【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
時間が時間なので、優と雲雀は一緒に登校していた。応接室につくなり、優は腕をまくる。
「今日は溜まってる書類を片付けますよー!」
気合が入ってるのはいいが、今は書類よりも大事なことがある。
「あ、その前に教室に行こうかな。京子ちゃんと花に顔を出した方がいいし。ちょっと行ってきますね」
優の後姿を雲雀はジッと見ていた。雲雀が名を呼ぶ前に優が声をかける。偶然ではないだろう。話したくないため雲雀から逃げているのだ。
「……草壁、呪いと聞いて何を浮かべる?」
「具体的なものは浮かびません。現実的ではありませんから」
「そう」
雲雀が窓から景色を見ているので、草壁は呪いについて考えていると気付いた。そのことに草壁は違和感がある。雲雀も草壁と一緒で信じるタイプではないからだ。
「具体的なものは浮かびませんが……呪いという言葉は、不幸になるという印象が強いです」
「…………」
返事はなかったが、雲雀は話を聞いていると草壁はわかっていた。雲雀から声をかけた場合は必ず耳を傾けていると知っているからだ。
しばらく静かな時間が流れていたが、ふと雲雀が外の景色から視線を外し、扉の方へと向ける。
「入ってきなよ」
声をかけても一向に入ってくる様子がなく、雲雀は溜息を吐いた。ドアの前にいるのはわかっているが、雲雀が無理矢理連れて行こうとすればその前に逃げるだろう。気配を殺して近づいても風で探られていれば意味がない。
「溜まってる書類をするんでしょ?」
おずおずと優は顔を出し、席に腰をかけた。座ったことを確認した雲雀は草壁に視線を送る。察した草壁は応接室から出て行く。優に2人っきりにしないでという視線を感じながらも。
「優」
名を呼ぶだけで優はビクッとするので、仕方ないという風に雲雀は息を吐いた。
「これだけは答えて。優は幸せ?」
「……幸せすぎて、怖いです」
ポツリと呟いた言葉を聞き、雲雀は優の隣に腰をかけた。
「怖くなったら僕に言えばいい。……辛くなった時も」
「もう怖いです。雲雀先輩が優しすぎて……」
ポロポロと落ちる涙を雲雀は袖で拭った。いつもと違って抱きしめなかったのは、優の顔を見たかったからだ。
いつもと違いすぐに泣き止んだ優は照れたように笑った。間近で見た雲雀は我慢することは出来ずに口づけしようとしたが、優に避けられる。
「ダメです」
雲雀はすぐに周りを見て気配を探ったが、何も感じない。ムスっと機嫌が悪くなる。
「だって痛そうですもん……」
優は自分の唇を指をさし、昨日雲雀が噛んだ場所を教える。
「痛くないから」
「ダメです」
笑顔で牽制する優を見て、ますます雲雀の機嫌が悪くなる。ついにはプイッと横を向いてしまった。
「うーん、じゃぁ、これで我慢してください。失礼しますね」
頬に柔らかい感触がし雲雀が振り向いた時には、何事もなかったように優は書類を持っていた。だが、顔だけでなく耳まで真っ赤である。
「誤魔化せてないよ」
「……そ、それは言わないでください」
書類で顔を隠す姿を見て雲雀は満足した。真っ赤になっていたのは優だけではないのだから。
今日もツナはいつもの場所で修行していた。
「リボーン、お願い」
「……休憩だぞ」
「でも!」
リボーンは首を振った。修行にやる気があるのはいいが、焦っていては零地点突破のタイミングをはかれるとは思えない。
「沢田殿、拙者も休憩した方がいいと……」
2人から反対され、ツナはゆっくりと腰をかけ謝った。
「今日の試合が心配になるのもわかりますが、あの者は強いのでは?」
バジルの中ではスクアーロと対等に戦っているイメージが強いのだ。しかし、ツナは無理して戦っているとしか思えない。
「1位の人は、オレと似てるんだ。争いとか好きじゃないんだ」
「そうでしたか……。拙者は前に出て戦っている印象が強く、気付きませんでした」
「あれはオレ達を守るためだよ」
だからこそ、わからない。
「どうして、無理してまで助けてくれるんだろう……。なぁ、リボーン。お前はもう正体がわかったんだろ? 教えてくれてもいいじゃないか」
