宵闇の中を赤城、加賀、蒼龍、飛龍、利根、筑摩の6人、1艦隊は駆ける。
MIに向けてただひたすらに。
鎮守府を出た時より全ての通信を遮断している。
これで有明鎮守府からは自分達の存在は見えなくなったはず。
しかし、その代わりこの暗闇の中を一切のサポートなしで、進まなければいけない。
それは、以前のMI海戦のことを否応なしに6人に思い出させる。
赤城たち4人の轟沈を思い起こさずには要られない。
「大丈夫じゃ! 此度の我輩のカタパルトは万全じゃ! 敵機の見落としなどしないぞ!」
「もう姉さんったら、修理が終わったからって調子に乗りすぎですよ」
こと明るく話し始める利根たちだが、全体の雰囲気は明るくはなりはしない。
誰もが、罪悪感を抱えての、独断専行と分かっての出立なのだ。
空母勢がその事を分からない筈もない。
薬の効果で眠る大神の部屋に書置きは残してきた、大神の責は大きくならないだろう。
「この調子で駆け続ければ、昼前にはMIに辿り着ける筈です、赤城さん」
「分かりました、皆さん。徹夜となりますが、宜しいですね?」
「勿論じゃ、隊長に薬を盛ったときから覚悟の上じゃ! 此度こそ敵機を索敵し、勝って見せようぞ!」
利根の言葉を最後に、赤城たちは黙って駆け続ける。
余計な話をする余裕がなかったというのもある。
大神が薬の影響下から抜け出る前に、MIを攻略する前に、MIに辿り着き攻略しなければ自分達はただの馬鹿以下の存在だ。
せめて、大神たちが辿り着く前に一定以上の戦果は収めなければいけない。
その想いが赤城たちを焦らせる、一刻も早くMIへと逸らせる。
海を駆け抜けていく内に夜が開け、日が昇り始めても、その歩みを緩めずに駆け抜け続ける。
そして、とある岩礁で一度自分達の位置を確認すると共に休憩を取る。
「もうすぐMI島ね。どう攻める、赤城さん?」
「そうね、私達は連合艦隊ではないから防御能力に欠けるわ。艦隊戦をしている余裕もない」
「だとしたら、敵に気付かれる前に索敵して、一気に空から強襲した方が良いんじゃないかな?」
飛龍の言葉に全員が頷く。
以前のMI作戦を髣髴とさせるが、実際のところそれしかない。
「利根さん、索敵機の準備を! 蒼龍さんと飛龍さんも!」
「了解です!」
赤城の声に従い、3艦が索敵機を発進させる。
そして、再び6人はMI島へと向かう。
しかし、何故だろうか。
MI島に近づいているというのに、リベンジの機会だというのに心が昂ぶらない。
「どうして? 全く心が高揚しません」
「私も――待ちに待った時だって言うのになんでなの?」
言葉は違っても、全員が同じ感情を抱いている。
何故なのか海面を駆けながら考え、そして、赤城たちはブリーフィング前の会話を思い出す。
『加賀さん、蒼龍さん、飛龍さん、今度は必ず勝ちましょう! 大神隊長の指揮の下で!!』
『そうね。あの指揮の下なら負けないわ、今度こそ』
「あ……」
そうだ。
私達は大神の指揮の下で、大神と共にMIに勝とうと思っていたのではないか。
隊長として尊敬し、男性として慕う大神と共に。
なのに、大神に薬を盛り、酔い潰して何をしようとしていたのか。
MI作戦から外されると聞いて、全て忘れてしまっていた。
全てが黒い感情に塗りつぶされてしまっていた。
「わたし……なんてことを……」
後悔に襲われた赤城が歩みが遅くなる。
「赤城さん……」
赤城以上に大神を慕っていた加賀も苦い表情をしている。
自分達のしでかした事の大きさを今更ながらに感じている。
今ならまだ、という思いが頭を過ぎる。
だが、無情にも時は過ぎ行く。
「索敵機から連絡!……え?」
