【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
校門を出たので、雲雀に優は声をかけた。
「真っ直ぐ向かって大丈夫と思います。ディーノさんが手を回してくれてます」
「そう」
雲雀は軽く優を持ち直した。重いという意味ではなく、顔を肩に押し付けるようにするためだ。辛そうに息を吐いているとわかっていたが、雲雀は泣かせたほうがいいと判断したのだ。
「警戒は僕がするから」
「……ありがとう」
不自然ではない程度に優は雲雀の肩に埋もれ、ツナの言葉を噛み締めるように泣いた。
悲しくて泣いたわけではなかったので、雲雀にベッドの上へと寝かせてもらった時には優は泣き止んでいた。
「もう大丈夫です、ありがとうございました」
睨むように見れば、優は困ったように笑った。雲雀が心配していると理解して言っているのである。はぁと雲雀が溜息を吐けば、優は少し迷った素振りを見せながら言った。
「……ダメなんです。熱が出てると思います。雲雀先輩にうつっちゃう……」
いつもと違い、身体があつくてだるい。風邪にかかったことがない優でも、風邪はうつるという知識はある。
「うつせばいい」
「んっ……!」
力が入らず逃げれない優は、雲雀のキスを受け入れるしかなかった。
スッと離れた雲雀は、まずいと判断した。熱でボーッとしているところに、雲雀がキスをしたのだ。いつもより優の息が荒く、潤んだ目で雲雀を見ている。もっとしたくなる気持ちを我慢するのは相当な気力が必要だ。
それでも雲雀は持ち前の精神力で優には悟らせない。
「大人しく寝ないと、何度でもするから」
「ダメ、です」
これ以上すれば、本当にうつってしまう。
「……ごめんなさい、ありがとう」
随分無理して起きていたらしく、優はすぐに折れて眠った。
雲雀はいつもより熱をもった頬を撫でてから、優の身体が少しでも楽になるようにと動き出した。
一方、優達が去った学校では、ツナ達も帰ろうとしていた。
「結局、わかんなかったスね」
「そうだね」
返事をしながらも悩んでるツナを見て、獄寺は再び声をかけた。
「あいつがいった言葉が気になってるんスか?」
「……そうなんだ。オレ、誰に言ったんだろう……」
――笑ったほうがいい。
普段からツナがかける言葉ではない。だからこそ、気になるのだ。
「あいつの勘違いとか?」
「ううん。オレも誰かに言った気がするんだ」
答えが出そうで出てこないため、ツナは頭をガシガシとかいた。
「……なぁ、ツナ」
「ん? ……山本、どうしたの!?」
悩んでいたツナだが、山本の言葉に振り向いた。すると、そこには顔色の悪そうな山本が居たのだ。
「あいつじゃ……ねぇ、よな?」
「え? もしかして、誰かわかったの!?」
「おお! 凄いではないか!」
「た、たまにはやるじゃねぇか。野球バカの癖に……」
パッと嬉しそうな顔をしたツナ達とは対照に、山本の顔色は優れない。
それを見てディーノとリボーンは目で合図した。山本は正体に気付いている。
「山本、絶対にここでは話すなよ」
「跳ね馬、邪魔すんじゃねぇ! 山本、答えやがれ!!」
「獄寺、落ち着け。ディーノはツナ達に話すなとは言ってねぇぞ。場所をかえろと言ってるんだ」
「迂闊に話せば、オレがイタリアへ連れて行く。それでもいいのか?」
山本は口を噤んだ。マフィアなどをよくわかっていないが、ディーノの言葉でここでは話してはいけないと思ったからだ。
「ひとまず、病院に行くか……」
ディーノは今すぐ山本が話さないと感じたので、場所の提案をしたのだった。
病院についたツナ達は、ディーノが真剣な表情で気配を探り、リボーンがレオンをつかって盗聴器の有無を調べているのを見て、正体がわかると喜んでいたツナ達だが重々しい雰囲気に口数が減る。
「クロームも、きたんだ」
空気をかえたい気持ちもあったが、話題が出るわけもなく、ツナは目に入ったクロームに話しかけたのだ。
「……知りたいと思ったから」
「そうなんだ」
「笑ってたから、ずっと……」
骸にいわれた通り、クロームは世話になった。その時にクロームが戸惑ってもずっと優は笑いかけていた。そのためクロームは自分とは全く違う人と思っていた。だからツナの言葉がなければ、折れていたと知り驚いたのだ。
「もしかして……クロームは正体を知ってるの!?」
「骸様も……」
ガーンとツナはショックを受けた。
「大丈夫そうだな。山本、話してもいいぜ」
リボーンから了承の合図をうけ、ディーノが声をかけたが山本は言い出せなかった。もし予想通りの人物だとすれば、素直に喜べないからだ。
「てめぇ、いい加減にしろよ!」
焦れた獄寺が山本に突っかかる。しかし苦い顔をするだけで山本は答えない。リボーンとディーノは軽く息を吐いた。正体がわかれば、こうなることも予想していたからだ。
「山本。お前の反応からして正体は間違ってねぇ。……どう、思った?」
「……わかんねぇ」
「山本……」
山本がここまで思いつめるのは骨折し野球が出来ないと思った時以来である。その山本も城島犬との戦いで友達と野球なら友達をとると宣言するほど友達を大事にしていた。だからこそ正体を知り、いろんな感情が浮かんでくるのだ。
「なぁ、本当にわからないのか?」
自分の口からではなく、山本は自力で知って欲しいと思って言った。しかし喧嘩っ早い獄寺からすれば、山本の態度はわからない自分達に対してバカにしてるとしか思えず、山本の胸倉を掴んだ。
