剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか   作:REDOX

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少女の眼差し

 朝霧が辺りに漂う早朝、私は訓練用の木刀を振るっていた。この身に染みこんだ老師に習った最も基本となる型を延々と振るう。刀を振るう前、自分の中に眠っていた願いを自覚する前、ただ楽しくて剣を振るっていた私の原点を噛み締めながら剣を振るう。

 完璧には程遠く、上達すれば上達するほどむしろ細かい修正点が多くできてくる。所詮素振りではあるが、それ一つでも完璧に仕上げることがどれほど苦行かは十八年の人生で痛いほど理解していた。

 故に老師を敬うのは当然のことだ。

 

 一度見せてもらった老師の本気の素振りは正に完璧だった。呼吸を忘れるほどに完成されていて、まるで神の御業を見ているようですらあった。

 

「ふぅ」

 

 リューさんと話をしたのは数時間前のことだ。それから心がざわつくのを抑えるために夜通し素振りをしていた。自分の生き様を人に語ったことは思い返してみればなんとなく恥ずかしい記憶だ。その上無遠慮に私を見るあの女神の視線が鬱陶しく、少し心がささくれだった。

 

 ひんやりとした朝の空気が汗をかいた身体を冷やしていく。剣を振るう度に余計な考えは頭から消えていき、どのようにすればより良く剣を振れるかという思考だけが私の中を駆け巡った。景色も消え、肌を流れる汗の一滴一滴が分かるほど集中し、身体を動かしているだけで私はいつもの自分に戻った。

 

「一度公衆浴場にでも行きますか」

 

 この後は鈴音さんに会いに行く予定だ。流石に女性に会いに行くのに汗臭いのは自分も相手も嫌な思いをするだけだ。

 

「んー……いい気分です」

 

 一度大きく伸びをしてからストレッチをして身体を落ち着かせていく。死の淵を彷徨うような苛烈な戦闘もいいが、落ち着いて動きの一つ一つを吟味しながら剣を振るうのもやはり良い。

 僅かな痛みを感じて手を見てみるとまめが潰れて血が出ていた。試しに舐めてみたが、傷は治らなかった。

 

(他人の血じゃないと意味がないのか……まあ当然と言えば当然ですか)

 

 自分の体質の新たな一面を見つけた朝だった。

 

 

 

 

 

「いるといいのですが」

 

 ヘファイストス・ファミリアの共同住宅へと足を運び、鈴音の部屋の前で立ち止まる。一度部屋ではなく工房の方にいたこともあったし、もしかしたら今日もそうかもしれない。

 まだ朝の時間帯とは言え熱心な鍛冶師になればなるほど工房に篭りがちだと聞く。

 

「鈴音」

 

 ノックをしながら名前を呼ぶが、中から返事は返ってこない。試しにもう何度かノックをしながら呼びかけるが一向に返事は返ってこなかった。

 

「ふむ、やはり工房の方ですかね」

 

 そう言って私が踵を返して工房に向かおうとした時部屋の中から小さな声が聞こえた。ドアの向こうに気配が一つあった。

 

「ぁい」

 

 普段の鈴音より幾分か低く、覇気のない声ははっきりと寝起きだということが理解できた。起こしてしまったことを少し申し訳なく思いながらも、起きてしまったのなら完全に目を醒まさせようと思った。

 

「鈴音、アゼルです」

「……ちょ、ちょっと待ってて!!」

 

 それだけ言って鈴音はドアから離れて身支度を始めたようだ。中から一度だけ盛大に鈴音が転んだ音がした時は彼女には悪いが笑ってしまった。

 私を受け入れるためにドアが開いたのは十分ほど経ってからだった。

 

「お、おはよう」

「おはようございます、転んだようですが大丈夫でしたか?」

「うぅ、聞こえてたの……?」

「ばっちり」

 

 恥ずかしがりながら鈴音は私を部屋へと招き入れた。前回来た時と変わらずずらりと並ぶ刀剣類は数を増やしているように思えた。

 前を歩く鈴音を見る。彼女の故郷である極東の服装である着物に身を包んだ彼女の足運びや重心の移動が前回会った時と明らかに違っていた。足がしっかり地に付いていて、戦いながら姿勢を保てるように最適化された動きだ。

 

