【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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心当たり 2

 ケイタイの目覚まし音が聞こえ、優はモゾモゾと動き出す。朝早く眠いが、居る場所が場所なので起き上がる。

 

 ふわぁとあくびをした後、部屋を出てベルに説明された場所に向かう。調理場にはリビングルームを通らなければならないので誰もいないことを願いなら開いた。

 

「起きたのかぁ」

 

 風で気配を探れば、スクアーロしかいないようだ。

 

「はい。おはようございます」

 

 フードはかぶっているが、正体がばれているスクアーロの前で取り繕う気はない。

 

「スクアーロさんは私を見張ってたんですか?」

「たまたま起きてただけだぁ゛。てめぇが何かしようとしても起きるに決まってるだろうが!」

 

 それもそうですね、と優は頷く。

 

「あまり無理してはいけませんよ? 身体に悪いですからね」

「……うるせぇぞぉ!」

「余計なことでしたね。すみません」

 

 チッと舌打ちする。素直に謝られれば、これ以上は文句を言いにくい。彼の周りにはひねくれ者が多いので、尚更だ。

 

「キッチン、お借りしますね。ベルさんの分を作れば私は帰りますから」

「う゛お゛ぉい!!」

「なんですか?」

「オレの分も作れぇ゛」

 

 スクアーロの言葉に優は瞬きを繰り返す。

 

「いいですけど、危険とは思わないんですか? この前はルッスーリアさんが見ていたから食べたんでしょ?」

 

 軽く舌打ちをする。ルッスーリアの言うとおり1番味を気に入ったのはスクアーロである。つい頼んでしまった。

 

「……てめぇはそんなタイプじゃねぇだろ」

「ですね。わかりましたー。ちょっと待っててください」

 

 鼻歌を歌いながらキッチンに消えていく優を見て、マーモンに言い返せないと思ったスクアーロだった。

 

 

 ホテルの部屋にあるキッチンなのであまり期待してなかったが、最低限のものはあるらしい。優は早速取り掛かる。

 

「お米はないのかぁ」

 

 レンジで暖めるタイプしかなかったので、仕方ないと息を吐く。それに鍋で炊けば時間がかかるだろう。待たせてるスクアーロに悪い。梅やゴマと一緒に混ぜ、肉巻きにするなど工夫すればいいだけの問題だ。焼きおにぎりもいいかもしれない。

 

 あまり朝からガッツリすぎるのもどうかと思ったので、おかずは数品だけにして調節しやすいおにぎりを多めに作った。好きなタイミングで好きなだけ食べればいい。

 

 優はトレイに料理をのせ、スクアーロのいるリビングルームに戻る。チラッと視線を向けたが、何も言ってこないので優は料理を並べた。

 

「出来ましたよ」

「あ゛あ゛。……てめぇも食うのか?」

「作ってるとお腹が減りました」

 

 食い意地が張ってる優は自分の分もちゃっかり作っていたのだ。

 

「…………」

「…………」

 

 モグモグと優は口を動かす。向かい合って食べているが、スクアーロは本を読みながらなので会話はない。スクアーロのお茶がなくなれば注いだりするので、ふとおにぎり実習を思い出し笑みがこぼれる。

 

「なんだぁ」

「昔、とある人におにぎりを持っていったことがあるのでそれを思い出しただけです」

 

 ふふっと笑う姿は完全に素人である。スクアーロと剣を交えた姿とは程遠い。

 

「どっちが本当の姿だぁ」

「こっちですね。あっちは無理してます。あの時だって、時間稼ぎが終わればスクアーロさんから逃げる気でしたし」

 

 挑発しても意味がないと気付いたスクアーロは真面目に言った。

 

「本気で腕を磨け。てめぇには才能がある。基本で終わらすのはもったいねぇ」

「基本で十分ですよ。私の本当の戦闘スタイルは刀じゃありませんから」

 

 ガタリとスクアーロは立ち上がり、優に剣を向けた。聞き流せない内容だ。剣を向けられた優の雰囲気が変わる。殺る気かとスクアーロが思ったとき、ドアが開く。

 

