【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました   作:ちびっこ

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体育祭♪

「極限必勝!!!」

 

 声の大きさにビクッと優は肩を弾ませる。友達の京子には悪いが、優は暑苦しいタイプの了平が苦手だった。更に周りの熱気に引き気味だ。初めて雲雀に呼び出されてほしいと思ったほどである。

 

 進行していくとメインの棒倒しの大将にツナの名が呼ばれ、挙手を求められていたが優は手をあげなかった。ツナがやりたくないと気付いているから。

 

「……決まっちゃった」

 

 原作で知っていたが、ツナのことを思うと優は不憫としか思えない。

 

「あんた、京子のお兄さんと合わなさそうね」

 

 ケタケタと笑いながら話す黒川に優は苦笑いを返すしかない。黒川の隣には京子がいるのだから。

 

 大将が決まった後も了平の熱気が凄く、優は目をそらし、未だハラハラしている京子を見て癒されることにしたのだった。

 

 ちなみに、その優の癒された姿を見て癒されている人物もいたが、当然のように優は気付かなかった。

 

 

 

 

 体育祭当日、少々風は強いが、晴天。

 

 優は珍しく一発で起き、朝からは張り切っていた。

 

「お弁当、お弁当ー♪」

 

 あまりにも楽しみにで、適当に作った歌まで口ずさむほどだ。

 

 そのテンションのまま優は学校に行き、周りの男子をソワソワとさせていたのだが、みんなも体育祭が楽しみなんだね!という鈍感ぶりをまたも発揮していた。

 

「ここまで来ると見事ね……」

「花?」

「なんでもないわよ。それより、あんた今日もあの格好で行くの? 絶対、暑いわよ」

 

 黒川が言っている優の格好とは、半袖の体操着の上に、長袖の体操着であるジャージも着るからだ。

 

「うん、焼けたくないしね」

 

 優も面倒で暑いと思っているが、体操着は制服と違い体系がはっきりと現れ、おしゃぶりをさげているとバレてしまうため脱げない。

 

「熱中症には気をつけなさいよ?」

「うん、ありがとう」

 

 黒川の優しさにホッコリしつつ、優は体育祭が始まるのを楽しみに待っていた。

 

 体操着に着替え終わり、A組の待機場所でツナを見かけた優は声をかける。朝からすれ違い、まだ会っていなかったのだ。

 

「ツナ君、おはよっ!」

「……おはよう、優」

 

 優は首を傾げる。大将をするのが嫌でテンションが低いのかなと一瞬思ったが、ツナの頬がいつもより赤いことに気付く。

 

「もしかして、熱がある?」

「……うん、37.5℃あったんだ」

「え! 保健室に行かないと!」

 

 ツナは感動する。やっと心配してくれる人物が現れたのだから。ただし、現実は残酷である。

 

「もう行ってダメだったんだ……」

 

 困ったように眉を下げた優を見て、ほんの少しツナは癒される。心配してくれる人物が1人でもいれば、気持ちが楽になる。

 

「……そうだ! 凍らしたペットボトルがあるよ!」

 

 優の好意に甘え、ツナはペットボトルを受け取り額に当てる。その間に優は影になる場所を探しだし、ツナを手招きする。

 

「ここで休めば、少しは楽になるよ」

「ありがとう、優」

「気にしなくていいよ。じゃツナ君どうぞー」

 

 ツナは不思議な顔をする。どうぞと言われたが、優は何も持っていないので、受け取るものがない。

 

 優は優でツナの反応がないので首を傾げる。

 

「遠慮しなくていいよ?」

 

 そう言って優がポンポンと膝を叩いたことで、ツナはやっと意味を理解する。

 

「えええ!?」

「ん?」

 

 雲雀で慣れてしまった優は、ツナが驚いてる理由がわからない。ツナに対して恋愛感情が全く無く、親切心から言っているのも気付かない要因の1つだろう。

 

「そ、それは出来ないよ!」

 

 男子から殺気を感じたのもあり、必死にツナは拒否をする。

 

「……あ、そっか。私じゃ嫌だよね」

 

 前の世界のことを思い出し、ツナの優しさに甘えていたと優は反省する。そして、ツナに嫌われたくない優は「ゴメンね」と言って笑った。

 

 これにツナは罪悪感でいっぱいになる。殺気を出していた男子も、どうにかしろとツナに目で訴え始める。しかしツナは上手く言葉が出てこなく、アワアワとするだけだ。

 

「まったく、しょうがない子ね」

「花?」

 

 少し前まで面白がっていた花だったが、この不穏な空気に見かねて声をかけたのだ。ツナのためじゃなく、優のために。

 

「いい? 沢田はあんたが嫌だったわけじゃないの。ただ勘違いされたくなかっただけよ」

「……ゴメン! ツナ君! 私、もうちょっとでツナ君の邪魔をするところだった!」

「う、ううん。気にしなくていいよ」

 

