人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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来栖茜の社交性の高さは計り知れない

コンコン。

 

俺が連絡を入れてから数分後。扉をノックする音が聞こえる。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

雪ノ下の声と共に入ってきたのは俺が呼んだ人物。

 

眉目秀麗、容姿端麗、頭脳明晰、聖人君子、温厚篤実etc…。

 

それらの体現者であるのは制服を模範通りに着こなし、首筋より少し下まで伸ばした茶色い髪を靡かせた女子。相変わらず、柔らかな雰囲気を漂わせ、入ってきた瞬間に僅かにあった緊張感のある空気すら消え去っていた。

 

入ってきた女子は俺と目が合うとぱあっと表情を明るくさせてパタパタと早足で歩いてくると、そのまま抱きついてきた。

 

「はっちまーん!」

 

「っと、危ないだろ」

 

既にこの手の行動は学習済みだ。それに中学の頃と違って支えるだけの筋力はある。これくらいは余裕だ。

 

「急に呼び出してくるなんてどうしたの?先生に呼び出されたって聞いてたけど」

 

「ああ、その事でな。少し面倒な事になったんだ…………それはそうと茜。俺とお前の関係ってなんだったっけ?」

 

「えぇ〜⁉︎八幡、酷いよぉ〜。そんなこというなんて。忘れちゃったの⁉︎」

 

「忘れてねえよ。再確認だ再確認。つーか、忘れるはずねえだろ」

 

そう言うと茜は頬を膨らませるが、俺の質問に答えてくれる。

 

「ぶぅ。私と八幡は恋人同士で将来添い遂げる仲でしょ。忘れちゃダメだよ?」

 

あれ?何かさらに進化してる。前は夫婦になる予定的な感じだったのに。

 

まぁ、間違いじゃないしいいか。小町にも言われたが、俺は茜を逃したら二度と結婚なんてできない。

 

「そういうことだ。わかったか、雪ノ下」

 

そう言って俺は雪ノ下の方へと向く。

 

どんな表情をしているのかと思ったら、あからさまにあり得ないみたいな表情してた。それどころか、若干キレてるぞ。空気が冷たいもん。絶対信じてねえよ。つーか、なんでキレてんの?

 

「………誰を呼んだかと思えば、よりにもよって来栖さんを呼んだのね。貴方、彼女の優しさに漬け込んで、彼女役に仕立て上げるなんて………噂とは正反対の下劣な男なのね」

 

「おい、なんでそうなる」

 

そりゃ俺みたいなのが茜と付き合ってるというのが理解出来ないのはわかるが、それはないだろう。それと噂ってなんなんだよ。ちょくちょく出てきてるが知らねえんだけど。

 

「あれ?雪乃ちゃん?」

 

そう言って茜が俺の肩越しに雪ノ下の方を見た。

 

「知り合いか?」

 

「知り合いも何も友達だよ?雪乃ちゃん」

 

「え゛っ。この息をするように毒を吐く氷の女王と?」

 

意外な事実に俺はうっかり口を滑らせてしまった。そのせいで雪ノ下からの視線がさらに厳しくなった。目だけで人を殺せるレベルだな。

 

「へぇ。雪乃ちゃんって、私とお昼ご飯食べる時以外はどこに行ってるんだろうって思ったんだけど、この空き教室だったんだね」

 

一旦俺から離れると茜はトテトテと雪ノ下の所へと向かう。

 

「教室ではうるさくて、静かに食事を摂る事も出来ないから。本当であれば何時もここで昼食を摂りたいのだけれど」

 

「えぇ〜。皆とお話ししながらお昼ご飯食べた方が美味しいよ?」

 

「私は一人で食べる方が………いえ、別に貴方と一緒に昼食を摂るのが嫌というわけではないの。だから、そんな悲しそうな表情をしないで」

 

茜の必殺とも呼べる泣きそうな顔に氷の女王は瞬時に意見を変えた。早え……っていうか、あって一時間にも満たないが意志が強そうな雪ノ下が即座に意見を変えるなんて俺の彼女超強え。

 

「ところで一つ聞きたいのだけれど。正直に答えてくれるかしら?」

 

