 

鎮守府を出た時より全ての通信を遮断している。

これで有明鎮守府からは自分達の存在は見えなくなったはず。

しかし、その代わりこの暗闇の中を一切のサポートなしで、進まなければいけない。

 

それは、以前のMI海戦のことを否応なしに6人に思い出させる。

赤城たち4人の轟沈を思い起こさずには要られない。

 

「大丈夫じゃ! 此度の我輩のカタパルトは万全じゃ! 敵機の見落としなどしないぞ!」

「もう姉さんったら、修理が終わったからって調子に乗りすぎですよ」

 

こと明るく話し始める利根たちだが、全体の雰囲気は明るくはなりはしない。

誰もが、罪悪感を抱えての、独断専行と分かっての出立なのだ。

空母勢がその事を分からない筈もない。

 

薬の効果で眠る大神の部屋に書置きは残してきた、大神の責は大きくならないだろう。

 

「この調子で駆け続ければ、昼前にはMIに辿り着ける筈です、赤城さん」

「分かりました、皆さん。徹夜となりますが、宜しいですね?」

「勿論じゃ、隊長に薬を盛ったときから覚悟の上じゃ! 此度こそ敵機を索敵し、勝って見せようぞ!」

 

利根の言葉を最後に、赤城たちは黙って駆け続ける。

余計な話をする余裕がなかったというのもある。

大神が薬の影響下から抜け出る前に、MIを攻略する前に、MIに辿り着き攻略しなければ自分達はただの馬鹿以下の存在だ。

 

せめて、大神たちが辿り着く前に一定以上の戦果は収めなければいけない。

 

その想いが赤城たちを焦らせる、一刻も早くMIへと逸らせる。

海を駆け抜けていく内に夜が開け、日が昇り始めても、その歩みを緩めずに駆け抜け続ける。

 

そして、とある岩礁で一度自分達の位置を確認すると共に休憩を取る。

 

「もうすぐMI島ね。どう攻める、赤城さん?」

「そうね、私達は連合艦隊ではないから防御能力に欠けるわ。艦隊戦をしている余裕もない」

「だとしたら、敵に気付かれる前に索敵して、一気に空から強襲した方が良いんじゃないかな?」

 

飛龍の言葉に全員が頷く。

以前のMI作戦を髣髴とさせるが、実際のところそれしかない。

 

「利根さん、索敵機の準備を! 蒼龍さんと飛龍さんも!」

「了解です!」

 

赤城の声に従い、3艦が索敵機を発進させる。

 

 

 

そして、再び6人はMI島へと向かう。

 

しかし、何故だろうか。

MI島に近づいているというのに、リベンジの機会だというのに心が昂ぶらない。

 

「どうして? 全く心が高揚しません」

「私も――待ちに待った時だって言うのになんでなの?」

 

言葉は違っても、全員が同じ感情を抱いている。

何故なのか海面を駆けながら考え、そして、赤城たちはブリーフィング前の会話を思い出す。

 

『加賀さん、蒼龍さん、飛龍さん、今度は必ず勝ちましょう! 大神隊長の指揮の下で!!』

『そうね。あの指揮の下なら負けないわ、今度こそ』

 

「あ……」

 

そうだ。

 

私達は大神の指揮の下で、大神と共にMIに勝とうと思っていたのではないか。

隊長として尊敬し、男性として慕う大神と共に。

なのに、大神に薬を盛り、酔い潰して何をしようとしていたのか。

 

MI作戦から外されると聞いて、全て忘れてしまっていた。

全てが黒い感情に塗りつぶされてしまっていた。

 

「わたし……なんてことを……」

 

後悔に襲われた赤城が歩みが遅くなる。

 

「赤城さん……」

 

赤城以上に大神を慕っていた加賀も苦い表情をしている。

自分達のしでかした事の大きさを今更ながらに感じている。

今ならまだ、という思いが頭を過ぎる。

 

だが、無情にも時は過ぎ行く。

 

「索敵機から連絡!……え?」

 

蒼龍が索敵機からの連絡を聞いて、言葉を失う。

 

