【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
深夜、ディーノは優の家に来ていた。ツナ達に制限されたことも話し終えた後、ディーノが代表で様子をみにきたのだ。当然ツナ達も行きたがったが、この時間に大人数にいけばバレてしまうといい説得してきたのである。
カチリと扉を開け、起こさぬように足音を消しリビングまでやってきたところで、問題が起きた。
「っ!」
半歩下がりながら上体を反り、ディーノは避けた。もう少し反応が遅ければ、当たっていただろう。
「オレだ、恭弥。優から鍵を預かっていたんだ」
慌てて声を潜めて説明するが、雲雀からの返事はない。恐らく鍵を預かっていたことが気に食わないのだろう。それでも咬み殺さないのは優が起きてしまうからだ。
「様子はどうだ?」
チラッと寝室に目を向けて、雲雀は溜息を吐いた。ここで答えなければ、寝室まで様子を見に行くだろう。雲雀はディーノに優の寝顔を見せたくはないのだ。少し前に見られていると知らない雲雀であった。もちろん、見られていたとしても次もまた見せるという話でもないが。
「……熱が出てる」
「それは本当か?」
雲雀は眉をひそめた。ディーノは決して頭が悪いわけではない。熱が出て倒れると聞いてもそこまで驚く要素はなかったはずだ。
「優は今まで風邪をひいたことがないんだ」
今度ははっきりと寝室に目を向ける。雲雀にとって優が風邪をひいたことがないというのはどうでもいい。問題は熱があがった経験がないのならば、少しの熱でもかなり苦しいはずだ。
雲雀の視線に反応したように、寝室のドアが開く。
「優!?」
ディーノは驚き声をあげたが、声を上げる時間も惜しむかのうように雲雀は優のもとへ向かい、優の頬を触っていた。
「まだ熱が下がっていないんだ。眠りなよ」
「……雲雀先輩、氷枕、ありがとう」
雲雀と目が合った優は微笑みながら言った。会話が噛み合っていないので、話を聞いているのかも怪しい。
ふわふわと浮かびながら優がどこかへと行こうとするので、慌てて雲雀は腕を掴む。
「どこ行くの」
「のど、乾いて」
「僕が用意するから、優は大人しく眠ってるんだ」
時間がかかりながらも、優はコクリと頷いた。一応、話は聞いているらしい。
「ディーノさんも……来てくれていたみたいで……すみません」
「あれを気にする必要ないから」
ふわふわとディーノのもとへと挨拶しに行こうとするので、雲雀は優を抱きかかえ寝室へと移動する。雲雀の発言にはどうかと思ったが、挨拶よりも眠ったほうがいいという意見には賛成なので、ディーノはツッコミはしなかった。
しばらくすると軽く溜息を吐きながら雲雀が出てきた。
「まだいたんだ」
「当たり前だろ」
嫌そうな顔で水のペットボトルを取りに行き、雲雀は再び寝室に戻ろうとしたところで足を止める。当然ディーノも気配を察知し、警戒した。
「ちゃおッス」
いったいどこから侵入したのかわからないが、リボーンは平然と2人の前に現れた。
「ヒバリ、優と話が出来るか?」
「………………少し待ってて」
優の体調を思い、雲雀の中でかなりの葛藤があった。それでも熱が出ているこのタイミングを選んだ。
寝室に入った雲雀は、もたれながら座っている優に声をかけた。
「もってきたよ」
「……ありがとう」
キャップをあける力もなさそうだと判断し、雲雀は封をあけてから手渡した。当然、支えながらである。力が入らずこぼしそうで怖いのだ。
「赤ん坊が話をしたいって言ってるけど、どうする?」
飲み終わった優に声をかけると頷いた。話をもっていくことを選んだ雲雀だが、思わず釘を刺す。
「少しだけだよ」
「……はい」
雲雀は優の頬を撫でてから、リボーンを呼びに行った。
ほんの少し待てば、リボーンが顔を出した。優はリボーンだけしか入ってこなかったことにホッと息を吐いた。
「わりぃな、無理させて」
「……大丈夫です」
ふふっと笑う姿はいつもと同じだ。習慣になるほど、笑って誤魔化す道しか残っていなかったのだろうとリボーンは思った。
「ディーノから全部聞いた。……ツナ達も一緒に聞いたぞ」
「……そうですか」
窓に視線を向けて、優は仕方がないように笑った。そして優はリボーンに頭をさげた。
「黙ってて、すみませんでした」
「気にする必要はねぇぞ。気持ちはわかるからな」
優はリボーンの目をジッと見て、コクリと頷いた。通じるものがあり、本音だと思ったのだ。
「ツナ達から伝言を預かってるぞ。この戦いが終わったら遊びに行こうって言ってたぞ」
「許してくれるんだ……」
溢れるほど涙が溜まっているが、優の目から落ちることはない。自身がいては泣けないのだろうとリボーンは判断した。
「……ごめんなさい、話があるんですよね」
リボーンが待ってくれていたことに気付いた優は、感情を抑えてリボーンと向き直る。
「優はどこに居るのかわかるのか?」
誰を指しているかわかったので、優は首を振った。恐らくリボーンは話せない内容が呪いをかけた人物についてだと判断したのだろう。
「私は声しか聞いてません」
「……そうか」
考え始めたリボーンのために、優は答えを教えることにした。もう探り合う必要はないと思ったから。
