魔弾の王と戦姫 ~凍漣の雪姫と死神~   作:ジェイ・デスサイズ

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大っっっっっっ変永らくお待たせ致しましたぁぁぁぁぁ!!!
本当に申し訳ありませんでした・・・仕事で色々変更などありまして、書く時間がランダムになってしまい・・・。はい、言い訳です。
ミラがメインヒロインの小説は特典込みで全巻回収済みです、当たり前ですよねぇ。
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前置きが長くなりましたが、本編をお楽しみ下さい。


第21話 死神と進む道2

城砦の奥にある一室で、9人の男女がテーブルを囲んでいる。

メンバーはティグル・エレン・リム・マスハス・ミラ・ジェイ・シャル・ハイト。9人目は、肩の辺りで切りそろえた淡い金色の髪と、澄んだ碧い瞳を持つレギン。レグナスという名前で王子として育てられたブリューヌの王女である。

 

 「ーー出兵の準備は整った。その気になれば明日にでも出立できよう」

 

ずんぐりとした体躯を甲冑で包んだマスハスが、一同を見渡して厳かに告げた。最近ティグルに協力を申し出た貴族や騎士達のまとめ役を、マスハスが務めている。

 

 「兵の数はどれくらいになりそうなんや、マスハスはん」

 

 「ブリューヌの者だけで言えば騎士が四千。歩兵が六千といったところだ。これにジスタート軍の騎兵三千が加わるの」

 

ハイトの質問に、マスハスは答える。マスハスの挙げた数字を聞いて、エレンは怪訝そうな視線をミラに向ける。騎兵三千ではライトメリッツ軍だけだ。

 

 「私の軍は三百程度残してオルミュッツに帰らせるわよ、元々長期遠征の準備はできてないもの。ジェイのハーネスも同じ理由よ」

 

 「だったらお前も帰れば良いだろう」

 

そう毒づいたエレンを、ミラは鼻で笑った。嫌味たらしく口元を歪ませる。

 

「それは無理ね。私は貴女の監査役だもの」

 

「頼んだ覚えは無い」

 

憮然としてエレンは言い返したが、それ以上言葉を続けることはせず腕組をして口を引き結んだ。

 

 「まっ、エレオノーラの姉さんとミラ姉は相性最悪やからなぁ。そら監査役、ミラ姉が適任やな」

 

 「ハイト、最悪なのにか?」

 

ハイトの発言に疑問に思ったティグルは、ハイトに問い掛けた。

 

「親密やと、不正を疑われる可能性あるやろ?過去にもそういう事例はぎょうさんあるしなぁ」

 

なるほど、と納得するティグルの右隣で、レギンが首を傾げた。

 

「全て合わせると一万三千ですか・・・。この城内にはそれ以上の兵が居るように思えましたが」

 

軽い驚きに目を瞠りながらも、マスハスは王女に頷いてみせた。

 

「殿下の仰るとおり、この城砦にいる兵は二万弱。リュドミラ殿の兵を除いても、一万七千近くはいるでしょう。ただ、この城砦の守備に食料や燃料、飼料、武具…更に兵の強さなどの問題から、全ての兵を連れていくのは不可能なのです」

 

「なるほど…分かりました。話を進めて下さい」

 

マスハスがテーブルに地図を広げる。ブリューヌ王国全体を描きたものだ。

 

「先程は明日にでも出立できると言ったが、実際にこの城砦を発つのは七日後を予定しておる」

 

「理由は二つある」

 

マスハスの言葉に続き、シャルが答える。

 

「一つは、テナルディエ公爵とガヌロン公爵を噛み合せるため。ボクらの元へもたらされたによれば、両公爵の軍は王都付近で激突後、テナルディエ公爵軍が劣勢となって南へ後退を繰り返し、両軍は現在ネメタクムあたりにいるようだ」

 

「それぞれの軍を率いているのは誰なのですか、シャルお義母様?公爵達が自ら戦場にいるのは考えにくいのですけど…」

 

シャルの指が示す地図の一点を見据えながら、ミラが訊いた。その回答にシャルの隣に居たハイトが答える。

 

「ミラ姉の言う通り、公爵自らちゃうな。テナルディエ公爵の軍を率いているのはスティードと言うて、テナルディエ公爵の側近や。ガヌロン公爵の軍を率いているグレアスト侯爵。こっちもまた、ガヌロン公の腹心とも呼べる方ですわ」

 

 「グレアスト……。あの男か」

 

