剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか   作:REDOX

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二人目の師

 多くの冒険者達が活動を始める十時頃、私はある建物の前に立ち止まっていた。ヘスティア・ファミリアの拠点である廃教会の地下室がある廃墟群とはまた違うオラリオにありふれた廃れた地域にそれはあった。

 自分がいつも寝食をしているホームが少し埃っぽい地下室だと考えると、地上にあって確かな建造物として残っているその木造建築は立派に見えた。

 

「ふむ、ここですね」

 

 だからと言って、決して立派な建物ではない。雨風を凌ぐための屋根がちゃんとあるだけとも言えただろう。

 

「えぇと、ヘスティア様に教えてもらった挨拶は確か……たのもー!!」

 

 防音性が高いとは思えなかったが、近所迷惑にならない程度に大声を出す。近所がいるかどうかは私には判断できなかったが。

 数秒すると建物の中から慌ただしく建物の入り口へと数人が走ってくる足音が聞こえてきた。

 

(あれ……普通の出迎えと違いますね)

 

 普通、誰かが訪ねてきてもそこまで慌てる必要はない。客が人であれ神であれ、訪ねてきたのだから多少待たされるのはしょうが無いし相手の都合というものもある。しかし、今はどういった状況かは分からないが相手は現在進行形で慌てている。

 

「ま、待て桜花、いきなり殴ったりするなよ!?」

「しませんよ、そんなこと!」

 

 大きな足音と扉を開く音と共に数人の冒険者が現れた。統一して紫の服を着た数人と黒髪に白い服を着た人物だ。先頭は体格の良い男前の冒険者、続いて凛とした雰囲気を醸し出す少女、最後に前髪で目を隠している少女。

 

「えっと……おはようございます?」

「お、おはようございます」

「何丁寧に挨拶返してんだ!」

「はっ、そうでした!」

 

 凛とした少女は私が挨拶をすると返してくれた。それを男に注意されている所を見ると、見た目ほど凛とした人ではないのかもしれない。それより、私には挨拶を返してはいけない状況らしい。

 最後に出てきた白い服を着た男性が男の前に出てくる。目の前にして分かったが、男性ではなく男神だったようだ。そしてその目を見て一瞬で理解する。

 

 ―――この神こそが私が探していた方だ

 

「道場破りとはこのご時世珍しい。まずは名乗ったらどうだ?」

「ヘスティア・ファミリア所属、冒険者アゼル・バーナムです」

 

 お辞儀をして名前を名乗る。剣を交えずとも分かる。目の前の神は、正に私が欲していた神だ。その身から零れる雰囲気は、下界に降りて力を無くしていても尚分かる程に濃密だ。

 

「なっ」

「【剣鬼(クリュサオル)】だと」

「え、えぇ?」

 

 私の名前に驚く男と少女、そして最後の一人は困惑して私と男神を交互に見ている。

 

「ほう、大方場所はヘスティアに聞いたというところか」

「はい、叶えて欲しい願いがありタケミカヅチ・ファミリアの主神であるタケミカヅチ様に会いたく訪ねた次第です」

「願い?」

 

 私がお願いがあることがそれ程不思議なことだったのか、タケミカヅチ様はもちろんのこと後ろに控えている三人も首を傾げていた。

 

「はい、願い事です」

「ど、道場破りではなく?」

「道場破り? なんですか、それは」

「え、いや、だって『たのもー』って叫んでいたではないか」

「ああ、あれはヘスティア様に極東式の挨拶だと言われたので……えっと、違いましたか?」

「なるほどな……うむ、理解した。誤解して悪かったな」

 

 眉間を指で擦りながらタケミカヅチ様は私に一言謝った。他の三人もそれぞれほっとした表情や呆れた表情をしていた。状況に付いて行けていないのは私だけのようだ。

 

「誤解とは?」

「『たのもー』という挨拶、というか掛け声は道場破りの合図だ。まあ、簡単に言うと道場の看板を賭けて試合をしようという感じだ」

「ああ、なるほど。だからあんなに慌てて出てきたんですね。すみませんでした」

 

