【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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拉致

 雲雀に相談するために優は朝から応接室にやってきた。

 

「おはようございます」

 

 優の声に書類を見ていた雲雀は顔をあげる。

 

「どうしたの?」

「ちょっと相談したいことがありまして……昨日、商店街の福引きで当たっちゃったんです」

 

 一等イタリア一人旅と書かれた封筒を優が持っていた。

 

「へぇ。あれ、優が当たったんだ」

「なんだか申し訳ないです」

 

 直接関わっていた時期ではないが、優は書類に目を通していたので困ったように眉をさげた。

 

「気にせず行ってきなよ」

「んー……でもいつ行けばいんでしょう?」

 

 風紀委員になった優は雲雀の許可がないと好きに行けない。そもそもこれからの展開を考えると行けるかも怪しい。

 

「……週末は?」

「学校を休むことになりますよ?」

「いいよ」

 

 雲雀がそんな許可を出すとは思わなかったので、優はジッと見つめた。少し周りを見渡してから雲雀は言った。

 

「赤ん坊が探し回ってるからね」

「よく気付きましたね」

 

 リボーンは気配を消していたので、優は雲雀が気付くとは思ってなかったのだ。

 

「……正確な場所はわからない」

「雲雀先輩なら近いうちにわかるようになりますよ」

 

 口ぶりからして優は正確に掴んでいるらしい。2人の実力差がよくわかる。ちょっと機嫌の悪くなった雲雀をみて、優は軽い口調で話を続ける。

 

「ちょうど行きたい町があったので、許可をもらえて嬉しいです」

「へぇ。どこ?」

「私が頼ろうとしてる人……ツナ君の兄弟子が管理している町です。この目で1度見ておきたかったんです」

 

 ガタリと雲雀は立ち上がった。優が雲雀と離れる時の準備をしているようにしか思えなかった。

 

「私、臆病なんです。いい人とわかってても雲雀先輩みたいに話せませんよ」

 

 雲雀はゆっくりと腰を下ろした。あれだけプライベートに突っ込んでいったにも関わらず、話を聞けるようになるまで随分と時間がかかったことは雲雀が1番知っている。人に甘えることが苦手な優が、素直に頼れるわけがなかった。

 

「僕は君の帰りを待ってるよ」

「……はい! ありがとうございます!」

 

 雲雀に見送られ、優はイタリアへ旅立った。

 

 この時の雲雀の誤算はただ1つ。優が今まで学校行事以外で旅行に行ったことがないと気付かなかったことだろう。

 

 

 

 

 

 イタリアに着いた優はというと、キョロキョロと落ち着きがなく歩いていた。

 

(すごい! すごい!)

 

 完全に浮かれていたのである。制限されたことで強風にはなっていないが、注意力が散漫だった。

 

「いたっ」

 

 そしてついにドンっと人とぶつかってしまう。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 イタリアにいるのに思わず日本語で優は謝った。

 

「ししっ。問題ないよ。だってオレ王子だもん」

「王子……?」

 

 いや、まさか、そんな……と思いながら、恐る恐る優は顔をあげた。

 

(ベル、きたーーーーー!!)

 

 久しぶりに優は心の中が忙しくなった。

 

「す、すみませんでした!! 失礼します!!」

 

 慌てて立ち去ろうとした優だが、ベルに回り込まれてしまう。普段の動きではベルに太刀打ちできない。

 

「きーめた♪」

「えっ? えっ?」

 

 ベルに荷物担ぎをされ、優はとにかく叫んだ。

 

「おろしてください!!」

「やだね」

「な、なんでですかーー!!」

「だってオレ王子だもん」

 

 一向に会話が成立しない。今すぐ逃げ出したいが、ベルから逃げれば目を付けられるに決まっている。

 

「い、痛いですーーー!!」

 

 優は叫んだ。情で訴えても暗殺部隊所属のベルが止まるとは思えないが、ベルの肩に優のお腹が食い込んで痛いのも事実。足をジタバタさせ、普段の力で抵抗した。

 

「ん? 痛いの?」

「は、はい!」

 

 ベルが足を止めたので、訴えれば止めてくれるかもしれないと期待を込めて優は必死に返事をした。すると、荷物担ぎから横抱きになる。

 

「えええ!? なんでそうなるの!?」

「うしししっ」

 

 優の反応を面白がるように、ベルは笑ってるだけだった。

 

 

 

 

 

 10分もすれば優は諦めモードに入り力を抜いた。元々、流されやすい性格だ。雲雀の時と同じように逆らうことが出来ない。それでも優は声をかけ続けていた。

 

