【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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変な時間に投稿。


恩返し

 話は嵐戦の日までさかのぼる。

 

 優の膝の上には雲雀がスヤスヤと眠っていた。優は雲雀の頭を撫でた後、軽く雲雀の服を掴んでからディーノと向き合うように顔をあげた。

 

「……去年の4月4日に私は風のアルコバレーノになったんです」

「なっ……!」

 

 何が飛び出してきてもいいように構えていたディーノだったが、思わず声をあげてしまうほど驚いた。落ち着くように深く息を吐き、ディーノは声をかける。

 

「アルコバレーノになったってなんだ?」

 

 どこまで知ってるんだろうと悩みながら優は口にした。

 

「私の場合なので、リボーン君のはリボーン君に聞いてくださいよ?」

「ああ」

「急に身体からおしゃぶりが離れなくなったんです。産まれた時から持っていたわけじゃありません。そして私は力を得ました」

「……わかった」

 

 そう答えるしかなかった。アルコバレーノについてマフィア界に君臨する最強の赤ん坊としか知らないディーノからすれば、優の言葉は驚くべき内容だったからだ。

 

「風のボンゴレリングが数年前にとけたって聞いて、風のアルコバレーノになった私には心当たりがありすぎました」

 

 神に聞いていたというのもあるが、聞いていなくても気付いていただろう。あまりにもわかりやすい答えだ。

 

「それに……明確な日は覚えてませんが、ある時私の力は欲しがるだろうなぁと思ったんです。だからディーノさんのところに入ろうと決めたんです」

 

 そう言って優は笑ったが、ディーノはそれだけではないだろうとすぐに見抜いた。優の性格は知っている。ツナ達がディーノから聞いた時のために、全て話さなかっただけだ。

 

「……そうか」

 

 それでも優に問い詰める気はしなかった。すると、優が笑った。気付いていて突っ込まなかったことに感謝の意味で笑ったのだ。ウソとウソの間に見え隠れする優の気持ちに、ディーノは笑ってあげることしか出来なかった。

 

「ディーノさんには迷惑をかけると思います。私の力は強いですから」

「強い、か……」

 

 強いというだけでは想像しにくいのだろう。優は少し考え、落ちていた葉っぱを浮かばせてクルクルと回転させる。

 

「……幻覚か?」

「違います。術士タイプというのはあってますけどね」

「そうか、風か」

「さっき風のアルコバレーノと言いましたもんね」

 

 クスクスと笑いながら、優は回転させていた葉っぱを今度はディーノの前へと運ぶ。

 

「……1度だけ暴走させたことがあるんです。雲雀先輩が止めてくれなかったら、窓が割れる程度では済まなかったでしょうね」

 

 風を操るのを止めたらしく、重力の影響でヒラヒラと葉っぱが落ちていく。ディーノは思わず手を伸ばし掴んだ。

 

「今まで本気を出したことがないんです。それなのに、銃が撃てなくなるぐらいの突風を操れるんです。多分竜巻とか簡単に作れると思いますよ。こんな力、いらなかったのになぁ……」

 

 木々がざわめく。優の言葉に反応したかのように、風が吹いたのだ。

 

「もういいって雲雀先輩に何度か言ったんですよ。でも見捨てようとしないんです。最初はいつか学校を辞めることになるかなぁとポロっと言った時かな。まだ僕に振り回されておきなよって言われたんです。次は見られたくないものがあってバレれば権力の持つ人に狙われることになるって言っても、学校に通っていいって言うし……。復讐者に渡された鍵の時も……私のせいで関わった人がみんな死ぬかもしれないのに……」

 

 優は困ったように雲雀の見て話を続けた。

 

「だから雲雀先輩の近くは居心地が良くて……。ツナ君のところも好きだけど、真っ青になった顔を見ちゃったから……」

 

 顔をあげた優はいつものように笑っていた。

 

「自分の運命に何度も諦めたんです。アルコバレーノになってすぐにツナ君の言葉に拾われて、次に雲雀先輩に拾われて、雲雀先輩もツナ君も知らないところで折れそうになった時は名も知らない女の人に助けられて、それからまた雲雀先輩に拾われて。今度はディーノさんが私を拾おうとしてくれてます」

 

