【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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 深夜。獄寺は1人の男をズルズルと引きずっていた。

 

「おめーも知ってるだろ? オレは男は診ねーんだ」

 

 くそっ!と言いながら、獄寺は足を動かした。女と教えたいが、迂闊に口にすることは言えない。

 

 Drシャマルは引きずられながらも声を出さずに笑った。風の守護者のことはよくわかっていないが、嵐とは相性がいいのは間違いない。Drシャマルは獄寺が認めさえすれば、関係が変わるだろうと思っていた。忠誠を誓っているツナだけじゃなく周りを見ることが出来るようになり、獄寺がまた少し成長したことが嬉しかったのだ。

 

 それでも男を診る気はなかったので、もう1度声をかけた。

 

「だからオレは男は診ねーんだ」

「黙ってついてきやがれ!! てめぇだったら治せるかも知れねーんだ!!」

 

 引きずられながらも感心したように獄寺をみた。思った以上に仲が良くなったらしい。そもそも獄寺はDrシャマルに頼ることも嫌だったはずだ。だからDrシャマルは本気で抵抗しなかった。その獄寺が今、素直に頼りたいととれる内容を口にした。

 

「なんだ? フードかぶっていたヤローはぶっ飛ばすんじゃなかったのか?」

「それはもういいんだ!!」

 

 今度は声を出してDrシャマルは笑った。そして、ほんの少し男でも診てもいいかと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 優が運ばれた病室には、雲雀とディーノとロマーリオが居た。心配するツナ達は無理矢理ディーノが帰したのだ。何かあれば必ず連絡すると約束して。

 

 もちろんディーノは雲雀も帰らせるつもりだった。しかしその前に、雲雀はカーテンを閉め引きこもってしまった。ディーノとロマーリオは優の顔を見ることさえ叶わないのだ。

 

 ハッと顔を上げ、ディーノは扉を見た。廊下を歩いていた人物が、優の病室の前で止まったからだ。

 

 ガラっと扉が開く。

 

 このとき、ディーノ達の手には武器があった。部下にドアの前で見張りをさせているが、もしもの場合がある。警戒するのは当然だった。

 

「獄寺かよ……」

 

 現れた人物にホッと息を吐く。そして呆れたように声をかけた。

 

「何かあったら連絡するって言ったろ? もう眠るんだ」

「医者を連れてきたんだ」

 

 グイッと獄寺が引っ張り現れた人物を見てディーノは声をあげた。

 

「Drシャマル!?」

 

 ボリボリと頭をかきながらDrシャマルは立ち上がった。互いに面識はあるが、親しいわけではない。何せツナの時のようにリボーンの紹介で会ったが、男は診ないんだといって本当に帰ったからだ。

 

「確かにDrシャマルなら……だが……」

 

 考え始めたディーノにDrシャマルは溜息を吐いて言った。

 

「だから、オレは男は診ねーんだ!」

「女だったらいいんだろうが!!」

 

 ついに我慢の限界がきたらしく獄寺は言った。口調とは裏腹にちゃんと獄寺は声を落としていた。

 

「女……?」

 

 ポツリと声を漏らしたのはDrシャマルだ。実は生まれてこの方、性別を間違えたことがなかったのである。Drシャマルは自分の見立てが間違っていたことに動揺したのだ。

 

「うるさい。咬み殺すよ」

 

 あまりの騒がしさに、雲雀はカーテンを開けて文句を言った。もちろん手にはトンファーがある。

 

 やっと出てきたことにディーノはホッと息を吐く。無理矢理あけることも出来ただろうが、それをすれば雲雀は一生許しはしないだろうとディーノは察して出来なかったのだ。

 

「おい……優ちゃんはどうしたんだ……」

 

 Drシャマルはカーテンの隙間から見えた優をみて、すぐさま声をかけた。

 

