人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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運動の後には睡眠がつきものである

テニス対決が終わった後、勝者である俺と茜は観戦者に持て囃されて………いることはなく、普通に授業を受けていた。

 

そりゃまあ、普通の反応だわな。

 

俺はともかくとして、茜は持て囃されて当然の人間だというのに、何もしなかったあたり、授業の重要性を物語っている。予鈴が鳴った瞬間に焦った茜が走り去ったということも要因しているが。生徒会は大変だな。

 

まぁ、授業が終わったとしても、俺に何か言ってくる人間なんて早々いな……

 

「ひ、比企谷くんっ!」

 

「……戸塚か」

 

授業が終わった直後、安定の両耳イヤホンからの読書に入ろうとしていたら、天使オーラを放ちながら、戸塚が話しかけてきた。こ、こんな所にも天使が!

 

思わず撫でたくなる衝動を抑え、声が上擦らないようにして名前を呼ぶ。

 

「どうした?」

 

「あの……お礼……言えて、なかったから」

 

「礼なんて必要ない。俺が勝手にしたことだしな」

 

なんなら謝った方が正しいだろう。いくら追い返すためとはいえ、戸塚の練習の為とはいえ、本人に確認を取らずに勝手に受けてしまったんだから。

 

「それでも、お礼、言わせて。比企谷くんがいなかったら、きっと、取られてたから。ありがとう」

 

「…………どういたしまして」

 

なんかむず痒い。礼を言われるようなことなんてして無いし、強くするという意味なら、雪ノ下や由比ヶ浜の方が貢献できていただろうに。

 

ただまあ……悪い気はしないな。

 

「まぁ……なんだ。礼なら、茜にも言っておいてくれ。あいつが来てくれなきゃ、色々面倒な事になってたからな」

 

具体的には由比ヶ浜と三浦の間に妙な空気が流れていた可能性が。

 

流石に奉仕部の立ち位置としては三浦を追い返すのに参加しなければならないだろうが、交友関係としては葉山グループの方が古いし、そんな事で裏切ったなんて思うほど、友達がいた試しなんてない。

 

それにあの状況、下手したら由比ヶ浜はしょうがなくというよりも、自分の意思で参加していた可能性がある。それはマズい。それだけは回避しなければならなかった。

 

それ故に茜がいたのは完璧だった。

 

めちゃブチ切れモードだったけどな。まぁ、それは仕方ない。

 

茜は今も昔も、そういう人間なのだから。

 

「そうするね…………ところで比企谷くん」

 

「ん?なんだ?」

 

「比企谷くんと来栖さんは仲良さそうに見えるけど………もしかして付き合ってるの?」

 

小声で耳打ちするように戸塚は聞いてくる。

 

おそらく、周囲の事を気にしての配慮だろうが、俺の話に聞き耳をたてる様な物好きはいない。寧ろ、常日頃から俺の方が聞き耳を立てているまである。や、別に盗み聞きが趣味とかそういうのじゃないからね?

 

「まあな。中学からで、もうちょいで四年目だ」

 

「やっぱり。二人とも凄く仲良さそうだし、連携もバッチリだったから、そうだと思ってたんだぁ」

 

手を合わせて戸塚は喜ぶ。

 

そう見られているというのは、俺としても恥ずかしい反面、嬉しくもある。

 

「身体を鍛えてるっていうのは………」

 

「まぁ、なんだ。あんな出来た人間だから、俺も頑張らないと釣り合い取れんだろうしな」

 

妙な所に気づかれたので、歯切れが自然と悪くなる。

 

流石にいくら努力しても、やはり人間性的な意味合いと濁った目のせいで減点は否めないんだが、それでも茜の隣に立っていても何も恥ずかしくないようにしていたい。

 

「そんな事ないと思うよ?比企谷くんも来栖さんもお似合いだよ」

 

「初見でそう言ってくれたのは、お前ぐらいだよ」

 

大体のやつは全く正反対の事を言った挙句、茜に満面の笑みで拒絶されるのがデフォルトだ。

 

笑顔だからというチャチな理由でありもしない期待をしていた輩はそれで軒並み心を折られてた。いや、悪いのは相手だけど、微妙に同情した。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「じゃあ、僕戻るね。比企谷くん、今日は本当にありがとうっ!」

 

くるりと踵を返して、戸塚は席へと帰っていく。席、けっこう後ろなのな。どうりで気づかないわけだ。元々興味がなかった事も関係してるが。

 

ともかく、依頼も含めて今回の件はこれにて一件落着だな。

 

まだまだ戸塚の依頼は継続されていくわけだが、俺達が付きっきりになる事もないし。

 