「いいよ。雪乃ちゃん、友達だもん」

 

「貴女は確か恋人がいると以前言っていたわよね?」

 

「うん。言ったね。雪乃ちゃんにも見たらすぐにわかるように特徴も伝えたよ?」

 

「そうね。確か、見た目中肉中背のアホ毛が生えていて、目が特徴的な普通科の男子生徒………まさか」

 

ぎょっとした表情で雪ノ下は此方を見た。おおっ、かの雪ノ下が随分と間の抜けた表情をしている。きっとこれは相当レア度か高いだろう。そう、初期のドラ○エアプリのガチャでSレアの当たる確率並みに。

 

「……あれ、なのかしら?」

 

おそるおそるといった表情で雪ノ下は俺を指差した。なんて失礼な奴だ。まぁ、あれ呼ばわりは慣れてるけどな。

 

「ぶぅ。雪乃ちゃん、八幡の事を『あれ』呼ばわりなんて怒るよ。八幡は大好きな人なんだから」

 

俺の時のように頬を膨らませて茜は雪ノ下に抗議の意を示す。すると雪ノ下は椅子から立ち上がり、此方へと歩いてきた。

 

「……ごめんなさい。私の勝手な思い込みで貴方と彼女の関係を否定してしまったわ」

 

そう言って雪ノ下は俺に向かって頭を下げた。

 

……なんとなくわかったが、雪ノ下はなんとなく、俺や茜と似ている気がする。

 

さっきの怒りも勘違いではあるが、俺が茜の優しさにつけ込んで彼女になるよう仕向けたものと思ったからだろう。其処からは雪ノ下なりの茜に対する想いが感じ取れる。そして今のこの謝罪は自分の非を認めている証拠だ。中学の時に似たような反応をする奴らはいたが、そいつらはこぞって言い訳するだけで謝ることはしなかった。まぁ、あそこまで言われた事もなかったが。

 

とは言っても部分的にだ。だって、俺と茜は全く似てないから。

 

「……気にすんな。あそこまで言われた事はなかったが、そういう反応をする奴は中学の時に見飽きた」

 

具体的には全校生徒に一度はそういう目をされた。もっとも、女子はその後ひたすら俺達の事を茶化すようになったが。お前ら小学生かよ。

 

「うんうん。雪乃ちゃんと八幡が仲良くなるのは私も嬉しいよ♪」

 

仲良く……はなってないが、少なくともいらん蟠りは無くなったな。

 

「で、誤解が解けたところで悪いんだが、平塚先生を呼んで来てもらえるか?」

 

「……それもそうね。貴方の妄想癖が私達の勘違いによるものなのがわかった以上、貴方が此処にいる必要はないものね」

 

「平塚先生?平塚先生なら……」

 

「私はここだ」

 

気がつくと平塚先生は入り口の扉に背を預けるようにして立っていた。

 

ニヒルな笑みを浮かべて、そういう様は何だかアニメのキャラを真似しているようにも見える。実際、平塚先生は見た目クールな人なので似合っている事には似合っているのだが、心なしか目元が赤い。

 

「平塚先生。どうやら彼は社会不適合者というわけではないようです」

 

「それは私も先程来栖から聞いた。………まさか本当に彼女持ちのリア充とは……ぐす」

 

え?何あの人泣いてんの?もしかして気にしてるのか?お局様とか言ったら殺されるか自殺しそうなレベルだな。

 

「だが、私は始めから比企谷の事を頼みに来たというわけではないのだ」

 

「はぁ?」

 

「ですが、平塚先生。先程先生は……」

 

「あれは言葉の綾だよ、雪ノ下。どちらかといえば、私は比企谷に依頼をするつもりだった」

 

「八幡に?」

 

依頼?提案があるとは聞いていたが、何のことやらさっぱりだ。というか、言葉の綾という割には随分と酷い言われようだった気もするが。茜があのタイミングでいなくてよかったとしみじみ思う。いたらマジ修羅場。血を血で洗うとまでは言わないが、暴論が飛び交っていたに違いない。

 

