【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
ディーノとの電話が終わり、昨日の部屋へと顔を出せば、雲雀はもう起きていてご飯を食べていた。
「おはよう」
「おはようございます。草壁さんもおはようございます」
「はい、おはようございます」
優は雲雀の隣らしい。草壁は部屋の隅で待機しているのだがいいのかなと首を傾げる。もっともすぐに草壁が気にしないでくださいと目で訴えたので、大人しく座ることになったが。
「先に食べてるよ」
それは別にいいのだが、自分の分まで用意してあることに優は驚く。
「これって……」
「僕が作った」
その行動にやはり違和感があるのか、優は雲雀の顔をジッと見つめる。
「前に言ったよね? 僕の方が朝食を作ってるって。それに……僕が作った方が優は食べるから」
「……そうでしょうね。残せませんよ。申し訳ないですから。では、いただきます」
雲雀がわざわざ作ったものを残せるとは思えないと優は力強く頷いた。
優の様子から間違った解釈をしていると気付いたが、雲雀はそのまま流した。風の波動を持つものが居ないと知ってから、食が細くなったことは知らなくていい。……もっとも、目の前にいる優も同じ道を辿る可能性が高いが。
「今から慣れていた方がいい。過去の僕も当たり前のように作るようになると思うから」
「……出来ればその未来は避けたいですね」
大真面目に優は言ったが、不可能だろうと雲雀は思った。目の前にいる優が同じ道を辿れば、過去の自身も同じ道を辿ることになるのだから。たとえその道を辿らなくても、前日の夜に無理をさせる未来を避けれるとは思えない。
「……美味しいからね」
「ん? はい。とっても美味しいですよー」
朝食を食べながら力強く返事をする優をみて、雲雀は満足そうに頷いた。
ちなみに、2人のやり取りを聞いていた草壁は頭を抱えたくなっていた。禁欲生活に雲雀がどれだけ我慢できるのか。残念ながら草壁の苦労の日々はまだ始まったばかりである。
朝食を食べた優は早速ディーノに教えてもらった情報を伝えにツナ達のもとへと向かう。ダンボールを持ちながら。中身は子ども達のお菓子である。もう用意してくれたらしい。余談だが、雲雀の力ではあるが、手を回したのは苦労人の草壁である。
どうやら食堂らしき場所で揃っているようで、騒がしい。
「ヴェント!」
“……どうも”
優がきたことに嬉しそうな顔をするツナを見て、気分が上昇する。ほんの少し、邪魔になるかもしれないと声をかけるのを躊躇していたのだ。こういう時にいつも助け舟を出すのはツナである。
「ヴェントも一緒にどう?」
“僕は向こうで食べてきた”
「そっか。……あれ? ヒバリさんは?」
“彼は忙しそうだったからなぁ”
ゆっくりしているように見えるが、雲雀は眠るのも起きるのも優より早い。恐らく優のために雲雀が手を回して保護したのが関係している。ほほ毎日報告が届くので、状況に慣れるまで手が離せないだろう。優も手伝おうとしたが、修行の方を優先するようにと言われたのだ。
“正直、僕も彼に手伝ってほしいと思っているんだが……今は難しそうだ”
γとの戦闘をしっかり見ておけば良かったと溜息を吐きそうなぐらいである。なぜなら雲雀はγの戦闘で怪我をしていなかった。優の匣兵器が関係してそうだが、確実に原作より強くなっているだろう。
「なぁ。何持ってんだ?」
机に置けば、すぐにランボが興味津々で覗き、中身を見て飛び跳ねた。そしてすぐに手を伸ばそうとしたので、優は風でランボを浮かせる。
「オレっちの~~!」
「はひ!?」
ジタバタ空中で暴れるランボをみて、ハルが驚いた声をあげた。コソコソと京子達に誰かと確認していることに気付いていたが、能力までは聞いていなかったらしい。
“君の分だけじゃない。イーピンも一緒だ。それと彼女達の言う事をよく聞くこと。ちゃんと良く聞けば、また僕が持ってくるぞ”
ジッとランボの目を見ながら優は話しかけた。もっともフードをかぶっているので、あまり意味がないかもしれないが。
「……わかったもんね!」
「なんでアホ牛はコイツの言うことはこうも聞くんだ……」
どこか疲れてる獄寺を見て、優は朝食の間にも何かあったんだろうと察した。アドバイスしたいところだが、理由は優にもわかっていないので何も出来ない。
そのため、話題をかえることにした。ランボは空を飛んでるのが面白いようなのでそのまま浮かばせておく。羨ましそうに見ていたイーピンも一緒に。
“あー、笹川了平の居場所を掴んだぞ”
「ヴェント君、本当!?」
“ああ。彼はイタリアだ。ヴァリアー……強い奴と一緒に居るらしい”
「ヴァリアーと!?」
“そうだ。ディーノからの情報だ。間違いないだろう”
ツナ達の反応を見て、京子は安心したようにホッと息を吐いた。
“……連絡とってほしいか?”