「何かありました?」

「え?」

「歩き方、以前より良くなってますよ」

「わ、分かるの!?」

「分かりますよ。鈴音は明らかに良くなってますからね」

「そっか……えへへ」

 

 頬を染めながら照れる鈴音はまた転びかけるが今度はなんとか足を前に出して体勢を整えた。その様はとても自然で、先程転んだのは相当焦っていたことが分かった。

 

「それで、今日はどんな用事で来たの?」

「あぁ……本当に心苦しいのですが」

 

 鈴音に勧められて椅子に座り、鈴音は自分のベッドの端に座った。笑みを浮かべながら質問する彼女を見て更に心が痛んだ。しかし、言い訳をした所で結果は変わらないし後で見せるのと今見せるのとで変わるとしたら私の苦しみが後の方が増すことだけだろう。

 私は持ってきた袋からホトトギスを取り出した。

 

「ホトトギスを折ってしまいました」

「…………え?」

 

 折れた刃を鞘から抜き、布に包んでいたもう片方の折れた刃を机の上に乗せる。固まってしまった鈴音も私の手を追ってホトトギスの有り様を見た。最初は何の反応も示さなかったが、数秒経つと目に大粒の涙を浮かべ始めた。

 

「お、折れちゃった、の?」

「はい、この通りです……私が未熟なばかりに。だから、その、泣かないでください」

「でも、でも!」

 

 今にも泣き出しそうな鈴音の手を握る。折れた事を告げれば彼女が自分を責めるだろうことは分かっていた。否、鍛冶師であれば自分の武器が折れたのを人のせいにするのは二流も良いところだろう。

 だが、ホトトギスにはなんの問題もなかった。むしろ、折れる要素など何一つなかったのだ。今なら分かるが思念を宿していたホトトギスは吸血能力で刃の強度と状態を最良に保ち続けていた。これは、剣として破格の能力だろう。

 

「自分を責めないでください。今回のことは本当に私が原因です。むしろホトトギスがなければ私は死んでいました」

 

 ホトトギスがなければ私はオッタルと渡り合うことはできなかっただろう。ホトトギスがいなければ私は瀕死の怪我を治せずに死んでいただろう。

 そして、何よりもホトトギスがなければ私は己の目指すべき場所に気付けなかっただろう。

 

「だから言わせてください」

 

 いくら言っても意味がないと知りながらも、言葉にしなければ伝わらないことも知っている。その言葉は本心のほんの僅かな一部分しか伝えられなくとも、私は彼女に知って欲しかった。

 

「ありがとうございます鈴音、貴方の武器は私の命を救ってくれました。私の目指すべき道を照らしてくれました」

「そんなこと、言わないで……」

 

 ぽたぽたと涙が滴る。私がどれ程気休めを言っても彼女の心は晴れない。私に剣士の矜持があるように、彼女には鍛冶師の矜持がある。私がどれほど言葉を並べても、慰めにはならないだろう。

 

「いえ、言います。鈴音が自分を許せるように、私は感謝します。だから泣かないでください。私は泣いてる鈴音なんて見たくない」

「……」

「大丈夫です、刀に宿っていた願いは私が受け取りました」

 

 握った彼女の手を自分の胸、心臓のある辺りに当てる。すべてを斬り裂いてという鈴音の願いもホトトギスと一緒に宿ったのだ。私に触れて、私の根源である【剣】を感じ取ることのできた鈴音さんなら分かるだろう。

 この身に流れる血の意味が、この心臓が叫び続けるその願いが、彼女になら理解できるだろう。ホトトギスを打ち、現世へと復活させた彼女なら。

 

「え……これ」

「願いは私の心臓に宿りました」

「ま、待って。だってこの感じ」

 

 心臓の鼓動に触れそれが分かったのか、鈴音は驚愕の表情で私の顔を見た。そもそもホトトギスという思念体は鈴音が刀を打つ際に使用した結晶から刃へと宿ったものだ。そしてその後、フレイヤの血によってできた核を斬り裂き思念体は私に宿った。

 彼女が、それを分からないはずがない。

 

「封印結晶と同じ?」

「彼等の意志は私が引き継いだ、鈴音の願いもちゃんと私に届いています」

「ど、どうやって」

 

 彼女の目に私の何が映ったのか分からなかったが、彼女は確かにその一瞬恐怖を抱いていた。しかし、それも仕様がないことだろう。私は人でなくなってしまったのだから。

 