 幸せすぎて諦めれなくなるんですと言って、優は笑った。だが、その眼はほんの少し潤んでいた。

 

「返せるものなんて、私にはないから……。女の人には断られたから、言いつけを守ろうかなと思ってます。ツナ君には怖いけど、力を使えば少しは恩を返せるかなって。雲雀先輩には力をつかっちゃうと取られたって怒るので約束したことを守ろうと頑張ってます」

 

 ディーノは思わず頬をかいた。ツナはその返し方は望んでないだろうと思ったからだ。しかし皮肉なことに優の力はツナには必要だった。

 

「……ディーノさんは難しそうですね」

 

 うーん……と優は悩んだ。ディーノは強いので、優の力を借りる前に解決してしまいそうなのだ。

 

「それならオレが言ってもいいか?」

「はい! どうぞ!」

「オレがボス命令といえば、聞いてくれ」

 

 何度も瞬きを繰り返した後、優は必死に言い募った。

 

「……あまり難しいのは言わないでほしいです。雲雀先輩に無理矢理されたものがあって、もの凄く守るのが大変で後悔してるんです!!」

 

 優の言葉にディーノは笑った。雲雀もディーノと一緒で対策を立てていたようだ。

 

「大丈夫だ。オレは聞いてくれと言っただけだ。オレの話を聞いて、優が判断すればいい。無理にする必要はないんだ。まっ優に戦ってくれとかそういう内容は言うつもりはないぜ」

「それは恩を返したことになります……?」

「なる」

 

 ディーノだけでなく、黙って聞いていたロマーリオまで深く頷いたのだった。

 

 絶対に役に立つ時が来ると確信していたのだ。優は自分のことを後回しにすると2人は気付いていたのである。まさか次の日に使うことになるとはディーノ達もこの時には思っていなかっただろうが。

 

「ディーノさんがそれでいいならいいですけど……」

 

 不思議そうに話す優を見て、ディーノは仕方がないように笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ツナ達の顔を見ながら、ディーノは言った。

 

「リボーンの言ったとおりだ。ツナ、お前に感謝して戦うことを選んだんだ」

「オレ……」

 

 知らなかった。折れそうになっていたことも。何気なく言った言葉を優は感謝し、恩を返したいなんて思っていたことなんて。

 

「そのことに優は後悔してないぜ」

 

 アルコバレーノに選ばれたから戦うと決めたわけではない。もし優が神に説明されたから戦うことを選んでいれば、笑うことすら出来なかっただろう。制限を解いたとき、風だって悲しがっていたはずだ。

 

「後悔しているとすれば……話せない内容が出来たことだろうな。話せばお前らが死ぬと脅された時、恭弥に全て話そうと思っていたんだ。そしてツナ達にも正体を話すつもりだった」

 

 まるで狙ったようなタイミングに、優はもう何もかも諦めたのだ。だからリボーンにあれを言った。優が後悔するとすればツナの前で言ってしまったことぐらいだろう。それ以外はない。死んでも後悔はなかった。

 

「恭弥が正体に気付いて、本当に助かったぜ……」

「だからヒバリさん、あんな怪我なのに……」

 

 本当に何も知らなかったとツナは下を向いた。それを見てリボーンは口を開いた。

 

「知らなくてもお前は優が欲しかった言葉をかけてるぞ」

「え……?」

「気付いてねーのか? 優は脅されて話せなくなったことがあると言ったろ」

「あ」

 

 確かに優は言ったとツナは驚き顔をあげた。

 

「試合後にもヴェントが欲しかった言葉をかけた。優は嬉しかったはずだぞ。じゃなきゃ、試合前も後の時もヒバリがおめーを咬み殺してる」

 

 プッと噴出したのはディーノだった。

 

「ちげぇねぇ。あいつ、優のことになると心が広いようで狭いからな」

 

 笑いながら言ったディーノの言葉に心当たりがあったツナ達の表情が和らいだ。

 

 話のネタにされたと知られれば、雲雀は切れるかもしれないが事実でもあった。風紀や並盛に対する愛からわかるように、雲雀は一途で執着するタイプである。ヒラヒラと逃げる優を好きになってしまったばっかりに、ツナ達と群れるなどある程度は目をつぶる。だが、本心は嫌で仕方がないのだ。閉じ込めることが出来るのなら、とっくの前からしているはずだ。