「わからねぇから、言ってるんだろうが!!」
「獄寺君!?」
「……ヒバリを見ても何も思わなかったのか?」
「ぬ? ヒバリか? あいつはいつも通りだったではないか。ヴァリアーに突っかかっていたしな!」
了平がトンファーを出し戦おうとしていた雲雀の行動を思い出し、何度も頷いた。
「……オレには違うように見えたんだ」
フッと獄寺は胸倉を掴んでいた手を離した。
「ウソ、だろ。……あのバカ!!」
獄寺はその場にあったパイプ椅子を蹴りあげた。驚いているツナと了平と違い、山本は目をつぶるだけだ。気持ちは痛いほどわかるのだから。
そして、獄寺は矛先を変えた。
「てめぇ、なんで黙っていやがった! 跳ね馬!!」
「ディーノにキレるのはお門違いだぞ。あいつも言っていたじゃねーか。自分の意思でツナの手助けをすると選んだってな」
「……くそっ!」
ガンっと今度は壁を殴った。守る対象と思っていた人物に守られていたのだ。情けない気持ちが強い。他にもなぜ話してくれなかったのか。知っていれば邪険にすることもなかった。かといって、知っていれば許したのかといえば違うだろう。雷戦のランボの態度も頷ける。泣くぐらいなら、無理するんじゃねぇと文句をいいたいが、そもそも自分達が強ければ無理することもなかったはずだ。結局、物に当たるしかなかった。
獄寺のキレ具合にビクビクしながらも、ツナはリボーンの言うとおり知ってる人物なんだと思った。
「……その、獄寺君……」
ツナの声に獄寺は顔をゆがめた。獄寺でさえここまで動揺したのだ。ツナが知れば……。
「10代目……すみません!!!」
「あ、いや。言いたくなければ、いいんだ」
違います、そういう意味じゃないんです……。頭を下げながらも、獄寺はどう伝えればいいのかわからなかった。
「違うんだ、ツナ。獄寺も山本も、お前が正体を知ればショックを受けると思って言えないんだ」
「オレが、ですか?」
「ああ。……最大のヒントだ。あいつらは恭弥が守ったようにみえたんだ」
ツナは不思議そうな顔をした。誰を?と聞かなくても、ヴェントのことだとわかった。だが、雲雀が誰かを守るという言葉に違和感があったのだ。ツナの守護者に選ばれたが、雲雀がツナを守るというイメージは出来なかった。ツナも一緒に咬み殺すイメージしか出来ない。それこそ雲雀が守るとすれば優ぐらいしかツナは知らない。
「ヒバリさんが優以外に守る人なんていたかなぁ……」
答えが出ているにも関わらず、ツナはたどり着かない。それがまたいっそう、山本は視線を下を向くことになり、獄寺は顔をゆがめるのだ。
「沢田殿、正体はその優という人物ではないのでしょうか?」
優のことを知らないバジルだからこそ、ツナに向かって率直に質問できた。
「優? 優はないよ。だって、優は争い事が全然ダメでいつもヒバリさんの後ろに隠れてるよ」
「……ヴェント殿も、争い事を好まなかったのではないのでしょうか?」
明るい口調で否定したツナに、バジルは不思議でしかなかった。バジルにヴェントが争いが好きじゃないと教えたのはツナなのだから。
「それにヒバリ殿になら、押し付けれると……」
「ぐ、偶然だって。優には何度も助けてもらってるけど、危ないことは出来ないよ」
「うむ。風早は京子の友達だ。守らなければならぬ!」
了平の言葉にツナは力強く頷いた。バジルの的確な指摘を聞いても、ツナは自分の都合にあう了平に賛同したのだ。
「それにオレ、優に笑ったほうがいいなんて言ったこと……」
――褒めたって何も出ないよ。
――笑った!
「あ、れ……?」
――笑ったほうがいいよ!
――あ……ありがとう……
「ち、違う。あれは……優が笑ったからビックリして言っただけで……」
プリントをまわす時などに振り返れば、優はいつも興味なさそうに空を見ていた。だから驚いてつい口に出しただけで、救ったとかそういう話ではないとツナは言いたかったのだ。
「ツナの言葉が、優を生かしていたんだな」
「……リボーン?」
「サンキューな、ツナ」
「な、なんだよ……それ……」
まるで優がヴェントの正体である口ぶりにツナは動揺した。
「オレもアルコバレーノだ。あいつの気持ちがわかるからな」
「……アルコバレーノってなんだよ!」
「さぁな、オレだってよくわかってねぇんだ」
のらりくらりとかわされたとツナは一瞬思ったが、リボーンの目は真剣だった。
「だが、これだけはわかるぞ。あいつはお前に感謝してるぞ。お前に言われて笑ってもいいと思えたんだ」
「……オレは、そんなつもりで言ったんじゃ……。それに、優がヴェントだなんて……」
「言ったろ、感謝してるって。命をかけるぐらい、な」
ツナはグッと手を握り締め、ディーノに向かって頭を下げた。
「お願いします! 優のことを教えてください!」
優はわかりにくいと知っていた。知っていたのに、見抜けなかった。悔しくて泣きそうになる気持ちをおさえ、ツナは何か知ってるであろうディーノに頭を下げたのである。
そのツナの横に、山本が頭を下げた。そして、くそっ!と一言呟いてから獄寺も。
「風早は京子の大事な友達だ。守ってやらねばならぬのだ」
いまだ信じられないながらも、了平も頭を下げた。
「……わかったから、頭をあげるんだ」
ツナ達が顔をあげたのをみて、ゆっくりを息を吐きディーノは口を開いたのだった。