 ちなみに親しそうに呼んでいるが、優とDrシャマルの面識はない。原作を知ってる優はDrシャマルと会いたいと思わず、ツナと友達になってからは救急セットを持ち歩き、自身は健康なため保健室に行く用もない。さらに雲雀が女好きという情報を得ていたので会わせないように手をまわしていたのだ。それでもDrシャマルが知っていたのは、雲雀の女ということで有名な優に興味が沸き、遠目だがこの目で見た結果、将来有望そうだと記憶していたからだ。

 

「さっきから言ってるじゃねぇか!! てめーだったら治せるかも知れねぇって!!」

「どういう状態だ」

 

 医者の表情になったDrシャマルにロマーリオがカルテを手渡す。そして更に口頭でディーノが説明する。

 

「42度近くの熱が出るんだ。もうこの状態が3時間以上続いていて解熱剤も全く効かねぇ状態だ……」

 

 ディーノが用意した医者はこれ以上解熱剤を投与できないと言ったのである。それを聞いた雲雀がカーテンを閉めて閉じこもった。もう医者の力では治せないと判断して……。

 

「ただの病気じゃねぇんだな」

「ああ。力を制限されて使えば、倒れるとしかわかってないんだ」

「それでこの熱なのか?」

 

 雲雀の方が症状を知っているが答える気がないようなので、再び口を開いたのはディーノだった。

 

「ああ。2日連続で使ったんだ。昨日はここまで熱は高くなかったみたいだぜ……」

「……オレには無理だな」

 

 予想通りの反応にディーノは目を閉じる。僅かの可能性をかけ説明したが、リボーンが手配しなかった時点で無理だと思っていたのだ。

 

「てめぇ、医者だろ!!」

 

 獄寺がDrシャマルの胸倉を掴んだが、冷静に首を振り答えた。

 

「こういうのは治せねぇんだ。その制限をかけた奴に制限を解いてもらうしかねぇぞ」

「跳ね馬! 誰か聞いてねぇのか!?」

「……無理だ。優ですらわかっていない」

 

 自然と優に視線が集まる。辛そうな息を吐き続けているが、何も出来ない。誰もが自分の無力さに手に力がこもる。

 

「……今まではどうしてたんだ?」

 

 少しでも何か出来ることはないかと、Drシャマルが声をかける。

 

「昨日初めて制限をといたんだ。倒れるしかわかってなかったから、優も昨日初めて熱が出るのを知ったんだ」

「優ちゃんもどうなるかわからねぇのに、今日も制限をといたのか……そこまで無茶した理由はなんだ?」

 

 リボーンから話を聞いていたディーノは、雲雀と獄寺に答えさせるのは酷だと判断し説明する。

 

「みんなを守るためだ。優が制限をといたから9代目以外は怪我人は0だ。……ヴァリアーも怪我をしなかった」

「ヴァリアーも守ったのか!?」

 

 肯定するようにディーノは頷いた。

 

 優は何もしなくても誰も怪我をしなかったと知っているが、獄寺達はそれを知らない。優に守られたという気持ちになるのは当然だった。

 

「……なんでこいつは敵まで守るんだ!!」

「優しすぎるんだ……」

 

 獄寺の言葉に答えたのはディーノだった。優は誰かが傷つくと自分も傷つくのだ。ディーノはツナと出会う前の友達の話を聞いたことがなかったことから、防衛本能が働き積極的に誰かと関わろうとしないのだろう。普通ならば、親しいものがいなければ、何かしら思うこととがあるはずだ。さらに優は好意に鈍感すぎる。育った環境もあるだろうが、親しいものを作らず、傷つかないようにしていたのかもしれない。

 

「最初にヴァリアーとは敵として会わなかったのもあると思うけどな……」

「くそっ!」

 

 優がヴァリアーにも甘い対応になるのは、それが大きい。いろいろ振り回されて大変な目にあったのは間違いないが、話せなくなったことを忘れることが出来たのだ。優の中で悪い印象にはならなかった。

 

 イタリア旅行の時に会わなければ、話はまた違っていただろう。

 

「優ちゃんの生命力に懸けるしかねぇな……」

「……お前ら、もう寝ろ。オレが優を診てるから」

 

 ディーノはお前らといいながらも雲雀を見ながら言った。この中で1番納得しないのは雲雀だとわかっていたからだ。

 

