第九話 1 決断
夏コミ、いや観艦式が終わったしばし後、大神は作戦会議へと呼び出されていた。
会議内容は此度行われることが決定した次の作戦、AL/MI作戦についてである。
AL/MI作戦、いやMI作戦は海軍、いや全軍において大きな意味合いを持った戦いである。
かつて行われた太平洋戦争でのターニングポイント。
南雲機動部隊の壊滅、正規空母4隻を喪失するという大敗北を喫し、以後の敗北の流れへと繋がった戦い。
絶対にあの戦いの二の轍は踏んではならない。
此度の戦いは必ず勝利し、深海棲艦への更なる攻勢へと、そして最終目標である太平洋開放へと繋げなければならない。
陸軍も、海軍も、そして華撃団もその想いは等しい。
しかし、ALで、そしてMIにて勝利を得るための方法論はそれぞれ異なっていた。
それらを会議にてすり合わせて、最終的な作戦を構築していく。
しかし、完全に平行線を辿り決着が付かない議論もあった。
その議論を巡り会議場は紛糾している。
「しかし! それではMIに向けて己を磨き続けてきた彼女たちの意思が!!」
「それは分からなくもない。だが、今必要なのは確実に勝てる方策だ! きっと大丈夫だとか、今度こそ必ずといったあやふやなもので、一度大敗北した彼女たちの参加は認められない!!」
「だが、実際に最大戦力となるのは彼女たちだ。彼女たちを欠いてどう艦隊を構成する?」
米田が大神と海軍少将の会話に口を挟む。
援護射撃のつもりらしい。
「初期の演習において彼女たちに完勝した艦娘がいた筈だ。その者を中心に構成すればいい」
「それは自分の霊力による補助があったためです! 現在であれば、彼女たちも条件は同じ。完敗することはありません!」
「神谷大佐の説明にあった、君の触媒という霊力に起因するらしいな。だが、なら尚更、君と同じ時を長く過ごした者達をMIで起用するべきだ! 彼女たちは用いるべきではない!!」
「何故です? 何故そこまで彼女たちの起用を忌避するのですか!?」
「呉で彼女たちを見た。あの慢心、そう簡単に抜けるとは思えない。前回のMIにおいても慢心によって大敗を喫したのなら、彼女たちを用いるのは危険だ!」
「それは最初に説明した筈です。有明における最初の演習以降、彼女たちは心を入れ替え鍛錬に励んでいると!」
両者の意思は交わる気配を見せない。
だが、このまま平行線で終わらせるわけにも行かない。
両者の議論を黙って見ていた大元帥閣下が発言される。
「両者とも落ち着け」
「「はっ」」
「両者の意見は分かった。だが、このままではいつまでたっても結論は出ないだろう。かと言って、多数決をとるには数的に華撃団に不利すぎるな。故に華撃団総司令として結論を出そう。大神大佐に命ずる、此度のMI作戦では――」
それでその議論は終結した。
まだ会議は続く、議題は山積みなのだ。
同じ頃、有明鎮守府では午後の訓練を終え休憩を行っていた。
話題に上がるのは勿論、実施が決定したAL/MI作戦についてだ。
艦娘の殆どがMIについては苦い思いを持っている、今度はそのリベンジの機会だと燃えていた。
「救出された直後の大作戦にあまり参加できないのは、心苦しいでち」
「イムヤも。無限オリョクルとかないし、今度こそスナイパーとして参加したかったんだけどな」
大神指揮下での対潜訓練もかねて行われた、近海の対潜哨戒にて偶然救出されたイムヤたちがそう零す。
「まあ、そう言うでない。お主達の分もしかと働いてくるから、今は休んでおれ」
「利根姉さん、カタパルトが直ったからって調子に乗りすぎですよ。艦隊はまだ発表されていないんですから」
「なーに、隊長のことじゃ。我輩たちのことを、我輩たちの思いを汲んでくれるに決まっとる!」
「そうですね、こないだの秋雲ちゃんのときもそうでしたし」
利根たちがそう話し合っている。
けれども、それは殆どの艦娘の総意でもあった。
「加賀さん、蒼龍さん、飛龍さん、今度は必ず勝ちましょう! 大神隊長の指揮の下で!!」
「そうね。あの指揮の下なら負けないわ、今度こそ」
「艦載機の搭載数もずいぶん増えたもんねー、搭載数100越えなんてするとは思わなかったわ」
