【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
指にはめたリングから力が流れ込んでくる。すると、景色が変わる。
(ここ、どこ……?)
目の前には花畑が広がり、少し向こうにはポツンと家がある。とても気になり、向かおうとしたが足を動かすことは出来なかった。
「全部そろったわね」
どこからか声が聞こえ、優はあたりを見渡す。しかし見つからない。そのため風を操り調べようとしたが集めることが出来なかった。あの家を調べることも出来ないので、残念だと思った。
「気にせず話しても大丈夫よ。ここは外の世界とは違うから」
優の常識を超えることが起きているようだ。
「……あなたは、私をこの世界へと呼んだ人であってますか?」
ドキドキと心臓が鳴り響く。前の世界で優を呼び続けた声と似ていたのだ。
「そうね。私が呼んだわ」
「……そうですか」
答えが知りたく教えてもらったが、優は返事をするだけで他の言葉は思いつかなかった。なぜならこの世界にきたことに対して優は恨んでいるわけではない。だが、リボーン達のことを考えると、感謝するのは間違っていると思ったのだ。
「君の使命を教えに来た」
「……使命ですか?」
「ええ。君が持ってる3つを守って」
その言葉を聞いて、優は何度か瞬きを繰り返す。おしゃぶりとボンゴレリングとマーレリングを指していることはわかる。しかし疑問が尽きない。
「どうして、私なんですか? 守る必要があるのなら、もっと相応しい人が居たはずです」
優は自分が争いに向いていないとしっかりと自覚している。気を抜けば、足がガクガク震えそうなほど怖い。他の世界から呼ぶほどの力があるなら、わざわざ優を選ぶ必要はなかったはずだ。
「……それは違う。君でなければ、ならなかった」
それは優が欲しかった言葉だった。優はツナ達と友達になり、雲雀の恋人になった。しかしふとした時に、この幸せは優でなくても良かったのではないかと思えた。それが今、少しだけ許された気持ちになった。
「そもそも、アルコバレーノの力で風を操れるようになったわけじゃないわ。その能力は元々君の中にあったものよ」
「え? ええっ!? うそぉ!?」
元の世界では能力者というようなものはなかった。だから優は口調が崩れるほど驚いた。……もっとも、優が知らなかっただけであったのかもしれないが。少なくとも世間一般では認知されていなかった。
しかしそれよりも問題は神が何も言わなかったことだ。気付いていなかったということもあるのだろうか。
「話を戻すわよ」
「あ、はい」
軽く唸っていたが、意識を切り替える。
「その3つが壊されると、世界のバランスが崩れる」
「世界のバランスが……?」
「本当なら崩れることがなかったバランスをそれで補ってるの。だから7³とは別の枠組み。でも7³とは切っては切れないもの。同じ形にするしかなかった」
「それって、どういう……え? ちょっと待って!」
詳しく話を聞こうとした時、空間が歪み始めた。焦って優は声をあげたが、止まりそうにない。このままでは元の世界に戻ってしまう。
「私からのアドバイスよ。あなたが思うまま、行動すればいい」
「だから待ってってばっ!」
「その口調の方がいいわね。次に会える時を楽しみにしているわ」
次ってなにーーー!?と優は心の中で絶叫した。
「がっ」
近くで聞こえた声に驚き、優は何度も瞬きを繰り返す。完全に元の世界に戻ってきたようだ。そして驚いたようにリングをジッと見つめる。
「リングが……XANXUSの血を……拒んだんだ……」
先程の声はXANXUSが血を吐いたものだったらしい。
“……みたいだな。僕は大丈夫そうだ。身体が軽い”
