人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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こうして彼と彼女の問題は間違いによって解決される

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ‼︎

 

やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ‼︎

 

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!恥ずかしすぎる!

 

俺はつい数分ほど前の自分の言葉を振り返り、床をゴロゴロと転がって悶絶していた。

 

『S'il vous plaît devenu pour moi et amant』

 

訳ーーー私と恋人になって下さい。

 

ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああっ‼︎

 

ミスった!やっちまった!急いでたから見るページを間違えてたんだ、あれ!

 

つまり、俺はラノベのキャラの台詞を借りて、来栖茜に告白してしまったのだ。

 

因みに俺が言いたかったのは『Moi et s'il vous plaît devenus des amis』。

 

訳は私と友達になって下さいだ。

 

俺は本来これを言うつもりだった。

 

なのに、見るページを間違えた。

 

つーか、ややこしいことしてんじゃねえ。なんでこういう事してんだよ。おかげで黒歴史が出来ちまったじゃねえか。あのラノベの作者マジ許すまじ。

 

………と言いたいところだが、それよりも気になるのは来栖の反応だった。

 

『……こちらこそ……よろしくお願いします』

 

あの返事はなんだったのか。

 

来栖も訳を間違えていたという可能性もあるが、どうにもそういう感じではなさそうだ。

 

………って事は、つまりあれか?

 

来栖は俺の事が好きって事………なのか?

 

いやいやいやいやいや、そんなことはありえない。

 

だって俺だよ?孤高のぼっちにして、黒歴史生産工場、学校中の笑い者、比企谷八幡くんだよ?

 

自分で言っておいて泣きそうになってくるが、ここだけ見れば俺が好かれる要素が一つも見当たらない。

 

実際、過去告白してきた相手には悉く振られ、剰え黒歴史として周囲に知れ渡ってしまった。

 

そんな何一つ良い要素がない俺の告白をまるで漫画から出てきたかのような人気者である来栖茜が肯定するはずもない。うん、きっと何かの間違いだ。そうと決まれば黒歴史を作らないためにも早く誤解を………

 

「あ、あのね………比企谷くん」

 

「お、おう、何だ」

 

「え、えーと、ね?は、は、八幡……って呼んでもいい?」

 

ごはっ!

 

上目遣いの口撃に思わず吐血(心の中で)した。

 

何この子、可愛すぎるんだけど。以前までの俺なら惚れて告白して振られてますわー。まぁ、告白しちゃったんだけど。事故とはいえ。

 

「べ、別に……いいぞ」

 

俺がそう言うと来栖はぱあっと表情を明るくさせて嬉しそうに跳ねる。だから跳ねるなって、特に今下着つけてないから揺れが凄いことに「バチンッ!」ほら、ボタンが弾け飛んだぁぁぁぁ⁉︎」

 

「きゃっ!」

 

来栖に貸していた服の前部分を止めていたボタンが弾け飛んだ。いや、ホントにどんだけデカいの?最早兵器じゃん。高校になったらメロンからスイカになるのは確定だなこれ。

 

「ご、ごめん、ひき……八幡。嬉しくて、つい」

 

「き、気にすんな。服の一着や二着」

 

後でボタン拾って直しとこう。

 

取り敢えず前締めボタンのある服が駄目だっつーのは今回の事でよくわかった。つか、ホント可愛いんだけどこの子。こんな美少女に名前呼びされる日が来るとは。ラブコメの神様。よくやった。

 

「そ、それよりもだな。その………良かったのか?」

 

「ほぇ?何が?」

 

何が、って。一つしかないだろ。

 

と、言いたいのは山々だが、こいつ本当にわかってない。

 

「はぁ………。その……なんだ。さっき俺が言ったことだよ。意味、ちゃんとわかってんのか?」

 

「………うん。私と………恋人になって下さい……だよね」

 

悲しいかな。どうやら間違いは正確に伝わっていたらしい。

 

だが、尚更気になる。何故、俺の間違い告白を了承したんだ?