ティグルと、そしてエレンの記憶に不快な映像が蘇った。黒騎士ロランと対峙する前、ガヌロンの名代として現れた男の姿を思い出したのだ。

特にエレンはよほど不愉快だったようで、表情が一気に険しいものになる。

 

  「ムオジネルが攻めてきていたというのに、呑気なものね。それともガヌロン公爵は分かっていて兵を動かしたのかしら」

 

青の瞳に冷気を宿したミラが鼻を鳴らした。マスハスは頷く。

 

「恐らくは。ムオジネル軍は陸と海から兵を動かしており、陸からはティグル……ヴォルン伯爵と貴女が撃退してくださった。海からの軍ーーー船団は、これはテナルディエ公爵が迎え撃ったらしい」

 

「テナルディエ公爵の勢力圏は、ネメタクムを中心にブリューヌ王国南部に広がっています。ガヌロン公爵との一大決戦を前にして、ムオジネル軍を放っておくことなどできなかったのでしょう。そこを突かれた形ですね」

 

マスハスの説明をリムが捕捉する。

 

「ムオジネルが退いた以上、テナルディエ公爵がはガヌロン公爵との決戦を急ぐやろなぁ。そんなとこへ、俺らがのこのこ姿を晒す理由なんてあらへん」

 

そう説明しながらハイトは地図に駒を置いていく。どちらかが倒れるのを待ち、生き残って傷つき疲弊している方を討つ。それが基本方針だった。

 

「二つ目の理由は?」

 

ティグルの質問に答えたのはシャルだ。

 

「ムオジネル軍は撤退する際、キミを称賛していただろう?彼等はその後も、ブリューヌ王国内でキミの活躍を吹聴してまわっているみたいなんだ」

 

「テナルディエとガヌロンの争いに、第三勢力としてのティグルを登場させて混乱を長引かせるつもりじゃろうな」

 

あまりにも見え透いている意図に憮然として、マスハスがしかめっ面をつくる。それと分かっていて乗らなければならない現状が、マスハスは腹立たしかった。

 

「私の名を…役に立てることは、出来なさそうですか?」

 

微かに悔しさを滲ませた表情でレギンが尋ねた。

 

「その案は出たが、私が頼んでやめてもらった」

 

つまらなそうな顔でエレンが答えた。レギンは不思議そうに問いかける。

 

「貴女は、私が王族であることを喧伝するつもりだったと思いましたが」

 

レギンが王女であることを明かし、それを証明するものがアルテシウムにあると悟ったとき、それを広く知らせることを考えたのは他ならぬエレンだ。

 

「見通しが甘かった」

 

表情は憮然として素っ気ない。

 

レギンは困惑気味に眉をひそめ、ティグルに助けを求める視線を向ける。それを見て、マスハスが一つ咳払いをした。

 

 「僭越ながら殿下にご説明を---」

 

 「マスハス卿。殿下には俺から説明します」

 

 マスハスの言葉を遮って、ティグルは明るい表情をレギンに向ける。

 

 「ムオジネル軍を撃退したオルメア平原からこの城砦へ来るまでの間・・・いえ、この城砦に来てからも、俺は多くの貴族や騎士、商人らと会って話をしました。彼らがこの城砦に集まった理由は様々です。ムオジネルと戦った俺を認めてくれた人もいれば、両公爵に協力したくないから俺の所へ来たという人もいます。それで分かったことは・・・俺はまだ、彼らの信頼を勝ち得ていないということです」

 

 「信頼・・・?」

 

 レギンが碧い瞳を曇らせる。

 

 「理由はどうあれ、俺がジスタート軍を国内へ呼び込んだことは事実です。爵位を剥奪されたことも。彼らはそれを知っている。何人かは、俺がどのような人間なのか見極めようとするふうさえありました」

 

 ---もっとも、ティグルヴルムド卿は気づいておりませんでしたが---

 

 と、口には出さず心で思うリムであった。

 

 「この状況で俺が殿下のことを話してアルテシウムへ向かうと告げたら、彼らは動揺し、むしろこちらに疑惑の眼差しを向けてくるでしょう。何を企んでいるのかと。そうなったら、アルテシウムへ向かうどころではなくなってしまいます」

 

 エレンの言った、見通しが甘かったというのはこのことだ。

 

 「そういった事情から、殿下の名はこれより後の段階で活用させていただきたいと思っています」

 

 「・・・後の段階?」

 

