【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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優の不安

 何度か深呼吸を繰り返した後、優は雲雀のアジトへ足を踏み入れた。すると、スパンという襖の開いた音が聞こえ、優は何度も瞬きをする。雲雀も草壁もそのような音を出すとは思えないからだ。何か問題が起きたのだろうと優は察した。

 

 すぐに廊下で優は雲雀と出会う。優が今居る位置から雲雀の向かう場所はツナのアジトだろうと考え、道をあける。理由は向かいながらでも聞けるのだから。

 

「優」

「あれ? 私に用だったんですか?」

 

 道を譲ったはずなのに、雲雀は優の前で立ち止まったことからツナ達ではなかったらしい。

 

「どうかしましたか? お腹が減りましたか?」

 

 お腹すいたという言葉で雲雀は優を引き止めることが多かった弊害か、優の中で雲雀は食いしん坊キャラになってしまっている。

 

「……違うから」

 

 失敗を誤魔化すように優はエヘヘと笑う。その様子を見た雲雀は軽く溜息を吐いてから、軽々と優を抱き上げた。

 

「えっ? えっ? 雲雀先輩?」

 

 優の声が聞こえていないかのように雲雀は無言でスタスタと歩く。戸惑っている間に優は自分の部屋へと戻ってきた。

 

「何か話があるんですね」

 

 切り替えて真面目モードに入った優だが、横抱き状態である。まったく締まらない。

 

「あのぉ、おろしてもらえますか?」

 

 優の言葉を聞き入れたのか、雲雀はベッドに腰をかけて膝の上に横抱きのまま優をおろした。カァァと真っ赤になる優。雲雀のその行動は予想外だった。

 

 雲雀が視線をおろせば、カチコチに優は固まっていた。その様子に気にした素振りもみせず、雲雀は優のフードを取って声をかけた。

 

「ここなら外に声が漏れない。思いっきり泣けばいい。もう我慢する必要ないから」

 

 優は驚いたのか、再び何度も瞬きを繰り返す。雲雀がポンポンと背中を叩けば、限界がきたらしい。

 

「…………うぅーー」

 

 言いたいことを我慢しているような泣き方だった。雲雀は何も言わずにそっと抱きしめ、背を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 部屋を出た雲雀は扉の前で軽く息を吐いた。雲雀の予想よりも優が崩れるのが早かった。それに思った以上に、優は精神疲労がたまっているようだ。泣きつかれたことを考慮しても、眠りに落ちやすい。食欲がなくなるだけに留まらず、弱っていく未来まで想像してしまった。

 

 ギリッと雲雀の手に力がこもる。この時代の優も週に1度ベッドから起き上がれない日があった。次の日にはケロっとしていて、少し疲れただけという本人の言葉をそのまま受け取っていたが、もし優があの感情を抑える修行をしていたなら誤魔化されていた可能性がある。雲雀は優の纏う風の気配からウソや感情を読み取っていたのだから。

 

 余談だが、雲雀のアジトは優のために風通しをよくしている。今回雲雀が優が無理しているとすぐに気付くことができたのは、風の気配が変わったことを感じ取ったからだった。

 

「恭さん」

「……なに」

 

 すこぶる雲雀の機嫌は悪い。草壁はそんなこと百も承知の上だろう。それだけ付き合いは長い。だからこそ、雲雀はムカツキながらも耳を傾けた。くだらない用件で今の雲雀に草壁は声をかけたりはしない。

 

「風早さんに会いたいという方々が訪ねてきています」

 

 チラッと視線を草壁に目を向けた。それだけで案内しろという意図を察した草壁は歩き出す。ツナ達ならば草壁が追い返すことから訪ねてくる人物は予想できた。

 

 襖を開けると雲雀の予想通りの優の女友達が居た。ツナも一緒に居たがすぐに興味がないように視線を外し口を開いた。

 

「赤ん坊の差し金?」

 

 雲雀の声に反応したかのように、天井裏からリボーンがふってきた。

 

「ちげぇぞ。オレはこの件にはノータッチだ」

「そう」

 

 確認が終わると雲雀はいつもの席に腰を下ろした。その隣には雲雀には似合わない座布団があり、誰の席かすぐに察することが出来た京子達は空白なことに悲しそうに目を向ける。

 

「優には会えないから」

 

 わかりやすい視線だったこともあり、雲雀は京子達が口が開くよりも早く事実を教えた。

 

「なっん……なんでなのよ」

 

 声を荒げようとした黒川だったが、雲雀の一睨みで静かに問いかけることになる。

 

