魔弾の王と戦姫 ~凍漣の雪姫と死神~ 作:ジェイ・デスサイズ
いやぁ・・・キツイっ!!!色んな意味でキツイです(小説ではありません)が、皆様はどうでしょうか?
自分は不安だらけですが、「平気、へっちゃら」で頑張ろうと思います!
さて、今回は珍しく(初めて)、タイトルに「死神」がなく、視点も変わります!
さてさて、どうなることやらw
やぁ。ボクはシャル、シャルパルト=クロフォードだ。
ボクはジェイ達と共にブリューヌへ行き、ティグルヴルムド卿と合流し、ムオジネル軍と戦ったのは知っているだろう?
ボクは着いた時疑問に思った・・・『エレオノーラ=ヴィルターリアは何故居ない?』とね。
今回紡ぐ物語は、ティグルヴルムド卿が戦っていた時のエレオノーラ=ヴィルターリアのお話・・・。
エレオノーラ=ヴィルターリアがティグルヴルムド卿の側を離れたのには理由があった。
その理由とはエレオノーラの親友の戦姫『アレクサンドラ=アルシャーヴィン』のレグニーツァに攻めてきたもう一人の戦姫から守るためである。
今、エレオノーラとリュドミラの争いを仲裁するのはもっぱらソフィーの役目になってしまっているが、二年前はどちらかといえばサーシャの仕事だった。病が悪化して彼女がレグニーツァから出られなくなったため、その期間はきわめて短いものだったが。
サーシャのやり方はまず喧嘩している二人を引き離し、それぞれの言い分を聞いた上でいくらか冷静になってきた翌日に、サーシャを含めた三人で話して和解させるというものだった。
ただ、一度だけ実力行使に及んだことがある。
王都シレジアの王宮を出てすぐにある人気のない広場で二人が喧嘩をしていた。しかも
互いの武器が風を巻き起こし・大気を凍てつかせている。凄絶な視線をかわし、間合いをはかり、機を窺う二人の間に突如として厳しい声が割り込んだ。
「---何をやってるんだ、二人とも」
当時、エレオノーラもリュドミラも十四で、サーシャは十九歳だ。また、戦姫になって一年も過ぎていない二人に比べて、サーシャは十五歳のときに竜具に選ばれている。
二人では抗しきれない威厳と凄みがあった。
「「こいつが・・・!」」
異口同音に二人がお互いを指す。サーシャは呆れたように溜息をついた。
「分かった。君達二人の相手をボクがしよう」
サーシャの竜具は、腰の左右に帯びた双剣だ。通常の剣よりも拳二つ分ほど短いその刀身は、それぞれ金色と朱色に輝いている。それを音もなく、彼女は抜き放った。
サーシャには『
黒髪は肩にかかるぐらいで切りそろえており、細面でどこか中性的な印象を与え、その風変わりな一人称もあって優男に見えなくもない。肌は白く、やや痩せている。
口調も穏和で、相手を威圧する類のものではない。
にもかかわらず、二人は双剣を構えた彼女に怯み、たじろいだ。
「あ、貴女には関係ないでしょう」
リュドミラが口をとがらせて言い立てる。エレオノーラも激しく頷く。
「これはあくまで私とこいつの話だ。サーシャは下がっててくれ」
しかし、むろんというべきかサーシャは引き下がらなかった。
「言っても聞かない子に、力ずくで分からせてあげると言ってるんだ。そうでもしないとおとなしくなりそうにないからね。二人とも」
金色の刀身をエレオノーラに、朱色の刀身をリュドミラに向けて、サーシャは静かに続ける。
「面倒だから二人揃っておいで。もしどちらかの刃がボクにかすりでもしたら、負けを認めるよ。二度と君らの喧嘩に口を出さないし、今日一日二人の言うことを何でも聞こう」
大盤振る舞いもいいところである。
二人の戦意に火が灯ったかと思うと激しく燃え上がった。サーシャの台詞は、彼女らの自尊心を強く刺激した。ようするに癇に障ったのだ。
先ほどまでのいがみ合いはどこへやら、二人はすばやく視線をかわして地面を蹴り、左右から同時に襲い掛かった。サーシャはその場から動かない。