「知ってどうするんだ?」
「え?」
「おめーは顔を知らなくてもあいつなら応援するんだろ。隠してる奴の顔を無理矢理暴きたいのか?」
「そうじゃないけど……」
霧の守護者の時とは違い、戦う仲間がわからなくて知りたいわけではない。顔はわからないが、人となりは十分知っているのだから。
「ただの興味なら止めとけ。お前も相手も傷つくだけだ」
「……ただの興味じゃない」
ツナは顔をあげ、リボーンを真正面から見た。
「知らないとダメなんだ。1位の人のことをわかってあげないといけない気がするんだ」
「だったら、考えろ」
えー!とツナは声を上げる。教えてくれると思ったのに、と。
「1人じゃ思いつかねぇなら、獄寺達と一緒に考えばいいじゃねーか。修行はここまでにするぞ」
「……うん、わかった」
いつもよりかなり早い時間だが、ツナは帰り道を歩き獄寺達に連絡した。
連絡した結果、ツナの家には獄寺、山本、了平が集まった。クロームとの連絡方法はわからず、雲雀は正体を知っているので声をかけなかったからだ。
「集まってもらったのは、1位の人の正体をみんなで考えようと思ったからなんだ」
「極限、気になっていたぞ!」
「仲間なのに知らないのは変だもんな」
山本達も知りたがってるのでツナはホッと息を吐いた。そしてまだ返事がない獄寺に声をかける。
「獄寺君も気にならない?」
「……オレらが考えてわかるんスか? 素顔の知らない奴の正体を考えても意味がねーと思います」
ツナの質問には答えず、獄寺はもっともらしい疑問を口にした。すると「あ」という声が3人からあがり、気まずい空気が流れる。
「わかるぞ」
「リボーン、本当!?」
「ああ」
了平とは接点が少ないが、京子を通して優のことを知っている。そもそも並中で優のことを知らない人物はいない。雲雀の彼女として名が知れ渡っている。
リボーンの言葉でツナ達は必死に考えるが、見当はずれの名ばかりがあがる。性別さえ合わない。
「ツナ。ディーノさんなら、知ってるんだよな?」
嵐戦の時の様子を思い出し、ツナは山本の質問に思い出したように頷く。そして山本が言いたいことを理解したツナ達は笑顔になる。一名だけは、素直になれずブツブツといいながらも賛成していたが。
「お前らの頼みでもディーノは話さねぇぞ。あいつはディーノのファミリーの一員だからな」
「えー!? そうなのー!?」
ディーノにお願いして教えてもらおうとしたツナ達はショックを受ける。
「跳ね馬のファミリー……」
明後日の方向に悩み始めたので、リボーンが修正する。
「あいつは最近入ったばっかりだぞ」
「最近?」
リボーンはツナの確認に頷いた。そして、真っ直ぐツナの顔を見て言った。興味本位で探しているわけではないと言ったのだから。
「お前達のためにあいつはディーノのところに入ったんだ」
「オレ達のため?」
「ああ。詳しく話を聞いたわけじゃねぇが、あいつの考えはわかるぞ。おめーらを助けるために選んだってな。本人も死んでほしくねぇって言ってたじゃねーか」
ツナ達と友達ではなければ、優は隠し通していただろう。すぐに逃げやすい性格なのだから、なりたくもないマフィアに入らないようにしていたはずだ。
いったいどういう気持ちでフゥ太にランキングを頼んだのかとリボーンは思う。ランキングにはツナが継いだ時という内容はあった。しかし、継いだわけではないツナを助けるためには他のマフィアに入らなければならない道しか残っていないと優は気付いていたはずだ。もしツナが継がなかった道を選んでも、優はツナを助けるために入ったので抜けれない。ディーノが逃げ道を用意していたとしても、優はその道を選ばないだろう。ディーノに恩があるのだから。
唯一の救いがあるとすれば、雲雀とディーノに接点が出来たことだ。ツナが継がなくなったとしても、ディーノに教え子が心配だからついていてくれと言われれば、優は断れない。いいのかなと思いながらも、行きたい場所なので進んで雲雀のもとへ行くだろう。実際、優以外に雲雀を動かすのは困難なのでウソではないのだから。
