人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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まさかの日刊ランキング二位で見た瞬間に目を疑いました。皆さん、今作品を読んで下さってありがとうございます!

今回で中学は最後。微妙に締まりのない区切り方になりますが、技量不足ですみません。




何処か二人の進路選択は微妙にズレている

「進路?」

 

「そうそう。比企谷は何処行くの?」

 

何時もよりも早く終わったホームルームの時間に突然折本が聞いてきた。こいつホントに何時も急だよな。何の脈絡もなく、話を振ってくる。下手に沈黙がない分、気まずくはないが。

 

「私は海浜に行こうと思ってるんだよねー。家近いし、結構友達とかも来るから」

 

海浜総合高校か………

 

確かにこの中学に通う人間が行くには距離も近く、また学校のレベルも中堅くらいの位置にある。より正確に言うのなら中の上辺りだ。

 

折本の成績がどの辺かは知らんが、家から近く、学校レベルも低くない。選ぶのにこれといってマイナス面はないだろう。

 

「比企谷は海浜来んのー?」

 

再度投げかけられた疑問ではあるが、何処となく折本のそれは俺が海浜高校に行かないという事を知っているような口ぶりだ。

 

以前から思ってはいたが、折本はサバサバとしていて、適当そうな一面もある……というか、実際適当なところがあるのだが、それに反して意外にも観察眼はある。それはイコール人を見る目があるというわけではないのだが、数少ない経験からも相手がどういう考えの元に動いているか、そこにどういった感情が関わっているかという事を読み取ることに長けている。それは折本が人との距離を詰めたがり、またその行為を得意とする彼女だからこその長所と言えるだろう。良い言い方をすれば察しがいいが、悪い言い方をすると隙に漬け込むのが上手いという事だ。

 

「俺は海浜には行かん。地元の奴らが多い所に行ったら、この空気を持ち越すだけだ。自分から台風の目に飛び込む趣味はねえ」

 

「だよね。ウケる」

 

「いや、ウケねえから」

 

いくら自分の身を守る為に鍛え始めたとはいえ、慢心は身を滅ぼす。何より俺は目立ちたくない。クラスメイトの中でひっそりと息を潜めて、静かな学園生活を送る事こそが俺のモットーだ。

 

「まぁ、比企谷はそういうと思ってた。進んで目立ちたがるタイプじゃないしねー」

 

「そういうのはリア充共にやらせとけばいい。俺みたいな日陰に生きるぼっちは静かに暮らすので十分だ」

 

「まだ言ってる。もう日陰に生きるぼっちじゃなくてリア充の癖に」

 

何言ってんの?と吐き捨てるように折本はいう。

 

何を言うか。俺は今もなおぼっちとしての心意気を捨て去った事など一度もない。あれから得た教訓は数え切れないほどにあり、そして活かされている。あの経験譚無しに今の俺を語るなど愚の骨頂だ。

 

人間が失敗を糧に成長する生き物なのだとすれば、失敗続きの人生を歩み続けてきた俺は誰よりも人類の先駆者と言える。失敗が事態を好転させた事はあれ、成功した事は片手で数える程しかない。ネトゲのレアアイテムドロップ率に匹敵する成功率の低さである。

 

「私も良い感じの彼氏欲しいなー」

 

良い感じの彼氏ってなんだ。『都合の』って前につくのではなかろうか。折本に限ってはそういうことはなさそうだが…………つか、こいつって結構モテてなかったか?

 

「彼氏の一人や二人ぐらい作れるだろ。お前人気あるし」

 

茜程じゃないけどな。

 

あいつは異常だ。自分の彼女ながら性別が違うというのにモテ具合に嫉妬するレベル。まぁ、冗談だけどな。

 

「そりゃ、比企谷みたいな元ぼっちに告られるくらいだし、それなりに人気はあるんだろうね。けど、付き合いたいとか思ったのいないし。かなり後になってからだけど、比企谷くらいかな」

 

「そいつは光栄だな」

 

折本の言葉にふと以前までの自分を思い出してみる。

 

今思えば確かに他者から見た俺は相当つまらない男だっただろう。

 

話せば声は裏返ったり噛んだりどもったりするし、休み時間はひたすら読書。学校が終れば帰宅し、アニメを見たり勉強したりで特に誰かと遊ぶこともしない。

 

過去の経験から人と必要以上に接触する事に心の何処かで恐れ、警戒心を抱いていた俺は興味を持たれないように注目を浴びないようにしてきた。

 

