【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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 優がツナのアジトへ向かわなくなってから数日がたった。その間、優はしっかりと家事をこなしていた。雲雀に言われたものの、これまでの生活をかえるのは難しく、また家事をしなければ暇だった。それでも眠る少し前に忙しい雲雀を捕まえて、一緒に過ごす時間を貰って甘えた。特に何か話すわけでもなく、ただお茶を一緒に飲んでるだけだが、優はその時間が好きだった。

 

 といっても、ふとした拍子に限界がきて優は急に泣き出す。この環境が優にとってストレスであり、また話せないのも強いストレスになっている。もっとも、優は詳しく話せないだけで話すことは出来るのだ。ただ優が上手く甘えることが出来ないのが原因である。そんな優を雲雀は見つけ出し、泣き止むまでずっと側に居た。

 

 そんな日々を繰り返していると雲雀のアジトに訪問者がやってきた。

 

「ちゃおッス」

「こんにちは。どうぞー」

 

 身長からある程度予想していたのもあり、優は驚く様子は見せなかったが、ホッとした素振りを見せながらリボーンを席へと案内した。未だ、ツナ達にどんな顔をして会えばいいのかわからないのだろう。

 

「ちょっと待っててね」

 

 優のことを思って話を終わらせて去ったリボーンが、優に無理強いするとは思えず、雲雀に会いに来たと優は察したのだ。案の定、優の頭の上に乗っているヒバードに頼んでいてもリボーンは何も言わなかった。

 

 雲雀を呼びに行ったヒバードを見送って、優はお茶の用意をしながらリボーンに声をかけた。

 

「……最近、どう?」

「京子達は頑張ってんぞ」

「そっか」

 

 優はホッとし微笑んだ。心配だったのと、未だに黒川のメールを無視し続けていたこともあり、本当は顔を見せに行きたかったのだ。

 

「ツナ達は新しい修行に行き詰ってるところだな」

「新しい修行?」

「少し前から個別で特訓を開始したからな」

 

 優は関心したように頷く。どうやら獄寺と山本が怪我をしなかったこともあり、もう個別の修行に入っているらしい。そして1番行き詰ってるツナのためにリボーンはここにやってきたのだろう。

 

「行き詰ってるのかぁ」

 

 基本的に戦闘に関してはすぐに身につく優はイマイチわからない。この世界にきてから優が1番苦労しているのは感情のコントロールである。もっともそれは大事なものが出来たからだが。

 

 具体的なアドバイスも出せなかったところで、雲雀が顔を出す。軽く挨拶を交わした2人を見て、優は下がろうと腰をあげる。

 

「どこ行く気?」

「え? 私は邪魔ですから」

「かまわないよね? 赤ん坊」

「ああ。問題ねぇぞ」

 

 若干雲雀がリボーンを威圧したこともあり、申し訳なさそうに優はリボーンに頭を下げて座りなおす。しばらくの間、本当に雲雀の横に座ってていいのかと心配していたが、2人とも気にする素振りを全く見せなかった。

 

 どうやらリボーンはツナにボンゴレの試験を受けさせるために雲雀の協力を頼みに来たようだ。面倒なことを引き受けるため、試験をクリアしたツナを好きにしていいという条件を聞いて話をのむ雲雀も大概だが、その条件を出すリボーンもなかなか酷いものである。優は溜息を吐いた。

 

「……止めねぇのか?」

 

 雲雀と会話をしていたリボーンがふいに優を見て言った。

 

「そりゃ止めたいよ。でも雲雀先輩がやる気になっちゃったし、リボーン君は私を説得させるつもりできたみたいだし」

 

 ちょっとスネたように優は言った。ここしばらく優はツナのアジトに顔を出さなかったのだから、優に隠したまま実行できただろう。堂々と話したということはたとえ優が反対してもリボーンは実行する気なのだ。そもそも優は真正面から言われれば弱い。

 

「まぁそれだけリボーンが真剣ってことだから、私からは何も言えないよ。リボーン君の家庭教師の腕を私は信頼してるのもあるからねー」

「そうか」

 

 どうしても必要なことだと優は気持ちを抑えるように息を吐いた。たとえこれから先に必要だという未来を知っていても、感情が邪魔をし簡単に割り切れることではない。

 

「何よりも私の力不足が1番の原因ですから」

 

 そもそも優がツナの相手を出来れば、全て丸く収まる話である。そのため実行する雲雀にほどほどに頼むのも、文句をいうのも筋違いなのだ。

 

「優が、悪い……?」

 

 リボーンとの会話に口を挟まなかった雲雀がポツリと呟いた。優は隣から流れる不機嫌な気配に思わずビクリと肩を跳ねた。

 

「何でも自分が1番悪いと決め付けるんじゃねぇぞ。そもそもツナが一人で乗り越えれれば問題ねぇ話だ」

 

