魔弾の王と戦姫 ~凍漣の雪姫と死神~   作:ジェイ・デスサイズ

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どうもデス~♪
秋休みに入ったので投稿しようと思いやりました~(リアル友達に投稿した日に「次話はよ」と煽られております)
この前魔弾の王と戦姫の全巻Blu-ray揃えることができました!全然見つからなくて探すのに苦労しました・・・達成感が凄いデス♪


第14話 死神・凍漣・黒弓VS蛙の魔物

合計すれば一万を超える自軍が、六千以下の敵を二方向から攻め立て、あまつさえ半包囲しつつあるのだ。誰が見てもムオジネル軍の勝利は動けぬと思っただろう。

剣を振り上げ、あるいは槍を構えて殺到するムオジネル兵を、ミラは次々に打ち倒した。首を刎ね、胸を貫き、駆っている馬を跳ね飛ばす。雪と泥と兵の死体が積み重なり、凍結して地面をいびつなものへと変えていった。

 

「(いざとなったらミラ達を影に逃がすことはできるが・・・ちっ)」

 

禍々しい鎌を振るい、敵の鎧ごと両断し最悪の時の対処を考えるものの、それは一時的なもので解決には至らなかった。

 

「リュドミラ、ジェイ。ここは俺がどうにかするから、君達は―」

 

「黙りなさい」

 

槍を振るい目の前の敵を永遠に沈黙させながら、青い髪の戦姫はティグルの言葉を遮る。顔には隠しきれない疲労の色があったが、瞳には生気と戦意が強く輝いている。

 

「ただちょっと、敵の数が多いというだけで、泣き言を言うの?」

 

ティグルは答える前に、つがえた矢を素早く射放した。それは風を短く切り裂いて、ミラを狙っていた兵士の首を貫く。

 

「疲れてる女の子に、休めって言うのは、当たり前だろう」

 

「鏡があったら、お前に見せてやりたいよ」

 

「・・・酷い顔よ、あなた」

 

ミラはティグルよりもまだ余裕があるようで、呆れたような苦笑を浮かべる。しかし、すぐ真剣な表情になって言葉を続けた。

 

「私には、戦姫としての誇りがあるわ。母や祖母・・・いいえ、この凍漣を操ってきた今までの戦姫から受け継いだ誇りが」

 

一際大きなムオジネル兵が大鉈を振りかざしてミラに迫る。閃光のような一撃で葬り去ると、彼女の持つ槍は持ち主の戦意に応えて白い冷気を周囲に放った。

 

「休むならお前の方だ、ティグルヴルムド=ヴォルン。お前の背中は俺達が守る」

 

ジェイの表情と声音は決して厳しいものではなく、むしろ彼が操る影のごとく静かなものだった、ムオジネル兵達をたじろがせ、圧倒した。

ティグルも一瞬呆然したが、くすんだ赤い髪の若者は黒弓を握り直すと、青い髪の戦姫の隣に馬を寄せる。

 

「君に誇りがあるのなら、俺にも意地がある」

 

「意地?」

 

「父や・・・たくさんの人達から少しずつもらってきた、男の意地だよ」

 

「ほぉ・・・」

 

「胸を張って報告できることばかりやってきたわけじゃない・・・。でも、とうてい顔向けでくないことは、したくない」

 

「・・・・・バカ」

 

ミラの呟きは、彼女自身にしか聞こえないほど小さいものだったがジェイは聞こえてたらしく、頬を緩めていた。

 

「いいわ。だったら戦いなさい。私と一緒に。私の隣で」

 

凍漣の戦姫が槍を振りかざし、黒弓の若者が矢をつがえ、漆影の戦騎が鎌を肩に担ぐ。そのとき、再び戦況は大きな変化を迎えた。遠くで鬨の声があがったのだ。声の大きさからして、数千の規模かと思われた。

 

「おいおい・・・新手か?