「君たちと会うのは優の負担になる」

 

 京子達の反応に見向きもせず、雲雀は草壁が用意したお茶に手を伸ばした。

 

「……あの、雲雀さん。ヴェントは?」

 

 ツナの言葉に雲雀は大きな溜息を吐く。優のことを思って京子達がきていることを純粋にただ知らせたいのかもしれないが、それすらも優の負担になるのだ。

 

「ヴェントを呼ぶつもりはないよ。最終的にあれは優よりも君たちを選ぶ。……何があったかは知らないけど、余計なことは言ってないよね? 特に君」

 

 雲雀の視線にツナの顔色が悪くなる。言葉は選べというアドバイスを受けていたにも関わらず、ヴェントの名を呼んで説得しようとしていた。無意識に京子達に肩入れをしていたのだ。

 

 ツナの頼みでもそれは聞けないと考えていた優だが、もしあの時ツナがはっきりと内容を口にして頼んでいたなら話は変わっていただろう。それほど優はツナに弱いのだ。

 

「話を戻すよ。優のことを思うなら帰って。今はその時期じゃない」

 

 京子達は動かなかった。元々、雲雀が壁になると予想していたのもある。さらにこれぐらいで帰ってしまうなら、咬み殺される覚悟までしてここまで来ない。

 

 ツナは京子達と雲雀の間で揺れていた。どちらの言い分もわかるのだ。優のためにここでひけば、京子達が不安定になる。京子達のために無理を通せば、優の負担になる。優柔不断のツナにはどちらを選ぶということは出来なかった。

 

 そのツナの苦悩をなんてことのないようにリボーンは言った。「おめーら、帰るぞ」と。これにはツナも焦った。京子達はそんな簡単に諦めれることではないし、まして納得できることでもない。

 

「リ、リボーン!」

「雲雀の話を聞いてなかったのか? 今は無理って言ってたんだぞ」

「……あれ? それって……」

 

 期待するような眼差しでツナは雲雀を見るとお茶を飲んでいた。何の反応もないように見えるがツナにはわかった。雲雀は肯定しているのだ。気に入らなければ、すぐに咬み殺そうとするのだから。

 

「ヒバリさん、ありがとうございます!」

 

 目を輝かし頭を下げるツナを見て、雲雀と付き合いの浅い京子達はやっと理解した。優のためだとしても、雲雀が京子達と会えるように動いてくれるということを。ツナに続いて京子達も頭を下げる。

 

「……わかったなら、さっさと出て行きなよ」

 

 ツンデレ……ではなく、雲雀の限界に近いのだ。これ以上群れたくない。

 

 本気で嫌がってると気付いたツナ達は再び頭を下げて慌てて立ち上がる。優のためにならと覚悟はしていたが、好き好んで咬み殺されたくはなかった。

 

 草壁が案内するために襖をあけた時にポツリと雲雀は呟いた。

 

「優はこっちから離さない限り、戻ってくる。だから離れたと勘違いしないように、気をつけた方がいい。……現状維持なら問題ないよ」

「……ありがとう、助かったわ」

 

 雲雀の助言に反応したのは黒川だった。優の負担になるのならとメールを送るのを止めて待とうとしていたのだ。

 

 今度こそツナ達は雲雀のアジトから去っていった。草壁がツナ達を送り届け戻ってきたことを確認してから雲雀は立ち上がる。そして草壁から溜まっている報告書を受け取り、雲雀は優の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 重たい瞼をゆっくりとあけ、どこかボーッとしていた優に雲雀は声をかけた。

 

「おはよう」

「……おはよ、です」

 

 まだ寝ぼけているのか、優は雲雀の動きを眺めていた。立ち上がった雲雀は濡れたタオルを絞っている。それが終われば、こっちにくるのでニヘラと優は嬉しそうに笑う。

 

「大きい、雲雀先輩だぁ」

「そうだよ」

 

 優の反応に雲雀は微笑みながら返事をし、絞ったタオルを目に当てた。ひやりとした感覚に優は気持ち良さそうにしていたが、徐々に意識がはっきりしてきたのだろう。ガバリと身体を起こした。

 

「……ど、どうし……よ」

 

 起きた反動で落ちたタオルを握り締めて、すぐに立とうとしたが、雲雀がそれを許さず肩をおさえた。血の気が引いた優を立ち上がらせたくはなかったのだ。

 

「大丈夫だから」

 

 雲雀は少しでも落ち着かせるようにゆっくりと言って抱きしめた。

 

「…………すみませんでした」

 