「どうしたのですか、蒼龍さん!?」

「MI島に新型の陸上型深海棲艦と、飛行場姫を2体確認……敵航空戦力として、新型艦載機も確認。全機展開済み、強襲の恐れあり。速やかに艦載機を展開されたし……通信途絶しました」

「こちらの索敵機からも連絡! MI沖合いに新型の空母型深海棲艦を確認、こちらも新型艦載機展開済み。敵空襲に注意!」

「2艦隊分の空襲が一度に? 待ち伏せされていたというの!?」

 

赤城の悲鳴が響き渡る。

そう、MI島の敵戦力は作戦会議で予想されていたものより過大であった。

作戦会議で決定された航空戦力では不足だっただろう。

 

「敵機確認しました。赤城さん、航空戦用意を」

「……そうね、全艦、航空戦用意!!」

 

そう言い放ち、矢を打ち放つ赤城たち。

しかし、艦載機は訓練の時ほどの数には至らない。

 

「どうして……これじゃ、有明に来る前と同じ……」

「そうよね。大神隊長を酔い潰したんだもの。恩恵が得られる訳ないわ」

 

こんな当たり前のことにも気付けなかったのかと、自嘲気味につぶやく加賀。

 

赤城は悟る。恐らくこの航空戦、制空は取れない。

恐らく私達は敗北する、と。

正面からの戦いにおいて。

 

「でも、せめてこのことを大神隊長に伝えないと」

 

そして、遮断していた通信を回復させ、有明鎮守府に連絡する。

 

『有明鎮守府に赤城より連絡、敵航空戦力は過大! 敵航空戦力は過大!』

『赤城くん、君たちは無事か!?』

 

ああ、この人はあそこまでの事をされたというのに、何よりも先ず私達の安否を気遣うのか。

今更ながらそのことが胸を打つ、涙が流れる。

 

『全艦健在です。再度連絡します、敵航空戦力は過大! 作戦会議で決定された空母3艦編成では制空権は取れません! 艦隊編成の再考を具申します!』

『なら、君たちも撤退を! 航空戦力を見直すのなら尚の事、君たちが必要だ!!』

『ごめんなさい、大神隊長。敵に待ち伏せされていました、もう離脱は出来ません』

 

「赤城さん! 直上!!」

 

蒼龍の悲鳴が響き渡る。

 

航空戦はやはり劣勢だった、多くの艦載機が撃墜され敵機が迫る。

多数の爆撃が、雷撃が赤城たちに集中する。

 

「きゃーっ!!」

 

そして全空母が中破以上の損害を被る。

前回とは異なり、もう飛龍も反撃することすら叶わない。

敵に鹵獲されるか、撃沈されることを待つことしか赤城たちに出来ることはない。

 

『……翔鶴さん、居る?』

『はい……赤城さん?』

『一航戦の誇り、再度貴方に背負わせてごめんなさいね』

『赤城さん!!』

『赤城くん!!』

 

その言葉を最後に、再度有明からの通信を遮断する。

 

このまま敵に鹵獲されようと、撃沈されようと、自分達は深海棲艦に囚われ果てるのだろう。

なら、ならばせめて、

 

「……利根さん、筑摩さん、私達の雷撃処分をお願いします。艤装を解除した上でなら跡形も残らない筈、深海棲艦に囚われることもないでしょう」

「赤城さん、それって……」

「深海に囚われ大神隊長の前を塞ぐくらいなら、わたしは消えることを望みます」

「済まぬ、我輩が! 我輩があのようなことを提案したせいで!」

 

涙をボロボロと流しながら、利根が謝罪する。

 

「いいえ、話に乗ったのは私達ですから」

 

話に乗ったのは自分たちなのだ、決めたのは自分たちなのだ。

だから、決着を付けるのも自分たちしか居ない。

 

「だから、お願いします利根さん、筑摩さん」

「赤城さん……分かりました」

 

同じく涙を流す筑摩が雷撃の準備をし、そして放つ。

 

 

 

 

 

赤城は艤装を解除し、そして雷撃をその身に受けた。




MI独断専行組の好感度補正:罪悪感で0

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