「私が話せない主な内容は呪いについてです」
ハッとして顔をあげたリボーンに優は微笑んだ。
「……すみません」
「優のせいじゃないだろ」
リボーンの言葉に優は目を閉じた。神から話を聞いているので原因は自分ではないとはわかっているが、全く関係がないと言われれば違うと思ったのだ。
「リボーン君、お願いがあります。このことを雲雀先輩には、言わないで」
「……なんでだ?」
「雲雀先輩は何も悪くないんです。私が雲雀先輩の言葉に甘えようとしたから……」
視線が下がる。あの時、優は雲雀に言われ話そうとした。何もかも。
それだけは甘えてはいけない内容だったのだ。だから話せないようにさせられた。
「だから話せないんじゃなくて、私のワガママで話さないにしてほしいんです」
顔をあげて笑った優をみて、リボーンは目を伏せた。ポロっと落ちた涙を見てはいけない。普段ならハンカチを差し出すが、泣いたという事実を優は認められたくないだろう。
「わかったぞ。オレからは話さねぇ」
「……ありがとう、リボーン君」
「ゆっくり休めよ」
「はい」
ピョンとベッドから飛び降り、リボーンは扉へと向かった。
パタンと扉を閉めた後、リボーンは視線を横に向ける。予想通り、雲雀がいる。そして扉を挟んだ反対側にはディーノの姿もあった。
「ヒバリ、優のことを頼んでいいか?」
「当たり前だよ」
雲雀の返事を聞き、リボーンは大丈夫だと判断した。雲雀と同じく盗み聞きしていたディーノも、軽く息を吐いてから雲雀に声をかけることにした。話を聞くまでは無理矢理にでも帰らせるつもりだったのだ。
「しっかり寝ろよ、優が悲しむ」
「……君に言われなくてもわかってる」
ディーノを睨んでから雲雀は優の寝室に戻った。それを確認したディーノとリボーンは音を立てぬように去ることにした。
雲雀が寝室に入ると、優はベッドに潜るように眠っていた。そのため雲雀もベッドの中に入った。すると、優がビクリと反応したので声をかける。
「僕だよ」
いつもならベッドに入ろうとする前に優は気配に気付くだろう。ディーノが家にいることに気付いていなかったことからして、熱の影響ではっきりとわからないのだ。だから盗み聞きが出来たともいえる。
もっとも風で浮いて移動していたことからして、優が風に頼んでいれば気付いただろうが。
「雲雀先輩……」
優は恐る恐る手を伸ばし服を掴む、雲雀は片手だけだが安心させるように優の背に手を回した。そしてそのまま2人は眠ったのだった。
翌朝、ツナは走っていた。帰ってきたリボーンから優は大丈夫だと聞いていたが、それ以上何も言わずに寝てしまったのである。
更にツナは、雲雀が敗れ優が連れて行かれる夢まで見てしまった。気になって仕方がなかったのだ。
それでも真っ直ぐに優の家に向かうのは正体がバレると気付き、ツナはディーノが居るかもしれない病院に向かっていたのだった。
「ディーノさん!」
扉を開けると同時にツナはディーノの名を呼んだ。
「ツナ、早いな」
ディーノはフッと笑った。優が心配で急いできたことがわかる。
「あの、ゅ……ヴェントの様子は!?」
「優で大丈夫だ」
「ディーノさん、優は!? 大丈夫なんですか!?」
「熱は出ているが、話は出来た。このまま休めば大丈夫だぜ」
ディーノは熱を測ったわけではないが、そこまで高くはなくないことがわかっていた。もしあまりにも高ければ雲雀が病院に連れて行っているからだ。
「何かあっても恭弥が看病しているし、安心するんだ」
「え? ヒバリさん、大丈夫ですか……?」
「心配するな。優が悲しむから寝ろって言えば渋々だが返事をしたぜ」
ツナは今度こそホッと息を吐いた。優のことが心配だが、雲雀のことも心配だったのだ。
「こいつらも心配なのか、同じことを聞きにきたぜ」
そういってディーノがあけた扉には、獄寺達が眠ってる姿があった。心配していたのは自分だけではないと知り、ツナは嬉しくなった。
「それに帰っちまったが、クロームって娘も優のことだけだが聞きに来た」
「本当ですか!?」
「ああ」
ツナは喜んだ。少し話はしたが、ツナはクロームとの距離感がイマイチわからないのである。そのため優とクロームが仲がいいというのは素直に嬉しかったのだ。そして今度、優に相談して助けてもらおうとツナは思ったのだ。……残念ながら骸の手助けがあったからなので、ツナにはその方法は厳しいと知る羽目になるだろうが。
「ヒバリさんが今日の試合に負けることはないだろうし……」
優が関わっていることなので核心があったツナは気が抜け、眠気が襲ってくる。
「おまえは修行だぞ」
ギクっとツナは反応する。ディーノは気を張っていたこともあり気付いていた。そしてツナの反応に自分の昔を見るようで笑った。
リボーンはツナに修行を続けるといい、ツナは意味がないといい反対をする。
「おまえ、もしもの時はどーすんだ?」
あれ……?とツナは思った。夢の中で見た、連れて行かれる時に謝った優の姿が頭に浮かんだからだ。
「……うん、お前の言うとおりだ。行こう」
「急に指図するな」
理解したのはいいが、肩の力が入りすぎているのでリボーンはいつものようにツナを蹴ったのだった。