「うーん……」
ここまでヒントをあげて未だ正体にたどり着かないツナ達を見てリボーンは溜息を吐いた。そこまでしてツナ達のために動くのは限られた人物しかいないのに。
「ん? リボーン、どこ行くんだ?」
ドアから出ようするリボーンにツナは声をかけた。リボーンが居なければ正解かどうかもわからない。
「優のところだぞ」
「え? そうなの? だったら……」
オレも行くと言おうとしたところでハタと気付く。ツナが声をかけたから集まったのだ。いくらなんでも行くとは言えない。
「いいスよ。オレ達はもう少し考えてますから」
「それに気分転換した方がわかるかもしんねーのな」
「だな! 極限に問題ないぞ」
「ありがとう!」
獄寺達に背を押され、ツナはリボーンと一緒に優のところへ向かうことが出来たのだった。
優の家までの間の世間話として、ツナはリボーンに声をかけた。
「優に何の用なんだ?」
「おめーこそ、優に用事か?」
優は精神の方に不安があるので試合前に会っておこうと思ったと答えられないリボーンは、質問を質問で返した。
「うん。最近、会えてなかったのもあるけど……優はヒバリさんと一緒に居たなら話を聞いてるかもしれないと思って……」
ツナは優を安心させるために顔を見せに行こうと思ったようだ。
「ヒバリさんと違って、あんまり安心させれないかもしれないけど……」
「いいじゃねーか。ツナの顔を見るだけでも優は喜ぶぞ」
「……そうかな」
自信がないのは避けられたまま修行に入ったからだろう。
「ツナ」
「ん?」
「お前が避けてるから優も避けてるんじゃねーのか? ツナが真正面から聞けば、あいつは答えるはずだぞ。このままでいいのか?」
リボーンの言葉にツナは足が止まる。そして意を決したように顔を上げ、再びツナは歩き出したのだった。
呼び鈴が鳴り、顔を出すとツナだけじゃなくリボーンも居たので優はバレちゃったかもしれないと考えた。
「ツナ君、どうしたの? 修行しなくていいの?」
それでも何もなかったように話しかける。バレたとは限らないからだ。
「優、あのさ……オレ、何かした?」
「へ?」
「少し前からオレのこと避けてるよね?」
グッと言葉に詰まった。その話だとは思わなかったのだ。
「オレ、直すからさ。言ってほしいんだ」
「ツナ君は何も悪くないよ!! ……私が悪いの」
優は困ったように笑った。
「……優、何があったの?」
「ええっと、あることを話しちゃダメって脅されちゃって……」
「え!? ヒバリさんに相談してないの!?」
黙って聞いていたリボーンは思わずガクッとなった。優のことでそのタイプの問題は雲雀に任せる気満々だったからだ。
「雲雀先輩は知ってるよ。でも、雲雀先輩でもどうしようもなくて……」
「……ヒバリさんでもダメなんだ」
「それで、私が話しちゃえば……みんなに被害がいっちゃうから……」
「えー!?」
ツナの反応を見た優は頭を下げた。
「……ごめん。もう関わらないようにするから……」
「もしかして……そんな理由で避けてたの!?」
優は顔をあげて気まずそうに言った。
「そんな理由って、雲雀先輩がどうすることも出来ない相手だよ? 死んじゃう可能性だってあるんだよ……?」
「大丈夫だよ。だって、優は話さないから」
笑うしかなかった。ツナに真っ直ぐな目で言われたからだ。そこまで信頼されれば、優は笑うしかない。
「優?」
「……ツナ君には敵わないなぁ」
「え? オレ、何もしてないよ? ヒバリさんが敵わない相手に勝てそうないし……。そうだ、リボーンは? こいつは赤ん坊だけど強いし……」
「指をさすな」
「いってぇーー!!」
「ツナ君、大丈夫!?」
慌ててツナに駆け寄れば、目が合う。すると、自然と2人の間にほんわかする空気が流れる。
「一緒にいてもいいのかな……?」
「もちろんだよ!」
「……ありがとう、ツナ君!」
「うわっ!」
優に抱きつかれ、ツナは情けない声を出しながらもしっかりと支えた。
リボーンは未だ気付かないツナに呆れはしたものの、2人の様子を見てニッと笑ったのだった。