 道場破りの意味が分かってやっと理解が追いつく。ファミリアは道場ではないが、いや道場でない分私が言ったことに過敏に反応したのだろう。最悪の場合ファミリアとの敵対意志を示しているようなものだ。

 

「いや、いいさ。今度私からヘスティアに間違いを指摘しておいてやろう」

 

 タケミカヅチ様は気が利く神様であった。

 

「して、願い事とはなんだ?」

 

 その一言でずっと注目されていたが視線がより強まる。桜花と呼ばれていた男は睨むように、凛とした少女は興味の眼差しで、前髪を隠した少女は戸惑いの視線を送ってくる。そして、タケミカヅチ様は何かを見極めるような目を向けてきていた。

 

「はい、私の願いは一つ。タケミカヅチ様に私の剣の師になって欲しいのです」

 

 新たな段階へと進むために、私は一歩踏み出す。神すら斬る剣士を目指すというのなら、神に師事することになんら不思議はない。

 

 

■■■■

 

 

「ど、どうぞ、粗茶ですが」

「ありがとうございます千草さん」

 

 アゼルのお願いに驚いた一同は、とりあえず落ち着いて話をするためにタケミカヅチ・ファミリアのホームにアゼルを招いた。

 自己紹介を済ませ、タケミカヅチと向き合う形でアゼルが座っている。タケミカヅチの後ろには団長である桜花、団員の命が控えている。お茶を配り終わった千草も命の隣に座った。

 

「つまり、お前の願いは私に剣の師になってほしいということか?」

「はい」

「しかし、お前はかなり強いだろう?」

「私はまだまだですよ」

 

 少し前に刀を無理な使い方をして折ってしまったことを話し、まだまだ未熟であると自覚したことを語ったアゼルにタケミカヅチは悩んだ。

 

 タケミカヅチとは極東において武神や剣神、雷の神とまで言われる神だ。武技や剣技に関して言えば天界でもかなり上位に食い込むほどの実力者である。

 武人故に彼は人に自分の武を教えたくなるのだ。自らの培ってきた技の数々を伝授することにタケミカヅチは喜びを感じていた。

 何よりもその伝授した武で生還率を高められる。団員に稽古をつけることは彼にできる最大限の協力だ。アゼルはタケミカヅチ・ファミリアの団員ではないが、神友であるヘスティアの大切な眷属であるし、少しでも関わりを持った今となっては死んでほしくないと思っていた。極東の武神は根っからの善人なのであった。

 

 しかし、それでもタケミカヅチが悩んでいるのにはとある理由があった。

 

「お前はフレイヤと関わりがあるのか?」

「はい?」

 

 予想もしていなかった質問に対してアゼルは素っ頓狂な返事をしてしまった。自分の弟子入りとフレイヤに関係性など皆無のように思えたが、アゼルは他の神々が自分にちょっかいを出してこないことを思い出した。

 

(まさかフレイヤが何かしたのか……それくらいしか考えられないか)

「実はあの女神からこんなものが送られてきた。桜花、命、千草は少し外してくれ」

 

 そう言ってタケミカヅチは千草に指示して一枚の便箋を持ってこさせた。それを考え込んでいるアゼルに渡した。他の三人は言われた通り別室へと出て行った。

 アゼルがタケミカヅチを見て開けるよう催促したので、その便箋を開けて中身を見た。

 

「まあ、その反応を見るとこれの手紙(これ)は知らなかったようだな」

「ええ……違うのは届きましたが」

 

 そこに書かれていた内容を読んでアゼルは納得した。そもそも与えられた二つ名である【剣鬼】が自分に合いすぎていること、そしてフレイヤから届いた手紙について疑問があった。あの手紙は神会(デナトゥス)の最中、もしくは終わった直後にベルに渡ったはずだ。どのような二つ名になるかは命名式が終わるまで二つ名は分からないはずだが、手紙を読んですべてが仕組まれていたことだと理解した。

 

『アゼル・バーナムという冒険者の二つ名を【剣鬼】にしたいのだけど協力してもらえないかしら』

 

 その短い文章だけでフレイヤがアゼルを狙っているということが分かった。自分の眷属ならいざ知らず、他ファミリアの眷属の二つ名に固執することは通常ない。しかし、冒険者は男で、フレイヤは愛と美の女神だ。女神に見初められる冒険者という話もなくはない。

