【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
いつものように家を出た優は、ツナの後姿を見て駆け出し声をかけた。
「ツナ君、おはよ!」
「ん? おはよう、優!」
朝からニコニコと笑いあい、今日はいいことがありそうだと2人は学校へと向かう。優の家から学校はすぐそこだが、軽い世間話をするぐらいの時間はある。
周りを見渡した後、ツナが話題を出した。
「昨日さー、バジル君とランチアさん帰っちゃったんだよねー」
「え!?」
「オレも驚いたよ。急いで追いかけてお礼を言ったんだ」
優の驚きをツナは自身と同じと考え、気にすることなく話を進めた。
「……そっか。ありがとう、ツナ君」
「やっ、当たり前のことだし」
照れてるツナを見て癒されながら、優は未来編のことを考えていた。
(ツナ君ってどのタイミングで未来に行ったのかな。私の記憶では2人を見送ってすぐだったはずなんだけど……。間違って覚えてるのかな? うーん、確か最初にリボーン君が未来に行ったのは間違いなかった)
少し考えた後、優は声を潜めてツナに質問する。
「リボーン君はバジル君にもボンゴレの機密って話してくれたんだよね?」
「うん。オレもその時一緒に居たよ」
「そっか。ありがとう。……あ。そもそも帰ることを知ってても、表立ってお礼は出来なかったんだ」
リボーンの名を出してもツナは何も反応しなかった。10年バズーカにあたり居なくなってないのかもしれない。
「ヴェントでなきゃダメってこと?」
「そういうことー」
優がヴェントになる姿を想像したのか、ツナは眉間に皺を寄せた。
「ツナ君と友達になってなくても、私はヴェントになってたよ。だから私には巻き込んでしまったとか思わなくていいから。……私が巻き込んだことも多いし」
「……オレ、気にしないから! 優も気にしないで!」
ツナと優は顔を見合わせ、笑った。2人は納得することにしたのだ。優はツナのために、ツナは優のために。
「ゆ、優は今日も風紀委員の仕事?」
あからさまに話題を変えたと気付いていたたが、優はその話題に乗る。
「昨日で溜まってた書類整理終わったから、今日は授業受けれるよー」
「ほんと!?」
久しぶりに一緒に行動できるとツナが喜んだため、優は瞬きを繰り返した後、笑った。
授業の内容についていける優は、真面目に受けてると見せかけて未来編のことについて考えていた。
(やっぱりおかしいなぁ。リボーン君は間違いなくバジル君達が帰るときに未来に行ったと記憶してたんだけど……さっき会ったよ)
休憩時間にリボーンと挨拶した優は不思議でしかなかった。多少リングについていろいろと話したが、優は未来編が起きると思っていたのだ。なぜなら未来でツナがボンゴレリングを砕く道を選ぶからだ。意外とツナが頑固なのを優は知っている。譲れないところは絶対に譲らない。争いの火種になるリングをそのまま放置するとは思えない。リングに炎を灯すことを出来なくし、リングに眠る力だけ残すことは可能だろう。
(……ってことは、パラレルワールド?)
バジル達が帰るときにリボーンが飛ばされなかったので、未来へ行く道ではないのかもしれない。だが、優が存在しているのでズレが起きているかもしれない。優は白蘭の危険性を知っているのだから。
(あれ? その前に私って生きてるのかな? ……もういいや)
未来ではアルコバレーノが亡くなってることを思い出したことで、面倒くさがりの優は考えを放棄した。そもそも優ははっきりと覚えていないので、白蘭とミルフィオーレの名前は記憶しているが統合前のマフィアの名前まではわからない。今の段階で探すのは骨が折れる。
(数年後にこっそりとボンゴレかキャバッローネの情報網で探そうかな。ボスの名前で白蘭を探せば見つかりそうだしね)
心の中で優は何度も頷く。そういうことにしよう、と。
結局何も考えていないようにも思えるが、話すことが出来ない優は1人で動くしかない。怪しまれるような行動も出来るだけ防いだほうがいい。どこまでセーフかわからないのだから。
更にこの世界に来てから約1年半で原作とのズレがたびたび起きている。10年後ならば、もっとズレているだろう。あまり凝り固まった考えをしていれば、間違った答えを選んでしまう可能性がある。柔軟に動けるようにしていた方がいいのだ。……大雑把な考えというのは否定しないが。
(……ん? 私が死んだ後ってどうなるんだろ?)
