【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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内側と警戒

 朝から屋上にやってきた優は盛大に溜息をついた。今日も雲雀とディーノは夜通しで戦っていたらしい。

 

「朝ごはん、持ってきましたよー」

「ん? もうそんな時間か?」

「逃げないでよ」

 

 ディーノに釘を刺してから雲雀は優の近くに座る。救急箱を出した優が雲雀の治療に取り掛かるのはいつもの光景である。だが、今日は治療を遮るように優の手を雲雀はとった。

 

「どうしたんですか?」

「何があったの」

 

 意味がわからなかった優は首をひねるしかない。

 

「目が腫れてる」

 

 優は思わず目を逸らした。冷やしたりしたが、バレてしまったようだ。

 

「あれのせいなんだね」

 

 違うと優は必死に首を振って、チラっとディーノを見てから言った。

 

「時間がもうないと思って……」

 

 家光との話はきっかけにすぎない。差し迫ってる問題をはっきりと認識しただけだ。

 

「……僕から話すよ」

「いいえ、これは私の問題です。でも……」

「なに」

「雲雀先輩が居る時にしてもいいですか……?」

「大丈夫だよ」

 

 優は安心したように笑った。

 

 怪我の治療を終えたディーノは、優と雲雀が手を握りながら見つめ合ってるので、環境をかえて勝負しようとなかなか言い出せなかった。

 

 

 

 

 昼ご飯のために一旦家に帰った優は、ふぅと気合を入れなおした。ご飯を届けに行くのはもう1人の優の格好で行こうと思ったからだ。

 

「何作ろう……」

『サンドイッチとかでいいだろ』

 

 何も思いつかなかった優は神の提案に乗った。気を抜けばガタガタと手が震えるので、作り終わった時にはドッと疲れ、簡単な料理にして良かったと息を吐いた。

 

「……神様、行ってきます」

『ああ。行ってこい』

 

 欲しかった言葉をくれた神に感謝しながら、電話で雲雀に場所を聞き優は向かった。

 

 

 立派な竹林だと思いながら、少し離れた場所の竹の根元に弁当を置き、他に人の気配がないかと確認してから優は姿を出した。

 

「……やっときたか。恭弥、悪いが中断するぜ」

 

 大人しくトンファーをおろした雲雀を見て、やっぱり細かいところまで知っていたのかとディーノは思った。

 

「お前の正体とオレのところに入りたい理由を教えもらうのが条件だ」

 

 いくら日ごろから弟分の力になりたいと思ってるディーノでも、これだけは譲れない。ファミリーに入れるのだから当然だ。

 

 何度も優は深呼吸を繰り返す。覚悟していたが、怖いものは怖い。だから話をしようとディーノが近づいてきたのを見て、一歩下がってしまう。

 

「あのなぁ、話してくれねーと力になりたくてもなれないだろ? 頭がいいお前は、オレがお前を背負うリスクの高さだってわかってるだろ?」

 

 一向に話そうとしないので、ディーノは話しさえしてくれれば背負う覚悟はしているという意味で言った。だが、優はそういう風に受け取れない。ディーノが好きだからこそ、言えなくなる。

 

「ちょ、待て! 恭弥!」

 

 避けなければ必ずあたっていた攻撃にディーノは焦った。大人しくしていたはずの雲雀が突如トンファーを振るったのだ。完全に不意打ちである。

 

「今、大事な話をしてるんだ!」

「黙りなよ。舌かむよ」

 

 ディーノが悪いわけではないと雲雀もわかっている。わかっているが、これ以上ディーノに話させてはいけない。優を焦らせてはいけないことは雲雀が1番知っている。ゆっくりと時間をかけなければならない問題なのだ。

 

“……もう、いい。ありがとう”

 

 雲雀はピタリと手を止め、優を見た。そして瞬時に悟る。雲雀が時間稼ぎをしたことについて言ったわけではない。ディーノに頼るのを諦めたという意味だ。最悪、学校に通うことも諦めているかもしれない。

 

 トンファーをおろし、雲雀は優に近づいた。ディーノと違い、内側にいる雲雀を優は避けない。

 

“すまない……”

 

 いったい何の謝罪か雲雀は知りたくもない。

 

「手、貸しなよ」

 

 疑問に思いながらも、優は雲雀に手を差し出した。すると、グイッと引っ張られバランスを崩しかける。急に何!?と雲雀に聞こうと顔をあげたところで口がふさがれた。

 

「んー!!」

 

 正体を隠している時だったので、優は逃げようとするがガッチリと後頭部を押さえ込まれている。軽くパニックになり待ってと声をかけようとするが、僅かに口が開くだけで出来るわけもない。そしてそのスキを雲雀が逃すわけがない。

 