 

「あの女神が根回しをしてまで狙っている冒険者に、皆あまり関わりを持ちたくないのだ。下手に干渉して目を付けられたら色々恐ろしいからな」

「なるほど。だからあの神々は私を追ってこなかったのか」

 

 オラリオ最大派閥にして最強の片割れ、【猛者(王者)】という最強の冒険者の他にもオラリオ上位に食い込む冒険者を多数抱えているフレイヤ・ファミリアに敵対でもされたらオラリオでは生きていけない。

 本当はフレイヤに嫌われたら二度と相手をしてもらえないのが嫌だという理由が男神達にはあったということをアゼルが知ることはない。

 

「で、だ。俺も藪をつついて蛇に会いたくはないんだ」

「渋っている理由は分かりました。そうですね……」

 

 いつものアゼルであれば、知ったことかと斬り捨てるところだが、今は相手に師事を求めている、その上に目の前の神以上の剣士を探すことはできないだろう。まずお願いを受け入れて貰えるかは決まっていないが、不安要素があるのであれば取り除かなければ話が進まない。

 そう結論付けたアゼルは話し始めた。

 

「大丈夫だと思います。フレイヤは私が強くなることを喜ぶでしょうし、タケミカヅチ様が私を勧誘するとは思えませんし」

「まあ、神友の眷属を引き抜く気は更々ないな」

「もし何か問題が起こった時は、私がなんとかします」

 

 つまるところフレイヤが気にしているのはアゼルが誰かの物になることだ。タケミカヅチに剣を習い師と呼んだとしても、それはそこまでの関係でしかない。仮にフレイヤが気にしたとしても、常に傍に仕えているオッタルが助言をするだろう、これもアゼルが強くなるために必要なことだと。

 

「ふむ……そうか」

「で、どうでしょう? 対価が欲しいというのなら、私の出来る限りのことは差し出すつもりです」

「ん? いや、教えることは吝かではないが……そうだな、どれくらい強いのか知りたいな」

「つまり、実力を示せと?」

「ああ。付いて来い」

 

 丁度お茶を飲み終わったタケミカヅチは立ち上がりアゼルを連れてホームの裏にある更地へと連れて行った。そこは普段タケミカヅチ・ファミリアの面々が修行をする場所だ。ところどころ地面に足跡がくっきり残っており、普段から鍛錬を怠っていないことが伺える。

 

「ふむ、そうだな。桜花、お前がやれ」

「はい!」

「ほれ、お前も」

「はい」

 

 タケミカヅチは外に出る際再び付いてきていた桜花とアゼルにそれぞれ木刀を持たせ向かい合うように指示を出す。それに従い二人は5M(メドル)ほどの距離を空けて向き合う。

 両者正眼の構えを取る。本来であればアゼルは納刀状態から始めたいところだったが、鞘がないので断念した。

 

「お互い怪我のないように。しかし、手を抜くことは許さない。分かったか?」

 

 構えを取った二人は声ではなく頷いて答えた。それを確認したタケミカヅチはゆっくりと手を上げもう一度二人を一瞥した。

 いつもより若干殺気立っている桜花は、しかし構えに隙は見当たらない。そもそも無茶をするような戦士ではなく、基本を押さえ堅実に確実に攻めていくのが桜花のスタイルだ。多少の感情の揺らぎで積み重ねてきた技術(もの)は揺るがなかった。

 相対するアゼルは少しばかり悩んでいた。手を抜かないということがどこまでの範疇を指しているのか、分かっていないのだ。今まで戦ってきた冒険者は全員が格上の相手であったから遠慮無く本気を出して向かっていった。しかし、今目の前にいる桜花を見てアゼルは脅威を感じなかった。しかし、当然のことだが脅威を感じないから弱いと思ってはいない。

 己を弱く見せて隙を突く戦闘方法をする戦士もいる。何よりも剣士として弱いから手を抜くというのは教えに反する。

 

 故に彼は真摯に、誠実に、本気を出すことにした。

 

「はじめッ!!」

 

 その号令と共に己の中に眠る存在を呼び覚ます。自分の奥底、深淵に眠るもう一人の自分を引きずり上げていく。

 

――ッ!

