魔弾の王と戦姫 ~凍漣の雪姫と死神~ 作:ジェイ・デスサイズ
いい感じのペースで投稿できてますー
それも読んでくださる方がいるからですよね!これからも頑張らせていただきますので、応援のほどお願いします!
感想お待ちしております~では、ごゆっくり
それぞれの戦姫が自軍に戻ると、両軍は自然と距離を取り離れて行った。
「ご苦労様でした。貴方達のおかげで、目的は達成できましたわ」
エリザヴェータの目的は、二つ。一つはエレンをここまでおびき寄せる事、もう一つは彼女と戦って自分の力量を試すことにあった。
―――一年前はまったく敵わなかったことを思えば、あれに触れた甲斐はあった。
その名前を、思い浮かべる気にすらなれない存在。それに接触して、エリザヴェータは人間を超越しうる強大な力を手に入れたのだ。まだその力の一割ほども扱いきれていないが、それでも、膂力にかぎってはエレンを圧倒出来た。
―――それにしても、流石はエレオノーラだわ・・・。
エリザヴェータ自身も迂闊だったとはいえ、力をだけが強くなったことを正確に見抜かれた。そして、悔しいことではあるが、まだ彼女には及ばないということも認識させられた。
もっと強くならなければ。もっと、この力を使いこなせるようにならなければ。
「・・・そういえば」
ふと、エリザヴェータはあることを思いついた。
「ティグルヴルムド=ヴォルン、でしたわね。たしか」
自分と戦っていたときのエレンの葛藤を見る限り、政事や戦略の都合だけで協力しているとは思えない。
「ひとまず贈り物でもして、反応を見てみようかしら」
ティグルが勝ったときのことを考えて、今のうちに繋がりを持っておくのは悪い事ではないだろう。
「そう。私は、負けない」
強い口調ではっきり言って、エリザヴェータは色の異なる瞳で空を睨む。
彼女のために、そして彼女を支えてくれるルヴーシュの民のために、エリザヴェータは新たな策を考えはじめていた。
どうだったかな?エレオノーラ達の戦いは。これがあったから、ティグルヴルムド卿のそばにエレオノーラが居なかったんだね。
それじゃあ、そろそろ時計の針を戻すとしよう・・・。
・・・え?どこまでいってたか忘れたって?ふふ、なら読み返すことを勧めるよ(クス
リムを伴って総指揮官用の幕舎に戻って来たティグルを迎えたのは、マスハスだった。
「朝早くからどこをほっつき歩いておったんじゃ」
「・・・すみません。疲れていたとはいえ、早く寝すぎたようです」
「・・・(魔物と戦ってました・・・なんて、言えるわけねぇし信じるわけねぇもんな)」
それから老伯爵はリムとも挨拶をかわす。
「戦姫殿は戻られたか。しかしまあ、お互い、よく無事に再会できたものだて」
「簡単には死ねません。放っておけない方が幾人かおりますので」
リムの回答にマスハスは違いないと笑ったものだった。
「ところで、マスハス卿。こんな朝早くからどうされたのです?」
「うむ、それがな・・・」
マスハスは一瞬言いよどんだが、三人の視線を受けて思い切ったように口を開いた。
「この幕営で、王子殿下によく似た者を見かけたという報告があってな。見た者の話では瓜二つどころではないと。そこで、おぬしに聞いてみようと思ったのだ」
「王子殿下に?」
「そうじゃ。短い金色の髪に碧い瞳・・・」
マスハスの言葉に、ジェイとティグルは自然に隣に立っているリムを見た。彼女も短くはないが金色の髪に、碧というほど鮮やかでなはいが青い瞳をしている。この髪も瞳も、ブリューヌ人にもジスタート人にも珍しいものではない。
「それだけでは・・・その人の名前などは聞かれなかったのですか?」
「うむ。それが、驚いている間に兵達の間に紛れて見失ってしまったらしくての」
残念そうに溜息をこぼすマスハスに、横からリムが口をはさむ。
「ですが、王子殿下は亡くなられたのでは?」
---なんか、ついていけねぇ
こういった話は得意ではないジェイは興味が湧かなかった。
---死んだ王子の怨念じゃあるまいし
「悪い、俺は先に戻ってるぜ」
俺が出ようとすると入れ違いで一人の兵が中へ入ってきた。そのまま歩いていき、話にあった特徴の子とすれ違い、まぁこんな感じかなと思った。
すると、恐らくその子の声だろう声を聞いて思考が固まった。
「私は・・・私は、ついこの前までレグナスという名前で生きてきました」
ありえない言葉を聞き、身体も一緒に固まってしまったらしい。
---レグナス王子殿下が生きてる・・・?