 初めての行為に完全にパニックになった優はすがりつくように雲雀の服を掴むしかなかった。

 

 離れる際のリップ音が決め手になったのか、優は腰が抜けて立てなくなり膝から崩れ落ちた。ダランとした優の手を握りながら、雲雀はディーノを睨む。

 

 あまりの出来事に唖然としていたディーノとロマーリオだったが、ここまでヒントを出されて正体がわからないはずがない。そういうことかと息を吐き、ディーノは優に近づいた。

 

 ハッと気配に気付き逃げようとした優だが、雲雀に手を握られ腰が抜けて上手く立てない。

 

「オレが優の頼みを聞かないわけがないだろ? まして避けるわけがねーんだ」

 

 フードの上からいつものように頭を撫でられ、優はどうすればいいのかわからなくなり、助けを求めるように雲雀を見た。

 

「お腹すいた」

「あ、あっちに置いてます! 取りに行ってきます!」

 

 先程まで腰が抜けていたのがウソのように、優は勢いよく立ち上がり逃げるように弁当を取りに行ったのだった。

 

 優がいなくなったので、雲雀はもう1度ディーノを睨んだ。

 

「すまん。オレの行動は優を追い詰めてたんだな。それと……助かったぜ」

 

 何度も会っているディーノが優の性格に気付かないわけがなかった。雲雀の手助けがなければ、内側に入るチャンスを逃していただろう。

 

「……次はないよ」

「ああ。わかってる」

 

 まだ全てを解決したわけではない。優がマフィアに入らなければならない理由を聞いていないのだから。

 

「もう時間がないって優が言ってたから」

「……そうか。恭弥は優がリングを持ってるのを知ってるのか?」

「知ってる」

 

 ディーノはリング争奪戦の影響だと気付いたので、雲雀に確認した。知っているのになぜリングについて話を聞こうとしないのかと思ったが、ゴミ箱に捨てた時点では勝負が始まると知らなかったはずだ。昨日決まった内容を教えなければならない。

 

「恭弥……」

 

 はたと気づく、優の人生がかかってると言えば、雲雀は話を聞き進んで協力するだろう。しかしそれを優は望んではいない。優が自分から話すか雲雀が折れるまで、ディーノから言っていい内容ではない。

 

 だからディーノは咄嗟に言葉をかえた。

 

「……苦労してそうだな」

 

 優は素直に頼らないし無茶をする。さらに逃げやすいときた。ディーノは初めて雲雀に同情したのである。

 

「うるさいよ」

 

 図星だったのだろう。雲雀は優が戻って来るまでトンファーを振るったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 結局戻ってからも詳しい話をしなかった優は家に帰り、10時半ごろには並盛にきていた。

 

(んー、早くきすぎたかな)

 

 そう思っていると神に貰ったアイテムが発動したので優は溜息を吐いた。仕方なくスイッチをいれる。ボンっと壊れるような音が複数聞こえた。

 

 テンションをあげるためにツナの姿を探したがまだいない。優は正門に寄りかかり待つことにした。

 

「ひーめ♪」

 

 相変わらず自由気ままである。

 

「その呼び方は前にもやめてほしいと言ったはずですが……」

「やだね」

 

 はぁと優は溜息を吐く。性別がバレるようなことは言わないでほしい。

 

「う゛お゛ぉい!! ベル、何してんだぁ!」

 

 常識のあるスクアーロは大変そうだと他人事のように優は思った。

 

「ほんとにわかんねーの? どう見たってオレの姫じゃん」

「な゛!? お前この前の奴か!?」

「あ、ナメた武器つかっててすみません」

 

 ペコリと頭を下げる姿は、ベルに無理矢理連れてこられた癖に別れの際にルッスーリアへと頭を下げた姿と一緒である。

 

「てめぇは風と言ったかぁ!?」

「あ、はい」

 

 スクアーロは一戦交えたからこそ強いということは知っている。だが、戦闘スタイルから考えれば、目の前にいる人物が風のリングに相応しいと思えなかった。それこそ見習いの方が弱いが、相応しいと思えた。

 

 しかし、戦闘においてヴァリアーの中で最も才能があると言われるベルが見習いを毛嫌いしていて、目の前にいる人物を気に入ってる。更にボスであるXANXUSは風の守護者としてレヴィが探してきた人物をヴァリアーの一員とせず見習いにした。

 

 そのため、フードをかぶり顔は見えていないが、不思議そうにスクアーロを見ていそうな甘い女がないとは言い切れなかった。

 

「姫、一緒に見ようぜ」

「え? 私は敵ですよ?」

「姫は勝敗関係ねーじゃん」

「……あの、この人を止めたほうがいいですよ」

 

 少し考え、スクアーロは口を開いた。

 

