【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
ツナが勝ったのを見て、ホッと優は息を吐き駆け出した。雲雀のもとへ。
“無茶しすぎだろ”
「……うるさいよ」
気力だけで立ってたことに気付いていた優は、倒れる直前に雲雀を支えたのだ。
“でもおかげで助かった”
雲雀が無茶をしなければ、優は2人を守りながら動かなければならなかった。優は感謝しているが、雲雀は素直に受け取れるわけがない。
桜クラ病に罹っていなければ。
幻覚の攻撃を見破れることが出来ていれば。
優を表に出すことはなかったのだから。
雲雀は詳しくは聞いていないが、狙われるというのは強さが関係していると思ったのだ。もちろんそれだけでは全て説明出来ないが。
だから、雲雀は優にしか聞こえないような声で言った。
「……話して」
今まで優の気持ちを優先していたが、知らないことが多すぎる。これでは優を守れない。
「ヒバリさん、大丈夫ですか!?」
ツナが慌てて駆け寄ってくるので、優は呆れるように言った。
“今から僕の相手をしたいと思うほど元気らしい。だからせめて病院に行ってからにしろと言ったところ”
「えー!? その怪我でやる気なのー!?」
「ヒバリらしいじゃねーか」
雲雀にしかわからない言い回し。病院に行かないと話しませんよ、と優は言ったのだ。
扉の方からやってくる気配に気付き、視線を向ける。
「医療班がついたな」
リボーンの予想とは違い、現れたのは復讐者だった。骸達が連れて行かれるのを黙って見送るしかない。リボーンが止めたとおり、簡単に手を出せる相手ではない。それほど強いと優は肌で感じた。
骸達が連れて行かれる中、1人だけ優達がいる方へとやって来る。思わず優は雲雀を支えたまま、距離をとった。リボーンはツナの前に立ち、代表して声をかける。
「オレ達に何の用だ」
「お前ではない。異の者よ」
その言葉に反応したのは優だった。巻き込まないように雲雀を離そうとしたが、リボーン達から見えない角度で雲雀はしっかりと優の服を掴んでいた。復讐者に捕まる理由がないのもあり、優はそのままの状態で話すことにした。
“……なんだ?”
「お前に鍵を授けに来た」
復讐者が持っている鍵を見て、優は心底嫌そうに言った。
“僕はそれを二度と見たくなかった”
優にしては珍しい反応だが、無理もなかった。鍵は優を轢いたトラック。好き好んで見たくはない。優の反応に気にした風もなく、鍵が輝き始め優の頭の中に文字が浮かぶ。
“……ふざけるな! 1つはいい。もう1つはなんだ! 僕の周りに被害があるだろ!?”
「我々は内容を知らない」
ふぅと優は息を吐く。頭を冷やせば、復讐者が知ってるわけがない。なぜならここにいる復讐者にも被害があるからだ。知っていれば、持ってくるはずがない。
“質問をかえる。誰がそれを渡した?”
「我々は知らない。声を聞いただけだ」
優はガシガシとフードの上から頭をかく。声しかわからないのは優も一緒だ。
“もう一つだけ悪い。鍵を渡した時に何か言われたか?”