「出来るの?」
京子には珍しく食い込み気味で優の言葉に反応した。
“……出来ると言えば出来る”
電話をしたい京子の気持ちもわかるが、優はあまり乗り気じゃなかった。
「ヴェント、どうしたの?」
京子のためならすぐにかけそうな優が二の足を踏んでることにツナは疑問に思ったようだ。
“ルッスーリアにかけるつもりだが、ベルが出そうな気がして……”
ツナ達は納得し、生温かい目で優を見た。了平にかわってもらうために、何十分もベルの相手をする羽目になりそうだと。実のところ、優は疲れるがベルの相手をするのは嫌ではない。ただ雲雀の機嫌が悪くなりそうな気がして嫌なのだ。
了平と番号を交換していれば、こんな問題は起きなかっただろうが、基本ツナとボンゴレアジトに連絡が取れれば何とかなる。ヴェントのケイタイには獄寺と山本すら入っていなかったのだ。接点が少ない了平が入っているわけがない。ちなみに獄寺と山本は優の方のケイタイでは交換している。優の中で変なこだわりがあるらしい。
“……時間がかかるかもしれないが、待っててくれ”
一言二言は問題なかった。だが、すぐにルッスーリアがわざわざベルを呼んだ。慌てて止めようとしたがすでに遅く、ベルはやってきた。その声に反応したのか、スクアーロも。
ヴァリアー側はスピーカーにしたようだが、京子達に聞かせても大丈夫な内容を話すか怪しいので、優は一人で対応することになる。そしてディーノと同じような流れを説明することになり、スクアーロの反応に耳が痛い。もちろん比喩ではない。
“そういうわけで、ボンゴレアジトに笹川了平の妹も居るんだ。彼女を安心させるためにも、彼と電話をかわってほしい”
「ちょっと待っててねぇ~」
ようやく、話が進んだと優は溜息を吐く。少し油断したところにスクアーロの怒鳴り声が響き渡り、優は思わずフードの上から額を押さえた。どうやら山本と会話をしたいらしい。伝えたい内容が想像できたので、ポイッと山本にケイタイを投げる。
受け取ったケイタイを不思議そうな顔で見ていたが、聞こえてくる声に山本は察したらしく相手をしていた。笑って対応する山本の懐の大きさに優は思わず感動する。
「あいつらも無事のようだな」
“無事も何も元気すぎる。僕はもう疲れた”
癒しを求めて優は楽しそうに空を飛んでいるランボとイーピンを見つめる。だが、そろそろ飽きてくるころだろう。優はゆっくりとおろす。すると、2人からのお礼の言葉をもらい、優は微笑んだ。
「あの……」
“今、君のお兄さんを呼びに行ってるところだ。時間がかかった、すまない”
「ううん、ヴェント君ありがとう」
コクリと頷いていると電話の向こうに了平がやっときたらしく、山本にケイタイを投げ渡された。
「あぶなっ……!」
野球の時のようなスピードで投げられ、ツナが声をあげたが優の目の前に届く前には速度は緩やかになっていた。当然、問題なく優はキャッチする。
“気をつけろ。彼女に当たったらどうするつもりだったんだ……”
「わりぃわりぃ」
はぁと軽く溜息を吐いてから、京子にケイタイを手渡す。
“積もる話もあるだろうし、後で取りに来るよ”
「え……でも」
“この通話以外、僕じゃなきゃ操作できないから”
「そっか。ありがとう、ヴェント君」
“それはさっき聞いた。ジャンニーニ、悪いが案内してくれ”
「お任せください」
「待って、オレも行くから!」
優の言葉に反応しツナは慌ててご飯を飲み込み立ち上がる。獄寺と山本も食べ終わっていたので立ち上がり、ゾロゾロと食堂から出て行くことになったのだった。
ジャンニーニが道案内している途中、ヴェントに声をかけた。