「比企谷。君にはこの奉仕部に入ってもらい、雪ノ下の補佐をしてもらいたい」

 

「補佐……ですか」

 

「ああ。話してわかったとは思うが、雪ノ下は歯に衣着せない。世辞を言わないのはいいことだが、それでは生徒の問題解決を促す奉仕部としては些か問題がある」

 

そりゃまあ、あんなにズバズバ思った事を言われてたら相談している途中で相手が気を悪くして帰る可能性もあるな。ここに来る時点で相当切羽詰まってるとは思うが、それでも頭ごなしに言われたら嫌だろう。

 

しかし、それがわかっているなら何故雪ノ下雪乃に奉仕部なんてものをやらせているのか。生徒の悩み解決なら生徒会でも似たような事は出来たはずだ。流石に何かしたという話も聞かないし、生徒会なら居心地の良し悪しなんてないと思うが。

 

「平塚先生。別に私は……」

 

「補佐など不要か?だが、いくら君といえど限度もあるだろうし、届かない範囲もある。ならば、一人くらいは補佐がいても問題あるまい。比企谷。補佐をするか否かは君の自由だ。参加をするなら此方もそれなりの見返りを出そう。参加しなくとも別にペナルティーはない」

 

教師として生徒とこういう取引をするのは如何なものか。

 

と、言いたいところだが、世の中はギブアンドテイクで成り立っている。それならば依頼には報酬が用意されるべきで、平塚先生はそれに則っているだけに過ぎない。生徒だから、教師の頼みごとを受けなければならないなどというルールは何処にも存在しないのだ。平塚先生の言うとおり、受ける意味もなく、ただ時間を奪うだけの頼みを聞く奴なんかいない。だが、そこに見返りがあるのであれば話は別だ。そして、それが自らにとっても良い方向に進むのであれば尚の事だ。

 

「わかりました。雪ノ下の補佐をするだけで良いんですよね?」

 

「ああ。だからと言って常に静観し続ける必要はない。君の活躍次第では見返りの量も増えるというわけだ」

 

「出来高制ですか………いいですね」

 

実にいい交換条件だ。参加するだけでそれ相応の見返りを得られ、貢献すればさらに増える。こんな企業があったとしたら入社するのに全力を費やすレベルだ。

 

「出来れば来栖にも頼みたいところだが…………君は生徒会副会長だったな?」

 

「はい」

 

平塚先生の言うとおり、茜はこの総武高校の生徒会副会長だ。

 

俺達が中学の時にした約束通りに茜もまた違う形で強さを手に入れている。俺としては生徒会長に立候補しないのかと問いかけてみたら、「副会長の方がデスクワーク以外にも色々と自分の目で見られるから」と言っていた。茜も茜なりにNo.1よりNo.2を選んだ意味があるらしい。この調子なら多分来年も副会長だろう。茜は中学の時と同様に男女問わず人気があるからな。

 

だから茜がこの奉仕部を手伝う事はしない。ましてや、俺がいるとなるとなおさらだ。

 

「では、比企谷。雪ノ下の補佐は任せた。何か困った点があれば私の方にこい。くれぐれもこの部室を君達の愛の巣なんかにしてくれるなよ」

 

そう言って去る平塚先生の背中にはどこか哀愁が漂っていた。や、あの人誰かもらってあげてよ。高校生に嫉妬するなんて結構切羽詰まってるよ、あの人。

 

「………まぁ、そういうわけだ。お前としては助けも補佐もいらないし、俺みたいな奴が近くにいるのは癪だろうが、こっちにもそれなりに事情がある。一先ず、よろしく」

 

非常に不服そうな様子の雪ノ下にそう言って手を差し出す。見よ、これがリア充どもから模倣した自然に握手を求めることで相手との距離を詰める必殺技だ!別に相手は殺さんが。

 

「……不服ではない……といえば嘘にはなるけれど、来るものは拒まないわ。ようこそ、奉仕部へ。貴方を歓迎するわ」

 

とても歓迎しているようには見えないが、それはこの際置いておくとして。

 

「さっきからちょくちょく出てて気になったが、噂ってなんだ?」

 

俺がそう言うと茜と雪ノ下が顔を見合わせた。え?何その反応。

 

「まさか……知らないの?」

 

おいマジかよみたいな表情で雪ノ下が問いかけてきた。其処まで酷い噂なのか。だったら泣くぞ。

 

「仕方ないんじゃないかな?八幡はあんまりそう言うのに興味ないだろうし、それに頻繁に話題になる程じゃないと思うから」

 

「それもそうだけれど………」

 

「あのさ。頼むから説明してくんない?」

自己完結されても困るんですけど。質問したの俺だよ?

