【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
よいしょっと優は荷物をかかえ、フラフラと歩いていた。両手には食材だけじゃなく生活品もある。重いものは配達を頼んだが、それでも細かいものが積み重なれば、結構な量になってしまう。風をつかえば荷物は軽くなるが、嵩が減るわけではないので覚束ない足取りになってしまったのだ。
優がここまで考えなしに買い物をしたのは、時間がないからだ。いつ雲雀から呼び出されるかわからない。ツナ達は事情をわかってくれるので、途中で抜けても許してくれるのでまだいい。……本音は良くないのだが、買い物中に呼び出されるのは本当に困るのだ。生活に支障が出る。
そのため食材がなくなる前日に雲雀に訴え、絶対に放課後の呼び出しがないように交渉する。毎日は許さないので、おのずと買い込む流れになってしまうのだ。
「危ないぜ」
流れるように荷物を奪った男の姿に、優は目を見開く。
「家はどこなんだ? 送っていくぜ」
「おいおい。目を離したスキにボスがナンパしてるぜ」
「ちげぇよ!」
和気藹々とした空気に優も肩の力を抜く。油断している優の荷物を奪うぐらいこの人物なら造作もないこと。そして100%の親切心から出た行動だと優は知っていた。
「ありがとうございます。でも近いですし大丈夫ですよ」
「近いならすぐに終わるな」
ツナに似た温かさを持つディーノに、結局優は甘えることにした。
「へぇ、昨日から日本に……」
「ああ」
大人数がいても仕方が無いので、優の周りにはディーノとロマーリオだけである。ロマーリオは一歩引き歩いているので、優の話し相手はもっぱらディーノだった。
「せっかくの観光中にすみません」
「しばらく滞在する予定だし、部下と買い物はいつでも出来る。気にするな」
「ありがとうございます、ディーノさん」
もちろん自己紹介は最初の方に済んでいる。優は名を知っていたが、聞かない方がおかしい。
「それにしても……日本語、お上手ですね」
「ガキの頃から勉強しているからなぁ」
「それは凄いですね」
マフィアのボスはそういう勉強もあるらしい。優は感心した。
「優は生まれも育ちも日本なのか?」
髪と目の色を見てディーノは思ったことを言っただけなのだろう。しかし優はどうやって説明しようかと悩んでしまった。神から過去は向こうの世界と同じと聞いていたにも関わらず。
「優?」
「すみません。実はよくわかっていなくて……。5歳の頃に引き取られた家は日本だったんですが、その前にどこで何をしていたのかサッパリなんです。母は日本人というのはわかってますが……」
優が言葉を濁した意味をディーノは察した。
「……すまん」
「いえ。私は聞いてもらえて楽になりました」
説明の仕方を悩んだが話したくないと優は思わなかった。恐らくディーノから流れる雰囲気が温かいからだろう。
「あ、ここです! ありがとうございました! 良かったらお茶でも飲んでいってください」
「じゃ頂くぜ」
先程の空気を打ち消すように話す優をみて、ディーノはお邪魔することにしたのだった。
家にあがったディーノとロマーリオは勧められたソファーに座り、リビングを見渡す。随分と綺麗に片付いている。ただ、広い家の割りに荷物が少ない。
「1人で住んでるのか?」
「はい。殺風景な部屋ですみません」
顔に出したつもりはなかったので、気付かれたことにディーノは驚く。だが、優はたいしたことではない風に、話を続けた。
「新しく引き取ってくれた人はもっと好きにつかっていいって言うんですけど、何を買っていいのかわからなくて、結局用意してくれた家具しかないんです」
ちなみに新しく引き取ってくれた人というのは神のことである。詳しくは聞いていないが、なぜかこの世界に神の戸籍があり、優は神の養子になっているのだ。
「あ、とても良い人ですよ! 服とか季節が変わるたびにいっぱい送ってくれるんで困ってるぐらいです」
『別に困るほど送ってないだろ。普通だ、普通』