 しばらく雲雀の心臓の音を聞いたおかげでパニックからは脱却したようで、ポツリと優は謝罪を口にした。そしてゆっくりと離れ、雲雀に笑いかけながら言った。

 

「以後、気をつけます」

 

 雲雀は軽く溜息を吐いて、口を開いた。

 

「確かに僕は優が作ったご飯を食べたいって言ったよ。でも優に無理させてまで食べたいとは思ってないから」

 

 ジッと雲雀の目を見た後、優は嬉しそうに笑って頷いた。10年前の雲雀ならそれで納得して終わっただろう。だが、この時代の雲雀はそれだけでは納得せず、再び口を開いた。

 

「僕のことを少しは信用して」

「信用してますよ?」

「僕個人にはね。でも、僕の優に対する思いは?」

 

 優はすぐに答えることは出来なかった。だから雲雀は優の頬に手を添えて目を合わせた。

 

「良い子じゃなくてもいいんだよ。僕は幻滅しない」

 

 言葉に偽りはないという意味を込めるかのように雲雀は優に微笑んだ。戸惑っている優を再び抱きしめて背をポンポンと叩き、目を閉じた。雲雀は腕の中に居る優よりも成長した優がポツリと言った言葉を思い出していた。

 

 ――ずっと怖くて仕方がなかったんです。

 

 そういって優が指したのは雲雀だった。驚きに目を見開いた雲雀を見て優はクスクスと笑った。

 

 ――だっていつか正気に戻って、私は捨てられると思ってましたから。

 

 雲雀の機嫌が急降下していくのを見て優はすぐに首を振った。今は違う、と。そしてそう思ってしまったのは雲雀のせいではないと。

 

 優は雲雀に甘えるかのように抱きつきながら、ゆっくりと語った。

 

 ――親戚に預けられて、私は両親を待っていたんです。でもいつだったかなぁ。悟ったんです。私は両親に捨てられて、もう迎えは来ないって。気付いた時には遅かったんですよね。良い子にしてれば迎えに来るって思い込んでしまってて、外面だけ上手くなったんです。でも他の生き方は知らなくて……。

 

 ――変わったのはみんなと出会ってからですね。特にツナ君には参りましたね。生き方を忘れてしまった私を元に戻してくれましたから。……ツナ君に怒らないでくださいね。あの時の私には必要な言葉だったんです。それで恩を返すってことで、ツナ君の手助けと言い聞かせて側に居座ったんです。居心地が良かったから。だって良い子の私を頼ってくれるんですよ? 無駄じゃなかったと思えたんです。

 

 ――でもまぁ1番のきっかけは……あなたと出会ったことですね。出会った当初は理不尽でしたもん。いきなり呼び出されるし、私の話を聞かないし。「えー」とか不満を言えば嫌われるとおもったんですけど、上手く行かないし。でも本当は誰よりも耳を傾けてくれていたんです。だから好きになったのは必然でした。

 

 ――好きになって、怖くなったんです。だから私の中で予防線を張りました。だっていつも迷惑かけてますから。捨てられるって思い込んでいたんです。その一方でもう捨てられたくはないって気持ちもあって。未来を語ってしまったり、嫌われないように良い子にならなきゃいけないって思ったり。結局良い子のフリなんで、上手くいかないんですよね。

 

 ――ずっと怖かったんです、大好きだったから。友達だったら良かったのにって何度も思いましたね。

 

 雲雀はゆっくりと目を開けた。その時は友人関係ならば出来ないことをしてたっぷりと甘やかしたが、今の優にはそれは使えない。

 

「怖ければ、少しずつ僕を試せばいい。僕は……幼い僕も嫌な顔はしないよ」

 

 これ以上、言葉や態度で示しても優は戸惑うだけだろう。そう判断した雲雀はそっと優から離れる。ただ離れたことで本当に信じていいのか悩んでそうだったので、雲雀は額にキスを落とした。

 

「……あ、ありがとう」

 

 雲雀はその声を聞いて、条件反射のように優の唇を指でなぞった。目を見開いた後、優は僅かに視線を泳がせた。いつもと違う優の反応に、雲雀は我に返る。

 

「雲雀先輩……?」

「優のここが美味しそうだったから」

 

 ボカしもせず、はっきりとした言葉に優は赤面する。その反応に雲雀が笑ったことで優はからかわれたと判断し、雲雀を睨んだ。もっとも、そんな顔をしても可愛いだけなので、雲雀は満足そうに微笑むだけだった。




難産でした……。
10回は書き直した気がする。
遅くなり申し訳ございませんでした。

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