 

「そうね………確か、昼行灯とか言っていたのを聞いた気がするわね」

 

やっぱり酷い言われようだった。誰が昼行灯だ誰が。俺は地球に優しい人間なんだ。必要な時以外は省エネモードで環境に優しいを心がけているだけだ。

 

「生徒会の男子の子が言ってたけどね。即戦力クラスの男子がいるけど誘うに誘えないって言ってたよ?多分八幡の事と思うんだ」

 

「俺は運動なんてしたくない」

 

「そんな急激に目を濁らせながら言わないでくれるかしら……」

 

「あはは。八幡らしいね」

 

働きたくないでござるっ!絶対に働きたくないでござるっ!

 

青春の汗なんて書きたくないでござる。青春だろうがなんだろうが、汗は汗だ。

 

ただ、茜は例外でござる。本当なら俺は家庭を守っていく専業主夫を目指しているが、茜を社会に出すなんて危なくてさせられない。俺が茜を守らないと。

 

「というか、貴方が運動が出来るという事実が衝撃的だわ」

 

「八幡は基本的に高スペックなぼっちさんだからね。いつも消極的だけど、やる時はやるもんね〜」

 

「まあな」

 

そう。俺はやるときはやる子なんだ。

 

だから去年はかなり面倒だった。中学二年間で鍛えた身体で体力テストに全力で当たった結果、かなり高水準の結果を叩き出し、運動部に目をつけられる羽目になった。断るうちに最近は来なくなったが、それでもその火はまだくすぶっているようだ………違うな。一人だけ、まだしつこい奴もいたか。

 

「去年の球技大会の時も凄かったよね。葉山くん……だっけ?に対抗出来たの八幡だけだったもんね」

 

「あれを果たして対抗出来ていたのかと問われて肯定していいかは知らんがな」

 

去年の球技大会。

 

種目はバスケだったのだが、そこはリア充の体現者と称される(俺の中では)人物、葉山隼人の独壇場だった。

 

特筆してうちの高校のバスケ部は強い訳ではない。それゆえ、バスケ部の一年生もそこまで上手いわけではないのだが、それを差し引いても葉山隼人という人間は些か運動神経が良すぎた。しかもイケメンで頭もいいと来てる。あれ?よくよく考えればあいつも茜と同類じゃね?

 

たまたま一年の中でも一番上手いバスケ部員のいるチームにいた俺は流石の葉山隼人でも大丈夫だろうとたかを括っていたのだが、あろうことか葉山隼人はそいつすらも抜き去った。

 

それによってこちらの士気はガタ落ち。周囲は葉山コールでアゲアゲ。誰もが葉山のチームの勝ちを確信していた中で俺は策を打った。

 

策と言ってもかなり稚拙だ。そのバスケ部の奴に葉山にあたってもらう。取れはしないが、僅かでも体勢を崩させれば後はどうにでもなった。

 

ぼっち生活の中で鍛え抜かれし観察眼とただ一人の為だけに鍛えた肉体を持って、俺は正面から葉山隼人を打ち破ったかのように見せた。

 

あの時は少し痛快だった。今まで周囲から聞こえていた葉山コールが消え、誰もが硬直している中でゴールを決めたのは。

 

目立つのは嫌だったが、負けるのも癪だった。特に茜が見ている以上、敗北は許されなかった。

 

結果としては俺の作戦勝ち。

 

葉山のチームには幸い運動神経がいいだけでバスケ部員はいなかったので、葉山を完全に制した俺達の勝ちは必然だったといえる。まぁ、正面から打ち破ったわけじゃないんだがな。その後もバスケ部に誘われたりもしたが、断っておいた。