それで下級生の部員のやる気が向上するかは、戸塚を含めた二年生次第だが………まぁ、上手くやれるだろう。

 

………急に眠くなってきたな。さっきまでは特別そうでもなかったが、やはり疲労はかなり溜まっていたらしい。

 

基本的に授業は真面目に受けている(つもり)が………今は例外って事にしよう。

 

教員による出欠確認が終わった直後、俺はそのまま机の上に突っ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ‼︎

 

「うおっ⁉︎」

 

突然の衝撃に俺は机から飛び起きるようにして、上半身を起こした。

 

時計を見れば、時間はすでに五時より少し前を指していた。寝過ぎた以前に誰か起こしてくれよと思ったが、生憎そんな人間はいなかった。いたとしても由比ヶ浜くらいのものだが、その件の由比ヶ浜も今日は用事云々で奉仕部には来れないって言ってたし………

 

「まだ寝惚けてんの?つーか、こっち向け」

 

苛立ったような声音に俺は思わずもう一度机に突っ伏しそうになった。や、だって、あれじゃん?この声、この口調ってば……

 

「………何か用ですか、三浦さん」

 

「はぁ?なんで敬語なの、キモイんですけど」

 

きちんとした礼節を持って話しかけたら、キモいと一蹴された。なんでやねん。

 

「つーか、本当に何の用?」

 

「別に。あーしは用なんて無いんだけど」

 

じゃあ、なんで机蹴ったんですかね。目覚まししてくれるにはかなりあれな起こし方でしたけど?やっぱりアレなの?ひん曲がった思考は行動にも反映されんの?

 

「………悪かったわね」

 

「はぁ?」

 

「だから、今日は悪かったつってんでしょ。一回で聞けし」

 

「お、おう……」

 

わかったから睨むな。怖いだろうが。つーか、何の脈絡もなくいきなりぶっ込んできたな。用は無いんじゃなかったの?

 

「謝ったって一応はちま……ひき……はち………ああもう!あんたから伝えといて!あーし、もうあいつと会いたくないからっ!………もうっ!ぜんっぜん、治んないし!」

 

吐き捨てるようにそう言うと三浦はぐちぐちと文句を言いながら、教室を後にした。どうやら、放課後から今に至るまできっちりお話されてたらしい。最終的には俺の呼び方が「あんた」に着地したところを見るに、雪ノ下よりも重症そうだ。

 

また一人、俺のあずかり知らぬところで茜によって八幡教の信者が増えた瞬間だった…………なんかやだな、これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言うわけだ。一応、三浦から謝罪は受けた」

 

「そうなんだ。良かった」

一時間遅れで奉仕部に向かったものの、結局今日は奉仕部は休みになった。

 

おそらくはテニス対決の事を考慮してくれての事らしいのだが、俺にそれを伝えるためだけに一時間待つ羽目になるとは思っていなかったらしく、別れの際には軽く罵倒された。まぁ、全面的に俺が悪いので、それに関しては謝ることしかできない。

 

そして現在は安定の比企谷家。ソファーの上に俺と茜が座り、椅子の上に小町が座っているというこれまたよくある構図だった。

 

「へー。お兄ちゃんとお義姉ちゃんがタッグでテニス部か〜、見てみたかったかも」

「楽しかったよ〜、八幡と一緒にテニスするの。いっぱい人がいる中でするのは疲れたけど」

 

「俺もそっちの方が疲れたな。おかげで最後の授業だけ丸々寝落ちしてたしな」

 

「そうなんだ………あ、じゃあ八幡、膝枕してあげよっか?」

 

「いや、大丈夫だ。……っつーか、小町がいるから」

 

「いえいえ、小町の事はお構いなく!存分にいちゃつき倒してください!」

 

「そう言いながら、携帯構えるのやめろ。記録しようとすんな」

 

小町の野次馬根性が半端ない件。そんなものをとって一体何に使うつもりなのやら。

 

「そういえば、茜は大丈夫なのか?テニスの時は腕が攣りそうとか言ってたが……」

 

「多分大じょ……」

 

そこでハッとしたように茜が言葉を止めた。何かあったのか?

