【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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試合直前

「ねぇ、なにしてるの?」

 

 不機嫌そうな声に優とツナは恐る恐る振り返る。雲雀の顔を見た瞬間、息が合ったように2人は離れた。玄関で話し込んでいたので、様子を見に来たのだろう。とりあえず優は笑って誤魔化す。

 

「ひっ!」

「ツ、ツナ君は悪くないです! 私が思わず抱きついちゃって……」

 

 火に油を注いだ。優から雲雀に抱きついたことは今までないのだから。

 

 グイッと腕を取り、雲雀の後ろに優を移動させる。

 

 ああ……と残念そうに優がツナから離れるので内に入ったことに雲雀は気付いた。優が逃げ出す確率が下がったのはいいことだが、今日は2人っきりの時間が少ないのだ。これ以上とられるのは面白くない。

 

 実は昼にも優に会いにディーノが来ていたのである。試合当日なので心配で様子を見に来たのだろうが、それは雲雀だって同じだ。雲雀と優が過ごす時間を減らされるのは理不尽である。ただ、ムカついてディーノを咬み殺そうとし優が帰るという言葉を聞いて我に返ったのだから時間が少ないのは自業自得でもあった。

 

「……僕、お腹すいた」

「あ、はい。わかりました」

 

 優にとって、この言葉の優先順位は高い。よく作らされていたのだろうと推測できる。あまり使わないほうがいいのかもしれないが、威圧せずに優を独占できる言葉だ。それに以前、雲雀は綺麗に完食するので作るのは好きと言っていた。自然と口にすることが多くなるのだ。

 

「ごめんね、ツナ君」

「ううん。いいよ。オレは優の顔を見れただけで良かったから」

 

 その言葉を聞いた優は照れたように笑った。ムカツクので雲雀はツナを睨んだ。

 

「……じゃ、じゃぁオレ帰るね!」

「うん、今日はありがとうー! リボーン君も!」

 

 様子を見にきてくれたのだろうと気付いていた優は、リボーンに視線を合わせるためにしゃがみこんで言った。

 

「良かったな、優」

「うん、頑張れそう」

「そうか」

 

 優は玄関から外に出て2人が見えなくなるまで手を振ったのだった。

 

 見えなくなった途端、家に入りご飯に取り掛かる。雲雀はソファーで待っているようだ。

 

「すみません。すぐに作りますね」

「急がなくていいから」

「はい、ありがとうございます」

 

 料理を作る音と優の鼻歌を聞きながら、雲雀はソファーで寝た。

 

 

 

 ご飯を作り終わった優は、どうしようと頭を悩ませる。気持ち良さそうに眠ってる雲雀を起こすのは気が引ける。しかしお腹が減ったと言ったのは雲雀だ。仕方ないと息を吐き、雲雀の肩をユサユサと揺らす。

 

「雲雀先輩、ご飯できましたよ」

 

 揺らしている手を取られたので、まだ眠たいのかもしれない。もう少し眠らせようと手を引っ込めようとしたが、しっかりと握られている。無理矢理離すのは気が引けるので、腰を下ろそうとすれば手の甲に柔らかい感触がした。

 

「ひゃ!」

 

 耳まで真っ赤になり、どうすればいいかわからなくなった優は中腰のまま右往左往する。すると、雲雀と目が合った。

 

「お、起きてる……?」

「起きてるよ」

 

 いったいいつからと思いながら、優は手を引っ込めようとするが、離してくれない。それどころか、また甲に口付けられる。ギュッと目をつぶっていると、雲雀が言った。

 

「無茶しないで」

 

 優はストンと腰をおろし、雲雀の顔を見て笑った。

 

「もしかすると倒れるかもしれませんが、約束は守りますよ」

「………………わかった」

 

 随分返事が遅かったなと、優はまた笑った。大事にされているのでくすぐったいのだ。それに行くなとは言わなかった。

 

「雲雀先輩、大好きです」

「知ってる」

 

 雲雀の返事に優はまた笑った。

 

 

 

 

 

 遠回りをしながら試合会場である学校に向かっていると気配の多さに眉を寄せる。見に行けばチェルベッロの関係ではなく、ディーノの部下達だった。今日の試合で制限をとく可能性を考えて、手配してくれたようだ。

 

(スクアーロさんのこともあるのに……ありがとうございます)

 

 詳しく聞いてはいないが、もうスクアーロが目が覚めていてもおかしくない。薬で眠らせてるかもしれないが、暴れた時のために人手を割く必要があるのに、優のためにも動いている。どうすればこの恩を返せるのだろうかと優は思った。ディーノは簡単に受け取ってくれないのだから。

 

(ほんと、この世界の人たちはいい人すぎる……。ずっとどこかに行きたいと思ってた私が、ここならいいと思い始めてる)

 

 同じ場所の行き来しかしなくなりそうな未来を浮かべ、それも悪くないと優は思い始めた。

 

(雲雀先輩とツナ君とディーノさんのところかぁ……。うん、楽しそう)

 

 口元が緩みそうになるのを必死に抑えながら、優は学校に向かった。

 

「あ!」

“どうも”

 

 校門前でツナ達の姿を見て、優は軽い足取りで向かった。ツナと話すのが、怖くなくなったのだから。

 

「大丈夫……?」

“珍しく気が乗ってる”

 

 ホッと息を吐いたツナに向かって優は言った。

 

“いつもありがとう”

 

 え?と驚いているツナを放置し、優はディーノに向かって軽く手を上げた。

 

“悪い、助かる”

「……やるのか?」

“やらなくていいのなら、しない”

 

 優らしい言葉にディーノは息を吐き、優の肩を掴んだ。制限のことだけではなく、ツナ達が関係なければやらなかったという意味も含まれてると気付いたからだ。

 