「あのー……おろしてもらえませんかー?」

「やだね」

 

 はぁと溜息を吐く。なぜこのようなことになったのか優にはわからない。ベルを見れば、優の強さに気付いたわけではなさそうだ。素人にすればかなりのスピードだが、暗殺者にしては微妙な速度である。そして何より優の扱いが丁寧だった。

 

 30分も立てば、屋敷のような建物につく。

 

(ここって、ヴァリアーのアジトでしょ……)

 

 一般人扱いしている人物をアジトに連れていく、ベルの自由気ままな行動に優は頭が痛くなった。

 

 大きな部屋に入るとスクアーロの姿が目に入る。

 

「う゛お゛ぉい!! 誰だそいつはぁ゛!!」

 

 あまりの大きさに優は肩がビクッとなるほど驚いた。しかしその後のベルの発言によってどうでもよくなる。

 

「オレの姫」

 

 はぁ?とスクアーロと優の声がかぶる。ベルは気にした風もなく、優をソファーに座らせた。とりあえず地面に足がついたので優はホッとした。

 

「んもぉ! なによぉ! 大声出してぇ~」

 

 優が入ってきた扉からルッスーリアが現れる。優はルッスーリアの登場に驚くよりも、名前を思い出せないほうへと意識がいく。だが、一向に思い出す気配がないので、すぐに優は諦めた。

 

「あらぁん♪ 可愛い子だわ」

「ししっ。オレの姫♪」

「んまぁ! 大人になったのねぇ」

 

 おかしい。会話が成立している。

 

「す、すみません。私、帰りたいんですけど……」

「どういうことか説明しろ゛ぉ!!」

 

 この中で状況に違和感を覚えているのがスクアーロと優しかいない。仕方なく優が口を開く。

 

「外で歩いていると、王子っていう人に拉致されました」

 

 間違ってないと優は何度も頷く。

 

「どういうことだぁ!!」

「だってオレの姫だしー」

「あの……帰りたいんですけど……」

 

 カオスである。

 

「つまり、あの子に振り回された可哀相な子だったのねー」

 

 ベルとの会話で優の中で常識人から外されていたが、1番まともな人かもしれないと思い始める。ルッスーリアの好感度が上がった。

 

「帰っていいですか……?」

「うお゛ぉぉぉい!! まて゛ぇぇぇぇーー!」

 

 スクアーロに呼び止められ、優は心の中で雲雀に助けを求めた。

 

「なんですか……?」

 

 半泣き状態でスクアーロを見る。

 

「こいつが迷惑かけたみてぇだ。悪かったなぁ゛」

 

 スクアーロの好感度があがった。

 

「いえ、帰らせてもらえばそれでいいです」

 

 これで一件落着と優が安心した瞬間だった。

 

「ねぇ、せっかくだからもうちょっといましょうよ」

「ししっ♪ さんせーい」

「だから私は帰りますって」

「う゛お゛ぉい!! 迷惑かけた分ゆっくりしてい゛けぇ!!」

 

 会話がかみ合わない。

 

「もぉ、遠慮なんかいらないわよぉ。部屋に案内するわ~」

「なんでそうなるのーー!?」

 

 結局、押しに弱い優は一泊することになった。

 

 

 

 

 目が覚めた優は、お腹がすいたと思いながら1番最初に案内された部屋に向かう。帰る前に一言は声をかけるべきだと思ったのだ。

 

 久しぶりに緊張すると思いながら、ノックをし部屋に入る。

 

「失礼します」

「あら? 起きるのが早いわねぇ。今ご飯作ってるところよー」

 

 エプロン姿のルッスーリアを見て、いつもこの人が作ってたんだと一瞬納得しかけたが、ヴァリアーなら一流シェフがいるはずだ。つまり、これはルッスーリアがノリで作ってる。

 

「……私も手伝いますね」

 

 食べるまで帰してくれないだろうと判断した優は、ルッスーリアを手伝うために袖をまくった。

 

「いいわよぉ。あなたはお客さんよ?」

「お腹減ったんで……一緒に作った方が早いから……」

 

 そしてその分早く帰れるという言葉を優は呑み込んだ。

 

「そういうことならお願いしようかしら」

「はい」

 

 ルッスーリアの後ろを優はついていったのだった。

 

 大方作り終わり、仕上げをルッスーリアに任せて優は食器などを並べていると、スクアーロとベルが入ってきた。

 

「おはようございます」

「ししっ♪ おはよ」

「何してんだぁ」

 