刹那、一つの音が虚空に響き、それから鳴りやまぬ内に二つめの音が重なる。
冷たく見下ろすサーシャの視線の先、エレオノーラとリュドミラは地面に転がり、這いつくばっていた。攻撃を弾かれ体勢を崩して派手に転倒し、あるいは膝をつかされたのだ。
竜具を持つ手には痺れが走っており、落とさないようにするのが精いっぱいだった。
「---まだやる?」
二人とも力なく首を横に振る。二人がかりで、渾身の一撃をそろって弾かれたのだ。圧倒的な実力の差を、高すぎる壁の存在を感じずにはいられなかった。
サーシャはそう、と呟くと双剣を静かに鞘に納めた。それから二人を順に起こし、身体についた土を払ってやる。
「君達はまだ若いから、多少の喧嘩は仕方ないとしよう。でも、刃を相手に向けては駄目だよ。取り返しがつかなくなる。ましてや竜具をね・・・」
十九歳とは思えない分別くささだが、そう言った時のサーシャは二人の見慣れたいつもの彼女だった。一瞬前のサーシャは幻ではないかと思ってしまう程の。
しかし、二人の右手の痺れはいまだ解けていなかった。
サーシャの公宮は、砂色の石を積み上げた中にところどころ白大理石が混ざっていて、それが妙な味わいを与える。公宮そのものの造りは堅実とも地味ともいえるのだ。変わったところこそないが、誰もが落ち着いて生活を送れるように設計されていた。
エレンとリムは従僕に連れられ、等間隔に篝火の焚かれた回廊を通り抜けてサーシャの部屋の前に立った。
「サーシャの具合はどうだ?」
「はい、良くなってきております。詳しくはアレクサンドラ様より」
主であるサーシャよりも長くこの公宮に勤めている老いた従僕は、しわがれた声で言った。
「積もる話もあると存じます。アレクサンドラ様もお喜びになるでしょう。ですが、半刻程で一旦お話を止め、その後、アレクサンドラ様にはお休みいただいてまた夕食のあとにでも、ご様子を見ながらお願いいたします」
エレンは頷いた。まず従僕がサーシャの部屋に入り、確認をしてすぐに出ると二人に一礼をする。
従僕に礼を言って、エレンは扉を押し開ける。
簡素な部屋だった。ほとんど最低限の家具しか置かれておらず、窓際に飾られた
「---久しぶりだね」
『
煌炎バルグレン。『討鬼の双刃』の二つ名を持つ
「すまないね。来てもらって」
「当たり前だろう。私が、お前を助けにくるのは」
ゆったりとした白い服から伸びた手は肉づきが薄く、エレンはとっさに握ることをためらったあと、貴重なものを扱うようにそっと両手で挟みこんだ。
「好みは相変わらずみたいだな」
サーシャの好みは、黒か白だ。黒一色、あるいは上下とも白の装いをした彼女の姿を、エレンは何度か見たことがあった。当人に言わせると気分次第らしいが、エレンの見る限りでは戦場に立つときは黒、そうでないときは白の割合が高い。
「寝ているときは白い方が落ち着くだろうって部下が用意してくれてね。ありがたく着させてもらっている」
サーシャは椅子を勧め、二人はベッドの側に並んで座る。
「話したいことは山ほどあるが、重要なものからいこう。この地に土足で踏み込んできた礼儀知らずについてだが―――」
「エリザヴェータだ・・・。エレン、冷静になって聞いてほしい」
そう前置きをして、暖炉の火を眺めながら説明を始めた。
「夏の半ばのことだ。ボクとエリザヴェータは協力して、沿岸の海賊討伐を行なった・・・。海賊退治そのものは滞りなくすんだ。問題は事故処理でのことだ」
「事故処理で、ですか・・・」
「あぁ。彼女は苦情を述べてきた。ボクの軍が、ことさらに海賊をエリザヴェータの軍の方へ誘導して、彼女の軍より負担を強いたと言ってきたんだ」
「それは事実なのか?」
「部下達は、もちろんそんな風にはしていないと言っている。ただ、報告書を見るかぎりではどちらとも言えない」