「何か見えましたか?」

「黒い塊が、たくさん」

 

 霊や思念体に関しては鈴音の方が専門家である。退魔の一族として受け継がれる先天的魔法【封印結晶】の副次効果によって霊や思念体が見える鈴音が見たその影はきっと私の身から滲み出る怨念だろう。

 私はホトトギスとなったが、その力は未だに私を食い殺そうとしている。幾百幾千の魂が私の影の中に潜んでいる。すなわち私は人間であると同時に、姿形を得た思念体の塊だ。

 

「ほ、本当に宿らせてるの?」

「いえ、私は怪異に()()()んです」

 

 本来存在し得ない思念を身体に宿しているのではなく、その思念を取り込んで己の一部にしたのだ。渦巻く彼等の絶望も、底なしの彼等の恐怖も私の一部となった。

 

「そっか……ふふ」

「……?」

「手、握っていい?」

「え、ええ、どうぞ」

 

 恐怖を抱いていたのも数秒、一転して鈴音は嬉しそうに私の手を両手で握ってその感触を確かめていた。その様子は会った当時と変わらず、鋭い光を放つ刃を愛でている彼女のままだった。

 

「その、怖くはないんですか?」

 

 リューさんには明かしたことだが、彼女は思念体というものが何なのか分かっていない。しかし、目の前にいる鈴音は私より長年それに付き添って生きてきたのだ。それこそホトトギスのような怪異がどのような脅威を振るってきたか彼女は知っているはずだ。

 

「うん、だってアゼルはアゼルでしょ?」

「それはそうですけど」

「私は、それで十分だよ……」

 

 彼女の信頼がどこから来ているのか分からなかったが、その一言は何故か私を安心させた。思い返してみれば、最後に見たホトトギスの姿はフレイヤと鈴音さんが合わさった姿だったのかもしれない。少しタレ目なところが似ている。

 

「えへへ、前より刃っぽい」

「刃っぽいって……人を形容する言葉じゃないですよね」

 

 私の手を触りながら率直な感想を言う鈴音に呆れながら、なんとか泣かせずに済んだことを安堵した。涙は苦手だ。自分が涙を流さないせいだろう、その行為がとても大切に思えてならないのだ。人の涙を見る度にそんな大切な行為を私はできないのだと、思い知らされるのだ。

 

 それから私は彼女にホトトギスの偉業を話した。ゴライアスを倒したこと、そしてオラリオ最強の冒険者と死闘を繰り広げたこと。刃に宿っていた意志がフレイヤによって形成されていたことは言わないでおいた。彼女にとってホトトギスは彼女の打った武器であり、フレイヤの血を吸っていたことは鈴音にとっては彼女の純粋な願いを捻じ曲げた出来事だ。

 美しい思い出というのは美しいままでいい。美を司る女神であるフレイヤが思い出を汚すというのはどこか皮肉めいているようにも思えた。

 

 鈴音は私の語った出来事を驚き、喜びながら聞いた。表情のどこかにまだ悲しみが見えたが、最後は笑っていた。激戦の果てに傷付いたホトトギスの刃を慈しむように撫でながら、その傷一つ一つの記憶を覗いているように見えた。

 傷付いてなお、折れてなおその刃は美しい。

 

――良く頑張ったね

 

 小さくそう呟いた彼女は最後に一滴の涙を流した。

 

 

「でも、その、どうしよう……あれ以上の刀は今の私じゃ」

 

 鈴音は戸惑いながら言い出した。彼女は刀鍛冶としての腕は一流だが、オラリオの鍛冶師としては平凡だ。【神の恩恵(ファルナ)】によってランクアップした時に獲得できる鍛冶のアビリティを得て初めて鍛冶師は武器に特別な効果を持たせることができる。鈴音はそれを封印結晶を使いレベル1の頃からできていたが、ホトトギスの封印されていた結晶より強力な物を所持していないのだろう。

 

「やっぱり、私じゃなくて、もっとレベルの高い人に頼んだ方が」

「それは嫌です」

「い、嫌?」

「私は貴方に打って欲しい」

「はぅ」

 

 剣とは鍛冶師の血と汗、そして想いの結晶だ。同じ物でも込められた想いで振るった感触は変わるし、反射する光もまったく違う。鈴音と過ごしてきた時間は確かに短いかもしれない、しかし彼女の打ったホトトギスで何かを斬る度に私は鈴音の込めた想いを感じる。