 強引なところはあるが、優の行動を見て常識的な反応をするのはスクアーロである。当たり前のように優に返事をかえすベルが変というのがよくわかる。

 

「ご飯のお手伝いしてます」

「この子凄いわよぉ! すっごく料理が上手なのぉ」

 

 ルッスーリアがみていたと知ったので、スクアーロは席に腰をかけた。ちなみにベルはとっくの前に座っている。

 

「いただきましょう」

 

 食事を並べ終わり、ルッスーリアの声で食事が始まった。

 

「!! うまい……」

 

 スクアーロが驚くのも当然だ。雲雀がわざわざ優の家まで通って食べていることを考えれば、まずいはずがない。

 

「でしょう?」

「だってオレの姫だもん」

 

 優は変な人達と思いながら、もぐもぐと口を動かしていた。特にベルがなぜここまで優に警戒しないのかがわからない。雲雀のような例もあるので、優と相性がいいのかもしれないが、獄寺とはそこまで良くはなかった。

 

 少し考え、口の中のものがなくなったので優はベルに声をかけた。

 

「あのぉ、とりあえず姫って言うのは止めてもらえませんか? 私……か、彼氏いるんで……!」

 

 恥ずかしくなりながらも優は最後まで言い切った。雲雀にほめてほしいと思ったぐらいだ。

 

「んまあ! 残念ねぇ」

「関係ねーし」

(そこは気にしてよ!)

 

 すぐさま心の中で優はツッコミした。はぁと諦めたような溜息を吐き、常識人の2人に声をかける。

 

「今日は帰らせてくださいね?」

「そうねぇ。あまり長居させるのもねぇ」

 

 よしっと心の中で優はガッツポーズをした。

 

「そういえば、てめぇの名はなんだぁ」

「もう会うことはないと思うんで……」

 

 納得したようでスクアーロは頷いた。優は会うことがわかっていたが、いろいろ面倒な展開になりそうだったのでホッと息を吐く。そもそもスクアーロ達も優の前で名前を言っていない。負けたようで教えるのは癪である。

 

「オレの姫だって♪」

(それは違う)

 

 徐々に優のツッコミレベルが上がっていく。ただし心の中で。

 

「姫、どこに送ればいい?」

 

 ベルが送る気満々だと気付いた優は諦めて町の名を言った。

 

「……跳ね馬のところか」

 

 スクアーロがボソッと呟いた言葉を優は聞き流した。優は顔のつくりは日本人だが、髪と目の色を見ればハーフと思われる。放置すればたまたまその町に知り合いがいると判断されるからだ。

 

 優はルッスーリアに見送られる。スクアーロが隠れて見ていることに気付いたが、当然だと思ったので気にしなかった。

 

「いつでも来てくれていいわよぉ」

「はぁ……?」

 

 それはないだろうと思いながらも、一泊お世話になったので優はしっかりと頭を下げた。

 

「うししっ。姫、行くよ」

 

 優は大人しくベルの後についていく。車に乗るように案内されて喜ぶまでもう少し。

 

 

 

 2人が去った後、スクアーロはルッスーリアの前に現れた。

 

「動きは完全に素人だったぞぉ。それに血の臭いがしねぇ」

「そうねぇ。ベルが気に入ったから、凄腕と思ったのにねぇ。本当にあの子が気に入っただけみたいだわ」

 

 面倒なことをしたベルに苛立ち、スクアーロは舌打ちをする。

 

「私としてはそう怒らないでほしいわ。ベルが女の子に興味を持つ年頃になったってことよ? それに立場を弁えてるからあの子をちゃんと帰したわ」

「……随分肩を持つじゃねぇか」

「んまぁ。あの子を気に入ったのはベルと私だけじゃないでしょう? スクが1番食べていたわぁ」

 

 クネクネした動きで部屋に戻っていくルッスーリアに再びスクアーロは舌打ちをした。アジトを知られた優を無傷で帰した時点でそう思われるのは仕方のないことだった。

 

 

 

 

 

 送ってもらった優はベルに頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

(……迷惑かけられたから言う必要がない気がするけどね)

 

 相変わらず周りの目を気にする優だった。

 

「ひーめ」

「……はい?」

 

 おかしいと思いながらも、優は返事をした。

 

「また会おうぜ」

「いえ、もうないでしょう」

「ししっ♪ オレの勘は当たるんだぜ。オレ王子だし♪」

 

 優は苦笑いするしかない。これから会うことになると優は知っている。

 

「姫またね♪」

「……会えればいいですね」

 

 他人事のように返事をし、もう1人の姿でしか会わないように気をつけようと思いながら優はベルと別れた。


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