 

「大丈夫じゃないかも」

 

「そうなのか?じゃあ、病院「だから八幡が膝枕して〜!」はい?」

 

言うが早いか、茜はそのまま寝転がって俺の太腿の上に頭を置いてきた。まさかの逆膝枕である。

 

それはそうと、ふと思ったのだが、何故太腿の上に頭を置くのに膝枕なのだろうか、なんで腿枕じゃねえの?語呂的には膝枕の方がいいのはわかるが、膝枕って骨の上だし痛そうじゃん。

 

「えへへ〜、八幡の膝枕〜♪」

「それなりに鍛えてるから柔らかくないだろ?」

 

「うん。ちょっとごつごつしてる感じがするね。でも、それはそれでありかなぁ〜♪」

 

そこまで嬉しいもんか?枕はやっぱり柔らかいか或いは低反発に限ると思うが……固いと頭痛くなるしな。

 

………まぁ、本人は喜んでるし、別にいいか。

 

なんとなく、手持ち無沙汰なので、膝の上にある茜の頭を撫でてみる。

 

相変わらず、髪の毛はさらさらで撫で心地が良い。整髪料の類を使っていないだろうとは思うんだが……それとも女子はだいたいこんな感じなのだろうか。最近では小町も嫌がるので比較対象がいないことに一抹の寂しさを感じさせる。こうして、妹の兄離れが進んでいくのか………おそらく口に出せば、元々なかったと一蹴されるような気がするので、心の中に留めておく。

 

そうして後は無心で撫でていると、小さな寝息が聞こえ始めた。

 

上から顔を覗き込んで見れば、茜はすうすうと寝息を立てて眠っている。

 

それもそうか。元々運動の類は好んでするようなタイプではない茜が、ダブルスとはいえ、テニス経験者+運動神経抜群の相手と戦ったわけだ。日頃、それなりに身体を鍛えている俺も疲労が溜まっていたことを鑑みても、茜は一層疲れているのが普通だ。

 

「今日はありがとな」

 

パシャ。

 

自然とそういう言葉が口から零れ、返事代わりとばかりにカメラのシャッター音が聞こえた。

 

「……何やってんだ、小町」

 

「貴重なワンシーンだから、記録しておかないと。お兄ちゃんてば、写真映り凄く悪いから」

 

や、ほら、サイヤ人の王子様だって「笑えよ」って言われて笑ってなかったじゃん。つーか、笑えって言われて笑える人間なんてろくな奴じゃない。だから、逆説的に写真撮る時に顔が引き攣ってたり、目つきが悪くなってる俺は真人間である。

 

「それにしても、お兄ちゃんと茜さんが付き合い始めてもう四年かぁ………お兄ちゃんみたいな面倒くさい人を相手に出来るのは小町ぐらいだと思ってたけど」

 

おい、自分の兄を指して面倒くさい人とか言うな。そこいらの有象無象ならともかく、小町に言われたら泣いちゃうだろ。なんなら、心で泣いて笑顔見せるみたいな感じで心の中で号泣しているまである。それが生き様

男道って歌われてた。

 

「でも、そういうところも含めて、お兄ちゃんの事を理解出来るのも小町だけだと思ってたなぁ………あ、今の小町的にポイント高い!」

 

最後ので台無しだった。それが無ければ兄思いの良い妹発言で終わったというのに。

 

「てもでも〜、最近のお兄ちゃんはカッコ良くなってるから小町としても鼻高々です。高校に行っても他人のフリをしなくても済みそうだし、なんなら自分から公言しても良さそうだし!」

 

「寧ろ、今まで他人のフリをされていたという事実に俺は泣きそうだけどな」

 

「えー………だって、お兄ちゃんの黒歴史考えたら……ねぇ?」

や、そこ同意求められても………まぁ、確かに俺もそんな奴が身内なら絶対に他人のフリをするけども。

 

「さて………と、今日の晩御飯は何が良い?」

 

「小町の作ったものならなんでも良いぞ」

 

「その解答は小町的にポイント高いけど駄目。具体案を要求します」

 

「割と本気でなんでも良い。今はなんつーか、眠い、しな」

 

茜の寝顔を見ていたら、俺もまた眠くなってきた。

 

「もう、しょうがないなぁ。じゃあ、小町の方で適当に晩御飯決めとくから。多分、一時間くらいかかると思うけど、二人きりで茜さんが寝てるからって、変な事しちゃ駄目だよ、お兄ちゃん」

 

「しねえよ」

 

するわけないだろ………………多分。

 

「あ、でも、別に茜さんが同意の上なら存分にして良いからねっ!あ、今の小町的にポイント高いっ!」

 

「はいはい、高い高い。わかったから、行くならさっさと行け」

 

そう言うと、小町はとてとてと玄関の方へと向かっていった。あいつはどれだけ俺達を合体させたいのか。そんな事しなくたって、俺と茜の関係は早々壊れねえっつーの。

 

「つーか、マジで眠い」

 

室内が静寂に包まれた事により、眠気が更に加速し、俺は茜に膝枕をしたままソファーにもたれかかるようにして眠りについた。


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