【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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試練

 パチッと目を覚ました優の視界に飛び込んできたのは、雲雀の寝顔だった。すぐさま距離をあけようとするが、自分から雲雀の服を掴んでいたことに気づき、数秒固まる。

 

「朝から忙しそうだね」

「……だって心臓に悪いですもん」

 

 優は雲雀にからかわれたのでスネたように返事をする。昨日ならば起こしてしまったことに対する申し訳なさの方が上回っていただろう。

 

 スネた時にプイッと横を向いたので、ついでとばかりに時間を優は確認しようと時計に目を向ける。しかし、それは叶わなかった。雲雀の手が優の視界を遮ったからだ。

 

「雲雀先輩?」

「まだ大丈夫だよ。こっちにおいで」

 

 優にしか絶対にしないだろう柔らかな口調である。優はその言葉に誘われるかのように雲雀に飛びつくように抱きついた。

 

「楽しいです」

 

 クスクスと楽しそうに優は雲雀に抱きついてた。もちろん、色気は皆無である。

 

「子どもだね」

「子どもですもん」

 

 軽口を言いながら布団の中でまったりと過ごす二人。それはイチャイチャというより、子が親に甘えている状態だった。雲雀はそのことに気づいていながらも修正をかけようとせず、優の好きにさせたのだった。

 

 

 

 時間が立ち、そろそろ動き出そうと互いに思い始めたころで雲雀は声をかけた。

 

「今日、優はどうする?」

「……迷惑ですか?」

 

 主語がなかったが雲雀には通じた。1人で向かう勇気がなく雲雀となら勇気が出るのだろう。

 

「優ならいいよ」

 

 雲雀の返事に優は余程嬉しかったのか、勢い余って抱きついたが、雲雀は馴れた手つきで受け止めた。

 

「可愛いよ、優」

 

 ポツリと呟いた雲雀の言葉に反応し、優は真っ赤になった顔を隠すように更に雲雀に抱きつく。雲雀は優の素直すぎる反応に、口角を上げた。好敵手を見つけた時と反応が同じである。雲雀の腕の中で安心しきっている優は知らないままの方が幸せなのだろう。……多分。

 

 ちなみに、この雲雀の顔を見た神は舌打ちしていた。……その神の反応も楽しんでいた人物も居たが、雲雀と優は知り得るはずもなかった。

 

 

 

 

 優と雲雀と一緒にツナのアジトの修行場へ向かっていた。優と居るからか雲雀は普通にドアから入る。

 

「優!! ……とヒバリさん!」

 

 ドアから入って来たのが優と気づき、ツナは嬉しそうに駆け寄った。が、雲雀が視界に入った途端、失速する。それでも優と話たかった気持ちの方が強いので、チラチラと雲雀の機嫌をうかがいながらも優に近づく。

 

「ツナ君、どうしたの? そんなに慌てて」

「え? ……えーと……」

 

 優の反応……というよりも、雲雀の睨みで優はツナ達が訪ねたことを知らないと察したが、上手く話題をかえれるはずもなかった。中途半端な対応になったツナを助けたのは、ツナに続いて駆け寄ってきた山本だ。

 

「風早に匣のコツでも聞けば参考になるんじゃね?って話してたところなんだ」

 

 そう言われ、優はツナ達をじっくり見る。3人とも怪我が多い。そっぽを向いている獄寺が特に。

 

 昨日のリボーンの話ではもう個別修行に入っている。それなのに今日集まっているのは恐らくリボーンが修行の具合を見るとでも言って集めたからだろう。雲雀に頼みにいったリボーンは優が来るかもしれないとわかっていたのだ。集合をかけたのはツナ達のためにというより、優に逃げずに向き合えということだろう。来る覚悟が出来た時点でスパルタに切り替わったようだ。

 

 ツナ達が揃っていることには納得しても、怪我が多いことは疑問のままである。個別に見ているならば尚更、リボーンとラルここまで無茶をさせるだろうか。獄寺とビアンキの関係が微妙な状態であったとしても、流石に多すぎる。

 

”……どうしたんだ? 君達らしくもない”

 

