【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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バレンタイン

 鼻歌を歌いながら優は登校していた。体育祭の時のように浮かれている。当然のようにテンションの高い優を見て、男子がそわそわし出す。だが、今日は体育祭以上にそわそわしていた。

 

「ツナ君、おはよっ」

「おはよう、優」

「はい。バレンタインチョコ!」

 

 そう、今日はバレンタインデーだからだ。日本では女性から男性に送ることが多い。そしてチョコを渡しながら告白というの流れをちょうど夢見る年頃である。ばっさり切るが、そんな甘い話は滅多にない。あっても一握りの男が独占している。

 

「ありがとう、優!」

 

 人気のある山本と獄寺は忙しそうだなぁとどこか他人事と思っていたツナは、優から朝一でチョコを貰いちょっぴり感動で泣きそうである。

 

「どういたしまして」

 

 ニコニコと2人で微笑んでると、ツナは背筋が一瞬寒くなる。恐る恐る振り返ると、案の定優のことが好きな男子達から睨まれていた。

 

「ははは」

 

 苦笑いで誤魔化そうとしたが、視線が減ることは無い。

 

「あ。手作りだから早めに食べてね」

 

 トドメを指す優。悔しすぎて涙が出ている者までいる。

 

「ほ、他に渡す予定とかないのかなー……なんて」

「えっと、花と京子ちゃんとハルちゃんでしょ。山本君と獄寺君でしょ。ランボ君、イーピンちゃん、リボーン君、フゥ太君。後は雲雀先輩と草壁さんかな」

 

 神にはもう渡した後だが、ツナには言えないので黙っている。

 

「草壁さんって?」

 

 初めて聞く名にツナは首を傾げた。

 

「風紀委員の副委員長だよ。いつもお世話になってるからね。雲雀先輩に振り回された時にフォローしてくれるんだ」

 

 まさかの伏兵が現れた。どんな男だと会議が始まったのを見て、あれはあれで楽しそうとツナは思った。

 

「ほんと、このクラスの男ってバカばっかりだわ」

 

 一部始終を面白おかしく見ていた黒川の感想だった。

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 優は首を傾げながら応接室に向かっていた。呼び出し時にチョコを渡そうと思っていたが、今日はまだ1度も呼び出されていないのだ。

 

「なんだろ? これ?」

 

 いつもと違い、今日は応接室の扉の横に机が設置されている。机の上にはダンボールがあり、中には包装されている箱があった。恐らく中身はチョコだろう。

 

 感心しつつノックをし、カギが開いていたので顔を覗かせる。

 

「どうかしましたか? 風早さん」

「こんにちは、草壁さん」

 

 部屋にいた草壁に挨拶しつつ、周りを見渡す。

 

「委員長は見回りに出かけています」

 

 視線で探してることに気付かれたらしく、恥ずかしそうに優は頭をかく。

 

「いつごろ戻って来るかわかります?」

「……今日は難しいですね」

 

 忙しいのならば仕方が無い。もしかすると雲隠れしているのかもしれない。

 

「草壁さん、良ければ貰ってください」

 

 優の手にはちゃんと2つあるので、雲雀の分とは別とわかり草壁は肩の力を抜いた。いないからと渡されれば、優を悲しませずに断る方法を考えなければならない。

 

「よろしいのですか?」

「はい。日ごろのお礼です」

 

 せっかくの好意なので草壁は受け取る。雲雀にバレないことを願いながら。ちなみに受け取らない選択はない。それはそれで雲雀の反応が怖い。

 

「雲雀先輩の分は、外の箱でいいんですよね?」

「えっ!?」

「え? 違うんですか?」

 

 チョコらしき包装と一緒に雲雀宛てのメッセージカードがあった。群れることが嫌いな雲雀が苦手そうなイベントである。来るものを咬み殺せばいいだけの話かもしれないが、女の執念は恐ろしい。変わりである雲雀を好きになるぐらいなので、記念に咬み殺されたいと考える者だっている可能性がある。咬み殺してくださいと多数の女子から迫られれば、雲雀でも嫌だろう。

