【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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条件

 着替え終わった優は状況を把握するために屋上から様子を窺った。

 

(また遅れちゃったよ。ツナ君にもうリングの箱が渡されてるじゃん)

 

 今回は京子達を最優先だったので、優は嘆くことはなかった。が、僅かに眉間に皺を寄せる。ツナが持ってる箱は2つあったからだ。優の記憶では1つしかない。

 

 わからないことを悩んでも仕方がないので、優は屋上から飛び降りる。ディーノが来る気配がまだないので、このままではツナが危険だからだ。

 

 優が落下していると、ハッとしたようにスクアーロとバジルが顔をあげる。スクアーロの方が気付くのが早かったため、優から離れる時間があった。距離をとり、ツナの横に突如降り立った優を見る。

 

「1位の人ーー!?」

 

 ツナの声に思わず優は転びそうになる。せっかくの登場シーンが台無しだ。

 

“……彼を抑えればいいのか?”

「おぬしの敵う相手ではありません!」

「やれるのか?」

「リボーンさん!?」

 

 驚いてるバジルの声を無視し、優はフードの上から頭をかきながら言った。

 

“君達が逃げた後に僕も逃げていいなら”

「十分だぞ」

 

 リボーンの返答を聞いた優はスクアーロと向き合った。

 

「カスが何人そろっても一緒だぁ……死ねぇ!!」

 

 3人を相手した後だったので、スクアーロは完全になめていた。それでも数回剣を交えただけで、優の実力に気付き、一旦ひく。決して怖気ついたわけではない。どうしても言いたいことがあったのだ。

 

「う゛お゛ぉい!! なんだそのナメた武器はぁ゛!!?」

 

 スクアーロは剣士として優の逆刃刀は許せなかったのだ。

 

“僕は僕の信念でこれを持っているんだ。君にとやかく言われる謂れはない”

 

 優はスクアーロに見せ付けるかのように本来なら刃がある部分を指で撫でた。相手の攻撃を防ぐためのもので誰かを殺すために持ったわけではない。

 

「ふざけたヤローだぁ゛! 多少の腕はあるようだが、テメーの弱点はその甘さと腕力がないことだぁ゛!!」

 

 大声で言いながらスクアーロは優に突っ込むと、優は挑発されたようにスクアーロに向かって駆け出した。すると、スクアーロが笑った。優と違い、戦いを楽しんでいる。

 

 優はフッと力を抜く。スクアーロに向かっていったのは決して挑発されたわけではない。必要がないから動かなかっただけで、優はスピードと柔軟な身体を生かし相手を翻弄するのが本来のスタイルである。……もちろん逆刃刀をつかった場合のスタイルだが。

 

 互いにスピードを生かした戦闘スタイルなこともあり、どちらもまだ一撃を食らわない。

 

「ッチ」

 

 スクアーロは舌打ちをした。相手はただ基本をしっかりと教え込まれただけの剣。決して深追いせず、慎重な動き。読みやすいはずなのに、突如動きが変わるため当たらない。それもそのはず純粋な剣士ではない優は、風の流れで気が変わるのだ。見切りにくく、叩き込むタイミングがズレる。動きからして時間稼ぎとわかっているのに、倒せない。

 

 ツナとバジルは互いに一歩も引かない戦いに唖然となる。

 

「あの者はいったい……」

「オレもわからないんだ……いつも助けてくれるしか……」

「ボケッとするな。あいつが時間を稼いでる間にここから離れるぞ」

 

 リボーンに蹴られ、ツナは状況を思い出す。だが、ツナはスクアーロと戦ってくれてる人を置いてはいけない。

 

「おめーが心配する必要はねぇぞ。あいつはまだ本気じゃねーからな」

 

 本来の戦闘スタイルを隠しているとリボーンは知っている。ただし制限されたことを知らない。もっとも制限の件は関係なく、優は気付かれるほど風を操るつもりはなかった。この後の展開を知り、慎重な性格の優はこの時点でスクアーロにバレたくないと考えているからだ。

 

「ツナ!」

「10代目!」

「2人とも!」

 

 無事だった2人の姿を見て、ツナはホッと息を吐く。ツナの無事を確認した獄寺と山本は自分が手も足も出なかった相手と戦えている人物に自然と目が行く。悔しくて何も言えないし、何も出来ないのだ。邪魔になってしまう。

 

「バジル、ツナ達を頼んだぞ」

「は、はい!」

「リボーン、お前は!?」

「あいつが無事に逃げたかを確認しねーとな」

 

 リボーンは手は出せないが、出来ることはある。それにいくらリボーンが探しても見つからなかった人物が目の前にいるのだ。この機会を逃すのはもったいない。

 

「無理してないかな……」

 

 ポツリとツナが呟く。あまりの強さに忘れていたが、決して戦闘に向いてる性格ではない。

 

「そう思うならさっさと行け。あいつはお前らを逃がすために戦ってるんだ」

「……わ、わかった」

 

 ツナ達が逃げようと動いた時だった。今までスクアーロを押さえていたはずの人物がツナの前に現れる。

 

“っぐ! 誰でもいい、彼を移動させろ!”

