【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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大空戦 2

「ヴェント」

 

 ふわふわした感覚で目を開けると、雲雀の顔が近くにあり優は固まる。

 

「ヴェント」

 

 もう1度雲雀に声をかけられ、状況を思い出した優は軽く息を吐き返事をする。

 

“……すまない、ルール説明をしてほしい。何が起きた?”

 

 雲雀は僅かに眉間に皺をよせた。面倒と思ったような反応だが、意識がすぐに落ちるほど体力がないことに気付き、雲雀は心配しているのだ。

 

「それに毒が仕掛けられていた。僕のは雲のリングでしか解毒できないけど、君のは風のリング以外ならどのリングでも大丈夫だったから解毒した」

“僕以外は決まってるってことでいいのか?”

「うん。勝利条件は全てのリングと風の守護者を手に入れること」

“……僕も?”

 

 優の疑問に雲雀はしっかりと頷いた。あまりにもおかしなルールに引っかかってるのは優だけじゃないようだ。

 

「全て手に入れて、大空と風の守護者はリングを指に嵌めろって」

“要は僕が捕まらなければいいってことか……”

 

 頭に浮かぶ疑問を振り払うかのように、優は落としてはいけない内容を口にしたのだ。そしてこれからの行動を相談しようとした時に、何かが迫ってくる気配がし、2人は同時に顔をあげる。

 

 轟音と共に、嵐のポールが倒れ始める。XANXUSの攻撃が原因だ。そしてそれは嵐だけではなく雷のポールもだった。

 

“ここは僕が相手をするから”

「いやだ」

 

 バチッと睨みあう。解毒した守護者は必ず優の捕縛に動き出すと予想しているからこそ、互いに譲れないのだ。しかし時間がないこともあり、渋々だが優は折れた。

 

“わかった。ベルは……”

『言うな、優』

 

 突如頭に響いた声に優は口を閉ざす。そして神の言葉を待った。

 

『優は嵐戦を見ていない』

 

 神がなぜ止めたのかを理解した優は目を閉じた。雲雀が怪我をしないようにと、ナイフとワイヤー使いだと教えようとしたが出来ない。ベルが戦っているシーンを見ていない優は話せないのだ。

 

「なに」

“……ベルは、強いぞ”

「へぇ。そうなんだ」

 

 誤魔化すため、咄嗟に以前獄寺に向かって言った言葉を使ったのは間違いだったらしい。雲雀のプライドを刺激する内容だったようで、機嫌がすこぶる悪い。

 

“……任せた”

 

 雲雀に任せて優は動き出す。他の守護者を助けようと動き出すためで、雲雀が怖くて逃げたわけではない。……多分。

 

 風を操り優は飛び、屋上へと向かう。優のフォローのためにも、雲雀は優とすれ違うように現れたベルの指輪を獄寺に向かって弾き飛ばす。

 

「……おまえは」

「ヴェントはここに居ないよ。君の相手は僕だ」

 

 雲雀の登場に驚いてるベルにかまわず、再び雲雀はトンファーを振るった。相手の出方を待つこともない。優のために決着を急いでるようにも見えるが、ただ単にベルに対して苛立ちの限界を超えていただけだった。

 

 その雲雀の攻撃を間一髪でベルはかわし続ける。しかしナイフを出すスキもなく、足の怪我が響いている。ベル自身ももって後数秒だと感じていた。

 

 そんな中、真上に炎を感じ2人は顔をあげる。目に入った光景に互いに驚き動きを止めるが、我に返ったのはベルの方が早かった。

 

 雲雀の頬がきれ、2人に距離が出来る。

 

「うしししっ」

 

 ベルは笑う。この距離はベルの間合いだ。

 

 一秒にも満たない時間だった。だが、致命傷にもなり得る。遅れた雲雀は放たれたナイフを避けるために、トンファーで防ぐことが出来ず距離を取るしかなかった。

 