彼女達の声は耳に入らず、完全に自分の世界に入ってしまったジェイの前に二人の戦姫が近づいてきた。
「---イ、ジェイ!」
「・・・っ!?」
思わずビクッ、と驚いてしまう。前を見ると顔を覗き込んでいるミラと、隣にエレオノーラがいた。
「ふ、二人か・・・」
「また自分の世界に入ってたのね」
やれやれ、といった感じに首を振るミラ。そしてそのまま部屋へ入るエレオノーラ。
---あ。
「誰だ、この女は」
リムに手伝ってもらってマスハスを介抱しながらティグルはレギンのことを、エレンとミラ、ジェイ、シャルに説明した。二人の戦姫に戦騎、その母君の反応は非常に酷似しており、胡散臭い厄介者を見る眼差しを、レギンに向ける。
「エレオノーラ殿、キミがディナントで討ち取ったんじゃないのかい?」
「敵を蹴散らしてたら、そんな騒ぎが聞こえてきたという感じだったな・・・。私や私の配下の者が討ち取っていれば、そいつはもっと有名になっているはずだ。首をとったわけでもないから、国王陛下への報告も戦死したらしい、としか言えなかったしな」
「・・・恐らく、テナルディエとガヌロンの共謀やろうな。戦場なら、不自然な死に方でも戦死として押し通せるやろ?」
そこに、入り口からゆっくりとした足取りでハイトが扇子で口元を隠しながら説明した。
「ハイト・・・聞いてたの?」
「姉さんらがいーひんから、探してたんや。んで、此処におるて聞いたから来てみれば・・・って感じや」
更に人が増えたこと、エレンが戦った戦姫だと分かった途端、ティグルの袖を掴んで肩を震わせ、小動物のように怯えている。
「大丈夫だ。俺を信頼してくれるなら、彼女も同じくらい信頼してくれ。それぐらい、俺はエレンを信頼している」
ティグルがそう言ってレギンをなだめている間、エレンがミラに対して無言で勝ち誇り、リムが情けないという顔で主を見つめていた。
「一ついいかい?そもそもの話、何故キミは女性なんだい?まだ王子の腹違いの妹とか言われたほうが納得できるんだけどね」
レギンは言いよどんだが、うつむきがちに答えた。
「母と、私のためです。このブリュ―ヌでは、娘しか産めなかった王妃は蔑視されます。また、王女の王位継承権はかぎりなく低い・・・ないと言ってよいようなものです」
「それで王子だと偽ったの?無茶な手を打つものね」
「まったくだな。当時はそれでいいかもしれんが、リムやソフィー並みに胸が育ったらどうするつもりだったんだ。切り取るわけにもいかにだろう」
「話を脱線させないで下さい、エレオノーラ様」
エレンの感想を、リムが頬を赤らめて咎める。ミラは憮然とした顔をし、シャルとハイトはクスクス笑い、ティグルとジェイは聞かなかったことにしようとした。
「しかし、テナルディエとガヌロンはお前を殺しそこねたのに、戦死したなどと言ってしまったのか。案外間が抜けて・・・」
そこまで言ってから、そうかとエレンは手を打った。
「殺したことにしてしまえば、ひとまずそれでよかったのか。レギンでいいな?王子が実は女だったということを知る者は、お前の知る限りブリュ―ヌに何人いる?」
「私と母と陛下だけのはずだったのですが、彼らのやり方を考えるとテナルディエ公とガヌロン公も知っていると思います」
---なるほど。一度死んだことにしてしまえば、あとからレギンが出てきても、王子の名を騙る不届きな娘、ということでかたづけてしまえる。証拠の品があっても、ディナントの戦場で拾ったのでは、と言って押し切ることができる。二人の権勢をもってすればなおのこと・・・
「---イ、ジェイ」