「何してるんだい?」

「ッチ」

 

 マーモンが現れたので、切り替えた理由を察したスクアーロは飛び出すのをやめた。ただし剣は向けたままだが。

 

“彼が本気で僕に剣士の道を勧めるから、断っただけだ”

「……てめぇの戦闘スタイルはなんだぁ!」

“僕は自分の手の内を易々と晒すほどバカじゃない。純粋な剣士ではないと教えたのは君の誠意に応えようと思ったからだ”

 

 舌打ちをしながらもスクアーロは座りなおした。

 

「よくわかったよ。君は好意にたいして好意で返すタイプだね」

“当たり前だろ……”

 

 大空のような包容に似ているようで全く違う。好意に対して好意に返すが、悪意には悪意で返すタイプである。それを1番感じているのがベルだった。その証拠にベルはナイフを使って脅したことがない。

 

 もっとも優の許容範囲はもの凄く広く、人に嫌われたくないと思っている。さらに自分に対しては無頓着なので滅多に悪意を返すことはないが。

 

「……なんだい?」

 

 思わずマーモンが確認するのも無理もない。優はジーッとマーモンを見ていたからだ。

 

“あー悪い。僕、可愛いものが好きなんだ。心配しなくても嫌がることはしない”

 

 警戒しているマーモンの横で、優の素を知っているスクアーロは納得してしまった。平和ボケしていてガキっぽいので違和感がなかったのである。

 

“それにしても、君はリボーンと同じなのか?”

 

 ピリッと空気が変わったので、優は溜息を吐いた。

 

“嫌なら答えなければいいだけだろ。あからさまな態度を取りすぎだ。肯定と自分で言っているようなものだぞ”

「……どうしてそう思ったのさ」

“こんなにも流暢にしゃべる子どもは滅多にいない。それに頭も良さそうだ”

 

 原作知識がなくても勘ぐるレベルである。むしろ何も思わないツナ達がおかしい。身近にランボという5歳児がいるのだから尚更だ。……ランボも一般的な5歳児からはズレているが。

 

“あー無理に話さなくていいぞ”

「当然だね。これ以上は有料だよ」

“流石に金を払う気にはならないな”

 

 軽い口調で言って優は立ち上がる。

 

「なんだぁ!?」

“……なんだって聞くなよ。僕は帰るんだ”

 

 お腹が満たされたので、これ以上ここに居る要素がない。

 

“ベルの分はあっちにあるから。じゃぁな”

 

 ヒラヒラと手を振りながら、優は去っていく。ベルがいないのであっさりと帰ることが出来た。

 

「……それで、どうして食べてるのさ。ベルじゃあるまいし」

「っぐ」

 

 スクアーロは何も言い返せなかった。

 

 

 

 

 

 今度は森の中なんだと思いながら、優は顔を出す。

 

「よぉ、早いな」

「おはようございます」

「今、恭弥は寝てるぜ」

 

 ディーノが指をさした方を優は見た。かなり遠く木が邪魔で寝顔が見えそうにない。残念だ。

 

「良かったです。大人しく眠ってくれたんですね」

「ん? さっきの電話で優が何か言ったのか?」

「はい。心配なので少しは寝てくださいと言いました」

 

 ディーノは感心したように優を見た。優に甘いというリボーンの言葉がはっきりと実感したのだ。毎日顔を合わせていれば、雲雀の性格がわかる。雲雀が素直に動くとすれば優の言葉ぐらいしかない。

 

「まだディーノさんは逃げませんよという言葉を信用したみたいですね」

 

 ディーノはその内容はどうかと思ったが、雲雀からその信用を勝ち取るのが困難だとわかっている。

 

「じゃ私も寝ます」

「ここで寝るのか!?」

「気にしないでください。警戒しながら寝ますので」

 

 逆刃刀を抱くように優は座り、木にもたれかかる。

 

「ちょっと待て! せめてテントを用意するまで待ってくれ! ロマーリオ!」

「すぐに用意するぜ」

 