「これが異の者の運命と聞いた」
さだめ。この言葉に反応したのは優よりも雲雀の方だった。それでも接していた優にしかわからない程度だったが。
“僕のせいで手間をかけさせた。悪かったな”
「問題ない」
「待て! お前らがそう簡単に誰かの指図を受けることはねぇはずだぞ」
リボーンの言葉に優は眉間に皺を寄せた。それが本当なら、優の質問に答えたことにも違和感がある。答えるように指示されていたのか、それともそれが復讐者にとって利益があるからなのか。
「お前には関係ないことだ。アルコバレーノ」
リボーンに釘を刺したのか。それとも優とリボーンの両方に釘を指したのか。
結局、優とリボーンは復讐者が去るのを黙って見送るしかなった。
“……座るぞ”
精神的に疲れたので優は雲雀に声をかけてから座った。雲雀も座るかと思ったが、気合で立つことを選んだようだ。
「どういうことだ?」
片膝を立て、コンコンとフードの上から額を叩き頭を整理する。だが、リボーンの質問に満足に答えることは出来そうにない。
“無理だ。情報が少なすぎる。僕でもわからないことが多い”
「……わかったぞ。1つだけ教えてくれ。周りに被害とはなんだ?」
“聞きたいのか? 僕は聞かない方がいいと思うぞ”
「お前の様子からして、オレ達に被害があるんじゃねーのか」
「ええ!?」
状況についていけず今まで黙っていたツナが声をあげた。
“……僕に関わった者が死ぬらしい”
視線が集まるのを優は感じた。その中で優はツナを見ることを選んだ。真っ青な顔だった。
“僕に話されては困ることがあるようだ。心配しなくても、死んでも話さない。……といっても、信じられるわけないか。今、僕を殺すか? 君達には権利がある”
仕方ないという風に優は息を吐いた。
「リ、リボーン!!」
「赤ん坊、手を出したら許さないよ。これは僕の獲物だ」
すぐに2人は反対の声をあげた。だが、これには大きな差があった。ツナはただ殺傷が苦手だから止めただけだ。雲雀は優を守るために言った。ツナが悪いわけではないが、この差は大きい。優に響いたのは雲雀の言葉だった。それでも優は先程の言葉を取り消さなかった。
「……止めておくぞ」
先程の戦闘から考えれば極端に誰かが傷つけられることを怖がってることがわかる。ツナと雲雀に言われなくてもリボーンは殺る気はなかった。
少し返事が遅れたのは、危ういと思ったからだった。
ツナと似たような性格だと思っていたが、誰かのためなら簡単に自分の命を捨てる。獄寺と違って自分の命が見えていて、捨てるのだ。根深すぎる。
“……そうか。じゃ僕は行く”
「待ちなよ」
優は軽く溜息を吐いてから言った。
“さっき言っただろ? 病院に行けって”
頷けるわけがない。先程とは意味が違うからだ。雲雀にもう自分と関わるなと言っている。
「……正体ばらすよ」
“君は……!”
雲雀は優が無視できない内容を言った。いつもと同じようで、全く違う。ここで逃がしてしまえば、もう戻ってこない。だから今1番優が嫌がる言葉を選んだ。
“あーもうわかった! さっさと終わらせて病院に連れて行くからな!”
雲雀は優の言葉を無視した。久しぶりに優は雲雀にイラっとする。
大きな溜息を吐き、優はリボーンを見た。
“……病院か学校かわからないが、とにかく彼は僕が責任を持って安全な場所に届けるから安心してくれ”
「わかったぞ」
フードの上から頭をかいてから、優は雲雀の腕を肩にかける。
「……なにしてるの?」
雲雀だけに正しく伝わる言い回しで優は言った。
“ここだと医療班の邪魔になるからな。君は出来るだけ休ませないと、僕の相手をする前に体力が切れるぞ。それで僕が逃げれば君は納得しないだろ?”
渋々という形で雲雀は優に身体を預けた。
「……赤ん坊」
「なんだ?」
「これが並中出身ってわからないようにして。逃げられるから。……ランキングがあるんだよね?」
すっかり忘れていたと思いながら、優はリボーンの了承の返事を聞いた。
“……君からの逃げ道がなくなっていきそうだ”
「言ったよね。君は僕の獲物だ」
ガクリと項垂れながら、雲雀を連れて去っていった。それを見て、リボーンは強引なタイプに弱いのかと思ったり、ツナは雲雀に目をつけられて大変そうと思った。
ある程度移動し、誰にも付けられていないと確認して優は口を開いた。
「雲雀先輩、無茶しすぎですよー」
「君が悪い」
「……おんぶしますね? 嫌かもしれないけど、その方が雲雀先輩の身体に負担がかかりません」
今回はすんなりと背負える。
「……すみません。いろいろ面倒なことに付き合ってもらって」
