【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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後処理

 ツナとの約束が守れなかったと思ったところで、雲雀の匣兵器が優を守るように現れた。この流れならば、感動しか起きないはずだが、雲雀の声色が全て帳消しにした。

 

(……すっごく怒ってる!)

 

 声だけでそう判断したのは優だけじゃなかったようで、獄寺はサッと雲雀から目を逸らし、どうにかしろと目で優に訴えはじめる。無理だってば、と優は心の中で叫ぶ。雲雀の性格をあまり知らないラルでさえ、雲雀からあふれ出るプレッシャーのせいで、声をかけれないのだから。

 

「ヒバリ!」

 

 そんな中、ちょっと嬉しそうな声で山本が名を呼ぶ。優はもちろんのこと、素直になれない獄寺さえ山本の行動に心の中で賞賛を送る。2人は雲雀の登場をそこまでポジティブにとれない。

 

「ヴェント、貸し1つだよ」

“うぐっ”

 

 山本の声をスルーし、雲雀は優に話しかける。かなりお怒りなことを考えると後が怖く、変な声が漏れた。そんな優の反応を無視し、雲雀はγと向き合った。

 

「……君達、邪魔」

“ひくぞ!”

 

 雲雀の限界を感じ取った優は、獄寺達に向かって声をかける。が、山本は首をかしげ、獄寺は理由はわかっているが雲雀だけで任せることに反対し動かない。ラルはというと、全員で畳み掛けるのが当然と思っているのか、優に怒鳴った。

 

“バカヤロウ、雲雀恭弥に殺されたいのか!?”

 

 優の切実な訴えである。もう雲雀は目の前の敵しか見ていない。今の声でさえ、雲雀に届いているかも怪しい。優がこの場に居るが、雲雀の頭の中では優は巻き添えを食らわないと考えている。存分に暴れるため、獄寺達は安全の保障はない。

 

 予想したとおり、雲雀のリングに炎がともる。そして、匣に注入した。

 

 先程とは違うハリネズミが現れ、γへと襲い掛かる。そのためγもアニマル匣兵器で対応する。

 

 1番γに近い位置だったこともあり、優はすぐさまリングに炎を灯して防御しながら離れる。そうしなければ、衝突の余波でやられてしまう。γも予想以上の威力だったようで、さらに下がった。十中八九、優とγを離すことを目的とした攻撃なのだろう。だが、はっきり言って危険すぎる。優がこの時代に来たばかりと雲雀は忘れているのではないかと疑うレベルである。……もっとも、雲雀の中では優が防げると見込んでの攻撃だっただろうが。

 

“ひくぞ!”

 

 もう1度優は獄寺達に向かって声をかけた。獄寺と山本では優のようにまだ咄嗟に防ぐことは出来ない。2人もそれがわかっていたのだろう。悔しそうな顔をしていた。それでもまだ動かない。

 

“君たちは、足手まといだ!”

 

 2人は優の言葉でツナが向かった方へと駆け出した。そうするしかなかった。人を傷つけることが苦手な優に、ここまではっきりと言わせてしまったのだから。

 

 チラッと優はラルを見れば頷き、獄寺達を追った。この短時間で雲雀の危険性を十分理解したようである。優自身も今のままでは足を引っ張らないとしても、プラスにはならないと理解していた。そのため、優もこの場から離れる。

 

「逃がすかよ!」

 

 雲雀がγにスキをつくるとは思えなかったが、念のため優は風を操る。ふわっと舞い上がったのは戦闘の影響で落ちた葉っぱだった。リングの炎を浴びせたいが、流石にそこまでの余裕はない。が、優達の姿を見失わせるには十分な量だ。

 

“そっちに合流する”

 

 ポツリと呟いた声を拾ったのか、怪訝そうにラルが振り返ったが、優は気にしなかった。風のおかげでツナの耳に届いたはずだから。

 

 

 

 

「良かった、みんな無事で!」

 

 ある程度の距離が離れたところで、ツナ達は居た。京子達の安全を考慮しつつ、そこまで離れていないところで留まっていたようだ。残ったメンバーが心配だったのだろう、ツナらしい選択である。

 

“当たり前だろ。君が無茶するなと言ったんだから”

「うそつくんじゃねぇ! ヒバリが来なけりゃ、やばかっただろうが!」

 

 獄寺の文句を優はスルーした。シレっとウソをつくのは優の通常運転である。

 

「ヴェント、お願いだから無茶しないでよ!」

“……善処はしている”

 

 この言葉に獄寺と山本は苦い顔をした。2人が残ったから、優はひくにひけなくなったと気付いたからだ。優だけなら、逃げることは出来ただろう、と。

 

“今回は僕の計算ミスだ。君達が人の話を聞かないのは想定内だったからな”

「おい、どういう意味だ!?」

“そのままの意味だが?”