 

もしかして………罪滅ぼしのつもりなのだろうか。俺が傷ついたことに対する。

 

もしそうなのだとすれば、やはり俺では彼女の心は救えない。

 

このまま付き合うことになったのだとしても、彼女にとっては苦痛でしかないはずだ。

 

なら、もしそうだとすれば、俺はそんな関係は求めていない。

 

俺はもう一度、彼女の笑顔が見たい。心の底から笑った太陽のような笑顔が。

 

けれど、罪滅ぼしのそれでは俺の求めるものは手に入らない。

 

そんなものは偽物(・・)だ。本物(・・)じゃない。

 

「自分で言いだしておいてなんだが、俺は何でお前が告白を了承してくれたか全くわからない。だから、怒られるのを承知で言うが、もしお前が罪滅ぼしのつもりで俺と付き合うっていうなら、そんなのはーー」

「そっか。八幡は……比企谷くんは人が信じられないんだね」

 

憂いを帯びた表情から放たれた彼女の言葉に俺は絶句した。

 

今の今まで、誰にも見透かされたことの無かった本心を覗かれたような気がして。

 

「私が自分の過ちを悔いているから、貴方の告白を受け入れて罪滅ぼしをしようとしているってそう思ってるんだよね?」

 

「………でも。それはあくまで可能性の話だ。本心から言ってるわけじゃない」

 

「ううん。きっと比企谷くんは本当に人が信じられていないんだと思う。私だからとか、そういうのじゃなくて、私以外でも貴方は自然と裏を探ってしまうんだと思う。行動の裏には悪意が潜んでるんじゃないかって」

 

「………」

 

「でも、それは仕方のないことなんだと思う。実は少し前に偶々会った妹さんから聞いたんだ。『お兄ちゃんはどうしようもなく捻くれていて駄目なお兄ちゃんだけど、本当は誰よりも優しくて、皆の幸せを誰よりも望んでるって』。けど、何時もその優しさは裏切られてきたんだよね。信じても信じても、何時も踏み躙られてきた。だから、受け入れられるとどうしていいかわからなくなって、疑ってしまう」

 

否定できなかった。

 

否定したかったのに、言葉が出てこなかった。

 

多分、来栖の言っていることが本当にそうだったからなのかもしれない。

 

踏み躙られる事に慣れ過ぎていた。常に否定され続けることが当たり前になっていた。

 

何時からかそれが普通になって、受け入れられるのが怖くなった。

 

「………嫌……なんだよ」

 

声が震えて、今まで俺を支えてくれていたものが壊れていく音が聞こえる。

 

決して弱音を見せることだけはしたくない。

 

負けたような気がしたから。他でもない嘘と欺瞞に満ちた青春に。

 

「もう……同情で接されるのも………存在ごと否定されるのも………好意さえも笑い者にされるのも………俺はもう………そうなりたくないんだよ……」

 

目尻が熱くなり、瞳からこみ上げてきたものが頬を伝っていく。

 

今まで溜めていたものを吐き出すかのように俺は言った。

 

上辺だけの優しさなんかいらない。普通に生きていくことすら許されないなんておかしい。『お前みたいなやつが』。そう言って誰かを好きになることすらも否定されるのなんて間違ってる。リア充だろうがぼっちだろうが人は人なんだ。そこにあるのは受け入れられたか受け入れられなかったか、ただそれだけの差に過ぎないのに。何で其処まで否定されなければいけないんだ。

 

「だから………もし贖罪のつもりならさっきの返事はーーー」

 

言葉は途中で遮られた。

 

しかも、それは俺を押し倒すように抱きつきながら口づけを交わしてきた来栖によって。

 

「んぐっ⁉︎」

 

そのまま床にプラス一人分の体重で背中から落ち、俺はこもった悲鳴を上げる。そしてその間も彼女は俺から唇を離すことはなかった。

 

「ぷはっ」

 

十数秒に及ぶ長いキスの後、彼女は頬を一層真っ赤にして、けれども俺の瞳を見据えたまま、決意の籠った言葉で言う。

 

「私は比企谷くんの事が………八幡の事が好き。大好き。告白も本当に嬉しくて嬉しくて、泣いちゃうくらい嬉しかった。絶対に叶わないって思ってたから。でも、叶えてくれた。他でもない。貴方が」

 

俺を押し倒した体勢のまま、なおも彼女は続ける。

 

今言っておかなければならないといわんばかりに。

 