 元気が出た優を見て、ツナは「助かった、ありがとう」と黒川に視線を送ったのだった。

 

 体育祭が始まると、優は陸上部を抜いて100M走で1位をとる。元々足が速く選ばれていたので、騒ぎになることはなく、よくやったと思うぐらいだ。しかしいつまでも優は1位になれたことを喜んでいる。仲の良いツナと黒川と京子は優の様子がおかしいと気付く。

 

「優ちゃん、すっごく元気だね」

「元気というより……あれは浮かれてるって感じよ。見ているこっちが心配になるわ」

 

 京子と黒川の会話を盗み聞きしていたツナも心の中で同意していた。今日の優はテンションの浮き沈みが激しい。黒川の言うとおり、ちょっと心配だ。

 

 優が出る種目は今から始まる借り物競争で終わりなので、それからはゆっくりさせた方がいいかもしれないと、ツナと黒川は考えていた。

 

 

 心配をかけていることに全く気付いていない優はというと、借り物競争でも1位を取ろうと意気込んでいた。

 

「よーい」

 

 パンっ!というスターターピストルの音が聞こえ、優は借り物を書いてる紙の場所へと走り出す。1番最初に到達した優は目の前に会った紙を広げた。

 

『風紀委員長(雲雀恭弥)の武器(トンファー)』

 

 何度か瞬きを繰り返した後、優はケイタイを取り出す。体操着でもケイタイを持っているのは雲雀から呼び出しがいつあるか、わからないからだ。そのため教師も黙認している。

 

 片方の耳からは待機音が聞こえ、もう片方の耳からは校歌の音がするので、雲雀が近くにいることがわかる。

 

『なに』

「借り物競争の紙が雲雀先輩の……」

 

 そこまで言ったところでいつものような通話が切れた音が聞こえた。

 

「切られちゃった……」

 

 ガックリと優は肩を落とす。順位云々の話どころではない、棄権である。トボトボと歩き、実行委員に近づく。

 

「……それで、何?」

「雲雀先輩!」

 

 はぁと溜息を吐きながらも現れた雲雀の姿を見て、パァァァと優は顔を輝かせる。

 

「見てください!」

 

 よく見えるように紙を広げ、優は期待したような目を雲雀に向ける。そこでまたも雲雀は溜息を吐く。思った通り、優がおかしい。

 

 周りの状況が見えていない。

 

 最近の優の態度はわかりやすいので、優が人目があるところで雲雀に会うのが嫌だと思っていることを、雲雀は気付いていた。それなのに、全校生徒の前で雲雀と話しているのだ。自分が何をしているのかわかっていない。

 

「ダメ、ですか?」

「……行くよ」

「はい!」

 

 優が走り出そうとしたので、再び雲雀は溜息を吐く。

 

「歩いていれば、1位になれませんー」

 

 この事態に周りがついていけずに固まり、走る必要がなくなってることにも優は気付いていない。仕方なく雲雀は優の腕を掴む。そして近くに居た実行委員らしき人物に声をかける。

 

「ねぇ、君。1位だよね?」

「は、はい!」

 

 何度か瞬きした後、優は笑った。

 

「まぁいっか。次はお楽しみのお弁当だしねー!」

 

 雲雀の記憶では昼まで後3種目は残っていたはずだ。それなのに優は鼻歌を歌いそうなほど上機嫌だ。随分と浮かれている。

 

「嬉しそうだね」

「はい! 運動会で誰かと一緒に食べるのが、小さい頃からの夢だったんです!」

 

 これが原因かと雲雀は溜息を吐く。恐らく優のいう友達のあの男と食べるのだろう、と。

 

「…………僕、お腹すいた」

「え? それじゃぁ雲雀先輩が私と一緒に食べてくれます?」

「いいよ」

「わかりました。では、今すぐ教室から取ってきますね!」

 

 優が走り出しそうと感じ、掴んでいた腕に力を軽く込める。いくらなんでも浮かれすぎだ。取りに行った後、どこに持ってくるつもりなのか。

 

「いい、取りに行かせるから」

「え? でも……」

「君はこっち」

 

 腕を引っ張れば大人しくついてきたことに安堵のため息が出る。さっさと移動させなければ、学校行事が再開しそうにない。

 

 それに……と優に視線を向ける。今は大丈夫かもしれないが、このまま放っておけば反動で熱が出そうである。

 

 どうして僕が……と思いながらも、ツナの顔が浮かぶと掴んでる腕を外す気にはならなかった。

 

 

 

 本部にある風紀委員のテントに入ると、優は落ち着き無く周りを見渡していた。風紀委員のテントは周りを遮断するように横幕が張ってあり、真ん中には応接にあるソファーと机が置いてあった。さらに空調が効いて涼しい。

 

「凄いですね!」

「……いいから座りなよ」

「はぁい」

 