 無念そうに俯いたレギンだったが、ティグルの言葉に目を瞠って顔を上げた。そして、待っていましたと言わんばかりにシャルがティグルが言おうとしたセリフを述べる。

 

 「その通り、ボク達が勝利を得たとき。それをより確実なものにするために、キミの御名を借りることがあると考えているのさ♪」

 

 「・・・シャルパルトさん、俺のセリフを取らないで下さいよ」

 

 苦笑しながらシャルに述べ、レギンを改めて見つめる。

 

 「・・・と、シャルさんが話した通りです。殿下」

 

 「分かりました。元より私は貴方を頼っている身。お任せします」

 

 「恐縮です、殿下。ただ---今申し上げたことと矛盾するように聞こえますが、ある程度のこと・・・例えば【王家に連なる女性を保護している】ぐらいの情報は流すつもりでいます」

 

 テナルディエかガヌロンがレギンの素性を明らかにした場合に備えてのことだ。【ティグルヴルムド=ヴォルンはある王族を匿っている。秘密にしていたのは、もちろん己の私欲のためだ】などの吹聴を警戒してのことだ。

 

 「明らかにもできず、隠しておくのも危険。難しいのですね・・・」

 

 「殿下に害が及ぶことの無いよう、微力を尽くします」

 

 そうして、軍議は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・まさか、こんなことになるとはな。予想外も良い所だ」

 

 ライトは自室で弟であるハイトに軍議でのことを聴き、ため息をつきながら素直な感想を述べる。そんな兄をみて苦笑するしかない弟、ハイト。

 

 「アハハ・・・、こればっかりはしゃあないわ。いくら軍師やかて、死んだ相手が生きていて自陣にいるなんて思わへんやろ、兄さん。とりあえず、今話した通りで次はアルテシウムへ行くで」

 

 「はぁ・・・それもそうだな。了解した、お前はリクにも話してこい」

 

 「リクにはシャル義母さんが説明しに行ってるで。だから大丈夫や・・・今は身体を休めるぅ」

 

 そう言いながら、ハイトは部屋を後にし自室へ戻る。

 

 「アルテシウム・・・嫌な予感しかしないが、行くしかないか。ヴォルンの行く末も気になるし・・・まぁ、いいか」

 

 そう言うと、ライトは読書を始めた。タイトルは【魔弾の王と戦姫】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・と、言うわけでボクらは次、アルテシウムへ向かうことになったから。二人ともよろしく頼むよ?」

 

 「「・・・」」

 

 シャルに呼ばれたリクとプローネは簡潔に話を聞かされポカン、とした表情で目の前の女性を見つめていた。

 

 「おや、どうしたんだい。二人とも?」

 

 「どうしたも何も・・・」

 

 「色々あり過ぎだろう!?母様!」

 

 正気を取り戻した二人は呆れ、動揺していた。

 

 「まぁ、そうなって当然だね」

 

 ハハ、と笑うシャルにリクは質問をする。

 

 「父さん達に援軍など、何か要請した方が良くないですか?」

 

 「無駄さ。今更要請した所で、知らせが届いてこちらに来てる頃にはこの物語は終わっているさ」

 

 首を左右に振り、残念な風に告げるが娘は騙されなかった。

 

 「母様・・・この状況楽しんでいるな!?」

 

 「・・・流石ボクの娘、騙せなかったか」

 

 クスクス、と笑いながら娘の頭を撫でる。撫でられた娘は気持ちよさそうな表情をする。

 

 「恐らくデュオも、この状況なら楽しんでると思うな。実は王子は生きていました、王子は本当は王女でした、これからボクらはブリューヌの最大二勢力と言っても過言でもないテナルディエ・ガヌロンと戦う可能性が極めて高く、この公爵のどちらかは竜を使ってくる可能性もある・・・普通は絶望に近いが、ボクはワクワクしている。リク、何故か分かるかい?」

 

 「・・・その状況でも、前に進むヴォルンがいる。からですか?」

 

 「その通り、正解だ。ボクは絶対的な有利より、不利な方が燃える人種でね」

 

 満面の笑みで答えるシャルを見て、二人は苦笑する。

 

 




 「燃えたというのはどういうことだ?」



 「ありがとうございます、ティグルヴルムド卿」



 「あくまで、又聞きではございますが」



 「陣取り合戦か」



 「喧嘩はやめてくれ。俺は二人とも頼りにしているんだから」



 「次回、第22話。【死神と進む道3】、読んで頂けると幸いです。私の為に動いて下さり、ティグルヴルムド卿達には感謝しかありません・・・!」

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