「貴方が人を信じられないって言うなら、裏切られるのが怖いって言うなら、私がそれを受け入れる。絶対に貴方の信頼を裏切らないし、否定しないし、踏み躙らない。どうしても信頼の証が欲しいって言うなら、まだ早いかもしれないけど、別に『そういう事』をしたっていい。私は貴方の恋人で、貴方も私の恋人なんだから。貴方が人を信じられなくても、私は貴方を信じ続ける。貴方が誰よりも優しい人だって、私は知ってるから。例え、他の全てが貴方を否定しても、私は貴方を肯定する。貴方はーーーー比企谷八幡は、私にとってのヒーローだから」

 

そう言うと彼女はもう一度唇を重ねてきた。

 

彼女の優しさは他の人間とは違う。

 

上辺だけの優しさなんかじゃなく、心の底から他者を思えるそんな優しさだ。

 

けして人を裏切らず、裏切られたとしても、彼女は恐らく信じる事をやめない。

 

その在り方は過去の俺と何処か似ているのかもしれない。

 

例え何度裏切られ続けたとしても、性善説を称えるかのようにそれでも人を信じ続ける。

 

何度も裏切られ続けた俺は結局何も信じる事が出来なくなった。

 

信じれば否定される。だから人はもう信じないとあの日誓った。

 

笑われるくらいならもう人間を好きになるのはやめようとさえ思った。

 

優しい女の子は絶対に好きになる事はないとそう思った。もう騙されたくはなかったから。

 

けれど、来栖は言った。

 

今の俺を受け入れると。俺を裏切らないと。人を信じられなくなった俺を信じ続けると。他の全てに否定されても俺を肯定すると。何より、誰からも好かれたことのなかった俺の事を好きだと。そう言ってくれた。

 

偽善でも同情でも贖罪でもない。

 

彼女は俺の事を真っ直ぐに見て、そう言ってくれた。

 

その事が俺は堪らなく嬉しかった。

 

正面から俺を見てくれる人がいる。俺の事を裏切らないと誓ってくれた人がいる。俺を好きだと言ってくれた人が今も息が苦しくなるくらいに口づけを交わしている。

 

ならーーもういいじゃねえか。

 

彼女からまた始めよう。人を信じる事を。

 

何度裏切られ続けても、彼女だけは信じよう。

 

俺が欲したものは違う形だった。

 

彼女となら無二の親友になれるとそう思った。

 

何時しかとある偉い人が言っていた。

 

男女間での友情は成り立たないと。

 

ともすれば、男女同士で親友になり得る事はない。

 

それはきっと親しくなるにつれて、相手を友人以上の存在として認識してしまうから。

 

それが壊れるのが嫌だから。人はその好意を押し殺し、友情だと言って誤魔化す。

 

だからきっと俺も…………彼女の事が好きだったんだ。

 

『偽物』の関係ではなく『本物』の関係を。

 

彼女にただ笑顔でいて欲しくてそう願った。

 

作られたものではなく、心の底から笑った笑顔を。

 

そう願っていた俺も彼女のその美しい笑顔に心を奪われていたのだろう。

 

何もかも思い通りにいかない人生だが、偶にはこういう間違い方も悪くはないのかもしれない。

 

そう強く思え「ただいまー!やー、凄い雨………」

 

「「「………」」」

 

空気が凍った。

 

きっと小町から見た視点は押し倒されてキスされている兄とその兄の服を着て押し倒しながらキスしている来栖の姿。

 

最近のませた中学生は背伸びしてそういう事をしたりすると何かの本で見たことがある。そして小町はそれを知っている。つまりは勘違い。

 

「ど、どうぞ、ごゆっくり〜。邪魔者は消えますから」

 

「いや、待て小町。お前は今壮絶な誤解を……」

 

多分途中までは間違ってないが、後の方が絶対に間違えてる!あいつバカだから!良い子だけどバカだから!

