魔弾の王と戦姫 ~凍漣の雪姫と死神~ 作:ジェイ・デスサイズ
それではごゆっくり~
ハーネスへ戻り数日後、今度はミラがやってきた。
「どうしたミラ。また王都か?」
「違うわ。アルサスへ向かうわ」
「アルサス?…ヴォルン伯爵か?」
「ご名答。流石ジェイ、分かってるじゃない」
「だが、行く理由が「(コンコンコン)」ん、どうぞ」
ミラと話していると1人の女性が入ってきた。まず目に入るのは夜のように漆黒な黒髪。その黒髪は後ろで1つに纏めている、いわゆるポニーテールというやつだ。そして紅蓮のような赤い眼。服は赤と黒の2色。
「プロミネンス=クロフォード。ただいま戻り…まし…た?」
「あら、プローネじゃない。久し振りね」
ミラがそう言うと、プローネは一瞬顔を輝かせ、すぐキリッとした。
「(パァ)ミラ姉さ―(コホン)リュドミラ様、お久し振りでございます」
やれやれ、ここには俺達しかいないんだからそんな硬くならなくていいのに。まぁプローネの性格を考えるとしかたないが。
「プローネ、ここには俺達しかいないからいつも通りにしていいぞ」
俺はプローネに言う。そう、この娘は俺の妹だ。
「そう、ですか…。
ミラ姉様!」
俺が許可を出した途端、素の自分を出しミラに抱き着く。
「久し振り、ミラ姉様!」
「フフ、久し振りねプローネ。元気にしてた?」
「あぁ!」
プローネは元気に答える。全く、微笑ましい光景だな。この2人はこの頃仕事のせいで全然会えていなかったのだ。
「そうだわ、プローネ。帰って来てそうそう悪いのだけど、これから時間ある?」
「え?あぁ、このあとは特に何もないはず…。兄様、何かあったか?」
「安心しろ、何もない」
俺は果物水を飲み、答える。
「何処かへ行くのか?」
「ちょっとアルサスへね」
「アルサスは確かブリューヌの領土だぞ?何しに行くんだ?」
「直接会って話したい人がいるのよ。ジェイ、準備が出来次第出るわよ」
そう言ってプローネの頭を撫で、部屋を出た。
「兄様、ミラ姉様はアルサスの誰に会いに行くんだ?」
「領主だ、アルサスの領主。王都に行った時に色々あってな」
「そうか、分かった。では、私も出る準備をしてくる」
そう言い、プローネも部屋を出た。
「さて、俺も準備をするか」
ハーネスを出てしばらく経ち、ミラがふいに思い出した事を言った。
「ジェイ、悪いけど寄り道してもいいかしら?」
「寄り道?ここら辺に何かあったか」
「キキーモラの館よ」
「キキーモラの館?」
プローネは分からなく首を傾げる。その疑問にミラが答える。
「エレオノーラの別荘(ダーチャ)の1つよ。確かこの辺にあるのよ」
「ま、俺は良いぞ。プローネは?」
「私も構わないぞ」
「ありがとう、ジェイ。プローネ」
それから少しして、エレオノーラの別荘の1つのキキーモラの館に着いた。2階建てで、壁は漆喰の上から黒く染めている。屋根は赤。赤に黒か…
「何かプローネカラーだな」
俺は小さく笑った。それを聞き逃さなかったプローネも反論する。
「私は『赤』だ、兄様。黒は赤に合うから着てるだけだ」
「もう、あなた達兄妹の色で良いじゃない」
そう言い、ミラは迷いなく扉をノックした。少し待つと、中から1人の女性が現れた。
「っ!リュドミラ=ルリエ様」
「リムアリーシャ、貴女がいるという事はエレオノーラもいるのでしょう?」
「えぇ、2階におりますが」
「アルサスの領主も一緒かしら?」
「ヴォルン伯爵もエレオノーラ様と2階におります」
「入ってもいいかしら?ヴォルン伯爵と少し話がしたいの」
「…分かりました、ご案内いたします。…後ろのお2人もですか?」
リムアリーシャと言う女性が俺とプローネを見て言う。
「えぇ、お願い」
「分かりました、こちらです」
俺達は館に入り階段を昇り、2人がいるという部屋の前に来た。すると中から話が聞こえた。
「リュドミラ=ルリエという…私に比べればどうということはないやつだがな」
この声…エレオノーラか。何故か分からんが、嫌な予感がする。
「口を開けばやれ礼儀だの品性だのとやかましいくせに、自分がジャムをぶら下げて歩くのはたしなみだとぬかす、なんというか芽の伸びきったジャガイモのような女だ」
エレオノーラの発言に扉を斬り、エレオノーラを斬り刻みたいという衝動に駆られたが何とか耐えた…がミラは耐え切れず、勢いよく扉を開けた。