鉛のように重かった身体ではなくなり、優は今までの鬱憤を晴らすかのようにストレッチをはじめる。
「オレと老いぼれは血なんて繋がっちゃいねぇ!!」
周りの空気を気にせず感動していた優だが、XANXUSの言葉にピタリと動きを止める。同情からではなかった。
XANXUSの過去をスクアーロが話しているのを聞いても、優は同情することは出来ないのだ。
「9代目が……裏切られてもおまえを殺さなかったのは……最後までおまえを受け入れようとしてたからじゃないのか……? 9代目は血も掟も関係なく誰よりもおまえを認めていたはずだよ」
ツナの言葉を聞き、優は軽くフードの上から頭をかき、空を見上げる。
「9代目はおまえのことを本当の子どものように……」
「っるせぇ!! 気色の悪い無償の愛など!! クソの役にも立つか!! オレが欲しいのはボスの座だけだ!! カスはオレを崇めてりゃいい!! オレを讃えりゃいいんだ!!」
XANXUSの心の叫びにツナ達は言葉を詰まらせる。そのため優の大きな溜息が響いた。
「ヴェント……?」
ツナが声をかけたが、XANXUSも優に何か言いたかったらしい。血を吐いて出来なかったようだが。
“リングに選ばれたが僕は嬉しくない。君の言う気色の悪い無償の愛が、僕はずっと欲しかった”
能力があるから選ばれたと優を呼んだ人は言った。だからこの世界で幸せになってもいいと思えた。だが、能力がなければ、もっと嬉しかった。呪われてなくて、この世界に居ることが当たり前の中、ツナ達や雲雀と出会って、幸せになりたかった。
“人は欲張りだ。すぐに欲が出て強請る。リングに選ばれなくて、無償の愛をもらっている君が……”
「黙れっ!」
“生きている君が僕は羨ましい。心底羨ましいよ”
「だまれっ!!! てめーとは違うんだ!!」
やれやれと肩をすくめた後、優はベルに顔を向ける。
「……バレてやんの」
ベルはもっとも厄介な優の動きを封じようとナイフを投げようとしていたのだ。優の体調が悪かったため、生え抜きのヴァリアーが集まれば何とかなったかもしれないが、そうもいかなくなったのでツナ達を人質にとるつもりだったのだ。残念ながら優に阻止されてしまったが。
“当たり前だ”
その言葉を聞いたベルは持っていたナイフを手放し、両手をあげ降参を示す。
「XANXUS様。あなたにリングが適正が協議する必要があります」
「るっせぇ!!」
チッと軽く舌打ちして、優は風を操りチェルベッロを移動させる。
“今のXANXUSに迂闊に近づくな”
XANXUSが弱っているため、炎を飛ばすことはなかったが、触れれば躊躇せずに殺していただろう。危うく目の前で人が死ぬところだった。あの時にチェルベッロが死ぬと気付き警戒してなければ、間に合わなかったかもしれない。
(あー、そういえば、この謎もあったんだ……)
この世界に優を呼んだ人が残した言葉といい、解けない疑問ばかりが溜まっていく。
「まださ。ベルは君に甘いみたいだけど、僕はそうはいかないよ。それに総勢50名の生え抜きのヴァリアー隊がまもなくここに到着する」
チェルベッロが外部からの干渉について認めないと話し、ヴァリアーを失格にし観覧席の赤外線を解除し始めた。が、細工されていたため観覧席にいるコロネロ達は出ることが出来ない。しかしリボーンとディーノは焦らなかった。ツナ達が殺されるかもしれないという意味では焦る要素が1つもなかったのだ。
“……君は前提が間違っている。確かにベルは僕に甘いだろう。だから僕もベルに甘いんだ”
優の淡々とした声は焦っていたものたちを冷静にするには十分だった。
“どれほどの痛みを与えれば、君は幻術を作る余裕がなくなるんだろうな。……君が悠長に話している間、遠距離攻撃が可能な僕が何も手をうってないと思っていたのか?”