 

 しかし、それは途中で止まってしまった。前回より格段に弱った力が身体を巡り始める。

 

「ひっ」

「ッく」

「……」

 

 しかし、それでもアゼルの纏う空気は一変した。圧力とも言える程の存在感がアゼルを中心に風となって辺りに吹いた。その風は酷く冷たく、鋭く、僅かな血の匂いを香らせていた。

 

「ッハアアアッッ!!!」

 

 しかし、戦闘態勢に入っていた桜花はその変化を感じても動じず、鋭い踏み込みと共に斬りかかった。戦っている最中に相手の変化にいちいち反応するのは愚かなことだ。

 目指すのは明鏡止水の世界。一点の曇りのない、一つの波もない、穏やかな心を持って戦いに望むことこそが必要とされる。荒々しく吠えても、傷を負い体勢を崩しても、還るべき状態だ。

 

 しかし、それはアゼルも同じことであった。力を引き出せないことに驚いたが、それも一瞬のことだ。鋭い一歩と共に弛まぬ努力を証明するような綺麗な太刀筋で斬りかかってくる桜花を見て、そして理解した。

 

――弱くはない

 

 それは純然たる事実であった。武に対する姿勢は、踏み込み一歩、太刀筋一つ見れば分かる。

 

――弱くはないが

 

 アゼルが思い浮かべたのはオラリオ最強の女剣士アイズ、加減を知らないアマゾネスの姉の方、ロキ・ファミリア団長であるフィン、そしてオラリオ最強の冒険者であるオッタルだった。

 

――遅い

 

 そんな面々と比べられるということの方が酷なことだろう。しかし、それがアゼルの歩んできた道であり、切り結んできた相手なのだ。

 

「セエエエェッッ!!」

 

 踏み込んだ速度と鍛錬と冒険によって培ってきた膂力で放たれた桜花の袈裟斬りは、技術としてはかなりのものであった。木刀が風を斬る音は澄んでいて、振るわれた腕に迷いはなかった。

 

「――な」

 

 気が付いた時には勝負は決していた。桜花に慢心はなかった。相手は剣の字を神々から授かった大型新人で、立ち姿も様になっていた。そのことをちゃんと理解し、その上で本気を出した。

 しかし、それでも何が起こったのか彼には分からなかった。

 

 からん、という乾いた音と共に桜花の木刀の刃部分が少し離れた地面へと落ちた。柄は未だに桜花の手に握られていて、木刀同士がぶつかって粉砕した音もなかった。

 

 そもそも切り結んだ音がしなかった。

 

「勝負あり、ですね」

 

 声が聞こえて斜め後ろに振り向くとアゼルが切っ先を自身に向けていることを漸く桜花は理解した。

 

「……参った」

 

 その声は自然と桜花の口から発せられた。圧倒的という言葉さえ浮かばないほど、あっさりと勝負は終わってしまった。いくら思い返してもいつアゼルが剣を振り、後ろに回ったのか桜花には分からなかった。

 そもそも木刀で木刀を斬ることは不可能だろう、と思いながらお互い向い合って一礼してタケミカヅチのもとへと戻った。

 

 

 完敗だったが、桜花は不思議と嫌な気持ちはなかった。むしろすっきりしたと表現するべきか、上には上がいると思い知らされ、しかもその人物はすぐ傍にいるのだ。武術の稽古は基本的に教わり身に付けるか盗んで身に付けるかだ。

 桜花は俄然アゼルの稽古を己の主神が受けてくれることに賛成になっていた。

 

「ハッ、堪んねえぜ」

 

 タケミカヅチ・ファミリアの一員である前に、冒険者である前に、剣士である前に、カシマ・桜花は男だった。男として一度の敗北は歩みを止める理由になどならなかった。

 

 

■■■■

 

 

「ど、どのような魔法を使ったのですか!?」

「え、いや、魔法は使ってませんよ」

 

 戦闘が終わり桜花さんと二人でタケミカヅチ様のところに戻ると直ぐさま命さんが私に質問を投げかけた。手には桜花さんが持っていた木刀の切れ端が握られていた。

 