 無意識に優の口調がヴェントになる。そして驚いてスキが出来たツナと山本の頬に触れる。普通ならばあまりの速さに身体が反射で逃げようとするだろうが、ツナと山本は動かなかった。否、動けなかった。優が放つ空気に飲まれたのだ。

 

「優」

「……ん? 呼びましたか? 雲雀先輩」

「やりすぎはダメだよ」

「はぁい」

 

 あっさりといつもの雰囲気に戻った優は雲雀のいうことを聞いた。

 

「これで少しは楽になったらいいけど……」

「すごいよ、全然ちがうよ! ね、山本!」

「ああ。ツナのいうとおりだ。サンキューな」

「そっか。良かったー」

 

 のほほんと会話を続けている3人とは違い、先ほどの優の変化を雲雀に説明を求める視線を送るものも当然いた。雲雀は目を閉じ首を振った。この時代の雲雀にもわからないのだ。そして一番厄介なのは優自身が自分の変化に気付いていないことだ。

 

 ツナと山本に体力を渡し終えた優は、獄寺の元へと向かう。

 

「オレはいらねぇ」

「え……っと、うん、わかった」

 

 どう考えても一番必要なのは獄寺なのだ。しかし本人に拒否されれば無理強い出来るわけがなく、優は伸ばそうとした手をおろし、いつものように笑った。

 

「……今日は無茶するつもりはねーんだ」

「そっか。良かった……」

 

 安心したように笑ってから、雲雀の元へと優は戻っていく。その後ろ姿を獄寺が見ていると、僅かな殺気を感じ舌打ちをしてからガンを飛ばす。気に食わねぇのかも知んねーが、知ったことではない、と。

 

 獄寺はヴェントとして放った優の言葉で、薄々感じていたが、優は獄寺達を頼りにしていないとはっきりとわかってしまったのだ。そしてそれは獄寺だけでなく、ツナ達も同じように感じたのだろう。しかし言葉で伝えても意味はない。強くならないと話にならないのだ。もっとも修行が過激になり怪我を負いやすく、優に心配されるという本末転倒なことになってしまったが。

 

 リボーンは優に向き合えという意味だけでなく、獄寺達が気付けるようにと集めていたのだ。不意打ちだとしても体力をもらってしまった2人は後で落ち込むだろう。裏でそんなことが起きていると知らない優は、定位置である雲雀の斜め後ろに立つ。

 

 それを遠くから眺めていたラルはリボーンの言葉に改めて納得していた。確かにうまく回ってはいる。ただし面倒極まりない。人のことは言えないが、全員不器用すぎる。それに拍車をかけているのが、優を溺愛している雲雀の存在だろう。少しでも優を傷つければ、簡単に牙を剥く。後ろに怪物が居るとわかっていて、踏み込むのは容易ではない。少なくともラルは踏み込みたいとは思わなかった。

 

「もういいよね。僕は忙しいんだ」

 

 ポツリと呟いた人物に視線を向けて、ギョッとする者が多数。特にツナは雲雀の匣兵器が近づいてくるのだから、驚きの量は凄かっただろう。また注入された炎の量を見えてしまったのも不運である。

 

「ひっ!!」

 

 悲鳴をあげると同時に額に撃たれた衝撃が走る。リボーン以外では間に合わなかっただろう。超モードになったツナはリボーンに礼の言葉を送りたかったが、雲雀の攻撃でそれどころではない。

 

“これはまた……”

 

 ランボがきたのでヴェントの声で発していたが、優は全力で引いていた。そして抵抗も虚しく閉じ込められてしまったツナを見て、自分には絶対に出来ないことだと確信した。

 

「ヴェント!」

 

 雲雀を止めろと獄寺と山本に訴えられ、仕方なく優は口を開く。

 

“僕はこの件に口出ししないと決めている。彼は死なないさ。……違うな、彼は優しいからここで死ねない”

 

 ツナが諦めるはずがないと優は断言した。ここでツナが死ねば、彼らは雲雀を一生恨むだろう。争いが好まないツナがそんな未来にさせるわけがない。

 

