人間不信な俺と隠れオタクな彼女の青春ラブコメ   作:幼馴染み最強伝説

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またやっちまった………

思いつきで書いてしまう悪い癖発動!本当何やってんだ、俺。

しみじみとこういうところが自分は長期連載に向いてないんじゃないかと思ってしまう要因です。

しかも大学の講義中に投稿とか本当何考えてんだろ………

まぁ、それはともかく、何番煎じかわからない八幡とオリヒロの話です。

時期は折本に振られた直後くらいから。

どれくらい続くかは作者次第ですね。それではどうぞ。


得てして比企谷八幡は人間不信になる。

人生で誰かを好きになることは人にもよるが、それが多かれ少なかれ、本気で好きになるのは数える程だろう。

 

可愛いから好きだとか、優しいから好きだとか、スタイルが良いから……はなんか違う気がするが、それでもその子を好きになっていること自体に変わりはない。

 

俺にも好きな子がいた。

 

何時も教室で誰とも話さず、誰ともかかわらない俺と話してくれる女子。

 

今思えば、それは彼女にとっては当たり前の事をしていただけなのかもしれない。

 

元々彼女はそういう人間だったのかもしれない。

 

兎にも角にも、俺はその女子に本気で惚れていた。

 

見た目は可愛かった。性格も誰にも分け隔てなく接し、俺と会話をしても何一つ嫌な顔をしない彼女は俺の学生生活に舞い降りた天使のようにも見えた。

 

けれど、それは幻覚だった。

 

ただ、単に俺がそう思っていただけだった。

 

勝手に自分の理想を押し付けて、彼女の本質も見抜けずに。

 

早い話が彼女ーー折本かおりに俺ーー比企谷八幡はあっさりとバッサリと振られた。

 

それもそうだろう。

 

ただでさえ、何の接点のない人間だった俺だ。

 

人と関わり合いを持てず、黒歴史をただただ量産し続けてきた俺に始めからチャンスなんてものはなく、ただ俺が叶わぬ恋に淡い幻想を抱いていただけで、彼女にとっては迷惑以外の何者でもなかっただろう。

 

振られたこと自体には何も思わなかった……といえば嘘にはなるが、それについては長年続けてきた自問自答によって答えを得た。それはもう幾千幾万と続けられてきたものだ。出ない答えなんてなかなかない。それが満足出来るかどうかはともかく、涙が零れないように上を向いて歩こう的な感じで帰っている時に答えは得た。それはもう某弓兵の如く、納得した。

 

そこまでは良かった。

 

人生で好きになって、振られる。なんて事はよくあることだ。

 

ない事に越したことはないが、それこそ超美人でも振られることはある。告白して百パーセント振られない保証なんてどこにも無い。

 

見た目や性格が良ければ確率は低くともゼロになることはない。それぐらいに人の心は複雑怪奇であり、恋愛もまた同様になのだ。

 

そしてまだまだ続く人生の中、俺はそれを数回経験している。

 

告白したのは今回が初めてだった。遠回しに告白したり、好きな相手を聞いたりした時もあったが、あの時はキモがられて終わりだった。

 

今回も正直言って怖かった。

 

またマトモに取り合って貰えず、キモがられるだけなんじゃないかと。酷く嫌そうな顔で接されるのではないかと。

 

『ごめん……友達じゃ、ダメ……かな?』

 

この言葉を聞いた時、俺は二重に衝撃を受けた。

 

振られた事もショックだった。

 

だが、マトモに取り合ってくれて、正面から堂々と振ってくれた。

 

キモいだなんて理由では終わらせられなかった。それが俺にとってはとても嬉しい事だった。

 

だが、終わっていなかった。否、終わらせてはくれなかった。

 

振られたというのに何処か充足感に満たされながら家に帰り、翌日、学校に登校した時だ。

 

周囲の反応がおかしい。

 

ぼっち生活で培われた人間観察に長けた俺にはそれが一発でわかった。それどころか、誰もが分かるほど教室の空気がおかしかった。

 

席について、いつもの如く机に突っ伏して寝たフリをして、周囲にいる耳を傾けたときに聞こえてきたのは衝撃的な言葉だった。

 

『ホント、かおり可哀想だよね〜、あんなのに告られるなんて』

 

『そうそう。あんたじゃつり合わないって、身の程を弁えろみたいなwww』

 

『それそれ!かおりが優しいのはお前だけじゃないっての』

 

頭を固い何かで思いっきり殴られたような衝撃を受けるとはまさにこの事だった。

 

何故知ってる?