「クソボスの許可を取ったらいいぞぉ!」

「今日、きてないじゃん」

 

 残念そうに言ったベルを見て、XANXUSが居れば本気で取りに行ったと優は思った。若干呆れながらも、ベルに大事なことを伝えなければならないことがある。

 

「えーと、ベルさん?でいいのかな」

「なに、姫?」

「正体隠して行動してるので人前で姫って呼ぶのは止めてくださいね?」

「姫の頼みならいいよ」

「本当ですか!?」

 

 笑ってるベルに約束ですよ!と必死に声をかけ続ける優の姿を見て、スクアーロは平和ボケした奴が風の守護者だった時のことを考えて頭が痛くなった。

 

 その優がピタリと口を閉ざし、雰囲気が変わる。奇妙なもの見るように眉を上げたスクアーロだが、数秒後にその理由に気付く。チェルベッロが声が聞こえる範囲まで近づいたからだ。

 

「チッ」

 

 スクアーロは思わず舌打ちをした。人の気配を読むのはスクアーロよりも上である。見送りの際に、監視していたことも気付いていたのだろう。

 

“あれには気をつけた方がいいぞ”

 

 優の言葉にスクアーロは反応した。

 

“そこら中に盗聴器が仕掛けられている”

「盗聴器だぁ!?」

“特殊な機械を持ってるから、僕が近づくだけで壊れるけどな”

「へー。すげーじゃん」

 

 ハイスペックな物を持ってると言ったにもかかわらず、ベルは感心しただけだった。若干呆れつつ、優は話を続ける。

 

“わざわざ盗聴器を仕掛ける理由は何だと思う? 最有力は僕の正体かと思った。そもそも風のリングに相応しいものは1人しか居ないと断言したのが気になった。ディーノは風のリングの情報は少なすぎてよくわからねぇと言っていたんだぞ”

 

 優の言葉にスクアーロは真剣に考え始める。ちなみにベルは真面目に聞いていない。

 

“ベルが僕の正体に気付いたんだ。君達の可能性はないだろう。沢田綱吉側もない。僕が守護者になる条件に正体を探るなというのが入っているし、守護者のうち1人は僕の正体を知っている。さらに門外顧問も僕の正体を知っているからなぁ”

「チッ」

 

 スクアーロも優が言いたいことがわかったのだろう。自ずと仕掛ける人物が絞られた。

 

“君の反応を見る限り、こそこそと動いてるってことか……”

 

 面倒くさそうに優はフードの上から頭をかいた。そもそも原作を少し知ってる優もチェルベッロのことはよくわかっていない。ツナと敵対する人物についているが、決着をつけるときにはいなくなっている。

 

 ここに居るチェルベッロは未来から来た可能性が高いだろう。10年後にも現れるが、そのチェルベッロが10年後よりも未来からきた可能性がないとは言い切れない。

 

“あれは何か知っている。そして別の目的で動いてる可能性がある”

 

 だからこそ、変だと優は思った。未来のことを知っているチェルベッロが優の正体を知らないわけがない。未来でも正体を隠し続けていると考えた方がいいのかもしれない。だが、白蘭の能力のこともある。

 

 結局、悩んでもわからないものはわからない。それなら警戒することに越したことはないと考えるべきだ。

 

「てめぇこそ何が目的だ。わざと聞かせたんだろぉ!?」

“そっちの思惑に勘付いている。迂闊に動くなと釘を刺すだけで効果はあるからな。この勝負に水を差されるのは嫌じゃないのか?”

 

 スクアーロは優の言葉に反論できるわけがなかった。

 

「殺れば解決じゃね?」

“審判を殺してどうするんだ……”

 

 呆れたように優はベルにツッコミした。戦闘スタイルから言って頭は悪くないはずだが、偏っているのかもしれないと優は思った。

 

“そっちのボスに報告するかは君達の判断に任せる。勝負が始まった以上、どうすることも出来ない気もするが……”

 

 スクアーロがイライラしているので、止めることは不可能とわかっているのだろう。XANXUSの性格からして、争奪戦という時間のかかる勝負を容認していることにそもそも違和感がある。それをスクアーロが気付かないわけがない。止めたくても出来ないという結論にたどり着く。

 

 人の気配がしチラッと視線を向ければ、獄寺と山本、了平の姿が見えた。獄寺を必死に押さえてる山本に優は謝りたい気持ちでいっぱいになる。

 

“一応、僕はこっちだから”

「またね」

 

 ベル達と別れた後に獄寺を見て、同じ嵐の守護者でここまで違いがあるのか……と再び溜息を吐いた優だった。




チェルベッロは謎過ぎです。
よくわからないので、優は警戒しっぱなしにしました。


明日更新できなかったらごめんなさい。

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