 手を出す必要がないとその場に座り込んだ優を見て、山本と獄寺は顔を見合わせた後、トレーニングルームから出て行くことを選んだ。限られた時間を有効に過ごすべきだ、と。

 

 

 

 しばらく経つと酸素が足りず、ツナは極限状況に陥いる。叫び声が聞こえる中、雲雀はヴェントに問いかけた。

 

「もし沢田綱吉が死んだら君はどうする?」

 

 外のことを抜きにした問いかけだと察した優はしばらく沈黙した後、口を開いた。

 

“特に変わらない”

 

 雲雀とは正反対の答えだった。

 

 雲雀は自分の気持ちを優先する。優には気をつかっているが、それは雲雀が優の心が欲しいからだ。

 

 一方、優は自分の気持ちは後回しにする。ツナの気持ちを汲み取って……と言えば聞こえがいいが、雲雀のような信念もない。だから綻びが起きて、どこかで歪む。作り笑いがいい例だ。

 

“不服か?”

「そうかもしれない。君に恨まれるのも面白そうだから」

“……相変わらず変わった感性の持ち主だ”

 

 優の呟きは聞き流し、雲雀はツナへと視線を向ける。ここで死んでしまえばそれまでの男だが、優の心に一生住み着く。それは面白くない。それならいっそのこと、恨んで恨み尽くして欲しい。そうすれば雲雀だけを見る。

 

「……少し欲求不満なだけだよ」

 

 ツナの様子を見に戻ったリボーンからの殺気への返事だった。

 

「それをすれば僕の一番欲しいものは手に入らないのはわかっているから安心しなよ」

「信じるぞ、ヒバリ」

 

 2人のやり取りがよくわからず優は首をかしげていると、ツナがヒバリの匣兵器を打ち破った。

 

 喜んだのも束の間で、協力する代わりにツナが打ち破った後は雲雀の好きにしていいとリボーンと約束していた。これからが本番だと、優は自身を落ち着かせるように息を吐く。

 

“フゥ太、ランボ。少し離れよう”

「うん、わかった」

 

 ラルの実力なら大丈夫だろうと判断し、優は2人を守るように前に立つ。すると、ズボンが引っ張らたので、視線を向ける。どうやら雲雀の殺気が怖く、ランボは隠れようとしたのだろう。それでも視線は戦いから目を離さないのは憧れてからかもしれない。優も時折眩しく感じるから。

 

“焦らなくていい、君はまだまだこれからだ”

 

 ランボは言い返したりせず、素直に頷いた。このやり取りを見ていたフゥ太はやっぱり叶わないなぁと思った。ランボにはヴェントの正体を教えていないが、本能で気づいている。昔から優とヴェントの言葉はよく聞いていたから。

 

 それなのにフゥ太がランボの保育係になったのは、ランボが望んだため。優の後ろに居れば安心だとわかっているが、ツナ達と同じ道を進みたくなるのだ。守れる立場になりたいと。もっともランボ自身、泣き虫で根性がないため、すぐに優の後ろに行って甘えてしまうが。

 

「でも僕はもうちょっと頑張った方がいいと思うよ」

 

 ……だって僕やツナ兄達が優姉と仲良くしてもヒバリさんはムカついて睨むだけなのに、ランボだけは近づくと咬み殺そうとするんだよ? 優姉の鈍さは筋金入りだからもう諦めているけど、ランボも自分の気持ちに気付いてないんだよね。あんなにヒバリさんに敵視されてるのに。

 

 ツナと雲雀の戦いに夢中になっているため、2人にはフゥ太の呟きは聞こえなかったようだ。もう少しランボが大きくなった時に起こる問題に、未来を教えることが出来ないフゥ太は苦笑いするしかなかった。




ストックを放出しましたが、まだ連載再開ではありません。暇つぶし感覚で書ける小説ばかり投稿してすみません。
とりあえず心は無駄に元気ですとだけ伝えておきます。

正直、いつ更新だよと思われる方が多いだろうなと私も思ってます。
でも多分これがちびっこクオリティ(ぇ
クラスメイトKも一年半後に再開して完結させたしね。
ええっと、ごめんね!←

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