艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第九話 2 反発の代償

「機動部隊は……翔鶴くん、瑞鶴くん、そして大鳳くんを以って構成する事となった」

「……え?」

 

大神の発言が分からなくて、

 

発言の意味が分からなくて、

 

表情を失う赤城たち。

 

そして、しばしの時を置いて、何度も何度も自らの中で繰り返して漸くその意味を理解する。

大神の発言を信じられないといった面差しで見やる赤城たち。

 

「……え? 大神隊長、それは冗談ですよね?」

「いや、冗談ではないよ。日中に行われた作戦会議で決定された事項だ。機動部隊の主管は翔鶴くん、瑞鶴くん、そして大鳳くんとなった。赤城くん、君たちはAL/MI作戦中の支援と近海防衛が主任務となる」

 

そう言えば聞こえはいい。

だが、結局のところそれはAL/MI作戦から蚊帳の外となることに等しい。

想像もしていなかった事態に、赤城の視界がぐにゃりと歪む。

そのまま崩れ落ちそうになるのを、隣に居た翔鶴の肩を掴みもたれかかる事で必死に耐える。

蒼龍も飛龍も同様にして耐えていた。

 

「赤城さん……」

 

自らが選ばれたことの栄誉より、力を失い蒼白となった赤城の心配をする翔鶴。

何故、このようなことになったのか。

艦娘たちの間に困惑が広がる。

 

「何故ですか、理由をお聞かせください」

 

その困惑を代表して、加賀が挙手し大神に尋ねる。

しかし、加賀はこの決定に全く納得できていないようだ。

表情の、言葉の端々から怒りが伝わってくる。

 

「理由かい?」

「そうです。私達がMI作戦にかけていた想い、隊長も理解して頂いている筈です。その上でこの選択となった理由をお聞かせ下さい」

 

加賀の発言に、大神が苦虫を潰したような表情を見せる。

その様子に、多くの艦娘はなんらかの事情があったのではないかと察する。

だが、絶望に打ちひしがれる赤城、怒りに燃える加賀はそんな大神の様子に気が付かない。

 

「……分かった、理由を言えばいいんだね」

 

そして、大神は理由を告げる。

 

1、翔鶴、瑞鶴、大鳳の方が新しく基本性能に優れていること。

2、翔鶴、瑞鶴は警備府の頃から大神の指揮を受けており、より強い信頼で結ばれていること。

3、赤城、加賀は有明鎮守府発足後、初の演習で翔鶴、瑞鶴に航空戦で完敗していること。

4、赤城、加賀、蒼龍、飛龍は先のMI作戦の喪失艦であり、験を担ぐ意味でも望ましくない。

5、赤城、加賀は呉時代より慢心の傾向が見られ、再度失敗をする可能性がある。

 

大神が搾り出すように一言一言紡ぐ度に赤城の肩が大きく震え、加賀の怒りが増す。

 

「そして、最後にして最大の原因が――赤城くんと加賀くん、君たちが有明鎮守府着任当時に要求した俺の放逐と、大塚司令官の就任の主格だったことだ」

「そんな……大神さん! その件は既に解決したことではなかったの!?」

 

自らが過去に行った行い、それがこのようなときに牙を向くとは。

表情を大きく乱し、加賀は大神に叫ぶ。

 

「MI作戦は全軍、いや、全世界にとっても大きな意味を持つ戦いとなる。不安要素があるなら、それは可能な限り潰さなければならなかった」

「うそつき!! あの時、私達に謝ったのは嘘だったのね! 本当は根に持っていたのね! だから、ここにいたって意趣返ししたのね!!」

「それは違う!」

 

怒りのまま壇上に上った加賀が、大神の頬を平手打ちする。

一度では気が済まなかったのか何度も叩く加賀。

そのまま涙を流しながら、叫ぶ。

 

「じゃあ、何で今になってそんなことを持ち出してきたの! 私達がどれだけの想いをMI作戦にかけていたか知っていたくせに! 望みが叶うよう頑張るよって答えていたくせに!!」

「……」

「分かって居ないの? 私が! 赤城さんが! どれだけあなたを信頼していたか! 慕っていたか!!」

「……」

 

大神の頬を叩き続けながら、涙交じりの罵声を浴びせ続ける加賀。

大神の頬は真っ赤に腫れ上がっている。

だが、赤城たちの想いはほぼ全ての艦娘が理解している、止めようとするものは殆どなかった。

 

「何とか言いなさいよ! 言い訳くらいしてよ!!」

「……すまない。君たちの望みを叶える事が出来なくて」

 

そして、大神は赤城たちへの謝罪の言葉を口にする。

 

「え?」

 

その謝罪の言葉に、加賀は漸く気が付く。

近接戦の達人である大神が、加賀を取り押さえることも容易に出来たであろう大神が、加賀の怒りを黙って受け止め続けていたということに。

そして、叶える事が出来なかったという事は――つまり、大神は赤城たちの望みを叶えようとしていたことに。

 

「まさか――」

 

加賀の大神の頬を叩き続ける手が止まる。

そこに永井たちを別室に案内し終えた大淀が戻ってくる。

 

「案内してまいりまし――加賀さん! 隊長に何をしているんですか!!」

 

真っ赤に腫れ上がった大神の頬を尚叩こうとするように見えた加賀の間に割って入る大淀。

 

そして、事の仔細を聞いて大神に怒鳴る。

 

「大神さん、何で言わなかったんですか! この決定が大元帥閣下のものだって! 大神さんのものではないって!!」

 

大淀のその言葉に再度ざわめく艦娘たち。

どうして、それを最初に言わなかったのか、と。

 

「理由はどうあれ、俺は赤城くんたちの望みを作戦会議で通すことが出来なかった。なら、赤城くんたちの怒りを受け止めるのも、決定事項をみんなに納得してもらうのも俺の役目だ。大元帥閣下や他の人間に押し付けるようなことは決してしてはならないんだ」

「隊長、せめて一言断っておくべきです」

「そう……だな、赤城くん、蒼龍くん、飛龍くん、すまなかった。俺の力不足だ」

 

そう言って、大神は腫れ上がった顔のまま謝る。

真っ赤な頬が痛々しい。

 

「加賀くんも済まなかった、手が赤くなってる。痛くはないかい?」

 

そうなるまで叩かれた自分の方が痛いだろうに、大神は加賀への恨み言一つ言わない。

大神が、自分が何を言われても、何をされても受け入れるつもりだったと、それが本気だと悟り、加賀は涙を一滴流す。

そして、今度は優しく腫れ上がった大神の頬に触れる。

 

「ごめんなさい……」

「いや、俺の方こそすまなかった」

「私が怒りのままに行動したから、大神さんの様子に気付けなかったから」

「加賀くんは悪くないよ、俺に不満を打ち上げる権利がある」

 

謝り続ける二人。

このままだといつまでも謝り続けそうだ。

 

「もう、二人ともやめるデース! ほら、握手して仲直りするデース!!」

 

察した金剛が登壇し、二人を強引に握手させる。

 

「それじゃブリーフィングの続きをお願いしマース!」

「ありがとう、金剛くん」

 

そう言って、大神は改めて機動部隊の構成を発表する。

 

第一艦隊 瑞鶴 翔鶴 大鳳 榛名 霧島 比叡 大神

第二艦隊 金剛 利根 筑摩 神通 朝潮 秋雲

 

頷く艦娘たち。

しかし、大神は気づけなかった。

解消されたのは赤城たちの大神への不信感であり、MI作戦への不信感は解消されていなかったことに。




しばらく反応が怖い。
そして今度は赤城を加賀が食った。

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