詳しく話していないのにも関わらず、正体がバレないように雲雀がここまで協力してくれるとは思っていなかったのだ。
「君が学校に通えるなら僕は気にしない」
「……もう、いいですよ?」
「君が良くても僕は嫌だ」
困ったように優は眉を下げた。
「詳しい話は君の家についてからだ」
コクンと頷き、優は走った。
家についた優は早速雲雀の怪我を診る。雲雀が睨んでいたが、何も言ってはこなかった。診てからじゃないと優が話さないとわかっていたのだろう。
「……応急処置はしました。でも病院に行ったほうがいいです」
「さっきのとか何?」
無視である。
「どこからどこまで話していいのか……難しいです」
「早くいいなよ」
考える時間もくれないらしい。
「んー、私の本当の戦闘スタイルから話しましょうか」
「……風?」
瞬きを繰り返す。気付かれるほど使った覚えはなかった。
「確証はなかったよ。室内にしては風が吹いてると思ったけど、窓が割れていたし違和感はなかった」
「え。じゃぁどうしてですか?」
「刀じゃないって君が言ったから。だから他のを考えた。僕の昼寝の時、気持ちいい風が吹くことが多いのに、寒くなるとなかった」
思わず優は目を逸らした。普段がマヌケすぎる。
「思い出すと君が浮かれていた体育祭の日は風が強かった。風が関係あるなら強風で窓が割れたのも、不安定になった君が暴走したと説明がつく」
ガクリと肩を落とす。失態が多すぎだ。
「昼寝の時も不安定になった時も僕しか知らないから」
「……多少は自覚してましたけど、雲雀先輩の前だと本当に気が抜けてますね」
はぁと溜息を吐いたが、やってしまったのは仕方ないので話を進める。
「雲雀先輩の言うとおりです。私は自然にある風を操ることが出来ます。でもさっきそれを制限されました。人一人分ぐらいなら問題なく浮かせれますけどね。制限を外すことが出来ますが、体調が万全で5分が限度みたいです。使うと倒れるらしいです。時間が過ぎても倒れます」
雲雀がチラッと視線を向けたので、優は首を振った。話せない。
「これは心当たりはあるので、大丈夫です」
「……わかった」
制限されたのは好き勝手に原作を壊させないようにするためだろう。それしか優は考えられなかった。なぜならもう1つ頭に流れた内容が『呪いについて他言無用』だったからだ。そして話せば『関わった者が死ぬ』。
ふぅと軽く息を吐き、優は服の中からおしゃぶりを出す。
「制限を外すにはこの袋を取ればいいようです。元々はおしゃぶりを隠すために入れていただけでした」
「おしゃぶり?」
「リボーン君がさげてるのと同じですよ」
へぇと感心したように雲雀が袋を見ていた。
「これは身体から離れません」
「それを見られたくなかったんだね」
コクリと頷く。
「おしゃぶりを持つものはアルコバレーノと呼ばれるようです」
「それがあると権力と力のある人に狙われるって言ったよね。赤ん坊は問題なさそうだけど……」
「大きな違いはリボーン君はボンゴレに所属し、私がまだ無所属だからです」
念のために優は言葉を付け加えた。
「今から言うことは確証がありませんよ。誰かに確認したわけではありませんから」
「それでもいい」
「アルコバレーノはマフィアの勢力図が変わるほど影響を与えると予想しています」
原作と違い、雲雀は先程の戦いを最後まで立っていた。つまり骸達の過去を聞いている。なんとしてでも優を欲しがるマフィアがいるだろう。他にも弱小だけでなく、巨大なマフィアも欲しがる可能性もある。話を聞いた雲雀がわからないはずがない。
「……だから私は爆弾なんです」
少しの間、沈黙が流れる。状況を理解してるからこそ、雲雀は迂闊に声をかけれなかったのだ。
「……それ、絶対に外せないの?」
「外せたとしても、私は死んじゃいますね」
前の世界に戻るだろうと一瞬頭をよぎったが、向こうの世界で優は死んでいる。おしゃぶりが外れて呪いが解けない可能性は考えられなかった。おしゃぶりを外せば、優は死ぬ道しか残っていない。
「どこに所属するの?」
「へ?」
優の回答を気にした風もなく、雲雀は質問を続けたので優は驚いたのだ。
「君が頼ろうと考えたところ」
ジッと優は雲雀の顔を見た。
「そこなら君の事を考えてくれると思ったから頼ろうとしたんだよね? まだ学校に通える可能性はあるってことでしょ」
「……雲雀先輩」
まだ見捨てず最善の道を探そうとする雲雀の優しさに我慢できず、優は涙を流し始める。前とは違いグシャグシャの顔である。本当の優の姿だった。
雲雀は痛む身体を無視し優を引き寄せた。すっかりと怪我のことを忘れ、優は雲雀の背中に腕を回したのだった。