「しかし、ではどのようにして木刀で木刀を斬るのですか!」

「うーん……気合?」

「き、気合!? それは真ですか!?」

「こら、そう詮索するな」

 

 私が答えを迷っていると桜花さんが助け舟を出してくれた。彼自身も木刀の切れ端の断面を見て首を傾げているが、私に聞くつもりはないらしい。

 【ステイタス】の詮索はマナー違反であるからだろう。不可能を可能とするのは、この下界では【神の恩恵(ファルナ)】の他にない。

 

「うっ、すみません」

「気にしてませんよ」

 

 桜花さんに注意されしょんぼりする命さんを一瞥してからタケミカヅチ様を見る。彼はじっと私を見ていた。

 

「それで、どうでしょうか?」

「……一つ聞くが、()()がなんだったのか説明できるか?」

「あれは……あれが()ですよ」

「――――そうか」

 

 一度目を閉じてタケミカヅチ様は何事か考え始めた。ここで断られたら、次はヘスティア様に教えてもらった土下座をするつもりだったが、それは杞憂に終わった。

 

「いいだろう、明日からここで稽古をつけてやる」

「よろしくお願いします」

 

 それから再びホームの中へと連れて行かれ、また千草さんの淹れたお茶を飲みながら予定を決めることにした。

 

「俺はバイトがあるから、午後のシフトが入っていない日ならいつでも良い」

「バイトですか?」

「お前のところのヘスティアもしてるだろ」

「してますね……私、月謝払いますね」

「……助かる」

 

 その後、取り敢えず明日から三日間は稽古を付けてもらえることになった。やけに苦しそうな声で感謝したタケミカヅチ様を見て、今日斬ってしまった木刀も弁償することにした。

 

 

■■■■

 

 

 それはあるいは運命だったのかもしれない。

 

(あの雰囲気は)

 

 既に帰っていったアゼルが桜花と立ち会った時の事をタケミカヅチは思い出していた。ホームの居間で一人座りながら思いふける。

 

(あの目は)

 

 神である自分の心が震えたことに、彼は恐怖とともに高揚感を覚えていた。あの瞬間、アゼルから吹き出した存在感をその昔どこかで感じたことがあった気がしたのだ。桜花を静かに見据えていた目を昔どこかで眺めた気がしたのだ。

 

――あれは物の怪の目か

 

 一人でいる寂しさや悲しさを捨て、ただ剣を振るうことに固執したあの眼差しを彼は知っている。

 

――あるいは剣士の目か

 

 しかし、その佇まいから態度まで、どこを取ってもアゼルは剣士であった。どこからどう見ても狂っている様子はなく、桜花や他の冒険者と同じように何かを目指す姿勢だった。

 

「面白い」

 

 あの時震えた理由を、高揚した原因を知りたくなった。それと同時にアゼル・バーナムという剣士のことも知りたくなった。どこでどのような修練を積めばあそこまで研ぎ澄まされた剣が振るえるのか。

 木刀で木刀を真剣で斬るように、否、真剣より遥かに鋭く斬るような剣術をどのようにして扱っているのか探りたくなった。

 

「剣神である俺が知らない剣があるとはな」

 

 剣神故に剣で遅れを取ることはない、そのはずである。しかし、あの時桜花ではなく自身が相対していたら果たして勝てただろうか。冒険者である前にアゼルは剣士で、神といえども一般人と大差ないタケミカヅチでは相手にならないだろう。

 しかし、アゼルは剣士であるが故に公平に冒険者としての【ステイタス】を抑えて相対しただろう。果たして、その時タケミカヅチは切り結ぶことができただろうかと思った。

 

「くっ、くっくっくっく……勝負ってのはそうでないとな」

 

 僅かに腕が疼いたのをタケミカヅチは自覚した。その久方ぶりの感覚を味わうように静かに目を閉じて瞑想を始めた。




閲覧ありがとうございます。
感想や指摘等あったら気軽に言ってください。

一つ原作との違い。
細かいところですが、原作ではタケミカヅチ・ファミリアはホームを持たず共同住宅に住んでいます。この小説ではホームがあることにしておいてください……そうしないと稽古場がないんだもの。

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