 普段の雲雀ならありえないミス。たとえXANXUSの攻撃が優に直撃したのを見たとしても、戦っている雲雀は集中を切らすようなことをしなかっただろう。どれだけ心配していても、優を信頼をしているのだから。

 

 ただし、数時間前に優が死ぬかもしれないと感じていなければ……。

 

 恐らくもう1日あれば、大空戦が今日でなければ、雲雀は落ち着きを取り戻しベルに出遅れはしなかっただろう。日が悪い。といえば、それだけの話だ。しかしそれが原因で有利だった状況から一変する。ベルから放たれたナイフを避けたはずなのに雲雀は傷を負う。

 

「……困ったね」

「おっせー。今頃気付いてんの? バイビ♪」

 

 雲雀の呟きに反応したかのように、ベルはトドメの一撃を放つ。先程の攻撃で足を怪我した雲雀にはナイフを避けることが出来ても、ワイヤーは避けることができない角度だ。勝利を確信する。だが、ベルは悪寒を感じ更に雲雀から距離をとった。ベルは見たのだ。絶体絶命のはずの雲雀が笑ったのを。

 

 パシッと雲雀は苦もなくベルのナイフを指に挟み、攻撃を防ぐ。

 

「……君の言うとおり、今頃気付いたよ」

 

 ここまで優の存在が大きくなってるなんて……。

 

 掴んだナイフに繋がっているワイヤーを見ながら、心の中で雲雀は呟いた。

 

 いったいどこまで風早優という存在は雲雀を振り回すのだろうか。……だからこそ、ほしくなる。全て。

 

「僕の邪魔をする者は咬み殺す」

 

 発言は感情的なようにみえて、雲雀は落ち着いていた。優に振り回されていた雲雀が、原点に戻ったといってもいいだろう。

 

 武器の仕掛けを見破られただけでなく、雲雀の雰囲気がかわったことを感じ取ったのか、ベルは警戒し距離をとる。2つの武器を使いこなすベルは頭が悪いわけではない。この戦いで雲雀を倒さなくても勝負には勝てる。雲雀の足に怪我を負わせただけで十分である。そのため、この場から去ることを選んだ。

 

「パース。おまえの相手するよりヴェント拾ってこよー。ボスの一撃食らって動けねぇだろうし。バイビっ」

「…………」

 

 ギリッと歯を食いしばり、雲雀はベルの後姿を睨みつけた。追いかけたい気持ちを押さえるように、雲雀は長い息を吐く。優が約束を守っていると信じている。ムカツキはするが、このままベルには優を追いかけてもらうほうがいい。ベルの武器から考えて優が捕まる可能性は低い。優の弱みとして人質を取られた方が厄介だ。

 

 ハンカチで止血しながら、向かうべき場所を考える。雲雀は溜息を吐きながら歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 雲雀と別れた優は、真っ先に屋上に向かうことにした。雲雀が獄寺のリングを弾いているかもしれないが、ズレている可能性も高いと判断したからだ。そもそも優の中ではランボが優先順位の堂々の1位だ。XANXUSの攻撃で雷のポールが倒れてレヴィが野放しになってる状況で向かわないという選択はない。

 

 体力のなさから風に頼み、ふわりと浮いていた優はランボの姿を探す。

 

「ヴェント!!」

 

 レヴィよりも先に見つけなければならないという気持ちが強かったのか、体調不良が響いていたのか、ツナの焦る声で炎が迫ってくることに気付く。

 

 一瞬にして、XANXUSの攻撃を避けることは制御されている状況では不可能だと判断する。もっとも今から制御をといても間に合うとも思えないが。

 

 少しでも被害を出来る抑えるため、優は逆刃刀に手を伸ばす。XANXUSから放たれた一撃を斬るつもりなのだ。

 

(……反則だろっ!)