ならば、俺はいつも一人でいるつまらない奴というレッテルを貼られてもなんら文句は言えず、折本曰く『超つまんない奴』というのも間違いではないだろう。そう見られるようにしてきたのは他でもない俺自身なんだから。

 

「それで結局比企谷はどの高校行くの?」

 

「総武高校に行く」

 

「総武高校?あそこって確か結構偏差値高いし、そこそこ遠くない?」

 

「チャリ通だからそんなに遠くない。それに彼処なら地元の人間も殆どいないだろうしな」

 

これは折本の手によってあの噂が広がる前から決めていた事だ。

 

そこに行くまでそれなりの黒歴史を広げてしまっていた俺が、一度人間関係をリセットし、新たに始める為には俺がぼっちであることを知っている人間のほぼいない少し離れた場所にある学校を選択するほかない。

 

偏差値は高いが、生憎俺はぼっち。

 

勉強をする時間など腐る程あり、毎回五位以内には入るが「この比企谷って誰?」と言われていた。最近では疑問の声が上がる事は少なくなったが変わりに殺気が飛んでくるようになった目覚ましい変化だ。お蔭で壁に張り出された校内順位を確認するたびに周囲を全力で警戒せにゃならん羽目になった。どんな戦場だよここは。

 

「何の話してるの?」

 

その時、先生に呼び出されていた茜が起用室へも帰ってきた。

 

「どの高校に行くかって話ー」

 

「そうなんだ。かおりちゃんは確か海浜だったよね?」

 

「そうそう。家近いし、今のままなら余裕だしねー」

 

「八幡はどの高校?」

 

「俺は総武に行く」

 

俺がそう言うと茜は目を瞬かせた後、ぱあっと笑顔を咲かせた。

 

「ホントに⁉︎嘘じゃないよね⁉︎」

 

「嘘じゃねえ。結構前から決めてた事だ」

 

俺がそう言うと茜は相当嬉しいのか、例のごとくその場で跳ねる。俺が茜の破壊兵器に釘付けになっていると折本もまた隣で「うわっ。凄い揺れてる」とかなりマジトーンで言っていた。やっぱデカイよな。あれ。

 

「その様子じゃお前も……」

 

「うんっ。私も総武に行くつもりだったんだぁ〜。特に決めてなかったから、取り敢えず挑戦しようかと思って」

 

唐突だが茜はこう見えても非常に頭が良い。

 

以前も言ったように彼女は容姿もよければ頭も良いし、運動も人並み以上には出来る。

 

天は二物を与えずと言うが二物どころの騒ぎじゃなかった。俺の彼女は何処までも完璧超人だった。茜の手によって世間に蔓延る「胸が大きい奴はアホの子説」は俺の中では幻となった。どうやらアホの子の比率が高いだけで例外もいるらしい。まぁ、茜以外の大きい奴の成績は知らんが。

 

「でも、茜の成績なら国際教養科だろ?俺は普通科だから学科が違うぞ?」

 

もし挑戦するのなら普通科ではなく、国際教養科も十分射程圏内に入っているはずだ。あそこは普通科よりも偏差値が二、三高いが、茜であれば十分どころか余裕だと思う。

 

「そうなんだけどね。正直言えば、それは前までの話で今は八幡と一緒に行けるのならどの高校でも良いんだ」

 

「何処でも良いはマズくないか?俺がもし成績悪かったらその時は「一緒に勉強する」愚問だったか……」

 

意外にも茜は妥協案というものを出さない。妥協するくらいなら始めから求めないみたいな思考らしく、努力して可能なものは絶対に可能にするのだ。それが茜が大体の事をこなせる要因となっていたりもする。

 

頭が悪くなくてよかった。適当な底辺校に行こうかなどと考えていた暁には脳みそがパンクするだけ詰め込み作業が開始されるところだった。ぼっち万歳!ジークぼっち!

 

「本当なら八幡を国際教養科に誘いたいんだけど………」

 

「あそこは確か九割が女子だったな。悪いがパスだ」

 

他校の女子がどういうノリかは知らんが、もしここの中学のようなノリなら一日中弄られ倒される可能性がある。俺の昔を知らないだけになおさらな。肩身が狭いなんてもんじゃない。

 

「だよね。八幡ならそう言うと思った。だから、私が普通科の方に行くね」

 

あっけらかんと茜は当然と言わんばかりにそう言った。ちょちょちょっと待ってお姉さん!