「―――黙って聞いていれば誰がジャガイモですって!」
あちゃー。俺は額に手を当てる。
「―――リム」
烈しい怒気を帯びた、地の底から響いてきたような声が俺達の耳を震わせた。
「何故、私の館にそいつが足を踏み入れるのを許した」
「戦姫たる方を、追い返すわけにはまいりません」
血の気の通っていない人形のように、俺の隣にいるリムアリーシャが淡々と答えた。
「…戦姫?」
胡乱げな声を絞り出しミラを見る男性。彼がヴォルン伯爵なのだろう。ミラは彼に視線を移し、胸を張り、よく通る声で名乗った。
「ジスタートが誇る戦姫のひとり。『破邪の穿角』が主、リュドミラ=ルリエよ」
「帰れ」
エレオノーラの声は冷たく、容赦がない。ミラは蒼い瞳を侮蔑の感情で染めて、エレオノーラを睥睨した。
「それが、あなたの客に対する口のききかたなのかしら?まったくもって無礼にもほどがあるわ、エレオノーラ」
エレオノーラもまなじりを吊り上げ、敵意剥き出しで応酬する。
「客というならそれらしい態度をとれ。手土産の1つでも持ってこい。もっともお前を客として認める気はないがな」
その言葉を聞きプローネが対応する。
「エレオノーラ様、つまらない物ですがハーネスの葡萄酒です」
ハーネスを出る前にジェイがプローネに渡しておいた酒だ。
「ほぉ、リュドミラ。この娘の方が客らしい態度をとっているぞ?…そういえばお前は?」
「私はハーネス領主ジェイノワール=クロフォードの妹、プロミネンス=クロフォードです」
プローネは自己紹介をし、酒を渡そうとするとミラの手によって遮られた。
「まず、人のことをジャガイモだのと罵倒したことを謝罪しなさい」
「お前が先に土下座しろ。人の話を盗み聞きしたことについてな」
俺とプローネは慎重な足取りで戸口に立つリムアリーシャの近くへ歩み寄る。ヴォルン伯爵もゆっくりこちらへ歩み寄っていた。
「盗み聞き?貴女の声が馬鹿みたいに大きすぎるだけでしょう」
「この程度で声が大きいとは、ずいぶん狭い世界で生きてきたのだな。可哀想に」
「たとえ狭い世界だとしても、私は多くのものを得てきたわ。貴女と違って」
「多くのもの、か。そこそこの身長とか、それなりの胸とかは無かったようだな」
「私はまだ16よ。それらがこれから手に入る余地は充分にある。貴女はどうかしら、エレオノーラ?これから必死に頑張って、老いて死ぬまでに最低限の尊厳や礼儀、気品がつくといいわね」
歯軋りの音がした。どちらの戦姫が発したかは分からないが、願わくばミラではないことを祈る。プローネはというと、ただ目をパチクリさせていた。
「…兄様、このお2人はいつもこうなのか?」
「俺はこの前王都で1回しか見たことないが、そうらしい」
すると、リムアリーシャが説明をしてくれた。
「最初に出会ったときからこうでした。お互いの『竜具(ヴィルトラ)』をつきつけあい、1国の主とは思えないほどの罵詈雑言で」
「「………」」
俺とプローネは言葉が出なかった。…ミラも飽きないものだ。
「なるほど。それで、止めるには?」
「止められる方の心当たりはありますが、遠くにいらっしゃるので無理です。お2人の気が済むまで放っておくしかないでしょう」
ソフィー様なら確実に止められるな…。俺はミラだけならなんとかできるが…。俺が止めに入ろうとしたら、ヴォルン伯爵が2人の間に割って入った。
「自己紹介がまだだったな。ティグルヴルムド=ヴォルンだ」
ややぎこちない笑顔でヴォルン伯爵はミラに手を差し出す。ミラは差し出された手を一瞥すると、顔を上げて値踏みするような視線をヴォルン伯爵へ向ける。
「ティグル。その女は客ではない。そんな応対する必要はないぞ」
後ろでエレオノーラがふてくされたような声をかける。
「―――そうね。確かに客ではないわ…ねぇ?ジェイ」
ミラが俺とプローネ、ヴォルン伯爵にしか聞こえない声で言うとミラは背を向け、肩越しに振り返って言った。
「ついていらっしゃい。ティグルヴルムド=ヴォルン伯爵」
いやぁ、やっぱ仲悪いですねぇ。ミラとエレンは。
本当ならもっと書こうと思っていましたが睡魔と疲労と区切りがいいという理由で終わらせました~
それと、先日やっと原作3巻買えました。ただいま絶賛読み中です。
ではでは、ご意見やご感想ありましたらよろしくお願いします~