加賀たちは最初に演習したときと比べて、自分達が飛躍的に強くなったことを実感している。
だからこその言葉だったのだが。
「ダメだよー、みんな慢心は」
飛龍がみんなに釘を刺す。
「今回は、私達お留守番なのかな? 翔鶴ねぇ」
「そうね、連合艦隊の編成としても私達が入る余地はなさそうね」
「でも、隊長さんが直接指揮する艦隊は、連合艦隊の編成条件を無視できるんでしょう?」
「かと言ってAL側にも空母は必要でしょう? とにかく、隊長の帰りを待ちましょう、瑞鶴」
「はーい」
瑞鶴たちは、完全にお留守番するつもりで居る。
一航戦、二航戦があるだけやる気なのだ。
睦月や秋雲の例を考えても、彼女たちの気持ちを無碍にする大神とは思えないし、彼女たちが出撃するのは間違いないだろう。
そんな話をしているうちに大神が作戦会議から帰ったと、作戦についてのブリーフィングを行うと連絡が入る。
艦娘達がブリーフィングルームに入ると、大神と大淀たちが準備をしていた。
しかし、金剛や鹿島、睦月の目には大神の顔色が若干優れないようにも見えた。
「隊長、顔色悪くないデスカー?」
「ああ、朝から殆ど休みなしで会議をしていたからね。ちょっと疲れたかな、今日は早めに寝ることにするよ」
「ブリーフィングを明日にしてもいいんデスヨ?」
「いや、早めに結果をフィードバックした方がいい。紹介とかもあるし。大丈夫だよ、金剛くん。俺はそこまでヤワじゃないよ」
そう言うと、大神は決定された作戦の説明に移る。
先ずはAL作戦。
こちらは二段階の作戦で形成されている。
第一段階での制海権の奪取。
そして第二段階での敵北方港湾基地の強襲。
「ただ、今回の作戦は知っての通りAL方面とMI方面に分かれる。俺はMI方面の直接指揮を執るためAL方面の指揮はできない。だから、AL方面の指揮は――」
「私がとることになった。久しいの、警備府の艦娘のみんな」
「「「永井司令官?」」」
そう、それは警備府の司令官であった永井であった。
「司令官、お怪我はもう大丈夫なのですか?」
以前そうであったように龍田が永井に寄り添う。
だが、永井は以前にも増して活力を取り戻しているようだ。
「ああ、おかげさまで完全に快復したわい。大神の様な神がかった大胆な指揮は取れないが、着実に勝ちに行くぞ、みんな」
「あのー、司令官。艦隊編成はどうなっているのですか?」
「なんじゃ、編成の説明はまだじゃったのか?」
「そんなに急がせないで下さい、司令官。編成は――」
続いて参加艦娘の発表を行う大神。
それには、
響 暁 高雄 摩耶 隼鷹 飛鷹
の6人が選ばれた。
「それでは大神隊長、別室を借りてもいいかの? 大神隊長のように直接指揮が出来ない分、より綿密に打ち合わせを行いたいのでな」
「ええ、勿論その予定です。大淀くん、案内を頼む」
大淀の案内で永井司令官と響たちが出て行く。
「続けてMI作戦の説明に移るよ」
第一段階として正規空母を基幹とした連合艦隊(機動部隊)を出撃し、制海権の奪取。
第二段階としてMI島の攻略。
第三段階として、MI島奪還を目的として接近する敵増援艦隊を捕捉、撃滅。
「但し、第二段階から第三段階まではある程度の時間が経過すると予測される。だから第二段階までは自分が直接指揮するけど、第三段階においては有明鎮守府からの指揮とさせてもらう」
「何故、有明鎮守府に戻られるのでしょうか?」
「流石に長期間、日本近海を開けっ放しにするわけには行かないだろう? 南方からの敵の攻撃も考えられるし」
「なるほど、流石、隊長です!」
それで霧島は納得したとばかりに大きく頷く。
となると、
「あ、あの!」
赤城が挙手する。
とうとうこの時が来たかと覚悟する大神。
「それで、初の連合艦隊は。機動部隊の編成はどのようになったのでしょうか?」
赤城の表情を見る。
自らが、いや自分達が選ばれることを微塵も疑っていない。
その表情をこれから曇らせてしまうというのか、自分は。
「機動部隊は……翔鶴くん、瑞鶴くん、そして大鳳くんを以って構成する事となった」
「……え?」
赤城は――
いや、加賀も、蒼龍も、そして飛龍も大神の言った言葉の意味を理解できなかった。
その言葉、そのものを認識できなかった。
反応が怖い(^^;