「昨日も看病をしたんだろ? ここはオレに任せろ」

「うるさい」

 

 頑なに拒否をするため、ディーノは困ったように息を吐いた。責任を感じているのかもしれない。だが、たとえ雲雀がXANXUSを挑発しなくても、必ずXANXUSは何か仕掛けていたはずだ。雲雀はそのことに気付いているが、それでも自身の行動を許せなかったのだろう。

 

「優は喜ばないぜ」

 

 あまり使いたくはなかったが、ディーノはこの言葉を使った。優は自分のせいで雲雀が無理をすれば傷つく。優しすぎるからだ。ディーノはどうしても雲雀を休ませたかったのだ。

 

「……それでも側に居る。邪魔するなら咬み殺す」

 

 傷つけるとわかっていても離れないと宣言しトンファーを構えた雲雀に誰が止めることが出来ただろうか。

 

 何もいえなくなったディーノ達を見て、再び雲雀はカーテンを閉めた。再びディーノは溜息を吐く。これでは優の様子が見えない。もっとも何かあれば、雲雀が反応するのでわかるだろうが。だからといって、見えなくてもいいわけではない。

 

 そこでディーノははたと気付く。違うのかもしれない、と。

 

 今まで雲雀が気に入ったものはなくなるものではない。もちろん校舎が壊れてなくなる可能性もあるが、よほどのことがない限り一瞬にして消えてしまうものではない。

 

 人という脆い存在を初めて好きになり、目の前で消えてしまいそうな命に雲雀は怖いと思っているのかもしれない。今までと違い、雲雀の力で解決できる内容ではないのだから。

 

「恭弥……」

 

 ポツリと呟きカーテンに手を伸ばしかけたが、優が目覚めること以外、雲雀は望んでいない。そっと手を下ろし、ディーノは雲雀の好きにさせることにした。

 

 

 

 

 ふわふわと浮きながら、優は見知らぬ場所にいた。

 

「どこだろ?」

 

 とても空気が綺麗で、優は軽い足取りで更に綺麗な空気がする方へと進んでいく。……正しくは浮きながら進んでいく。

 

「ここ、凄くいい場所」

 

 いつもより風が簡単に操れる気がする。そう思った優は、更に進もうとした。が、優が進もうとした道を遮るかのうように人が現れた。

 

「あれ? 神様?」

 

 なんでここに居るんだろうと思いながら、優はポンっと手を叩く。

 

「そっか。この場所は神様みたいな感じがするからだ」

 

 だから居心地がいいんだと優は笑った。

 

「そっちには行くな」

「もしかしてあっちが天国?」

「違う」

 

 優の疑問に否定した途端、神はパチンと指を鳴らした。すると、目の前に扉が現れる。

 

「この扉をくぐれば、元の場所に戻る」

「へぇー」

 

 返事はしたものの、優はこの場所に興味があり扉をくぐろうとしない。

 

「雲雀が待ってるぞ」

「んー、でもこの場所凄くいいんだ。なんだろう? 身体が軽い?」

 

 少し寄り道してから戻りたいなぁと優は神に目を向ける。

 

「ダメだ」

「えー! ちょっとだけだよー?」

 

 神が反対したので優はワガママを言った。仕方がないというように息を吐き、神は口を開いた。

 

「優の身体にここは影響を与える」

「そうなの? すっごく気持ちいいのにねー」

 

 名残惜しそうに優は周りを見渡し、扉に手を触れる。流石にこれ以上ワガママを言う気はならなかった。

 

「神様、またね」

「ああ」

 

 手を振りながら優が扉をくぐったのを確認した神は長い息を吐いた。

 

「自分の力で予知が邪魔されていたのか……」

 

 神はガクリと肩を落としながらも、更に呟く。

 

「寝込んだときにまさかここに来ていたとは……。俺に惹かれているのか? だが、今はもうこれ以上抑えることは出来ないぞ……」

 

 困ったように頭をガシガシとかきながら、神は優が進もうとしていた方向へ歩いていったのだった。


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