 

答えはすぐに出た。

 

広めたのだ。折本かおりが。

 

昨日の時点で、或いは今朝登校してきた時点で見知った顔の人間に愚痴を吐露するかのように昨日の出来事を暴露したのだ。

 

彼女も、折本かおりも結局は上辺だけが良いだけの女子でしか無かった。

 

そしてその上辺だけしか知らない彼女のことを知った気になった俺も何も見えていなかった。

 

元々彼女はそういう人間だったのだ。

 

人を初めて本気で好きになった。

 

けれど、それは上辺だけのもので、何一つ本質を見抜けちゃいなかった。

 

ただの押し付け。ただの妄想。

 

俺が告白場所に現れた時点で彼女の脳内ではさぞ楽しい会議が繰り広げられていたに違いない。どうやって笑い話にしようかくらいの感覚しかなかったのだ。

 

俺は黒歴史という罠の中にあった格好の餌に飛び込んだ愚かな存在でしかなかった。と其処で漸く気がつくことが出来た。

 

結局は何も違わなかった。折本かおりも何ら特別な人間ではなく、皆と同じ存在であるという事を。

 

その日から俺は他人を信じる事が出来なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

 

逃げるように学校から飛び出した俺は家に帰ってすぐに自室に引きこもり……ラノベの最新刊の発売日が今日である事を思い出した。

 

はっきり言って外には出たくなかった。

 

ずっとこうして籠っていたかったが、やはり傷心した心に癒しは必要で、一時間程試行錯誤を繰り返した結果、電車を乗り継いで二つ隣の町の書店まで買いに行くことにした。

 

本当なら全て近場にある場所で済ませるのが信条なのだが、今日日ばかりはそう行くわけにもいかない。

 

わざわざ近場で済ませようとして、関係の無いところでも笑い者にされたいと思うほど、俺はMじゃない。

 

「……つーか、よく考えたらここだからって遭わない保証はどこにも無いんだな」

 

ふと思い至り、一人そうごちる。

 

ここは乗り継いで二つ隣の町ではあるものの、遠過ぎるわけじゃない。

 

もし他の奴が他の用事でここに来ていたとしたら、普通に鉢合わせる事もあるだろう。

 

本当に会いたくないならさらに六つくらい隣まで行った方が良かったかもしれない。それじゃ他県じゃねーか。

 

兎に角、誰にも……少なくともうちの中学の生徒には会いませんように。

 

そう祈りつつ、俺は目的のブツーーもといラノベの最新刊のあるところまで行く。

 

それは結構人気作であるためか、発売日が今日にもかかわらず、もう残り一冊しかなかった。おいおい、暇人ばっかかよ。大丈夫かよ、日本社会。ちゃんと回ってるのか。

 

などと少し社会全体の心配をしつつ、目当ての本に手をかけた時だった。

 

「「あ」」

 

俺の手の上に柔らかい感触が触れ、漏れ出た声が偶然重なった。

 

手を重ね合わせたまま、俺とその声の主は互いの顔を見合わせる。

 

声の主は上下に黒いジャージを着て、黒いニット帽を被り、眼鏡をかけたもう見るからに怪しさ全開の、もしかして万引きでもしに来たんじゃないかというくらい怪しさ全開(素顔はほぼ晒してるからバレバレ)なそいつは俺の顔を見ると目を瞬かせた。

 

「ひ……」

 

小さく呟かれた声を聞いて、またかとそう思った。

 

俺は自分で言うのもなんだが、目が腐っているらしい。

 

それはいつもの事らしく、目を合わせると大体の女子は悲鳴をあげ、男子ですら嫌悪感のある表情をする始末。

 

そして悲鳴をあげたこいつも女子だろう。

 

男子特有のごつごつとした手の感触ではなく、柔らかい感触。

 

眼鏡越しに見える少し垂れた目に首筋まで切り揃えられた茶色い髪。

 

見た目は少し幼さを感じる。

 

何よりジャージ越しにでもわかる女性特有の膨らみが見てとれる。

 

だからこいつも女子だろう。

 

次に来るであろう悲鳴、或いは罵倒の声から逃げる為にその場から立ち去ろうとした時、先に女子の方が口を開いた。

 

「ひ、比企谷くん……だよね?」

 

「は?」

 

出てきたのは悲鳴でも罵倒でもなく、俺の名前を確認するための声だった。

 

何故俺が疑問の声をあげたのか。

 

それは俺の名前を知っている……というか俺の存在を認識している奴なんて数える程しかいなく、何なら片手の指で十分なんじゃないかと思える程だ。実際、噂になっていた時もバレないようにするため、というよりも名前がわからないから「あいつ」と呼ばれてたしな。

 

まぁ、今日で数人には覚えられたかもな。全然嬉しくないけど。

 

「違った……かな?」

 

「い、いや、違わねーけど」

 

俺が肯定すると女子はほっと胸を撫で下ろしたように溜息を吐いた。

 

「良かった〜。知らない人ならどうしようかと思った」

 

俺としては寧ろ知らない人の方が良かった。

 

俺を知ってるということは必然的に俺の噂を知っている人間だということだ。

 

わざわざ二つ隣の町まで遠出してまで何故に馬鹿にされなければいけないのか。運が悪いってレベルじゃねぇ。もう神様に見放されてるレベル。

 

つか、誰この子。名前知らないんだけど。

 

顔や名前どころか存在認識があやふやな俺も問題だが、同じ学校の人間……多分同じクラスであろう人物の名前を知らないとか俺自身も相当問題だった。

 

「え、えーと、比企谷くん?」

 

「……な、なんだ?」

 

「もしかしなくても……この本…買うの?」

 