 

 優は心の中で悪態をついた。XANXUSの攻撃を斬るために、浮くためにつかっていた風の力を刀に集約させた。浮く力をなくしたにも関わらず優は真下へとは落下しない。XANXUSの攻撃に押されるような形で徐々に落下していくのだ。それほど炎の攻撃は反則技だった。押されてはいるものの制御された風の力で対抗して粘っている優も大概反則なのだが。

 

 それでもやはり差がある。1番最初に悲鳴をあげたのは、逆刃刀だった。ピキッという音からヒビが入ったと優はすぐさま気付いた。一度ヒビが入ってしまえば、そこから折れる。そして何とか保っていた均衡が崩れる。

 

(まずいまずいまずい。これじゃ………約束が守れない!)

 

 自分のために優は動かない。だからこそ、この状況で雲雀との約束が浮かんだ。

 

 ボウッと首からさげていたリングから炎が出る。雨属性の炎の青色が薄まったものとは違う、濃い水色の炎だった。

 

 今まで神との修行で優は一度も炎が出なかった。ツナ達がピンチだったならばあっさりと出るのだが、自分のためには出せなかったのだ。

 

 自然に優は刀に炎を纏う。性質は加速のため、刀とは相性が良くはない。それでも普通の刀と炎を纏った刀では雲泥の差がある。

 

“いっけぇぇぇぇぇ!!”

 

 優の叫びと共に、XANXUSから放たれた炎は消える。斬ったわけではない、消えたのだ。優の中で眠っていた破格の炎が生み出した結果だった。ヒビが入った逆刃刀では耐え切れず砕け散ってしまうほどの威力である。

 

 だが、炎は生命エネルギー。体調が悪い中で出す炎の量ではなかった。

 

 無理矢理ひねりだした結果、優はグッタリとしながら浮いていた。地面に落ちなかったのは風が勝手に優を守ったからである。

 

 グッタリした中でも、まだ集中力が切れていなかった優はXANXUSを見た。リングに炎を灯し刀に纏ったのを見ていないとしても、驚いたような素振りも見せない。どちらかというとそれぐらい出来て当然だというような態度だった。XANXUSは端から優を殺すのではなく、体力を削るのを目的にしていたようだ。先程の攻撃で優が死んで失格になる可能性は考えてもいなかったのだろう。

 

(これは……喜んでいいの……?)

 

 思わず浮かんだ疑問をすぐさま打ち消し、優はツナを見る。コクリと頷いたのを見て、意図が伝わったことに笑みを浮かべた。

 

 ツナがXANXUSを引き付ける攻撃をし始めたと同時に優は動き始める。優がXANXUSから見える位置にいるのは危険すぎる。ランボが心配だが、そこは雲雀と獄寺を信用するしかない。優が近づけば、巻き添えにする可能性が高すぎる。さらに今の攻撃で、優の居場所がばれてしまったはずだ。

 

 優が向かった場所は雲戦があったフィールド。雲雀が解毒をしてあの場に居ないことを知っている優は、巻き添えにする可能性を下げるために選んだのだ。

 

(問題は雲雀先輩が私よりクロームちゃんを優先してくれるか、だね……)

 

 雲雀ならば優が向かった先に検討がついているだろう。優の意図を汲んで、1番優からはなれて安全なクロームを助けに行ってくれるかどうかである。

 

(クロームちゃんと骸君は別って言ってるけど……大丈夫かなぁ)

 

 ヴァリアーのスタイルから見て、ベルは守護者よりも優を優先するだろう。なぜならリングが必要であって、優以外の守護者は必要ではないのだから。優が存在することで原作とは違って、他の守護者よりも優が最優先になるはずだ。さらに、もし雲雀が原作通り怪我をしているならば、守護者の中で1番危険性が高いのは優になる。いくらヘロヘロでも、風を操れるという厄介な能力をもってる優を野放しにすることは出来ないはずだ。

 

(まっ……とにかく雲のフィールドに行こう)

 

 ふらふらと優は飛んでいったのだった。

 




多分、明日も更新。

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