死んでしまっても仕方がないと優は思えるのだが、原作のように進んでしまえばアルコバレーノに害のある世界になっているはずだ。優が死んだ後に、他の人を呼んだとしてもすぐ死んでしまうのではないだろうか。
数秒待っていたが、頭に声が響くことはなかった。知らないのか、教えてはいけないのかはわからないが、優がこれについて知ることは出来ないようだ。もちろんはっきりと質問という形を取れば、知っていているが話せないなどと詳しく答えてくれるだろう。だが、優は神を困らせる気はなかったのでこのまま流す。
(せめてディーノさんやリボーン君に話せればなぁ)
世界に呼ばれた云々はおいといて、未来についてもし話してもいいなら打てる手はたくさんあった。出来ないものは仕方がないと、優は軽く溜息を吐き頭を切り替える。
2人を思い浮かべたせいか、バジル達よりも早く日本を去ったディーノとの見送りのやり取りを思い出し、つい笑みがこぼれる。どちらかというと苦笑いに近かったが。
イタリアへ帰る日にディーノは学校にやってきたのだ。絶対に見送りに来ない雲雀に声をかけるために。ディーノも優も、もうディーノが戦う気がないのなら興味がないだろうと思っていたが、帰ると聞いた途端雲雀が反応し顔をあげた。
「鍵かえして」
「は?」
「優の家の鍵」
雲雀以外が優の家の合鍵を持ってることが気に食わず、ディーノから没収していったのだ。もちろん優にも渡さなかった。優から再び他の人物の手に渡るのを避けるために。
そして当然のように優にもう合鍵がないことを確認し、勝手に作らないようにと念を押した。その間、用が済んだとばかりにディーノのことは放置である。念を押された後、思わず優はディーノに何度も頭を下げたのは記憶に新しい。
ほんの少し遠い目をしはじめた頃、ガラッと教室のドアが開く。優は慌ててケイタイを確認した。雲雀の呼び出しに気付かなかったのかもしれない、と。
「あれ? ……ないね」
雲雀ではないのなら、誰だろうと顔をあげて優は息を呑んだ。
「てめぇ何しにきやがった!?」
「ウソだろ……」
「な、なんでーーーー!?」
ツナ達の驚きを他所に優は他人のフリをしようと視線を逸らした。
「みっけ♪」
私ではないと優は心の中で何度も繰り返す。現実逃避ともいう。
「き、君! いったいなんだね!? 風紀委員の許可は得ているのか!?」
「しらね。だってオレ王子だもん」
「お、王子!? と、とにかく風紀委員に……!」
並中の先生としては正しい行動だが、このままでは話が大きくなる。仕方なく、本当に仕方なく優はそーっと手を上げた。
「……先生、すみません。私に用事みたいです」
「そうでしたか……」
雲雀の彼女である優が反応したことで教室中がホッと息を吐いていたが、雲雀の許可は当然下りていない。どうやって穏便に済ませればいいのかと優は心の中で頭を抱えていた。
「とりあえず獄寺君、落ち着いて。この状況じゃ不利だから」
ここで戦えばクラスメイトに大きな被害が出る。獄寺は警戒を解くことはなかったが、クソッと苛立った声をあげた。
「ししっ。怒られてやんのー」
「……それで、用件はなんですか?」
このまま放っておけばバトルが勃発するため、優は開き直り話を進めることにした。
「むかえにきたよ」
「へ? どういうことですか?」
争奪戦はツナが勝ったはずだ。確かに優はヴァリアーのアジトに顔を出すつもりだったためベルにまたとは返事をした。だが、当然優の好きなタイミングで、だ。いくらなんでも早すぎる。
「オレの姫だしー」
しかしベルは優の疑問を明後日の方向で解釈したらしく、なぜかベルがここに来た理由を述べた。
ざわりと教室が揺れる。この教室内に居るものは当然雲雀と優が付き合っていることを知っている。つまり目の前のいる人物は大多数の前で雲雀にケンカを売ったのだ。驚かないわけがない。
「……またトンファーが飛んできますよ」
「あんなの当たらねーし」
再び教室がざわついたので優は引きつった笑みを浮かべた。どう収拾すればいいのか見当がつかない。
「えーと、週末ぐらいに雲雀先輩の許可を貰っていきますから」
とりあえず今は帰ってくださいと優は訴えた。
「姫の頼みでも無理なんだよねー」
「……なぜ?」
「ボスの命令だもん」
隠すこともなく優は大きな溜息を吐いた。ここに現れたのはベルの身勝手な行動ではなく、XANXUSの指示だったようだ。よくよく考えれば、ヴェントの正体が機密レベルにあがったと聞き、XANXUSが説明もなく納得するとは思えない。
僅かに優は外に視線を向ける。リボーンが様子を見ているが現れる気配はない。
「……断れないじゃないですか」
思わず優は呟いた。ベルが今無理矢理優を連れて行けば、ヴァリアーの立場が更に悪くなる。だからリボーンはギリギリまで動かない。優が気にするとわかっているから。
「すぐに帰らせてもらえるんですよね?」
「んー、大丈夫じゃね?」
ベルの勘にかけるしかないだろうと優は仕方なく立ち上がる。リボーンが情報操作してくれるだろう。もちろん神にも頼むつもりだが。
ツナ達が焦る声を出す中、優はヒラヒラと手をふった。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと行ってくるだけだから」
「で、でも……!」
「それより雲雀先輩に気をつけてね」
三角関係!?と心の中で盛り上がっていたものや、早く終わらないかなとただ成り行きを見守っていたもの達が一斉に息を呑む。他人事だから心に余裕があったのだ。優がこのまま行ってしまえば、恐ろしい現実が待っているかもしれない、と。
「機嫌悪いと思うから」
その現象を引き起こす原因が、あっさりと言い放った。現実が待っているかもしれないではなく、待っているのだ。このままでは確定事項である。
「わっ、と」
「うししっ」
優はベルが近づいていると知っていたが、横抱きにされて思わず声を出す。その声に我に返ったもの達は優を引き止められる可能性の低さに真っ青になる。完全に出遅れた。
でもまだドアをおさえれば!と思ったとき、再び優の言葉で現実を知る。
「ちょ、ベルさんここ2階です!」
「問題ねーって」
「きゃっ」
雲雀のトンファーを避ける自信があることを考えれば、元から止めることは不可能だった、と。
こうして小さな悲鳴の共に、元凶は窓から去っていった。