はぁと優は再び大きな溜息を吐く。
“ベルの勘は間違ってなかったんだ。僕と真っ向から敵対すれば、君たちはすぐに詰んだんだ。50人が来たとしても、僕が竜巻を作れば何の意味もない”
おしゃぶりの袋を触っていた優の前に、獄寺と山本が立つ。
「オレ達に任せろってな」
「誰がてめぇと……! おい、ヴェント。そいつを見張ってろよ」
確かに優が制御を解けばすぐに終わるが、獄寺達はアルコバレーノの力を使って片付けることを良しとしなかったのだ。あまりある力を一番怖がってるのが優だと彼らは知っているのだから。
そして獄寺と山本に続くように了平も構える。
「邪魔」
「なぜ押すのだ! ヒバリィ!」
雲雀は場所を譲るようにとトンファーで了平を押していた。出遅れたことで機嫌が悪くなってるらしく、了平の訴えは完全に無視である。
クロームも戦う意思を示そうとした時、骸から声がかかる。
「え……。誰か……来る……?」
“こっちに向かってるのは……3人。いや、4人だな”
一部の風をマーモンを抑えるために残しているため、もう1人の存在に気付くのが遅れた。恐らく最後の1人がランチアなのだろうと優は思った。
「暴蛇烈覇!!」
ヴァリアー隊の報告と共に現れた1人の人物。優の予想通りランチアだった。
“なんだ。僕が手を出すまでもなかったようだな”
『あなたばかり目立つのは面白くありませんから』
頭の中で響いた声に優は驚き、クロームが居る方向へと振り向く。今のは神ではなく、骸の声だった。だが、クロームは優の行動を不思議そうに見ているだけで何も知らないようだ。軽く息を吐き、優はなんでもないと首を振る。
「てめーら、全員!!! 呪い殺してやる!!」
優が骸に振り回されている間に、マーモンは降参しXANXUSがほえる。
勝利したツナ達はそんなXANXUSに声をかけることが出来なかった。
“……あーそうだった”
またしても空気を読まずに、優が行動を起こす。……XANXUSの守護者になる資格があったからこそ出来るともいう。
“XANXUSは僕の名付け親だったな”
沈黙が場を支配する。いったい何を言い出すのか。否、いったいいつ仕出かしていたんだ、と。
“僕の名付け親なんだ。しっかりしてもらわないと困る。僕は親に対する理想が高いんだ”
うんうんと納得するように何度も優は頷く。呆気にとられているツナ達を尻目に、優は言葉を続ける。
“君は呪い殺す能力なんて持ってないだろ。非現実的なことを言うなら、そんな掟カッ消すぐらいの宣言をしろよ”
「……おめー、何言ってんだ」
プルプルと震えながら、獄寺は優の肩を掴んだ。怒鳴らなかったのは、かなり我慢しているからだ。
“ん? どうしてもXANXUSがボンゴレを継ぎたいのなら、その掟を壊すしかないだろ”
「だからどーして、そうなるんだよっ!?」
獄寺の努力も空しく、優は地雷を踏んでいく。
“さっきも言ったろ。人は欲張りですぐに強請る。どうしても欲しいなら、諦めることは出来ない。すぐに諦めることが出来たなら、この戦いは起きなかったはずだ。だから僕が今言わなくても、彼はそこにたどり着くさ。親が遠回りしそうになったから教えただけ”
あけらかんと言った優に、反省の色は見えない。……反省することとすら、思ってもいないのだろう。怒鳴る気力が根こそぎ奪われた獄寺はガクリと肩を落とす。
“心配しなくていい。間違った方向に進んだ暴走だと思ったら、僕が止めるから”
「……そーいう問題じゃねぇ」
不思議そうに優は首を傾げたが、まぁいいかと話を進める。
“この戦いでボンゴレの次期後継者は沢田綱吉と決まった。これを覆すには並大抵のことではない。だから……前に進むために、今は休め”
迂闊に近づくなと言った優が側により、そっとXANXUSの手を握る。
「……クソがっ」
文句を言いながらも、XANXUSは目を閉じて眠りに落ちた。
もうツナ達は笑うしかなかった。これが優なのだから、と。
「……それでは今一度、全ての結果を発表します。XANXUS様の失格により大空戦の勝者は沢田綱吉氏。よってボンゴレの次期後継者になるのは沢田綱吉とその守護者7名です」
この結果にツナ達と目を合わせ、優は自然と笑顔になったのだった。