「ヴェントさん。すみませんが、アルコバレーノの袋の端を少しもらえないでしょうか?」
今居るメンバーは問題ないことを確認し、優はいつもの口調で答える。
「別にかまいませんけど、リボーン君達の力になれるかはわかりませんよ?」
「ええ、承知しております。ですが、技術者からすればヴェントさんの持つものは向上心が掻き立てられるのです」
ジャンニーニが欲しいならと軽く了承の返事をする。優の頭ならもっと協力することは可能だろうが、残念ながら優は物事に興味を持たないタイプである。研究など特に興味がない。
「ヴェントが持つものって?」
「例えば、今私が着ている服とか? 時代の最先端とかの次元じゃないと思う。この時代でも解析できてないと思いますし」
「はい、そうなんです! 是非とも製作者にはお会いしたいですね」
「それは難しいでしょうねー」
神がわざわざこのために現れるとは思えない。
「誰が作ったの?」
「ツナ君はあったことがあるよ? というか、この中だとジャンニーニさんとラルさん以外かな」
「え!?」
「……雷戦で現れた優の師匠か?」
「流石リボーン君だねー」
ショックを受けてるジャンニーニを尻目に、会話は進む。
「袋や服だけじゃなくて、さっきのケイタイとか武器とかも全部、お師匠様が用意してくれたんだ。ヴァリアーのみんなも盗聴できないって知ってるから情報交換したんだよ。あの感じだとあっちでも研究してそうだねー」
「おい、オメーは詳しく知らねぇのかよ!」
「うん。私は頼むだけだもん」
優の反応に、獄寺は本物のバカだ……という視線を送り続ける。興味がないのだから仕方がない。そもそも優が聞いても教えてもらえるとは思えない。
「優の師匠は無事なのか?」
「無事だよー。私より何百倍も強いし。でもこの状況を解決する気はないね」
優がきっぱりと自分より強いと断言する人物が居ることにまず驚き、手を出す気はないという言葉にツナは若干落ち込む。
「なんでなんだ?」
「力があるからこそ、使えないって感じかな。それでもツナ君達の味方だよ。出来る範囲で私の頼みは聞いてくれるから」
優の表情からリボーンは恐らくウソをついていないと読み取った。ただし、ツナ達の味方という言葉をそのまま飲み込むことは出来ない。話の流れから優がツナの味方であるからツナ側なだけであって、恐らくその人物は優の味方でしかない。
何度か優の師匠を探っても、ヴェントの正体を探っていた時のようにどうやっても辿りつかない。そして、この感覚はずっと前にもリボーンは経験していた。
リボーンは軽く頭を振るう。ある可能性が浮かんだが、証拠はないのだ。そもそもリボーンには確かめる術もない。それに……と優に視線を向ける。もしそれが真実なら、あまりにも酷い話だ。
「……ごめんね、あんまり話せなくて」
「や、オレ達もいろいろ聞いちゃってゴメン!」
「ありがとう、ツナ君」
優が礼を言ったところで修行部屋へとたどり着いた。ツナ達はこれ以上優を困らせる気はなかったので、話題をかえるためにもそそくさと部屋へと入っていった。
しかしツナ達のように流すつもりもない人物も当然居る。
「ラル、余計なことはすんじゃねーぞ。それに今はそれどころじゃねぇんだ」
「だが!」
「下手に突っ込めば、死ぬぞ」
怪しむような目でラルはリボーンを見ていた。だが、リボーンの目は本気だった。
「付き合いの短いおめーには無理だ。のらりくらりかわされて警戒されるだけだぞ」
言いたい文句を飲みこみ、切り替えるように息を吐いた後、ラルは部屋へと一歩踏み出したのだった。