 

「流石に・・・厳しいですね」

 

緊張を顔によぎらせてそちらを見たライトとリクは、おもわず目を疑った。

確かに新手だ。だが、彼らが掲げている軍旗はブリューヌ王国の『紅馬旗(バヤール)』である。

「突撃せよ!ムオジネルの餓狼どもを我が国から叩きだしてやれ!」

 

鉄色の甲冑に身を包み、長槍と長盾を左右の手に構え、馬を駆る五千もの軍勢が、雪を蹴立てて突然現れたかと思うと、喚声をあげて突撃してきたのだ。

その報告を受けたハイトでさえ耳を疑った。

 

「援軍やて?(事前に地形、その他周辺はちゃんと調べた・・・援軍なんて来るわけないと思ってなんやけど)・・・彼らと連携をとり、反撃するんや」

 

そう指示すると、ハイトは戦況の分析を改めて開始した。

 

「ヴォルン伯爵!ヴォルン伯爵はいずこにおわすか!?」

 

若々しさに満ちた叫びが戦場の一角に響く。

 

「ここよ!」

 

と、叫んで凍漣を掲げ輝く冷気で居場所を教える。

鈍色の甲冑の群れの中から三人の騎士がティグルの前に馬を走らせる。いずれも甲冑は冷気で輝きを失い、血と泥がこびりついて奇妙な模様を描いている。それは彼らの勇戦の証である。ティグルより十歳ほど年長だろう騎士が、息を弾ませたままティグルに一礼した。

 

「・・・これが、ティグルヴルムド卿の力なんだね」

 

敵を蹂躙させながらその様子をみていたシャルが呟く。

―彼のこれまでの行いが、正義が、彼らを動かしたのかな・・・ふふ、面白くなりそうだ

「さて、舞台も終盤・・・存分に楽しみたまえ」

 

ビブラート・オブ・ヘルを構え、微笑みながら言う。その笑みを見たムオジネル兵は心底恐怖を感じたという。

 

「---お話は終わった?」

 

待っていたかのように、ミラが馬を寄せてくる。ティグルは彼女に笑顔を向けて力強くうなずいた。ミラもまた、輝くような笑顔で応える。

 

「おかげで一息つくことができたわ。あなたはどう?後ろに下がる?」

 

「いや。まだ弓は引ける・・・助っ人に任せてばかりというのも恰好がつかないからな。もう少し頑張ってみるよ」

 

「そう。はりきりすぎて醜態をさらさないようにしなさいね」

 

呼吸を整えて、ティグル達はムオジネル兵の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士団の援軍が現れたと報告を受けたクレイシュは冷静に指示を出す。しかし、そこに幾度目かの報告がもたらされる。

そう、更なる援軍の報告である。

―――今でも撃ち倒すことはできなくはない・・・できなくはないが問題は、援軍はあれで最後なのかということだ

 

思考と指示を繰り返していると、別の報告がクレイシュの耳に届いた。

 

「海からブリューヌ南部の港を攻めた我が国の船団は、テナルディエ公爵に敗れました」

 

「そうか。つまり、私はこの三万四千で目の前の敵を破り、テナルディエ公も破って南部一帯と港町を確保し、本国の援軍が到着するまで耐え忍ぶということになるのだな」

 

はっはは、と幕舎内に哄笑を響かせた後、クレイシュはあっさりと撤退を決断した。

―――私一人の失敗ということにならないのであれば、かまわん。

 

「あぁ、そうだ。ティグルヴルムド=ヴォルンについて調べないといかんな。それと、やつをせいぜい派手に褒め称えるとしよう。「黒騎士ロランを失おうと、彼に勝るとも劣らない若き英雄あり。ブリューヌの威風は健在なり」、というわけだ。うむ、これなら私の名誉につく傷も小さくできよう」

 

ムオジネル軍はアニエスの街道を通って整然と撤退していく。

『オルメア開戦』はここに終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撤退したムオジネル軍の使者が現れた、使者は次のように述べた。

 

「私はムオジネル王国の王弟クレイシュ=シャヒーン=バラミールの御言葉を伝えにまいりました。-ヴォルン伯爵。貴君の勇戦、また諸貴族や騎士達を束ねる人望、民を守らんとする気概に、心から敬意を表する。ブリューヌは弓を蔑視している国だと思っていたが、それは誤りであった。戦場を埋め尽くす兵達の頭上を越えて、目標をあやまたず射抜く貴君の弓の技量、我が国の古い伝承にある『流星落者(シーヴラーシュ)』に相応しい・・・・・」

 

