【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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沢田家光

 チッと舌打ちしながら優は走っていた。闇雲に探しても意味はないとビルの屋上から探したのは正解だった。すぐに見つけることが出来たのだから。しかし、優はその時にイーピンが戦って怪我をしたところを見てしまったのだ。了平が間に合って助かるとしか覚えてなかった優は、細かいところまで記憶してなかった自分に腹が立ったのである。

 

 優がついた時にはXANXUSがツナに向かい攻撃を仕掛けようとするところだった。そのため優は跳び上がり、XANXUSに向かって逆刃刀を上から振り下ろした。

 

 スクアーロが立ってる逆側から攻めたのが幸いしたのか、邪魔はない。炎を灯した逆の手でXANXUSは刀を止め、攻撃をしてきた優に憤怒の炎を放った。

 

 XANXUSが刀を握って止めたわけではなかったので、優は刀を軸にし身体をひねって避ける。広範囲の攻撃のため僅かにかすったが、優の服は普通の物ではない。圧縮していない憤怒の炎でかすった程度では傷を負うことはなかった。

 

 ボスに攻撃したことに怒り、向かってきたレビィを謝りながらも踏み台にして優はツナの前に降り立った。

 

“上からせめて正解だったようだな。あれを防ぐのは大変そうだ”

 

 空に向けて憤怒の炎が放たれなければ、ここら一帯を風化させるところだった。珍しく優は自分を褒め、いい判断だったと頷いた。

 

「し、死ぬかと思った……」

“安心しろ。僕が何とかするから”

 

 そうじゃなくて1位の人が死ぬかと思ったとツナが言おうとした時に、再びXANXUSの手に炎が灯る。優にも殺気がビシビシと伝わってくるので、狙いはツナと優の2人だろう。

 

 周りを巻き込まないように優はツナを連れて逃げようとしたが、ツルハシが地面に刺さる。

 

「待てXANXUS。そこまでだ」

 

 現れた家光の姿を見てもうちょっと早く来て欲しかったと思いながらも、ディーノも来るのが遅れたことを考えるとこれは自身の運命なのかもしれないと諦めた。

 

 刀を鞘に戻し家光の話を聞いていれば、同じリングを持つ同士のガチンコ勝負という流れになった。そのため優は転生者らしき人物を見る。顔を歪めたくなるほど嫌な相手だと思った。

 

 チェルベッロが登場したので、優は転生者らしき人物から視線を外す。特に説明を聞いても違和感はそれほどななかった。場所も学校である。あるとすれば、守護者の数が増えているので8対8になることだ。

 

 優が質問する前に家光が口を開く。

 

「待て。8対8の場合では引き分けの可能性があるだろ」

「風のリングは特別なので勝敗には入りません」

 

 全体の勝敗に響かないと知った優はサボろうかと本気で考え始める。

 

「……風のリングを持つのに相応しいものは一人しかいません。後継者だけではなく、その者を賭けた勝負でもあります」

“ってことは、風の守護者の戦いで僕が勝ち、XANXUS側が勝利した場合は?”

「あなたはXANXUS様の守護者になります」

 

 思わずフードの上から額を押さえた。面倒な展開である。

 

 優が参加せず転生者らしき人物がツナ達の守護者になるのは避けなければならない。それに慎重な性格の優は大空戦までにあれを壊しておきたいと思った。大空戦はギリギリの戦いだ。不安要素は先に排除しておくべきだ。

 

 更にチェルベッロの言い回しが気になった。風の守護者を賭けているなら、守護者の戦いで決定してしまう可能性もある。

 

(チェルベッロって未来に居たからなぁ……。私の性格がバレてそう……)

 

 10年後のランボがリング争奪戦の記憶がないと言ったシーンを優は覚えていた。もしリング争奪戦がなくツナが継ぐまで時間がかかっていたなら、優は表に出るのもかなり遅くなっていただろう。出来るだけ逃げていたはずだと優は確信している。

 

 チェルベッロはツナのことを大事にしていると知っているので、争奪戦から逃げないように言った可能性が高い。

 

「うしししっ」

 

 妙に嬉しそうなベルの声に反応し、顔をあげる。

 

「王子の勘は当たるって言ったじゃん」

 

 ベルも雲雀と一緒で変わり者に入るらしいが、認める気はないので優は無視する。

 

「誤魔化したって無駄だぜ。だってオレの」

“だー! それは言うな!”

「うししっ」

 

 親しそうな会話にツナ達は驚く。ガリガリと精神力を削られっぱなしの優は盛大に溜息を吐いた。

 

「う゛お゛ぉい!! てめえの知り合いかぁ!?」

「ししっ。わかんねーんだ。やっぱ王子すげー」

 

 バカにしたようなベルの態度にスクアーロはイラッとしたが、XANXUSに睨まれ口を閉ざす。

 

 チェルベッロが去ったのでXANXUS達も無言で去っていく。その中でベルだけは優に向かって「またね」と言っていたので、仕方なくさっさと行けという風に優は手を振った。

 

 完全に気配がなくなったところで、優は再び溜息を吐いた。本当に面倒なことになってしまった。

 

「ご、獄寺君!?」

「任せてください、10代目! 敵と繋がってる奴です! オレが今すぐぶっ飛ばしますから!」

“……帰っていいか?”