 

「……ヴァリアーとはどこで知り合ったんだよ」

 

 ランボへの反応速度からわかるように、実は獄寺は面倒見がいい。もっとも沸点が低く言動が悪いのでわかりにくいが。

 

 獄寺は優が争奪戦前にヴァリアーと出会うほどの無茶をしていると思ったのだ。

 

「それか……イタリアに旅行した時だったらしい。オレの町を見に行こうとして、そこでベルフェゴールと会って拉致されて姫と呼ばれて大変だったと言ってたぜ。すぐに正体がバレたのは想定外だったようだ」

 

 あ。というマヌケな声をあげたのはツナと獄寺と山本だ。どこかで聞いたことがある話だったのだ。

 

 しばらくするとツナが笑い出した。驚いたように獄寺達は目を向ける。

 

「いや、だってさ。なんか納得しちゃったんだ」

 

 特殊な出会い方に優ならありえるとツナは思ったのだ。すると、獄寺と山本がそろって噴出した。

 

 ディーノとリボーンは目で合図した。もう大丈夫だろうと。ツナがもつ温かさもあるが、優なら……と思わせるものを優はもっているのだ。

 

「優がアルコバレーノとバレると影響が大きいんだ。学校に通えなくなるぐらいにな」

 

 ハッとしたようにツナ達はディーノを見つめた。迂闊に話せばディーノが連れて行くと言ったことを思い出したのだ。

 

「だから名前を間違わないように気をつけるんだ。出来るよな?」

 

 ツナ達の嬉しそうな顔を見てディーノはニッと笑った。水を差す気はなかったため言わなかっただけで、ディーノは当然目の前に迫っている問題に気付いている。ヴァリアーやチェルベッロへの口止めは勝てば何とかなる。しかし勝っても素直に喜べない事態も起きているのだ。

 

 ディーノはまだ風の守護者に相応しいと思われる人物がキャッバローネに入ったという根回ししかしていない。それでも影響が大きかった。それほど封印されていた風のリングは注目度が高い。これで新たなアルコバレーノだと知られれば、いったいどこまで影響が出るかはわからない。

 

 そこで鍵になってくるのはやはり9代目の安否である。XANXUSの不穏の言葉からして、もし9代目の身に何かあれば情勢が変わる。

 

 勝利すれば掟によりツナが継ぐことになるが、今のツナにファミリーを背負う覚悟は出来ていない。最初のうちはツナが継いだことに獄寺達は喜ぶかもしれないが、ツナの様子を見れば反対しだすだろう。その筆頭が優である。リボーンはそれがわかっているので、時期早々といい時間をかけるはずだ。トップがいないことで混乱は起きるだろうが、ボンゴレは巨大で簡単に折れるようなものでもない。

 

 その結果、ヴェントをまだ若く経験が少ないディーノのところではなく、自身のファミリーへと言い出す同盟ファミリーが現れる可能性もある。ディーノがボンゴレから預かっているとも取れるのだから。……もちろん断固拒否するが。

 

 この争奪戦に勝った時、ツナは9代目に何かあれば早く継がなければならない。ツナが時間をかければかけるほど、期待が注目度の高い優の方へと向かってしまう。そしてそれを優は甘んじて受け入れる。ツナを無理に継がせることに反対の筆頭は優なのだから。

 

 ディーノが手を回すのは当然だが、時間をかければ優はこの事実に気付くだろうとリボーンとディーノは予想している。さらに厄介なことに、優の場合は10代目の守護者なのか、9代目の守護者なのかという話もある。9代目は歳のこともあり、10代目の守護者として封印がとけたと考えるものが多い。しかしこのタイミングで9代目に何かあれば、優を担ぎ上げるものだって出てくるだろう。

 

 ふとディーノはある方向を見つめた。奇しくもその方向はイタリアに向いていた。

 

 家光からの情報をディーノ達は待つしかなかった。




9代目がなくなったら、争奪戦に勝った方が継ぐと考えればいいんですが、ツナ君はまだ覚悟出来ていません。
そこに主人公がいることで、ややこしくなるだろうなと思い書きました。

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