流星落者とは『流星さえも射落とす者』という意味であり、ムオジネルにおいて優れた弓使いに送る称賛の言葉だ。しかし、それを知ったジェイ達は複雑だった。

 

「「「「「「「「(銀の流星軍(シルヴミーティオ)の指揮官に対してその異名はどうなんだろう)」」」」」」」」

 

使者はなおも口上を続け、聞いている側がうんざりするほどの美辞麗句を並べ立て、己の敗北を認めてまでティグルを称賛し、それをすませると去っていった。

ミラは心の中で冷淡な罵倒を浴びせたが、表面上は礼儀正しく応じた。これ以上ムオジネル軍と戦い続ける余力はない。不用意な台詞は吐けなかった。

 

「---ティグル」

 

使者が立ち去ってから二十を数えるほどの時間が過ぎたあと、マスハスがティグルの肩をぽんと叩いた。

 

「おぬしの勝ちだ」

 

「・・・信じていいんでしょうか」

 

「間違いないで。罠と考えるには、敵は離れすぎや」

 

ハイトが笑いかけて、ようやくティグルも安心できた。

 

「マスハス卿。申し訳ありませんが、しばらく休ませてもらえますか。その間のことも、あわせてお願いしたいのですが・・・」

 

「うむ。おぬしは本当に戦い詰めだったからな・・・。わしに任せて休むといい」

 

マスハスは灰色の髭を撫でながら頷くと、上機嫌で幕舎を出ていく。それに続きシャル達も出ていく。

ティグルの隣に立っていたジェイとミラも兵の所へ戻る事を伝えようと口を開きかけ―――目を丸く見開いた。

ティグルの身体がぐらりと傾いて、ミラに倒れ掛かってきたのだ。

 

「ちょっ・・・な、何!?」

 

「み、ミラ!?」

 

小柄なミラが、しかも不意を突かれては全体重でのしかかるティグルを支えることは不可能だった。

 

「何をするのよ、あなたは―――」

 

「ミラ、待て・・・寝てないか?」

 

ジェイに指摘され、ティグルの顔を覗き込んでみると寝息を立てていた。

 

―――凍漣でつついて起こしてやろうかしら。

 

「・・・あなたは、ずうっと戦ってきたのよね・・・あなたの意地、確かに見せてもらったわ」

 

そう言いながら、ミラはティグルを優しく横に寝かせる。

 

「---あなたはとても頑張ったわ。素敵だったわよ・・・ティグル」

 

ミラはティグルの髪を優しく撫でながら愛称を呟く、それを見ていたジェイは当然―――

 

「・・・面白くない」

 

拗ねている。

 

「もう、ジェイったら・・・ほら、いらっしゃい」

 

ジェイに手を差し伸べる。ミラの手を掴むとくいっと引っ張られ、今度はジェイがミラに倒れ掛かった。ミラはタイミングを合わせ、ジェイと唇を重ねる。とても柔らかくさっきまでの戦の疲れが一気に癒えたように思えた。

唇を離すと頬を少し赤く染め、優しく微笑む

 

「ん・・・今はこれで我慢してね、ジェイ。ハーネスに戻ったら、改めてご褒美をあげるわ」

 

「俺は子供かっ・・・俺は今もらってもいいぜ?」

 

ジェイはミラに抱き付き密着する。

 

「じぇ、ジェイっ!?こ、こらっ・・・んっ」

 

ジェイに耳を甘噛みされ声をこぼす。だが、流石に自重したのかそこで止まり、耳元で囁く。

 

「・・・戻ったら褒美、期待してるぜ?」

 

「ふふ。えぇ、期待して待ってなさい」

 

お互い見つめ合い言葉を交わすと、どちらからもなく唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝・・・にしてはまだ暗いな・・・って、ミラ?」

 

ジェイが目を覚ましたのは翌日の夜も明けないころである。一緒に寝ていたはずのミラの姿がなく、気を利かせて寝かせてくれたのかと勝手に解釈する。

そう考えていると、ヘルヘイムが唐突に輝きはじめた。

 

「っ!ミラ!」

 

ジェイはヘルヘイムを掴むとすぐさま影の中へ入り、ミラの影を追う。ミラの姿を確認し安堵するものの、戦っている相手見て驚きを隠せない。

―――ミラの攻撃を素手で受け止めた!?