 

 リボーンに優は確認した。ケンカ売られたことには何も思わないが、今後のことを考えると寝てしまいたかったのだ。

 

「いいぞ。今日はサンキューな」

“いや、僕の方が礼を言いたい。彼に連絡してくれて助かった。……また明日”

「あ、あの!!」

 

 山本に抑えられながら未だ怒っている獄寺の声を無視し、帰ろうとしたところでツナが声をかけたので振り向く。

 

「どうしていつも助けてくれるんですか……?」

“……君達に死んでほしくないから”

 

 気恥ずかしくなった優はいい逃げした。

 

 

 

 

 

 走りながら優は溜息を吐いた。家に帰ろうとしたが帰れない。尾行されているからだ。今日は疲れてるのにまた面倒事が起きた。

 

 追跡の仕方はプロである。明日から争奪戦が始まるので、今日撒いたとしてもまたつけられるだろう。追跡者を脅し目的を聞く方法もあるが、優の好みではない。立ち止まっても襲っても来る気配がないのも大きい。

 

 仕方ないと優は本気で走り出した。そして建物の影に入ったところで、風で移動する。空を飛べると知らなければ、ありえない動き。追跡者から逃れることは簡単だった。

 

 逃げた優はというと、風で追跡者を捕捉していた。後は追跡者が案内するのを待つだけだった。

 

(戻ってきちゃったよ……)

 

 先程XANXUSと一戦交えた場所についたのだ。そして追跡者が報告している人物を見て僅かに眉間に皺を寄せる。

 

 軽く溜息を吐き、優は顔をだした。

 

“守護者になる代わりに正体を探るなというのがあったはずだぞ”

「待っていたよ」

 

 どうやら誘き出されたようだ。追跡者が驚いているところを見ると知らされていなかったらしい。

 

“バジルの件といい、部下を大事にしろ”

「あれは苦渋の決断だった。でも君の場合は違う。君は部下に手を上げるとは思えなかった」

 

 ガシガシとフードの上から優は頭をかいた。リボーンから聞いたのだろう。家光に性格が読まれすぎている。

 

“それで用件はなんだ?”

「正体を教えてもらおう」

 

 臨戦態勢になった家光を見て、優は溜息を吐いた。力づくでも暴こうとしているのだろう。探るのではなく正面突破から来られれば、優の言った条件に当てはまらない。

 

“……なぜそこまでして? 僕の機嫌を損ねれば、もう彼らを助けない可能性があるだろ。門外顧問としてその判断は正しいとは思えない”

 

 リボーンが力づくで暴こうとしないのは、ツナ達の安全を考えているからだ。現に優がいなければ、ズレが起こっているので死んでいただろう。

 

「オレはボンゴレの門外顧問の前に、ツナの父親だ」

“……まいった、な”

 

 戦えばどうなるかわからなかったが、優は逃げきれる自信があった。足だけじゃなく、口でも。

 

“それを言われれば、教えるしかないじゃないか……”

 

 家族というものを知らないからこそ、家族愛に優は弱かった。フゥ太のランキングで1位になるほど、出来るかは別として優は幸せな家庭を築きたいという願望が強い。家光に敗北を認めるしかなかった。

 

 優が教える気になったと知った家光は、部下達に離れるように指示を出す。正体を知られたくないと思ってる人物を無理に聞き出しているのだ。ツナ達を何度も助けている人物に配慮をするのは当然である。

 

“こっちに移動してもいいか?”

「ああ」

 

 家光の許可を貰ったので優は林の中へと歩いていく。移動したのは死角になる場所を増やすことと、風で誰も人がいないか気配を探る時間稼ぎである。

 

 いい場所が見つかった優は立ち止まり、家光に向き直りフードをとった。

 

「君は……」

「はじめまして。ツナ君のお父さん」

「風早優さん、だね?」

 

 コクリと頷き、フードをかぶりなおす。

 

「やっぱりリボーン君から私のことを聞いていたんですね」

 

 ツナ達を助けるのは目の前にいる人物なら当然だ。誰も気付かないのは雲の守護者である雲雀の協力が大きい。もちろん普段から強さを隠していることが前提にあるが。

 

「君はツナの大事な友達だと聞いているよ」

 

 優は悲しそうに笑った。顔を見えないが雰囲気から家光は察した。だからこそ下手に声をかけれなかった。家光が言っても意味がない。ツナが解決しなければならない問題だからだ。

 

「……ごめんなさい」

 

 家光は優に駆け寄り、肩を抑えながら言った。

 

「誰にも話さないから安心しなさい」

 

 ギリギリのところを歩いてる少女を家光はこれ以上追い詰める気はない。

 

「風の守護者としてこれからもツナ達を頼みたい」

 

 追い詰めることになるので友達としてとは言えなかった。だからこの言葉をかけた。ツナから離れることは防げる。

 

「争い事苦手だけど、頑張ります……」

「今のままで十分だよ。ありがとう」

 

 ペコッと頭を下げ、優は去っていった。家光は目を閉じ、息子であるツナのことを思い浮かべた。

 

「早く気付かないと後悔するぞ、ツナ」

 

 呟きながらも、今の段階でも後悔するだろうなと思った家光だった。

 


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