 

「そう。という事は去年の騒ぎも原因は貴方だったのね」

 

「そうといえばそうだな。大きくしたのは葉山だが」

 

せっかくキャプテンのバスケ部員に任せて退散しようとしたら、葉山がキラッキラッした笑顔を振りまきながら、「良い勝負だったね」とか言ってくるんだぞ?俺じゃなくて頑張ったキャプテンにしてあげてください。後、その台詞をいうのは俺達の方だから。俺の人生で二番目くらいに目立ちまくった日だった。

 

「そういうわけだから。八幡はとーっても頼り甲斐のある私の恋人なんだぁ〜。きっと雪乃ちゃんとも良いお友達になれると思うよ〜。ね?はちま〜ん♪」

 

「それはわからん」

 

そんな事は本人次第だ。

 

ただ、茜の言うとおり、俺も雪ノ下とはきっと友達になれそうな気がする。

 

俺が本物の関係を求め、茜と恋人になれたように。雪ノ下雪乃とはきっと友好関係を築く事が出来るような気がする。

 

それはおおよそ、周囲のような馴れ合い、協調し合う事で周囲どころか己すらも誤魔化し、隠し続けながら築いたものとは違う。

 

雪ノ下雪乃は嘘をつかない。歯に衣着せぬ物言いはすなわち言葉に裏がない。

 

「……来栖さん。貴方の提案を否定するようで悪いのだけれど、それは無理だわ」

 

と、俺が考えているうちに申し訳なさそうに雪ノ下は否定した。あれ?俺まだ何も言ってないよ?

 

「えぇ〜⁉︎なんで?雪乃ちゃんと八幡なら絶対に友達になれそうなのに」

 

「貴女が何時も洗脳するかのごとく、そこの男ーー比企谷くんについて言っているのは知っているわ。けれど、私は私の目で見たものを信じたいの。そういった点では私は彼の事をまだ何も知らないわ」

 

「じゃあ、これから八幡の事を知っていけば良いよね。友達として」

 

「茜さん?」

 

「大丈夫だよ、雪乃ちゃん。八幡は時々皮肉屋になったり、ニートみたいに働きたくないー!って言ったりするけどね。本当は誰よりも優しくて、皆の事を考えてくれる人なんだ。八幡が言動の割に身体を鍛えてるのも、昔色々あって、私に迷惑がかからないようにって意味があるんだ。私、まだ弱いから。八幡にまだまだ頼っちゃう部分もあるし。それでもなんとか頑張って生徒会副会長にもなったから、これからは私が八幡に頼られるようにするんだぁ〜。私はね、雪乃ちゃんの友達だけど、きっと雪乃ちゃんの抱えてる問題を解決してあげたりなんて出来ない。けどね、きっと八幡ならできると思う。だって、私の大好きな人なんだもん。私の心を救ってくれた人なら、他の人も救ってくれると思うんだ」

 

「…………不確定要素ばかりの上に主観的な事ばかりね。これが赤の他人なら、一蹴しているところだけれど………何故かしらね。来栖さん。貴女の言うことなら信用できる気がするわ」

 

そう言って雪ノ下は微笑んだ。その微笑みは茜と同様に美しい。

 

雪ノ下。お前の言ってる事はわかるよ。

 

茜の言っていることは不確定要素ばかりだ。主観的な事ばかりだ。

 

けれど、何故だか人を信頼させるだけの何かが存在する。

 

それが茜の人柄の良さから来るものなのか、それともそれを裏表抜きに本心を打ち解けているのが話している相手にも伝わっているのかはわからないが、なんとなく、雪ノ下雪乃という人間と友達になれて、俺みたいな人間の恋人になれる理由はそこにあるんだと思う。

 

さて、茜は言いたい事を言い切った。なら、後は俺が言うだけだろう。

 

あの時は間違えた。間違えた過程で、本物を手に入れた。

 

なら次は正しい方法でも本物を手に入れよう。今度は簡単だ。茜が作ってくれた道があるのだから。

 

「雪ノ下。俺と友達になってくれ」

 