 優の様子を見て食べ終わるまでは落ち着かないと判断し、風紀委員に指示を出す。待っている間もニコニコしている優。呆れながらも優の前に座り、雲雀はジッと観察する。その視線に気付いた優は雲雀にニパッと笑いかける。随分と子どもっぽい姿である。

 

 すると今度は真っ赤な顔になる。耳まで真っ赤だ。

 

 雲雀は僅かに眉をひそめる。熱が出たのかもしれない。

 

「あれ? 見間違い?」

 

 先程の熱はどこに行ったのかというぐらい優の顔色は元に戻ったので、雲雀は気にしないことにした。今日は浮かれているからずっと変なのだ、と。

 

 そうこうしている内に弁当が届き、うーん……と楽しそうに悩んでる優の前の机に置く。

 

「わぁ、ありがとうございます! 今日のお弁当は張り切ったので期待しても大丈夫ですよ!」

 

 弁当を広げ終わると1つ1つ楽しそうに説明しだすので、雲雀は言われたとおり口に運ぶ。一通り雲雀が食べたことで満足したらしく、優も食べ始めたのだった。

 

 

「委員長、少々問題が……」

 

 テントの外から草壁の声がし、優に目を向ける。食べ終わり、ハフゥと満足そうな息を出しているので多少は落ち着いたのだろう。だが、まだ休ませたほうがいい。

 

「……僕の許可無く、勝手に出て行かないように」

「えー」

「わかった?」

「……はぁい」

 

 渋々だったが、返事をしたので雲雀はテントを出る。テントの入り口で話を聞けば、B・C組の総大将がA組の総大将に襲われて倒れ、食中毒で何名かの生徒が倒れたという報告だった。

 

「A組の総大将って誰?」

「笹川了平ですが、今回の件は棒倒しの総大将という意味らしく、犯人は1年の沢田綱吉という男です」

 

 ピクリと反応し、呟く。

 

「……赤ん坊かな」

 

 裏でリボーンが操ってると感じた雲雀は、グランドへ向かうことにした。が、数歩進んだところで振り返り、テント前で警備している風紀委員の顔を見る。

 

「草壁、テントに誰も通さないで」

「……わかりました」

 

 本部へ向かうつもりだった草壁は、雲雀の一言で道を引き換えし、テントの前にいる風紀委員に持ち場をかわるように指示を出した。それを横目で確認してから雲雀はグランドへ向かったのだった。

 

 B・C組の総大将として雲雀が登場すると、A組の雰囲気が変わる。諦めたわけではない、闘志に火がついたのだ。殴り合いでは勝てないが、棒倒しなら雲雀を倒せる可能性がある。

 

「ひっ!」

 

 殺気だった気配にツナは軽く悲鳴をあげる。特に、優が雲雀に連れて行かれた後、ツナにどういうことかと詰め寄った人達がヤバイ。よく見れば、B・C組も殺気立ってるので、A組へ寝返る人もいるかもしれない。

 

 改めて優の人気の高さにツナは驚くのだった。

 

 

 

 

 棒倒しが終わり、雲雀は機嫌よくテントに戻っていた。

 

 ツナがすぐに落ちた時はつまらないと思ったが、その後乱戦になり、珍しく雲雀に向かってくる生徒が多数いたため、意気揚々と雲雀は咬み殺した。倒してもまたかかってくる人物もいたので、リボーンには会えなかったが、雲雀は大いに満足したのである。

 

 テントに入ると優の姿が見えず、雲雀は眉をひそめる。入る時に草壁からは報告を受けていない。草壁を咬み殺してこようかと思った時、優の靴が見えた。

 

 僅かに首をかしげ、ソファーに近づく。

 

「はぁ」

 

 雲雀は溜息を吐く、優がソファーで眠っていたからだ。ちょうど入り口から死角になり見えなかったのだ。

 

 優の体勢を見るからして、座ったまま眠ってしまい、そのまま倒れこんだようだ。恐らく浮かれすぎて疲れたのだろう。

 

 仕方なく雲雀は腕章をシャツに移し、学ランを優にかける。そして頬へと手を伸ばす。

 

「……熱はない」

 

 優の目がゆっくりと開く。雲雀の冷たい手が触れたからだろう。

 

「起きたようだね」

 

 雲雀は声をかけたが、優からの返事は無い。怪しんだ雲雀は優の顔を覗き込む。

 

 まだ目がボーっとしているので、完全に起きたわけじゃないようだ。起こすために雲雀は触れたままだった手で頬を撫でる。

 

 すると、ふわりと優が微笑み、目を閉じた。

 

「っ!」

 

 少し声がもれるほど雲雀は驚いた。一瞬油断したのは否定しない。だが、触れていた手を優に掴まれるほど油断したつもりはなかった。

 

「…………はぁ」

 

 仕方なく雲雀はその場に座り込む。大事そうに掴んでいる自身の手を雲雀から離すことはどうしても出来なかった。

 


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