その女子が指差したのは俺が手に取っているラノベの最新刊。

 

取り敢えずその通りなので頷くと女子は残念そうに肩を落とした。

 

「やっぱり……」

 

「……お前も買う気だったのか?」

 

「……うん」

 

ズーンという擬音が似合うくらいに周囲の空気も巻き込みながら落ち込む女子はどうやら俺と同じラノベを買うことが目的だったらしい。

 

「くぅ……あの書店にさえ寄ってなかったら……」

 

「……なぁ」

 

「ほぇ?」

 

「この本……いるか?」

 

俺は手に取っていたそのラノベを差し出した。

 

いるか?なんて言ったが、別にあれは俺のものではない。まだ金払ってないし。

 

女子は何度か目を瞬かせた後、キラッキラとした目でずずいっと迫ってきた。近い近い。

 

「いいの⁉︎」

 

「……いいよ。まだ買ってねえし」

 

「やたっ!」

 

ぴょんぴょんとその場で跳ねる女子。跳ぶな跳ぶな、揺れてるぞ。いや、寧ろご褒美だけども。

 

「ありがとね、比企谷くん!このお礼は必ずするからぁ〜!」

 

そう言って女子はパタパタとレジへ向けて走り去った。

 

良い子の皆、書店では静かにして。走っちゃいけません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

結局、あの後駆け回っては見たものの、俺の目当てのラノベは存在しなかった。や、人気過ぎるだろ。そこまでかよ。

 

ラノベは読めないわ、今日もまた嘲笑に晒されなけりゃならないわ、本当に良いことがない。

 

おまけに小町は今日小学校で何かあるらしく、俺より早くに家を出たから朝御飯がない。踏んだり蹴ったりとはまさにこの事だ。

 

仮病で休むのもいいが、それだと俺のぼっち生活で守り通してきた皆勤が失われてしまうので、嫌々ながら学生服の袖に手を通し、家の戸締りを確認してから、ダラダラと自転車を漕いで学校へと向かう。

 

中学が近づくにつれ、生徒達がちらほらと見え始め、それと共にさらにその中からクスクスと笑い声も聞こえる。

 

人の噂も七十五日というが、これは卒業しても永遠に伝説として語り継がれそうだ。

 

俺の平穏なぼっちライフは何処へ行ってしまったのか。

 

自問自答を繰り返しつつ、自転車を止め、自分の教室へと向かう。

 

すれ違う生徒達からも嘲笑の声が聞こえるということは既に俺の噂は伝染的に知れ渡っているという事だろう。

 

これが俺のような奴ではなく、折本のような周囲と分け隔てなく接することの出来る人間が振られていたのだとしたら、きっと慰められながら、振られた相手の悪口やらに花を咲かせているに違いない。何で振った方が常に悪者扱いを受けるのか。理由は簡単。その方が丸く収まるからだ。

 

教室の扉を開けると全員の視線がこちらに向き、会話が止まる。

 

そしてその後、何事もなかったかのように……いや、明らかに俺の方を見ながら話した後、大声で笑っていた。

 

薔薇色だった俺のぼっち生活はこれから灰色の黒歴史生活へと変貌するだろう。

 

誰にも介されず、誰とも介さない俺の学生生活は他でもない俺自身の手で打ち砕かれた。

 

簡単に人を信じるから。その優しさが上辺だけのものだと知らなかったから、こうして泣きを見る羽目になった。

 

多分、これから折本かおりに抱いた恋心のように誰かを好きになることはないかもしれない。

 

将来専業主夫志望ではあるものの、俺は多分、心の底から人間を信頼する事が出来ないのだから。

 

そうして意識を深く沈めようとした時、トントンと肩を叩かれた。

 

無視だ無視。

 

絶対に罰ゲームか何かに違いない。俺に自分から話しかけるような輩は存在しない。

 

「あだっ⁉︎」

 

そう思って狸寝入りを決め込んでいると、首筋に何か衝撃が走り、反射的に顔を上げてしまった。

 

「狸寝入りしないでよ。比企谷くんも目立ちたくないだろうと思って、肩を叩いてあげたのに」

 

手を手刀のような構えのまま、もう片方の手を腰に当てて茶髪の女子(・・・・・)は頬を膨らませていた。

 

「……誰?」

 

思わず名前を聞いてしまった。

 

「え?あ、えーと、それどういう意味?」

 

「……誰だっけ?」

 

「……それ本気で言ってる?泣くよ、私」

 

や、本当に誰ですか、貴女。というか、本当に泣きそうな顔しないでください。そんな事されたら八幡も泣いちゃうよ?

 

「はぁ……まあいいや。昨日も何か反応おかしいなぁって思ってたから。改めて自己紹介するね」

 

「お、おう……」

 

「私の名前は来栖 茜(くるす あかね)。比企谷くんの隣の席だから、ちゃんと覚えておくように」

 

何が偉いのか、えっへんと女子ーー来栖茜はその豊満な胸を張る。ていうか、隣の席なのな。ごめんね、知らなくて。

 

この出会いが今後の俺の人生を大きく左右する事になるとは知る由もなかった。

 

 


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