竜具を素手で受け止めるなど常識的に考えて不可能だ。だが、相手の言葉を聞き多少は納得できた。

 

「ヴォジャノ―イ。仲間内じゃ、そう呼ばれてる」

 

ヴォジャノ―イ・・・蛙の魔物と呼ばれている昔話の魔物である。

―――今はそう思わないと説明がつかないな

そう考えているとミラと魔物の戦闘が始まった。俺はミラの竜技が発動した後、影から飛び出し魔物にヘルヘイムを振り下ろす。魔物でさえ、驚いたのか防御をしミラの竜技の氷の上に乗った。

 

「お前は・・・黒鎌か」

 

「俺を知ってるのか・・・だが、今はどうでもいい」

 

「遅いわよ、ジェイ」

 

ラヴィアスを構えながら、少し嬉しそうに言う。すまない、と軽く言うと魔物に向かって影で生み出した槍を飛ばす。魔物は怯むことなく突っ込みジェイに拳を繰り出す。漆影と魔物の拳が衝突する。鉄塊同士を叩きつけたような轟音とともに閃光が炸裂した。ジェイが力で負け、後方へ飛ばされる。その隙にミラへ襲い掛かる。

 

「凍漣の主!お前はここで―――」

 

かたづける、とまでヴォジャノ―イは言えなかった。力を全身で感知して声を呑み、魔物は目を丸く見開いてそちら---ティグルを見つめる。

ティグルは黒弓を握りしめ、矢をつがえてヴォジャノ―イを狙っていた。その鏃には、黒い輝きを放つ力が集束しつつあった。

ヴォジャノ―イは理解した・・・すべてが囮だったことを・・・

 

―――吹き飛べ・・・!

 

強い意志を込めて、ティグルは矢を放つ。凍気を纏った漆黒の矢は、矢とは思えぬほどの速さでヴォジャノ―イを襲った。

魔物の眼は自信に迫りくる矢を正確に捉え、叩き落そうと拳を振るう。

刹那、ヴォジャノ―イの身体は動きを止め、さらに右腕の肘から先が凍り付き、粉々に砕け散り、膨大な力がヴォジャノ―イを捉える。ヴォジャノ―イの身体は鏃を中心に凄まじい勢いで凍り付いていく。そして音もなく吹き飛んだ。

初めて弓の力を目の当たりにして二人は呆然とする。

 

「・・・今のが、あなたの弓の力?」

 

「あぁ・・・まぁね」

 

「立てる?」

 

ミラは手を差し伸べる。ティグルはその手をとる。

 

「この前は気を失った。それに比べれば・・・」

 

「・・・魔物、か」

 

「私だけでは・・・あなたの力がなければ勝てなかったわ」

 

そのときだった、大地を振るわせる馬蹄の轟きを、三人は捉える。それは数百もの大軍だ。

 

「・・・敵?」

 

「いや、違う」

 

近づいてくる旗を見る・・・それはジスタートの軍旗、黒竜旗だった。

 

「ティグル!」

 

エレンがティグルであることを確認し、笑顔で馬を走らせてきたが、唐突に不機嫌な表情に変わる。

 

―――あ、始まるな。

 

ジェイは不意にそう思った・・・が、それはすぐに現実のものに変わった。俺はよく喧嘩する元気があるな、と思いながら見守っていた。二人の喧嘩を避け、リムがティグルの元へ馬を寄せる。

 

「ご説明いただけますね、ティグルヴルムド卿」

 

ティグルはリムに顛末を説明する。

 

「そういうことだったのですか・・・いろいろと申し上げたいことはありますが・・・」

 

そう前置きをしてリムはティグルに向き直ると、あたたかな微笑を浮かべて言った。

 

「まずは、お疲れ様でした。ティグルヴルムド卿」




「---何をやっているんだい、二人とも」


「当たり前だろう。私が、お前を助けにくるのは」


「エリザヴェータだ」


「彼はクロス=アーヴィング、イレ―ネ領主で・・・ボクの恋人さ」



「次回、第15話「煌炎の朧姫と剣聖」やっとボクらの出番だね。まぁ、活躍するのはボクではないけどね(クスクス)。
見てくれると嬉しいよ」

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