 

 その様子を想像し鳥肌が立った優は、ずっと隠れていた方がいいと思った。もちろん全て優の勝手な想像だが。

 

「……そうですが、風早さんは直接お渡しした方がいいかと思います」

「そうなんですか?」

「はい」

 

 草壁がしっかりと頷いたので、そうなのだろう。優は雲雀に渡すつもりのチョコを見る。

 

「今日は晩ご飯食べに来るかなぁ」

 

 ポツリと優は呟く。必ず1度は学校に寄るだろうが、優の家に来るかは怪しい。

 

「風早さんの家に寄るようにお伝えしましょうか?」

 

 今日の放課後はツナの家に寄るつもりなので、タイミングが合わなかった時に困る。

 

「いえ、大丈夫です。放課後にもう1度顔を出して会えなければ、後で私から電話します」

「そうですか。わかりました」

 

 草壁とわかれ、応接を出る。その時にもう1度ダンボールを覗く。

 

(雲雀先輩ってモテモテなんだねー)

 

 人気投票で上位だったのは知ってるが、ここは現実だ。

 

「はぁ。もうちょっと頑張れば良かった」

 

 今持ってるチョコとダンボールにあるチョコを比べて優が思ったことだった。

 

 

 

 

 

 昼休みが終わると朝の元気はどこへ行ったのかというぐらい優は静かだった。

 

「今度はなにがあったのよ、優」

「花?」

 

 不思議そうな顔をしてるが、ジーっと1つのチョコを見つめていれば、黒川でなくても何かあったとわかる。

 

「雲雀恭弥が受け取ってくれなかったの?」

 

 言いながらもそれはないだろうと黒川は思っていた。自覚してるかはわからないが、雲雀は優にベタ惚れだ。優は逃げられないだろう。優が雲雀を嫌がってるなら、友達として手助けはするつもりだが、その心配は必要ない。優も雲雀に惚れている。絶対に自覚はしていないが。

 

「違う違う。会えなかっただけ」

「それだけじゃないでしょうに」

 

 呆れながら黒川は言った。他の事はわかりにくいのに、優は恋愛のことになると途端にわかりやすくなる。恐らく経験が少ないからだろう。

 

 最初に黒川が優に話しかけた時、優はわかりやすかった。友達が出来た経験がなかったからだ。経験を積んでしまったので、最近は分かりづらくなった。

 

 もし雲雀が優の手を離し、何人もの男と付き合うようになり経験をつければ、いずれ何もわからなくなりそうで怖い。優は隠すのが上手すぎる。

 

 雲雀がしくじらない限り、優は大丈夫。優にスキがなくなれば、1番仲の良いツナですら気付かなくなる可能性がある。友達のことなのに任せるのは自分の力不足を感じて悔しいが、雲雀にはずっと優の側に居てもらい、優が隠した時に気付いてほしい。そう黒川は考えていた。だから、自分に出来ることとして、優に助言するのだ。

 

「私からはいらないかなぁって。いっぱいあったし」

 

 その言葉に反応し、お零れを狙った男達を黒川は睨みつけ黙らせた。

 

「あんたねぇ、こういうのは気持ちよ、気持ち。雲雀恭弥に感謝してるでしょ?」

「そうだけど……」

 

 ウジウジ悩む姿は完全に恋する乙女である。

 

「いいから渡しなさい」

「い、痛いってば、花。わかった、わかったから」

 

 おでこをつつかれ、優は勢いで返事をした。まったく……と黒川は息を吐いたのだった。

 

 

 

 放課後。応接室を覗いたが、誰もいなかった。そしてダンボールの中身は増えていた。

 

 チラッと手に持ってる物を確認し、紛れ込ませるように箱の中にいれようとする。

 

「風早さん!!」

 