蒼龍が索敵機からの連絡を聞いて、言葉を失う。
「どうしたのですか、蒼龍さん!?」
「MI島に新型の陸上型深海棲艦と、飛行場姫を2体確認……敵航空戦力として、新型艦載機も確認。全機展開済み、強襲の恐れあり。速やかに艦載機を展開されたし……通信途絶しました」
「こちらの索敵機からも連絡! MI沖合いに新型の空母型深海棲艦を確認、こちらも新型艦載機展開済み。敵空襲に注意!」
「2艦隊分の空襲が一度に? 待ち伏せされていたというの!?」
赤城の悲鳴が響き渡る。
そう、MI島の敵戦力は作戦会議で予想されていたものより過大であった。
作戦会議で決定された航空戦力では不足だっただろう。
「敵機確認しました。赤城さん、航空戦用意を」
「……そうね、全艦、航空戦用意!!」
そう言い放ち、矢を打ち放つ赤城たち。
しかし、艦載機は訓練の時ほどの数には至らない。
「どうして……これじゃ、有明に来る前と同じ……」
「そうよね。大神隊長を酔い潰したんだもの。恩恵が得られる訳ないわ」
こんな当たり前のことにも気付けなかったのかと、自嘲気味につぶやく加賀。
赤城は悟る。恐らくこの航空戦、制空は取れない。
恐らく私達は敗北する、と。
正面からの戦いにおいて。
「でも、せめてこのことを大神隊長に伝えないと」
そして、遮断していた通信を回復させ、有明鎮守府に連絡する。
『有明鎮守府に赤城より連絡、敵航空戦力は過大! 敵航空戦力は過大!』
『赤城くん、君たちは無事か!?』
ああ、この人はあそこまでの事をされたというのに、何よりも先ず私達の安否を気遣うのか。
今更ながらそのことが胸を打つ、涙が流れる。
『全艦健在です。再度連絡します、敵航空戦力は過大! 作戦会議で決定された空母3艦編成では制空権は取れません! 艦隊編成の再考を具申します!』
『なら、君たちも撤退を! 航空戦力を見直すのなら尚の事、君たちが必要だ!!』
『ごめんなさい、大神隊長。敵に待ち伏せされていました、もう離脱は出来ません』
「赤城さん! 直上!!」
蒼龍の悲鳴が響き渡る。
航空戦はやはり劣勢だった、多くの艦載機が撃墜され敵機が迫る。
多数の爆撃が、雷撃が赤城たちに集中する。
「きゃーっ!!」
そして全空母が中破以上の損害を被る。
前回とは異なり、もう飛龍も反撃することすら叶わない。
敵に鹵獲されるか、撃沈されることを待つことしか赤城たちに出来ることはない。
『……翔鶴さん、居る?』
『はい……赤城さん?』
『一航戦の誇り、再度貴方に背負わせてごめんなさいね』
『赤城さん!!』
『赤城くん!!』
その言葉を最後に、再度有明からの通信を遮断する。
このまま敵に鹵獲されようと、撃沈されようと、自分達は深海棲艦に囚われ果てるのだろう。
なら、ならばせめて、
「……利根さん、筑摩さん、私達の雷撃処分をお願いします。艤装を解除した上でなら跡形も残らない筈、深海棲艦に囚われることもないでしょう」
「赤城さん、それって……」
「深海に囚われ大神隊長の前を塞ぐくらいなら、わたしは消えることを望みます」
「済まぬ、我輩が! 我輩があのようなことを提案したせいで!」
涙をボロボロと流しながら、利根が謝罪する。
「いいえ、話に乗ったのは私達ですから」
話に乗ったのは自分たちなのだ、決めたのは自分たちなのだ。
だから、決着を付けるのも自分たちしか居ない。
「だから、お願いします利根さん、筑摩さん」
「赤城さん……分かりました」
同じく涙を流す筑摩が雷撃の準備をし、そして放つ。
赤城は艤装を解除し、そして雷撃をその身に受けた。
MI独断専行組の好感度補正:罪悪感で0