考えていると、腕に軽い痛みが走った。見てみるとミラがつねっていた。
「まったく・・・その癖、治さないとダメね。話、進んでるわよ」
ミラにそう言われ、意識をレギンの方へ向ける。
「・・・それで、どうする、ティグル?」
「どうする、って?」
エレンの質問の意味がわからず、ティグルは訊き返す。
「力を貸して、ってさっき言ってたけど、この人、はっきり言って邪魔よ」
・・・そんなこと言ってたのか
身も蓋もない台詞を言い放ったミラ、それに同意を示してシャルが言葉を継ぐ。
「実は王子は生きていました、ガヌロンとテナルディエが殺そうとしたのです、と叫ぶとしよう。その王子が女性な時点で信用してもらえないどころか、不届き者や逆賊と呼ばれる可能性がある、ボクらが」
その意見にティグルは懐疑的な表情で首をひねった。
「シャルさんやミラの言うことは分かるけど・・・でも、国王陛下にさえ声が届けば、何とかなるんじゃないか?病に伏せておられるとは聞いてるけど」
その言葉に、マスハスがむせた。見ると、老伯爵はかつてないほど深刻な表情で、汗すらにじませて唸っている。灰色の髭の老将が語ったのは、王子の戦死を聞いた国王が、精神的に極めて不安定な状況にあるということだった。
---だとしても、大分経っている・・・何か裏がありそうだね
シャルは腕を組み、思考を廻らせていた。
その間に話が進んでいたらしく、内容は国王陛下の御子として証明できるものになっていた。
「ルテティア・・・」
「・・・ガヌロン公の領地ですな。そこに手がかりがあるのですか」
マスハスが丁重な態度で尋ねる。レギンはうなずいた。
「ルテティアの中心都市であるアルテシウム・・・。この都市の地下に、王家の者にのみ開ける方法が伝えられている扉があります。これは王宮にも記録が残っていますし、宰相ボードワンも知っていることです。彼を審査者として立てれば・・・」
「そういうことなら話が変わってくるな」
興味が湧いたらしく、エレンが身を乗り出した。
「それが本当なら、そのことを喧伝してアルテシウムまで進むという手がとれる。阻もうとする者は、それこそ逆賊呼ばわりできるぞ。こちらはただ、この娘が王族であることを証明しようとしているだけなのだから、な」
「せやね。んで、これで王族と証明できりゃ、発言の信頼性が一気に上がるっちゅうもんや」
ハイトもうなずいて同意する。
「ティグル、どうする?」
楽しそうに紅玉の色の瞳を輝かせてエレンが訊いた。
「ここから西へ進んでネメタクムへ入り、テナルディエ公爵を討つか。北へ向かい、ルテティアを目指してガヌロンと戦うか」
ティグルはすぐに答えず、この場にいる者達の顔を順に見回した。
エレン、リム、ミラ、ジェイ、シャル、ハイト、マスハス、レギン。
つくづく不思議なことになったと思う。助けてくれたり、支えてくれたり、頼ってくれたり。この場にはいない者達にしてもそうだ。
彼らは、いつまで共にいてくれるだろうか。一緒にいてくれる間に、自分は彼らから受けたさまざまなものを返すことができるだろうか。
分かっていることは、一日も早くこの状況を終わらせなければならないということだ。
「---行こう。ルテティアへ」
ティグルは考えたら、はっきりそう答えた。
「久々だな・・・ミラの温もり」
「夜が明けたか・・・」
「真っ白なドレスを着た女の幽霊だそうよ。私は見たことないけれど」
「次回、第19話「死神と安らかな一時」普段堅いミラやジェイのイチャイチャが見られるかもしれないよ♪
ボクのはそう簡単には見れないよ(クス」