 大きな声に驚き、チョコを背に隠す。それから振り向くと、息を切らした草壁が居た。走ってきたらしい。

 

「ど、どうかしましたか?」

「放課後にもう1度顔を出すと伺っていたので」

 

 わざわざ優のために来てくれたようだ。慌てて頭を下げる。

 

「すみません」

「いえ、問題ありません。それと委員長はまだ来ていません」

「わ、わざわざありがとうございます。では失礼しますね」

 

 直接渡した方がいいとアドバイスした草壁の前でチョコを入れるのはどうかと思い、優は逃げるように立ち去った。

 

 その姿を見送った草壁は見にきて良かったと心の底から思っていた。そして念のために雲雀に報告しようと。

 

 

 

 

 雲雀のチョコはカバンに仕舞い、優はツナの家に向かった。出迎えたのがツナではなく、リボーンだったので首を傾げる。

 

「珍しいね」

「ツナは今頑張って走ってるからな」

「それって大丈夫?」

「今頑張らねーと、後がやべーんだ」

 

 リボーンがそう判断したのなら、優は口出すことはやめた。

 

「そっか。リボーン君、チョコレートどうぞ」

「サンキューな。あがってけ」

「ありがとう」

 

 ツナの家にあがると、甘い匂いが漂う。京子とハルから話は聞いていたので、驚きはしない。

 

 ハルとイーピンに渡し、ランボの姿を探す。チョコを渡していれば寄ってくると思っていたのに、来ないのだ。

 

「ランボは今いねーぞ」

「え? そうなの?」

 

 どうしようかなと思っていると、イーピンが手を伸ばしていた。

 

「もしかして、渡してくれるの?」

 

 コクンと頷いたのを見て、優はデレデレになる。可愛くて良い子だ。

 

 イーピンにチョコを預け、優は立ち上がる。そしてドアの隙間から羨ましそうに立ってるフゥ太を手招きする。

 

「ぼ、僕の分もあるの!?」

 

 ツナを観察してる時にしか会ったことがなかったので、自分の分はないと思ってたらしい。優からもらえてピョンピョン飛び跳ねるので、優の顔はにやけっぱなしだ。可愛いものに弱すぎる。

 

「じゃ、私は帰るね」

「はひ! もう帰っちゃうんですか? 食べて行ってくださいよー」

「そうだよー。食べていってよー」

「……まだ渡せてない人がいるんだよね」

 

 可愛い子達のチョコを食べれないのは非常に残念だが、雲雀が来るかもしれないので家に帰っておきたい。

 

 優の反応を見て、2人は揃って見送ることを選んだ。

 

「頑張ってください」

「優ちゃんなら、大丈夫だよ」

「え? あ、うん」

 

 とりあえず頷きはしたが、作り終わってることを知ってるのに、どこで頑張る機会があるのかなと優は首を傾げながらも帰った。

 

 

 

 

 家に帰った優は、またジーと雲雀のチョコを見つめていた。

 

「もう食べちゃおうかなぁ」

「なにを?」

「わっ、雲雀先輩!?」

 

 いったいいつ来たのだろうか。リボーンの気配には気付くのに、雲雀の気配はいつも見逃してしまう。

 

「お茶いれますね」

 

 雲雀がソファーに座ったので、優はお茶の準備をするため台所に向かう。雲雀の手にはダンボールが無かった。まだ取りに行ってないのだろうか。それとももう持って帰った後なのだろうか。

 

「あれ? って、雲雀先輩!?」

 

 机の上に置いていたチョコがない。そう思って見渡していると、雲雀が食べていた。

 

「なに」

「……ん? 問題なかったですね。はい」

 

 勝手に食べた!と思ったが、元々雲雀に渡す予定のチョコだった。

 

「……甘すぎるのは好きじゃないけど、年に1度くらいならいいかな」

 

 ペロッと全て食べた後に言った雲雀の言葉に、優は無意識に笑っていた。


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