 

 バジルの目には何も映っていない。だが、逆刃刀からは甲高い音がが響いている。見えないが、攻撃を受けている。

 

「沢田殿!」

 

 バジルがツナを移動させるのを確認すると、優はその場から離れる。確認していないが後ろの建物が崩れる音がした。

 

「へぇ。驚いたなぁ」

 

 のんびりとした声がする方を優は睨んだ。

 

「う゛お゛ぉい!! てめぇ見習いのくせに何勝手に手をだしてんだぁぁぁ!」

 

 見習いという言葉に優は反応する。原作補正でもかかってるのだろうか。

 

「だって先輩遅いんですもん。さっさと終わらせて帰りましょー。ボスが怒りますよー」

「うるせぇぞぉ!」

 

 文句を言ったが、スクアーロは止めはしなかった。

 

“二対一か……”

 

 このままでは全員を守りきるには厳しい。スクアーロを風で浮かして動けなくしたとしても、もう1人の相手が厄介だ。

 

「拙者も戦います!」

「オレもいるぜ」

「てめぇにだけいい格好させるかよ!」

 

 はぁと大きな溜息を吐いて優は言った。

 

“何秒もつんだ?”

 

 獄寺達が言葉に詰まったのを見て状況を理解していることに優は安堵した。本気のスクアーロと見えていない攻撃に時間を稼げるわけがない。無駄死になる可能性が高すぎる。

 

“本気を出すから、君達は僕の後ろから動くなよ。巻き込まれるぞ”

 

 刀を鞘に戻そうとしたところで、人の気配を感じ目に入った人物を見てホッと息を吐く。

 

“そっちを任せてもいいか!?”

「ああ。任せろ!」

 

 見知らぬ人物でも気にした風もなく、ディーノは返事をした。

 

 ディーノの登場に感動しているツナの声を聞きながら、優は転生者らしき人物と向きあう。

 

“君の相手は僕だ”

「1度俺の攻撃を止めたからって調子に乗るなよ」

 

 スクアーロの時と口調が全く違う。顔を見ればどこか幼さが残っている。

 

(強いと認めた相手以外は調子に乗るタイプかも)

 

 一度しか受けていないが、優は相手の技を分析し終わっている。だからこそ調子に乗るのも無理はないと思った。あれを見切るのは腕に自信があるものでも難しい。殺気に反応して優が偶然止めたとしか思えなかったのだろう。

 

 ジリジリと睨みあう。睨んでる間に相手が何をしているのかわかっているが、優は手を出さなかった。偽のボンゴレリングが奪われた形がベストだとわかっているからだ。

 

「う゛お゛ぉい!! 例の物は手に入れたぞぉ!」

「……運がいい奴だ」

 

 スクアーロと共に去っていく姿を優は手を出さず見送った。この状況で深追いする気はない。

 

 ガシガシとフードの上から頭をかく。リング争奪戦に参加しなければ、展開によってはツナ達が勝つかわからない。

 

「お前はついてこいよ」

“……わかった”

 

 足手まといと判断され置いていかれた獄寺と山本を気にしながらも、優はリボーン達の後ろをついていった。

 

 

 

 

 

 優はバジルの治療の手伝いと体力を渡し終えると空気を読んで、静かに病室の隅でもたれながら立っていた。

 

(原作通りディーノさんが本物のハーフボンゴレリングを持ってたなー。でも1つしか箱がない)

 

 ずっと黙って聞いていた優だが、ツナが逃げたところでついに口を出した。

 

“箱、もう1つあっただろ”

「ん? ああ」

 

 急に話しかけたことに驚きもせずディーノは懐から箱をもう1つ出した。

 

「これは風のリングといってな。選ばれし者しかもてないと言い伝えなんだ。初代の時から封印されていて数年前に封印が解けたらしい」

 

 ボカした言い方だなと優は思った。恐らく解けたのは去年の4月4日だ。優に心当たりがあるのはこの世界に来た日と、マーレリングを受け取った日しかない。優が触れたことで箱が開いたので、マーレリングも封印されていたと考えるべきだ。今年の春に解けたものを数年前とは言わないので、答えは1つしかない。

 

(それにしても、私が触るまでなんでマーレリングは解けなかったんだろう? ボンゴレリングは解けたのにね)

 

 考えてもわからないことなので、優はすぐに悩むことを放棄した。今の情報量では時間の無駄である。

 

“彼に見せなかった理由は?”

「このリングの情報が全然ないんだ。これを誰に渡すのかを悩んでるからだ」

“それもハーフなのか?”

「ああ」

 

 ガシガシとフードの上から頭をかき、溜息を吐いてから優は言った。

 

“僕がそれを貰ってもいいけど?”