サーシャは虚空に指を伸ばして、おおまかな地形と軍の動きを描く。エレンとリムはそれぞれ難しい顔になった。
「夏の終わりごろにボクは調子を崩してね、それからは手紙でやりとりしていたんだけど、秋の半ばでそれが途絶えた」
そして、エリザヴェータは兵を率いてきたというのだった。
「気の短い、などというものではないな」
だからあの女は嫌いなんだ、と言外に含ませてエレンはしかめっ面で腕を組む」
「こういう事情だから、彼女の言うこともわからないではない。ボクとしては穏便に済ませたかったんだけど」
サーシャは沈痛な表情でエレンに答えると、膝の上の双剣にそっと手を置いた。
「ボクが動ければ良かったんだけどね。あるいは―――」
翳りのある微笑を浮かべてその鞘、鍔、柄を愛おしそうに撫でる。
「この子達が、ボクに戦姫の資格なしと判断して離れてくれれば。そうすれば、君を頼らずに済んだはずなんだ。でも、この子達はボクから離れなくてね・・・」
手のかかる子供にかけるような台詞にこたえたのか、煌炎の鍔が一瞬光を放つ。見た目は変わっていないが、熱を発して主を暖めようとしているのだと、エレンには分かった。
「気に入られて、良かったじゃないか」
「・・・エリザヴェータ様は、今どちらに?」
「一番新しい報告では、ボロスローだね。彼女は北東の国境に近い城砦を一つ落とした後、それ以上内側へ踏み込んでくることはなく、城砦にたてこもりもせずに後退したらしいんだ。村や町が襲われたという報告も、いまのところはない」
エレンに説明していると、コンコンコン、とノックがし、男性の声が聞こえた。
「・・・サーシャ、入ってもいいか?」
「おや、もう来たのかい?いいよ」
サーシャの許可を得て、一人の男性が部屋に入る。
長髪で色はエレンと同じ銀色。前髪は左眼だけを完全に隠している、眼の色は碧眼。
「サーシャ、こいつは?」
「彼はクロス=アーヴィング、イレ―ネ領主で・・・ボクの恋人さ」
サーシャは少し頬を赤らめ、微笑みながら言う。
「・・・はぁ!?こ、恋人なんていたのか!?」
エレンは驚きを隠せずサーシャに近づく。
「ふふ、まぁね。そうだ・・・次の手紙で伝えようとしてたんだけど・・・実は、クロス・・・クロのおかげでボクの病が消えたんだ」
「何っ!?本当かっ!」
「・・・我がイレ―ネの書物にそれを可能にする
クロスはそう言いながら前髪を上げ、眼を見せる。眼は開いているが左眼は光を宿していないのが見て分かった。
「・・・それはともかく。成功したとしてもサーシャのもかなりの負担がかかっている。今は回復中、と言ったところだ」
クロスの説明が終わると、扉を叩く音が聞こえた。刻限がきたのだ。
「あぁ、時間か。おかげで楽しい時を過ごすことができたよ、ありがとう」
「そう言ってくれると助かる。それじゃあゆっくり休んでくれ」
エレンとリムが部屋を出て、サーシャとクロスの二人になった。
「・・・サーシャ、体調に違和感はないか?」
「それ、前も聞いてきたじゃないか。何にもないよ、好調さ・・・。ねぇ、クロ。近くに来てくれないかい?」
クロスは言われた通りサーシャの近くに寄る。するとサーシャはクロスの前髪をはらい、両眼でクロスを見つめ
「ボクは君に感謝しかないよ・・・死ぬ運命から逃れることができた、クロのおかげさ。ボクの為にありがとう、クロ。大好きだよ」
そう言い、二人の影は一つに重なった。
「エレンを守ってあげてほしい」
「非才なる身の、全力をもって」
「・・・レーヴァテイン、行くぞ」
「それはもちろん、貴女に会いたかったからですわ、エレン」
「・・・次回、第16話「異彩虹瞳」サーシャは俺が守ると誓った・・・負けるわけにはいかない」
「クロ、クロ。次回予告だよ?」
「・・・見てくれると、助かる」