そう言って俺は手を差し出す。

 

以前は折本からだった。不器用過ぎた俺には茜か或いは折本のような存在でなければ、友好関係を築く事など不可能だっただろう。

 

そして雪ノ下もまた優秀であるが、不器用な人間だ。

 

きっと何かを得る為には何かの理由を、意味を自然と求めてしまう。

 

そこに意味なんて必要ないのに。

 

それを見て、雪ノ下は一歩後ろへと下がった。

 

戸惑っているのか、それとも単に俺がこういうことをするのが気持ち悪いのかはわからないが、困惑しているのはわかる。願わくば前者であってほしいところだ。後者なら泣く。

 

「……貴方、本当に来栖さんの恋人なのね」

 

「はぁ?だからそう言ってるだろ」

 

「いえ、そういう意味ではないのよ。ただ……」

 

「?」

 

「似ていたのよ。いえ、そっくりと言ってもいいわ。何故かはわからないけれど、貴方と来栖さん」

 

似ている……か。

 

雪ノ下が何を見て、何を思って、何を感じてそう思ったのかはわからない。

 

だが、まあ。

 

「それは最高の褒め言葉だ。雪ノ下」

 

「安心なさい。今のは皮肉ではなく、素直に褒めたわ」

 

「似た者同士だって。やっぱり私と八幡は最高だね♪」

 

似た者同士っていうのは若干違う気もするが、最高というのには大いに同意する。

 

「比企谷くん。来栖さんに免じて、貴方のお願いは聞いてあげなくもないわ」

 

「……………それは承諾したととっていいのか?」

 

「そうとってもらって構わないわ」

 

面倒くせぇ…………普通に答えを返せばいいだけだといのに。

 

「あはは、素直じゃないなぁ、雪乃ちゃん」

 

「な、なんのことかしら?」

 

「そういう所も八幡に似てるね」

 

「貴女程ではないけれどね。それとそれは褒めているととっても良いのかしら?」

 

「私が八幡を貶すことなんてないよ?八幡は何時だって素敵な人だから」

 

「そう。それならいいわ」

 

「ところで雪乃ちゃん」

 

「何かしら?」

 

「八幡の事、罵倒したよね?その辺り、私からちょっとお話があるんだぁ〜」

 

ぽんと手を叩いて、まるで名案が思い浮かんだようにそう話す茜。

 

おかしい………笑顔のはずなのに………笑顔のはずなのに茜からの威圧感が半端ねえ……

 

「き、聞いていたのかしら?」

 

「ううん。雪乃ちゃんならなんとなく言いそうだなぁって思っただけ。やっぱりそうなんだね。ダメだよ、雪乃ちゃん。八幡は優しいから怒らないけど、その分傷つくんだから」

 

「それも含めて先程謝罪したわ……」

 

「うん。だからその事は私から何も言わない。私から言うのは八幡の良いところだけ。さ、雪乃ちゃん。行こっ」

 

「行くって何処に……」

 

「教室に。八幡はちょっと待っててね。一時間で終わるからっ♪」

 

ガシッと茜は雪ノ下の肩を掴んで、そのままズルズルと引きずっていった。

 

茜……あいつもしかして俺の悪口言ったやつ全員に同じ事してるんじゃないだろうか。知らんうちに茜が教祖の宗教団体が出来そうなんだが………え?俺崇め奉られちゃうの?やだ、怖い。

 

俺は連れて行かれた雪ノ下の冥福(死んではいない)を祈りつつ、ポツンと残された教室で一人本を読むことにした。

 

 

 

 




やっぱり口論合戦にはならず、こういう感じの納め方にしました。一度はそれっぽいのを書いては見たものの、書いてるとあまり気持ち良くないというか……とにかく、二人がいい争うのを期待していた方はすみません。

そして作者は見たことがないのですが、八幡とゆきのんが普通に友達に。ちょっと無理矢理だった気もしますが、茜がいる御蔭ですね。

そして書いてて思ったのは「あれ?これガハマさん必要なのか?」と思ってしまった俺ガイル。茜がガハマさん食べてしまわないように頑張ります。

それではまた次回。

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