 

「茜が?何で」

 

「何で……って、八幡と同じところに行きたいからに決まってるでしょ」

 

それはなんとなくわかる。茜ならそう言うとは思った。だが、何も普通科と国際教養科は場所が別なわけじゃない。確かにクラスや教室は別だし多少離れているがそれだけだ。学校は同じなので何時でも会えるし、行き帰りも同じだ。離れ離れになるわけではない。

 

「同じ学校だろ」

 

「同じ学校でも八幡と別のクラスなんてやだもん。私は八幡と同じクラスで八幡と同じ授業を受けたいのっ」

 

茜はこれだけは譲れないとばかりに強めの口調(それでも可愛らしい)で言う。

 

こう言われるというのは非常に彼氏冥利に尽きるというところだろう。それ程までに俺は来栖茜から信頼し、愛されているということになるのだから。

 

けど、流石に高校入学は将来が関わってくる。

 

嬉しいには嬉しいがやれる事はやっておいて欲しいというのが俺の信条。

 

「あのなーー」

 

「ーー別にクラスくらいなら離れてても良いんじゃない?」

 

俺の言葉に被せるように折本が茜にそう問いかけた。かおりちゃん?俺のターンですよ?

 

「かおりちゃん⁉︎」

 

「考えてもみなよ、茜ちゃん。恋人同士っていうのは付かず離れずが確かに理想的。でも、ある一定の距離を保ってたほうが有り難みがより一層わかるって友達が言ってたよ。それに比企谷に限って、目移りはしても心移りまではしないでしょ」

 

め、目移りなんかしとらんわっ!

 

あ、あれは不可抗力なんだ。俺の意思に反して目だけがそっちに行く的な。きっとそういう特殊能力か何かのせいに違いない。

 

「大丈夫。私の魅力で八幡のハートはキャッチするからっ!その心配はしてないの」

 

ハートキャッチ?それなんてプリキュア?

 

努力・友情・勝利。某少年雑誌の作品の三大要素だ。

 

これらの三大要素は漫画にしか当てはまらないし、はっきり言って最近のものはその三大要素を無視っていきなり覚醒なんてザラ。その点プリキュアは努力はともかく後はちゃんとやってる。おジャ魔女に続いて何故女の子向け朝アニメはこうも名作が多いのか。

 

「私はただ八幡と一緒の時間を過ごしたいだけ。私は学園生活の思い出の中に八幡がいてくれればそれだけでいい。私がいて、その隣に八幡がいる。私はそれだけで幸せだよ。私にとっての居場所は八幡がいるところだから」

 

照れ臭そうにそういう彼女はやはり眩しい。

 

俺と違って、こうもストレートに想いを伝えてくる。

 

不器用な俺には到底出来ない事だ。勘違いや勢いに任せなければ碌に伝える事すら出来ない。

 

「……俺も茜と同じだ」

 

好きな人間と一緒にいたいと願うのは誰しも同じだ。人を好きになるということは、愛するということはつまりそういう事なのだ。付かず離れずの関係も良いと思っている。

 

だが、それでは一つだけ俺の目的を果たす上で障害になってしまう。

 

「けど、やっぱそれじゃダメだ。ずっと傍にいるんじゃ、俺や茜は現状のまま、何も変われない」

 

「八幡?」

 

茜のお蔭で俺は変われた。根っこの部分はそうそう変わるものではないし、何よりそれは俺自身が培ってきたものだ。これからの人生でそれが完全に変化する事はまずあり得ないだろう。

 

だが、それより上はいくらでも変われる。

 

茜の存在が俺を変えてくれたように。

 

あの傷が深かったとはいえ、まだ日が浅い事も要因していたから、俺はその変化を受け入れることができた。

 

もし、出会いが高校なのだとしたら。俺はその変化を受け入れることが出来なかったか、或いはその裏に潜むものを勝手に探っていたのかもしれない。あるはずのないものを。

 

今のままで十分に心地良い。

 

これ以上を望むのは酷というものだ。今までの経験から今ほどの絶頂期は存在しないだろう。

 

だからこそだ。

 

俺はこれを護るために強くならなくてはならない。

 

彼女を二度と悲しませてはならないのだ。その為には全てに対抗できるように何もかもを身につけるしかない。だが、その時彼女が俺の隣にいてはダメだ。

 

もし、茜が十分だと言ってしまえば、俺がどう思っていてもそれで満足してしまう。生まれて初めて得た限りのない向上心を失うことになるだろう。

 

俺が強くなる上で茜は必要不可欠な存在で、けれど俺の隣にいてはいけない存在だ。

 

茜は俺の成長のキッカケにもストッパーにもなりうる。

 

だから、俺は彼女と一時的に離れる時間を作った方が良いのだ。

 

そしてそれは俺だけじゃない。彼女も同じだ。

 

俺達はお互いに依存してしまっているような節がある。

 