「いいのか?」

 

 確認するリボーンに、優は呆れるように言った。

 

“……僕を巻き込みたいからついてこいって言ったんだろ”

「よくわかってるじゃねーか」

 

 悪びれもせずに言ったリボーンに優は溜息を吐いた。

 

“その代わり、いくつか条件を飲んでもらう”

「言ってみろ」

“まず僕の正体を探しまわるな。僕はまだ学校生活を楽しみたいんだ”

「おめーがファミリーに入るなら問題ねーぞ」

 

 つまり入らなければ、続けるということである。軽く溜息を吐いてから優は話を続けた。

 

“ボンゴレに入る気はない”

「そのリングを持つってことはツナの守護者になるっていう意味だぞ」

“彼が継いだなら入ってもいい。9代目と会ったこともないのに入る気にはならない”

「それならいいぞ。他の奴らもツナが継ぐまでは正式に入る形にはならねーだろうしな」

 

 ここまでは優の予想通りの反応だった。ここからはどんな反応になるかはわからない。

 

“最後は確認でもある。ボンゴレ以外のところに所属しててもいいのか?”

 

 リボーンの空気がかわる。わざと警戒するような言葉を選んだので優は気にしなかった。

 

「どこのもんだ」

“どこだったらいいんだ?”

 

 軽い口調で言った。優は意外とリボーンとの駆け引きが好きなのだ。

 

「リボーン」

 

 この空気に見かねたのか、今まで黙っていたディーノが口を挟んだ。

 

「……オレを試すとはいい度胸じゃねーか」

 

 ディーノの一言で冷静になったらしく、すぐにウソだとばれてしまった。

 

“真剣になってほしかったからな。真面目な話をするぞ”

「……わかったぞ」

“交渉はまだだが、僕はとあるマフィアに入るつもりでいる。心配しなくてもボンゴレと敵対するようなところではない”

「おめーは争い事が苦手だから、ツナが正式に継ぐまで入らねぇと言ったんじゃねーのか? お前はツナ達を何度も助けてる。ボスがツナならいいと思ってるとオレは捉えたぞ」

 

 完全に遊びは終わったようだ。リボーンは自らの思考を語ったのだから。

 

“争い事が苦手だからだ”

「……ツナが継いでからでは遅いのか?」

“遅い”

 

 優ははっきりと言った。恐らく時間はあまり残されていない。

 

“それに正式に継がなければ僕の存在は今の彼には荷が重い”

「……ツナが継がなかった場合も考えているんだな」

 

 コクリと頷いた。どうしても入らなければならない。

 

「詳しく聞きてーが、話す気はねぇんだな」

“ああ”

「ファミリーの名を教えろ。ボンゴレと敵対する可能性を調べねーといけねぇからな。もし問題がありそうなら、そこにいる男のところはどうだ? ボンゴレと敵対する可能性はねーし、ツナと性格が似てるぞ」

「急に振ってくるなよ……」

 

 リボーンに振り回される姿もツナと似ているので優はフッと笑ってから言った。

 

“問題ないってことだな。僕が考えているところはキャバッローネファミリーだ”

「は?」

 

 この答えを予想していなかったのだろう。ディーノがマヌケな返事をした。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

“僕は第三者のいるところでこんな話をしないぞ”

 

 リボーンの言葉で話に加わる形になったと思っていたようだが、残念ながら最初からディーノは当事者である。

 

「大人しくついてきたのもディーノがいたからなのか?」

“まぁな”

 

 わざわざ確認したのは、整理しているディーノのための時間稼ぎだろうなと優は思った。

 

「……よし。話はわかった。だけど、オレも9代目とそんなにかわらねーだろ? お前と初めて会ったんだぜ?」

“君は何度も並盛に来ていただろ”

 

 どこから見られていたのかと2人が真剣な表情になった。だが、それは見当外れである。並盛に来るたびにお土産を持って優に会いに来るのはディーノの方だった。そのたびに優はお礼をかねてお茶に誘っている。ちなみに優と会えなかった場合、ディーノはツナにお土産を預けていくほどマメである。

 

“それに君の町に行ったことがある。とてもいいところだった”

 

 褒められて悪い気はしなかったのか、ディーノはいつもの雰囲気に戻り笑った。

 

“……何かあれば彼に連絡してくれ。君にばれていない連絡手段がある”

 

 そんな手段はない。日ごろから連絡しているので誰も疑問に思わないだけである。

 

「わかったぞ」

 

 リングを受け取り、帰るまでにマーレリングと同様に、神にもらったチェーンでリングの力を防がなければと思いながら優は病室から出て行く。その際にディーノにボソリと呟いた。

 

“詳しい話は後日で”

「ああ」

“じゃぁな”

 

 早く家に帰って2人に連絡しないと心配かけちゃう!と焦りながら優は去っていった。迫ってる問題に目を逸らして……。

 


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