 ボンゴレの試練には混じり気のない殺気が必要なのでツナ一人では無理だろうという前提があるのだが、優はそこまで頭が回らなかった。すぐに頷かなければ、ツナの命はなくなる。それほど隣の人物の機嫌が悪い。

 

「自分を含めた適材適所を理解しねぇと、ツナの参謀にはなれねぇぞ」

 

 ニッと笑い、格好良く決めたリボーンに向かって口を開いた人物がいた。

 

「何言ってるの? 優は僕のだから」

「決めるのは優だぞ」

 

 雲雀とリボーンから真剣に見つめられ、優は目を泳がせながら言った。

 

「か、かけもちで……」

 

 リボーンはその回答に納得したが、雲雀は面白くなかったようでムスっと機嫌が悪くなる。ただ先程と違ってスネたような反応なので優はどうしようとは思っていても怖がってはなかった。

 

「じゃ雲雀、明日頼んだぞ」

 

 優の困惑を他所に話が終わったリボーンは去っていく。そんなぁとショックをうけるが、行ってしまったのは仕方がない。優は雲雀の顔を恐る恐る見つめる。

 

「……僕が1番?」

「もちろんです!」

 

 即答した優に雲雀は満足したように微笑む。その姿を見て、優は思わず下を向いた。ギュッと服を握りしめてることから、いつものようにただ恥ずかしがってるわけではないようだ。

 

「優?」

「……何でもないです」

 

 明らかなウソだった。ポロポロと涙を落としているのだから。雲雀はすぐさま優を抱きしめた。

 

 数分立てば、いつものように優は落ち着き雲雀から離れた。

 

「……すみませんでした」

「謝る必要はないよ」

 

 この流れも毎度のことだ。だからこそ優は気になった。

 

「何も、言わないんですね」

 

 雲雀は優を慰めるだけで、問いただすようなことは一切しなかった。1度2度ならまだしも、ほぼ毎日繰り返されている。雲雀は何も話そうとしない優に苛立たないのだろうか。

 

「……ああ、そうか」

 

 雲雀は思い出したような反応をしたので、優は不思議そうに見つめた。

 

「僕は優が話せない内容の中に呪いも入っているのを知っているから」

「……そうだったんですね」

 

 それを知っていれば、やさしい雲雀は無理に聞き出そうとはしないだろう。優は納得したが知られたくなかったので視線が下がる。10年間に自身が変わったことを実感した。

 

「言っておくけど、過去の僕も知ってるから」

「え、なんで、どうして!?」

 

 雲雀の言葉で優は勢いよく顔をあがる。軽くパニックになりかけている優を落ち着かせるように雲雀は頬を撫でた。

 

「……あの時、盗み聞きしていたんですね」

 

 リボーンが話したのかと一瞬疑った優だが、すぐにそれは自身で否定した。リボーンは話さない。呪いについてなのだから特に、だ。そうなると自ずと答えがわかる。雲雀だけでなく、ディーノも聞いていたのだろう。道理でリボーンが話してもディーノが驚かなかったわけだ。

 

「僕は責任を感じて優と一緒にいるわけじゃない」

 

 優が間違った方向へ考え込む前に雲雀ははっきりと伝えた。

 

「幼い僕は優に勘違いされたくないから、絶対に言わなかったと思う。でも呪いのことで苦しむ未来になるなら、優は僕が知っているとわかっておくべきだと思った。だから今、僕が言った」

 

 ジッと雲雀の顔を優は見つめ続ける。声にならなかった。

 

「僕の前では我慢しなくていいんだよ」

 

 その言葉がきっかけになったのか、優は声をあげて泣いた。感情のままに泣き喚いた。子どものように……。

 

 

 その後、泣き疲れて寝入ってしまった優を雲雀は慣れた手つきで抱き上げた。優の部屋に運ぶために襖をあける前に開く。雲雀の手が塞がれていると察して草壁が気を利かせたのだ。

 

「今日はもう休むから」

「へい」

 

 今までと違い、絶対に離すものかというように雲雀の服を握り締めて優は寝ている。当然雲雀は無理矢理はずすつもりはないので、このまま休むという選択しかない。そして草壁も反対する気はなく、優の手を見てホッとしていた。表に出すことはなかったが、草壁もかなり心配していたのである。

 

「恭さん、オレは何も聞いてません」

「そう」

 

 付き合いの長い2人では、今回の件は報告せずとも暗黙の了解に入る。あえて口にしたのは念のため。優が苦しんでいる姿を見て雲雀が何も感じないわけがない。雲雀だって普段どおりではなかった。

 

 

 

 

 その日、優は夢を見た。

 

 並盛で生まれ育ち、アルコバレーノでもない優を雲雀が見つけてくれる夢。優は幸せで眠りながらも泣いた。


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