 

扉を開けた時と同様に勢い良く閉めた後、小町は壁の向こうで絶叫しながら階段を昇り降りした後、浴室へと走っていった。また床拭かなきゃいけなくなったじゃねえか。

 

「あ、あはは、また凄い誤解されたね……」

 

これには流石の来栖も苦笑いしていた。

 

なんというか、色々とぶち壊しだ。やはりラブコメの神様なんていないんだな。こんな時にすら、ベストタイミングで我が妹を家に帰還させる辺り、もう少し待って欲しいものだ。

 

「………後で小町に説明しないとな」

 

「そうだね」

 

と言う割には来栖は全く離れる気配がしない。それどころか、寧ろ離れまいと抱きついてきているような気さえする。

 

「な、なぁ。嬉しい事には嬉しいが、一旦離れてくれないと起き上がれないんだが……」

 

残念ながらいくら女子でも人を一人乗せたまま、起き上がれるほど力はない。しかも完全に乗っかられてるから、腕の力だけで起き上がっても上半身を起こす程度だ。

 

「そ、それが……その……八幡を押し倒した時に………ボタンが……」

 

「は、はい?」

 

「だから、ボタンが全部飛んじゃった……」

 

は、はいぃぃぃぃ⁉︎

 

来栖さん。貴女どんだけダイナマイトボディなの⁉︎

 

いや、止めてたのは上から四つまでで下二つは止めてなかったけど、でもだからって全部飛ぶって殆ど凶器じゃん!や、ある意味凶器ではあるけども!

 

「じゃ、じゃあ俺は目瞑ってるから、その内に一旦ソファーの向こう側で身を隠しといてくれ。代わりの服を取ってくる」

 

「う、うん……ぜ、絶対に目を開けちゃダメだよ?」

 

とてもさっき大胆発言をしていた人とは思えない発言ですね。

 

まぁ、さっきのは話してる過程と雰囲気の問題だ。今はそういう雰囲気でも勢いでもないから、恥ずかしいということだろう。

 

そして絶対にダメと言われれば、開けたくなってしまうのが人のさ………嘘、冗談。

 

さっきの今で来栖の事を裏切るわけにはいかない。例え本能的な所が絡んでいても俺は我慢する。だから、絶対目は開けんぞぉぉぉぉ!

 

「も、もう大丈夫だよ」

 

「お、おう」

 

目を瞑ったまま、立ち上がって振り返り、目を開ける。

 

取り敢えず着替え取りに行かねえとな。

 

理想的なのはパーカーとかだが、あれは前がチャック式なんだよなぁ。

 

普通は壊れないだろうが、来栖は某赤い龍帝ばりに服を破壊することに長けているらしい。

 

なので仕方ないが、俺のパジャマを貸すほかない。

 

とはいえ、今着ているパジャマを貸すわけにはいかないので、クローゼットから冬用のパジャマを引っ張り出す。まぁ、着てる服はこれだけだし、暑いって事もないだろ。

 

パジャマをひっつかんで、リビングに戻ろうとした時、ふと視線が机の上に置かれているラノベに向いた。

 

俺は危うくこのラノベのせい(決して開くページを間違えた俺のせいではない)で史上最大規模の黒歴史を作るところだった。ホント、作者のところに嫌がらせの手紙送りまくってノイローゼにさせるレベル。

 

ただ、まあ。

 

さっきも思ったが、こういう間違い方も悪くはない。

 

人生は何時だって間違いの連続なのだから。正しい間違いがあっても良いだろう。

 

だから不幸の手紙じゃなくて、マトモにファンレターくらいは送ってやらなくもない。

 

件のラノベを一瞥した後、そのままリビングに帰ると扉の前では小町が扉に耳を当てて、中の音を盗み聞こうとしていた。

 

「……なにやってんの、お前」

 

「うわっ⁉︎お兄ちゃん!」

 

うわってなんだ、うわって。俺はお化けか。それかゾンビか。

 

誰が腐った死体だ。俺だって生きてるっつーの。だから触っても菌つかねえし、毒にもならねえよ。バリアってなんだ。しかもバリア効かない菌とか強すぎるだろ。致死率99.9%かよ。

 

「お兄ちゃん。目が凄い勢いで腐ってるよ」

 

「……なんでもない。それよか、お前何か勘違いしてるだろ?」

 

「べべべ別に!決して小町はお兄ちゃんと来栖さんが二人で何かいかがわしい事してるから、覗き見しようかなとかは全然考えてないよ!」

 