頭に響いた声を優は無視し、ディーノ達にお茶を出す。
「寂しくないのか?」
「はい。友達がいっぱい出来ましたから」
「そうか」
「それに私の都合もお構いなしに家に来ては、ご飯作れっていう先輩もいますし」
口をとがらしながらも優が笑っているので、ディーノとロマーリオも笑う。
「変わった先輩だな」
「はい。とーっても、変な先輩です」
一変して優は真面目な顔をしてディーノの言葉に同意した。が、途中でおかしくなり耐え切れず揃って噴出す。
「ここに居たのか」
「リボーン!?」
「こんばんは、リボーン君」
突如現れたリボーンにディーノは驚くが、優は何事もなかったように挨拶する。気配に気付いていたのもあるが、殺し屋のリボーンの行動にいちいち驚いていられないのだ。
「おめーの部下からディーノがナンパしたって聞いて、見にきてやったぞ」
「あいつら……」
ディーノが心配だからこそ、リボーンに声をかけたのだろう。ディーノのファミリーのあまりの仲の良さに優は笑うしかない。
「リボーン君の関係者ってことでいいのかな?」
「ああ。ツナの兄弟子だぞ」
そうなんだと言って笑う優をみて、ディーノは詳しい事情を知っているとわかり改めて挨拶する。
「キャバッローネファミリー、10代目ボスのディーノだ。まさかリボーンの知り合いだったとは思わなかったぜ」
「私はツナ君の友達ですから」
「ちげぇぞ。ファミリーの一員だぞ」
この機会にちゃっかりと勧誘するリボーン。
「私をいれても、雲雀先輩が入るとは限らないよ」
優はクスクスと笑いながら言った。リボーンの思惑に気付いてたようだ。そして、優が雲雀の好意に気付いていたことも驚いた。知っていてあの態度だとすれば、かなりの小悪魔である。
「雲雀はおめーに甘いからわからねーぞ」
「え? リボーン君大丈夫? 雲雀先輩が私に甘いわけないじゃん。多少は他の人より優しいのは否定しないけど、それはご飯に困るからだし」
……そうではなかったらしい。
「まぁもし……もしそれが事実だとして、リボーン君がそれで私を誘ってるなら絶対に入らないよ」
リボーンは真意を掴むために優の顔をみた。
「必要なのは雲雀先輩であって私じゃないってことでしょ? 足枷になるのは勘弁。ファミリーに入らなくてもツナ君の友達は続けれるしね」
「……今回はリボーンの負けだな。しっかし珍しいじゃねーか、リボーンが一本とられるなんて」
空気をかえるかのようにディーノが笑い出し、優もそれにのる。
「それだけ雲雀先輩をファミリーに入れたいってことですよ」
「強いのか?」
「はい。とっても。それでいて変な先輩なんです」
またも真面目な顔して言ったことで、先程のことを思い出し途中で耐え切れずに笑いあう。
「気に入ったぜ、優。オレのところへ来ないか?」
「それ、面白そうですね。……でも今は保留かな。ツナ君が困った時にすぐ駆けつけたいから」
「そうか。それは残念だ」
本当に残念そうにディーノが言ったので、優はまた笑った。
優の家からツナの家へ帰り道、ディーノは真面目な顔をしてリボーンに声をかけた。
「なんであんな方法を取った。お前らしくもない」
「……優は自分の価値が低いと考えている。だからツナを自分よりも大切にしている。他にも頭が良くて、オレがいる限りツナがボンゴレを継ぐことになるのは時間の問題だと気付いている」
「で、ヒバリっていう奴が強くて、ツナの助けになることもわかっている、か……」
ああ。とリボーンは白い息を出しながら言った。
リボーンは雲雀が優に甘いと知れば、優はツナのために協力するだろうと思っていた。だが、足枷になるのは勘弁と優は言った。
雲雀の、という意味ではない。
では、いったい誰の足枷か。
答えは簡単だ。続いた言葉はツナのことだった。
「ツナはいい友達を持ったなぁ」
「そうだな」
もし雲雀を手に入れるために優を巻き込んでしまったと知ってしまえば、ツナは一生後悔することになるだろう。
優はツナの心の足枷になるのを拒んだのだった。