「いいか? 無理だけはするなよ」

“……わかったから。これ以上は勘弁だ”

 

 ディーノは笑った。昼に言ったのもあるが、雲雀からも散々言われた後なのだろうと。

 

「わかってるならいいんだ。応援はしてるからな」

 

 ディーノがポンッと頭に手を置いたので、優はほんの少し表情を緩めた。

 

「オレらも応援してるのな!」

「10代目の顔に泥を塗るような真似はするんじゃねぇ!」

 

 フッと笑った。優の時とあまり変わらない気がして。

 

「てめぇ、バカにしてんのか!?」

“全く。嬉しかったんだ”

「……そうかよ」

 

 やりにくそうな獄寺を見て、ツナ達は笑った。

 

「拙者も応援しています! 親方殿からも応援していると伝言を預かっております!」

“そうか、ありがとう”

 

 家光の姿を思い浮かべ、ツナのためにも優は頑張ろうと思った。

 

「極限、お前は誰なのだーー!」

「お、お兄さん!?」

 

 放課後からずっと考えていた了平はついに限界がきたらしく、本人を目の前にして叫んだ。

 

“……ここでは言えないな”

 

 真正面から聞かれた時は誤魔化さず答える優だが、チェルベッロの気配がする場所では言えなかった。

 

「え? もしかして教えてくれるの?」

“……君には言いたくない”

「えー!? なんでー!?」

 

 怒られる気がするから。それに……。

 

“君だって、関係のない友人には黙ってるだろ?”

「うん。でもそれは心配かけたくないからだし……」

“僕もそれに似たようなものだ。僕は君に弱いからな”

 

 そうなの?と首を傾げてるツナから視線を外し、近づいてくる気配の方へと顔を向ける。

 

「……群れすぎ」

“仕方がないだろ……”

 

 雲雀の呟きに優は思わずツッコミした。見に来るなという方が無理な話である。雲雀だって見にきているのだから。

 

“この試合は僕の顔に免じて許してくれ”

「はぁ、わかったよ」

 

 やれやれというように雲雀はツナ達と距離を保ち、大人しく立っていた。

 

「ん? ヒバリは正体を知ってるのか?」

「あ、うん。そうなんだ」

「本当ですか!? 10代目! ヒバリ、教えやがれ!」

「……どうして僕が?」

「ヒバリだけ、ずるいではないか!」

「僕は教えてもらったわけじゃない」

「えー!? ヒバリさんは自力でわかったのー!?」

 

 雲雀の機嫌がそろそろ悪くなりそうと気付いた優はフードの上から頭をかいた。

 

「そこまでだ。今日はあいつの正体を探るためきたわけじゃなく、応援しにきたんだろ?」

 

 舌打ちするのものも居たが、ディーノの言葉で静かになった。

 

“ん? クローム、来てくれたのか!”

 

 クロームの気配に気付いた優は、嬉しそうに声をかけた。実際、小躍りしたいぐらい喜んでいる。

 

“ありがとう”

 

 真っ直ぐな好意にクロームは恥ずかしがったが頷いた。優が喜んでいる隣では、ツナ達が昨日何があったんだろうとちょっとドキドキしていた。

 

 ふと優は顔をあげる。ヴァリアーがきたと気付いたからだ。大人しくしてくれればいいものの、残念ながら今日もやってくるらしい。

 

“ベル、今日は何だ……”

「ん? 応援」

 

 優はフードの上から額を押さえた。純粋な応援に頭が痛い。

 

“……ありがとう。だけど、せめて形だけでも向こうを応援してやれ”

「正解はこっちじゃん」

 

 そういって、ベルは優の肩にひじを置いた。雲雀の視線が突き刺さる。

 

“ベル、僕は気を許した人以外に触れられたくないタイプだ”

「うしし」

 

 遠まわしだとわからなかったらしい。

 

“だから、おろしてくれ”

「なんで? オレらは相性がいいじゃん」

 

 王子と姫という意味なのか、それとも戦闘スタイルから考えてなのだろうか。優は大きな溜息を吐き、ベルのひじをおろして雲雀の隣に移動した。

 

“悪いな、ベル。僕は嵐の君よりも、雲の彼の方が相性がいいんだ。彼は殺しはしないし、僕が敵を押し付けても君は怒らないだろ?”

「その分、僕の相手をしてくれるならね」

“……押し付けたくなくなりそうだ”

 

 どちらを選んでも精神的にきそうだと優は思ったのだ。それでも戦うよりは、雲雀に翻弄されるほうがいい。嫌ではないのだから。

 

「コイツ、やっぱ生意気」

「やるかい?」

“この場合は、どうなるんだ?”

 

 いい加減、姿を現せという意味で優は少し大きめな声で言った。すると、チェルベッロが現れた。

 

「……両者失格です。雲のリングをヴァリアー側の物とし、嵐のリングが沢田氏側の物になります」

“つまり沢田綱吉側の勝利か”

「げっ」

 

 流石に手を出すのはまずいとわかったのか、ベルは帰っていった。……雲雀に殺気は送っているが。

 

“悪い、また助かった”

「いいよ。別に」

 

 言わなかったが、昨日と同じ言葉が隠されているとわかった優はガクリと肩を落とした。

 

「今宵の対決のフィールドはこちらです」

 

 照明を当てられた方へと優は視線を向ける。しかしここは校門前なので光ってる場所はわかるがよく見えない。ツナ達が駆け出したが、優は慌てることもなく歩いて向かう。少し離れた優の後ろでは雲雀が歩いていた。

 

 優は守られている気がして、緊張することはなかった。




明日は泊まりで出かけます。
なので、明日は多分厳しい。
明後日は遅くなるけど更新できると思います。

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