「あっさり自供してんじゃねえ……」

 

せめて誤魔化せ。つか、いかがわしい事なんてしねえよ。俺をなんだと思ってるんだ。

 

「あれは……なんつーか、事故みたいなもんだ。邪な気持ちはねえよ」

 

色々と柔らかかったが。

 

「………そんな鼻の下伸ばしていっても説得力ないよ、お兄ちゃん」

 

ジト目で睨まれた。別に俺は特殊性癖を持ち合わせてないから、そういう目で見られても居心地が悪くなるだけだ。

 

「………詳しい事は教えてやるから、取り敢えず中にいる来栖にこれ渡してくれ」

 

「なんでお兄ちゃんのパジャマ?しかも冬用の」

 

「外は土砂降り。今日の天気予報じゃずっと快晴。そして洗濯カゴには雑巾並みに絞れる制服」

 

指を三本立ててから、ヒントを与えると、小町は顎に手を当てて、数秒置いたのち、目を光らせた。

 

「つまり、今の茜さんは服を着ていない!」

 

謎は全て解けた!と某じっちゃんが名探偵の青年ばりにずびしっと人差し指を立てて、宣言する。

 

や、間違えてるんだけどね。

 

「服は着てるだろ………ま、ちょっとしたトラブルでな。着替える必要が出来たんだ」

 

「トラブル?ああ、お兄ちゃんがベッドの下に隠してる本?」

 

「ばっか。そんなテンプレなとこに隠してねえよ。それはクローゼットの奥深くに………って、何喋らせようとしてんの?小町、お前誘導尋問の才能あるな」

 

「お兄ちゃんが勝手に話しただけなんだけどね」

 

ものすごく呆れ切った声で小町は俺の手からパジャマをひったくるとリビングに入っていった。

 

数分待ったのち、小町から入室の許可が下りたので入る。

 

小町が許可を出したため、当然ながら部屋にはいると目の前には着替えている最中の……なんて事はなく、普通に着替え終えていた。

 

当然ながら体格差もあるため、シャツの時とはまた違った良さがある。

 

そして相変わらず一部分の自己主張が激しすぎる。

 

「さて、二人揃ったところで小町が帰ってくるまでの説明して」

 

胸の前で腕を組んだ小町は椅子に座り、俺と来栖はその向かいの椅子に座る。

 

別に悪いことをしたわけでもないのに、どことなく親に怒られているような気分になる。つっても、放任主義なんですけどね、俺の親。俺限定で。

 

「ほれほれ〜、白状しちゃいなさいな。吐けば楽になるよ〜」

 

だからなんで悪いことをした前提なんだよ。俺達は別に後ろめたいことはしてない。恥ずかしい事はしたが。

 

「まぁ、あれだ。俺と来栖は付き合う事になったんだ」

 

「あー、それはわかってるから。お兄ちゃんじゃあるまいに」

 

あるぇ?軽く流されたんですけど。ついでに罵倒されたんですけど。もうやだ、最近の妹はお兄ちゃんに厳しい。

 

「小町はその過程を聞きたいのです。こう見えても、小町はお兄ちゃんの捻くれ具合を誰よりも理解してますから。正攻法ではお兄ちゃんは絶対に「何かの罰ゲームだ」とか抜かして、信じようとしません」

 

小町さんや口が悪いですよ。抜かすとか言っちゃいけません。でも、流石はマイシスター。よく分かってらっしゃる。実際、今までの告白の全てが罰ゲームだった。なので三回目からはその場所に行かない事にしていた。そしたら罰ゲームにならないとか文句言われた。知らねえよ。

 

「なので、どうやって茜さんがお兄ちゃんを落としたのか。小町はすごく気になります」

 

「え、えーと……その事なんだけど……ね?」

 

「はい」

 

「私が……落とされちゃった……」

 

視線を下に落とし、もじもじとしながら来栖は間をおいてそう答えた。

 

何この子、超可愛い。どんだけ、俺の好みをえぐってくんの?野球だったら、乱闘騒ぎ起きるよ?

 

因みに小町は絶句して、俺と来栖を交互に見ていた。そりゃ、信じられませんよね。というか、俺もちょっと理解できてません。だって、告白したの俺だよ?じゃあやっぱり落とされたのは俺じゃね?