 

 チッと舌打ちをし、ブツブツと獄寺は呟き始める。その様子を見て、山本とツナは自然と笑みがこぼれた。

 

 その様子をジッと見ていたラルは、集まりにも出ないということからツナ達との仲はあまり良くないと先程まで思い込んでいたが、事実は違っていたと気付いたのだ。ヴェントとツナ達の距離は近かったから。

 

 無事に再び合流できたので、優は黒川との通話を切る。すると、すぐに優のケイタイが振動し始めた。

 

“……もう終わったのか”

 

 画面に出た名前を見て、やれやれと息を吐きながら通話に出る。相手が予想できたのか、優の話が終わるまでツナ達は静かに待っていた。

 

“雲雀恭弥がこっちに来いって”

「え?」

“彼のアジトへ案内してくれるようだ。話によると君のアジトとつながっているらしい”

「え!? そうなの!?」

“僕も今聞いて知った”

 

 そう言って優が歩き出すと、ツナは隣に並んで歩き始めた。

 

“ったく、君は僕の隣じゃなくて、彼女達のそばに居ろよ。君が居なきゃ心細いだろ”

「あ……」

 

 優がヴェントに変装していなければ、違和感がなかっただろうが、この状況では優が思わず口にしたくなるのも仕方がないだろう。ツナが慌てて京子達のそばに行けば、今度は優の隣に獄寺と山本がやってきた。

 

“……怪我はないか?”

「ん? ないぜ」

「おめーはどうなんだよ」

“僕もない。だが、ダメだな。まだ完璧に使いこなせていない。無茶をするにしても、今は時期じゃない”

「だ・か・ら……てめぇは無茶するなって言ってるだろうが!!」

 

 声を抑えながらもキレる獄寺をみて、器用だなと優は他人事のように感心していた。それを感じ取ったのか、獄寺のイライラが倍増した。そのため、山本が獄寺を落ち着かせようとして、獄寺にケンカを売られる。

 

“相変わらず、君達は仲がいいな”

「どこをどう見てそうなるんだよ!?」

「うるさい」

 

 つい、いつもの癖で大声でツッコミをいれたところで、雲雀と草壁に合流したため、獄寺は思いっきり雲雀に怒られ、さらに睨まれる。いろいろと運が悪い。

 

“悪い、助かる”

 

 軽く溜息を吐いてから、雲雀は霧のリングに炎を灯し、隠し扉を開く。雲雀の視線で意図を把握した草壁が、真っ先に中へと入る。

 

「リング」

 

 雲雀の言葉にツナ達は首を傾げる。といっても、ツナ達が悪いわけではない。それだけで理解できるのは優と草壁ぐらいである。

 

“レーダーにうつってそうなリングを渡せって。彼が処理してくれるってさ”

「えっ!?」

“彼の好意を素直に受け取れ。それに拒否したところで、実力行使に出るだけだぞ”

 

 雲雀に向かって礼を言いながらも、ツナ達は優にリングを手渡し、雲雀のアジトへと進んでいく。どうやら雲雀の機嫌が悪いと感じ取り、直接渡す気にならなかったようだ。

 

「オレもいく」

 

 ラルの言葉を無視し、雲雀は動き出した。

 

“彼は人と群れるのが嫌いなんだ。許してやってくれ”

 

 そういって、優は雲雀の後を追いかけた。そのすぐ後ろに、ラルがつく。

 

「なぜお前は預けなかった」

“僕は人にリングを預けない。彼も僕には何も言わなかっただろ?”

 

 反論がなかったので、納得したようだ。少し考え、優は口を開く。

 

“1つ忠告しておくぞ。彼は面倒見がいいタイプではない。そこは間違うなよ”

「……どういう意味だ?」

“彼がここまで手を貸しているのは、沢田綱吉達のためじゃない”

 

 そもそも雲雀がわざわざツナ達の面倒を見ているのは、全て優のためである。雲雀が回収しなければ、優がツナ達の分をしようとする。ツナ達がそれを反対するだろう。説得に成功してもしなくても優の負担が増えるのは間違いない。だから雲雀は動いたのだ。

 

 ヴェントに対しての挑発を雲雀が潰したことを知っているラルは、優の背中をジッと見つめる。その視線を感じ取った優はもう1度口を開く。

 

“しらばく共に行動するつもりなら、知っておいたほうがいい。女性であっても彼は容赦しない。……彼は僕に甘いだけだ”

 

 話は終わりというように、優はスピードをあげて雲雀に礼を言いに行ったのだった。


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