互いの弱さを補う為に助け合っていく事は大切だ。

 

けれど、依存してしまっては意味がない。それでは今を維持するだけで強大な問題に立ち向かうことなど出来ないだろう。

 

「強くならないと。どんな困難にも立ち向かえるように。俺も茜も。その為にはお互いに空白の時間が必要だ。一人で生きる強さも必要だしな」

 

「とか言ってるけど。単にあれでしょ?努力してるところを見られるのは恥ずかしいから、カッコ良くなったとこだけ見て欲しいっていうやつでしょ?」

 

「ばっか。そうじゃねえ。人間は一人じゃ生きていけない生物だからな。だから一人で生きる強さを身につけないと……」

 

「あー、はいはい。話が長くなりそうだから要約すると比企谷は茜ちゃんにも『ぼっち精神』を身につけろって言いたいらしいよ」

 

ちげぇよ!何をどういう解釈したらそうなんだよ!いや、歪んだ捉え方をしたらそうなるけども!かおりちゃん、貴方何時から俺の固有スキル『捻くれた思考(小町命名)』を身に付けたの⁉︎

 

「ぼっちかぁ………流石にぼっちになるのは無理かなぁ」

 

いや、君も何真剣に悩んでるの?其処は悩むところじゃないでしょ?突っ込むところでしょ?

 

「でも、八幡の言いたいことも分かったよ。あの時みたいにならないようにお互いに強くなろうねって事でしょ?」

 

どうやら茜には伝わっていたらしい。素晴らしい理解能力だ。今の俺の遠回しな物言いとそれを混乱させる折本の顔面デッドボール解釈からよく伝わったものだ。

 

「うん。いいよ」

 

さっきとは打って変わって茜は肯定した。

 

「八幡も私が一緒に居られるように考えてくれた事だもんね。高校でずっと一緒にいられないのは少し残念だけど、その分お昼休みとか放課後とかに一緒に居られるからそれで我慢してあげる。もしそれもダメなんて言ったら、私泣いちゃうから」

 

「茜ちゃんを泣かせた暁には比企谷は五体満足じゃ済まない事になるだろーね。ウケる」

 

「いや、ウケねえから。その状況洒落になってねえから」

 

多分肉体的にも精神的にも瀕死にさせられているに違いない。ポケモンセンターで回復させてもらわないと。え?俺ポケモンなの?

 

「まぁ、其処まで接触制限はしねえよ」

 

流石に俺もそういうのは不安になるからな。色んな意味で。

 

「じゃあ約束ね、八幡。登下校とお昼休み。一緒にいてくれなきゃ小町さんに泣きつくから」

 

おおうっ。この子ジョーカー切ってきたよ。小町にまで嫌われたら俺世界呪うかもしれない。

 

とはいえ、小町に泣きつこうが泣きつきまいが、俺は約束を違えるつもりなんて毛ほども無い。

 

彼女との信頼をそうやすやすと裏切るつもりなど毛頭ない。間違えたり、勘違いしてしまったり……後、巫山戯てない限り、何があっても彼女との約束だけは守る。

 

「安心しろ。小町に誓って、約束は絶対守る」

 

「其処は私に誓って欲しかったなぁ」

 

真剣な表情でそう言う俺と苦笑すると茜はどちらからともなく手を出して指切りをした。

 

何とも言えない。実に俺達らしい誓い方だった。




感想欄で茜の事について具体的なプロフィールをと言われましたので現時点で決まっている設定を。

名前:来栖 茜

身長:150cm

体重:秘密

スリーサイズ:83/58/76

好きなもの:アニメ鑑賞、ゲーム、読書、八幡とする事なんでも

嫌いなもの:緊急特番、オタク文化を全否定する人、八幡を馬鹿にする人

首元まで伸ばした茶髪と歳の割に育った胸が特徴的な今作のヒロインであり、比企谷八幡の恋人。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群で料理も出来る無敵要塞な女子。幼少の頃に父親に見せられたアニメがオタクになったキッカケ。なんでも出来て可愛いオタクの女の子というまるで二次元から出てきたような凄い子。基本的に人は嫌いではないものの、あまりいきすぎた相手には苦手から嫌いへの意識変化がある。八幡を好きになるまで誰かを好きになったことがないため、八幡への愛情は非常に深く、八幡になら何をされてもいいとすら思っている。運動は大体できるものの、水泳は苦手。理由は抵抗が大きいから(何処のとは言わない)。現在の悩みは成長している胸が原因の肩凝りと周囲の男子からの視線。なお、八幡は例外。

こんな感じですね。

また思いついたら付け足します。

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