 

「お兄ちゃん一体何したの?まさか催眠術とかかけてないよね⁉︎」

 

「かけとらんわ」

 

おい、それが兄に対する発言か。どんだけ信頼ないんだ。関西弁になっただろうが。わからなくもないけど。

 

「つーか、俺もよくわかってねえんだけど」

 

「その事なんだけどね。色々あって、八幡と離れたでしょ?」

 

「……そうだな」

 

「成る程。以前言っていた、もう会えないとはそういう意味だったんですか」

 

何処か合点が言ったように小町は頷く。そういえば偶々会ったんだったか。

 

ふと思ったが、こいつら声以外大した情報も無しにどうやってお互いの存在を認識できたんだ?

 

「でね。あの日、私帰ってから大泣きしちゃって、二日くらい体調崩してたんだ。それから一人でいる時にずっと八幡の事を考えてて…………もう八幡と話せないと思ったらまた家で泣いちゃって………泣き終わった後に漸く気づけたんだ。『私って比企谷くんの事が好きだったんだ』って。でも、気付いた時には色々と遅くて…………だから、この恋はずっと私の胸の中で留めておこうって考えてたら………八幡が告白してくれた」

 

そう言ってはにかむ彼女の表情はとても美しく、思わず目を奪われ惚けていたが、すぐに小町の声で現実に戻された。

 

「えっ⁉︎お兄ちゃんが告白したの⁉︎マジで⁉︎」

 

「…………まあな」

 

間違えただけなんですけどね。

 

そう言ったらゴミ扱いされるので言わない。俺が告白したという事実だけ伝えておこう。

 

「成る程成る程。では、どうして押し倒すような流れに?」

 

「それは……その………嬉しさ余って、やっちゃった」

 

「ほっほう!それはそれは!大胆ですねぇ、茜さん」

 

「えへへ〜」

 

どうやらあのやり取りは黙っておいてくれるらしい。俺としてもあんな姿を小町に見せたくないしな。その気遣いは非常にありがたい。

 

「小町が帰ってくるまでの経緯はわかりました。ですが、他にも聞きたいことが山程あります。………そこで小町は茜さんにこの家に泊まっていくことを提案します」

 

「「なっ⁉︎」」

 

「幸いにも明日は土曜日。泊まっても何してもOKです」

 

泊まっても何してもって………お前は兄を何にしたいんだ。

 

「それにお二人は既に相思相愛の恋人。なんの不満がありましょうか」

 

「そういう問題じゃなくてだな………第一、来栖は雨が止むまでか、親が迎えに来られるまでの間、俺の家で雨宿りするって名目で「わかったよ、小町ちゃん。ちょっと親に聞いてくるね」あ、ちょっと待って!」

 

「あ、電話はそこに子機があるんで」

 

なんか変に意気込んだ来栖は子機を手に取ると廊下へと走っていった。

 

何考えてんの、この子達。

 

普通に考えて年頃の娘を彼氏になりたての男子の家に泊めるなんて考える親はいないだろう。親父とか、小町は一生家にいるもんだと馬鹿な事を考えてるし。親父っつーのは元来親馬鹿な生物だ。それが娘になるとなお一層な。

 

廊下に出て数分。特に言い合う声も聞こえることなく、出て行った時と同様のテンションで来栖は帰ってきた。

 

「どうでした?」

 

「それが………」

 

妙に歯切れが悪いという事は案の定断られたという事だろうな。

 

「理由を話したら、お父さんもお母さんも交通機関が止まってて帰れないから、二つ返事でOKしちゃった」

 

どうやら、雨宿りは雨宿りで済みそうになかった。




ということで告白だけで終わらず、お泊まりに発展。

一応、八幡の心の問題?も解決する形で収めました。独自解釈やその他諸々が混じっていたりするのでおかしい点が色々ありますがご了承下さい。

そして、日刊ランキングやルーキー日刊では一桁の高順位にいるという作者も目が飛び出るほどの驚きです。今作を評価してくださっている方、ありがとうございます。

感想を下さっている方もありがとうございます。

これからもどしどし、ご意見ご感想お待ちしております。

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