 ディーノは異性をこんな場所で寝かすことは出来なかったのである。

 

「いいですよ。それに眠いです」

 

 優があくびをし始めたので、ディーノは仕方ないと息を吐く。眠ってから移動させればいい。

 

「……眠れなかったのか?」

「眠かったので寝ましたよー。ただ居心地が悪くてすぐに起きました」

「ん? どういうことだ?」

 

 晴戦の内容をリボーンから聞いていたディーノは優が眠れなかったと思ったのだ。しかし、返ってきたのはズレた答えだ。

 

「ヴァリアーがいるホテルで一泊したんですよ」

「なっ!?」

「ベルさんに悪気がないから断れなくて……」

 

 優でもその行動は良くないとわかっていた。そのため気まずそうである。ただし心配かけてることには気付いていない。

 

「ったく……。無茶するなよ……」

「へ?」

「あのなぁ……」

 

 わかっていない優の反応にディーノは脱力した。注意したいが、眠そうにしてる優に怒る気にはならない。

 

「あ、そっか。すみません。真っ直ぐ来たのでご飯がなくて……」

 

 斜め上すぎる解釈である。

 

「それはいいんだ。こっちで用意するから」

「すみません。私は食べてきたのでいいですよー」

 

 真っ直ぐ来たのに食べてきたと優は言う。ディーノは頭が痛くなった。

 

「……そういや、どこで知り合ったんだ?」

「リボーン君から聞いたんですね。ディーノさんの町を見に行った時です」

「その時か……」

「ベルさんに拉致されて、姫って呼ばれて大変でした。今も姫って呼ばれてますけどね」

「はぁ!?」

 

 雲雀に話した時のようにあくびをしながらも優はディーノに説明した。特殊すぎる出会いにディーノは呆れっぱなしである。そして雲雀にまたも同情した。

 

 ディーノは雲雀のことを思い、眠そうにしてる優には悪いが少しだけ注意する。

 

「イタリアの時は回避するのが難しかったかもしれねぇが、昨日は断ることが出来ただろ? 頼むから自分を大事にしてくれ……」

「危なくなったら逃げてましたよー」

 

 困ったようにディーノが溜息を吐いたので再び優は口を開いた。

 

「えーと、今回のルールって私に手出しし難いじゃないですか」

「そうだとしても、向こうにもいるだろ?」

「風のリングに相応しいのは私なので問題ありませんよ。XANXUSさんも多少は認めたっぽいですしね」

 

 多少ではない。

 

「どういうことだ?」

「封印が解けた日を言ったんですよ」

「……いつだ」

 

 僅かに緊迫した空気が流れたが、相手がディーノなので優は気楽に答えた。

 

「去年の4月4日ですよね?」

「4月4日……」

「ディーノさんは知らなかったんですねー」

 

 ボンゴレのものしか知らなかったのかと優は気にした風もなく眠る体勢に入る。そろそろ限界だ。

 

「……確認されたのは4月7日なんだ。だから発表されたのは7日だ……」

「あれ? 変ですね。XANXUSさんが反応したのであってると思ったんですけどねー」

「その前に見たのが4月4日で朝には解けていなかったんだ。だから4日の可能性はあるが……」

 

 優は納得した。毎日確認して見るようなものではないだろう。いつからあったのかは知らないが、定期的に確認しているだけで偉い方である。

 

「それなら解けたのは4月4日の16時ごろですね。私に心当たりがあるのはその日です」

「……何があったんだ?」

「んー、起きたら話します。あ、私に触らないでくださいね。多分無意識にぶっ飛ばしてしまいます。それとディーノさんも少しは寝てくださいね。では、おやすみなさぃ……」

 

 眠ってしまった優を見てディーノは溜息を吐く。逃げたのか、それとも本当に眠かったのか判断しにくい。

 

「……ボス」

「わかってる」

 

 同じ轍を踏まない。だが、時間が無いのも事実だ。

 

「……怖がる必要はないんだ、優」

 

 ディーノの呟きにロマーリオも頷いたのだった。


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