 彼女は私にすべてを斬り裂けと言ってくれる。

 

「貴方の打った物を振るいたい。どんな高名な鍛冶師の打った業物より、平凡でもいい、貴方の打った刀を使いたい」

「ほ、本当?」

「ええ。もちろん鈴音が嫌というのなら、私も他の鍛冶師を探すことになりますが」

「ううん、大丈夫! 嫌じゃない、全然嫌じゃない! 私打つよ!」

 

 私が他の鍛冶師を探すと言った途端鈴音はいつもの彼女からは想像できない速度で反応した。私の手を離してどこから取り出したのか、メモ帳を開いて鉛筆も用意していた。

 

「次はどんなのにする!?」

「まあまあ、そう急がなくても」

「ううん、すぐ取り掛かる。武器がないと困るでしょう?」

「困るには困りますが、少しだけダンジョンから離れようと思ってるので大した問題ではないですよ。それに鈴音の都合もあるでしょうし」

「私の事は気にしないで」

 

 鈴音の表情は真剣そのものだった。私が何を言おうとその心は曲がらないと思わせる程、彼女の瞳の中には何かが燃えていた。やはり、彼女とはどこか馬が合う。目指すものは全く違うが、そこに向かっていく姿勢はどこか私と似通っている。

 

「分かりました、じゃあ私の要望を伝えますね」

「うん! なんでも言って」

 

 だから私も彼女の願いに応えようと思った。彼女が今すぐ打ちたいと言うのなら、彼女の心がそうさせているのなら、私が口を挟むことではない。彼女が私の背中を押してくれるように、私も彼女の背中を押してやろう。

 

 

 鈴音と話しながらどのような刀に仕上げるか考え終わると時間は既に午後となっていた。お互い熱中すると時間を忘れてしまうようだ。

 

「えっと、じゃあ、ホトトギスは預かるね」

「はい、お願いします」

 

 新しい刀とは別に、鈴音はホトトギスを短刀に作りなおすと言ってくれた。作りなおすと言っても、折れた切っ先の方を使い茎を削りだし柄を付けるという作業らしい。もう刀としては使えないが、短刀として持っていて欲しいと言われた。

 

「あのね、アゼル」

「はい」

「私、頑張るから」

 

 折れてしまったホトトギスを両手で握りしめながら、彼女はそう言った。

 その一言はこれから行われる鍛冶だけを指して言っている言葉ではないと、私には分かった。その姿は必死で、愚かなまでに真っ直ぐで、誰にも譲らないと身体で表現していた。彼女の双眸が何を目指しているのか、私には分からない。彼女の瞳に映るのはそれを覗き込む私だけだ。

 

「だから、待ってて。すぐに追いついてみせるから」

「……ええ」

 

 私は手を伸ばして彼女の頭を撫でた。私に追いつくということが、どれほど困難なことか彼女は分かってはいないだろう。人でなくなってしまった私では、そもそも住む世界が違うかもしれない。それでも、私は彼女を待ってみようと思う。

 彼女が何に成り果てるのか、見てみたいと思った。

 

「待ってますよ、鈴音」

 

 それだけ言って私は部屋を後にした。もうこれ以上言葉は不要だろう。後はお互い、行動で示すのみだ。鈴音はまた一つ鍛冶師として高みに登るだろう、彼女の心がそうさせる。ならば、私も己の理想に手を伸ばそう。

 剣を振るうその先に私の生きる意味があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 そもそもホトトギスを折ってしまった落ち度は完全に私にある。剣とは消耗品であるのは当然のことなのだが、流石に受け取ってから数週間で折ってしまうのは剣士としての恥でしかない。ホトトギスの出来栄えが素晴らしかっただけに、私の技量不足が浮き彫りになる。

 

「それで、ミィシャさん」

「うん、どうしたのかな?」

 

 所変わってギルド本部の受付。私は自分の担当アドバイザーとなったミィシャさんに話を聞きに来ていた。前の冒険者が用事を済ませて私の番になるとミィシャさんは身構えた。ランクアップした時の影響で警戒しているようだ。

 

「そんな身構えないでくださいよ。今日は単なる相談事をしに来ただけです」

「ほ、本当? また私が卒倒するような事してない?」

 

 したと言えばしたが、それは別段報告すべきことではないので否定しておいた。オッタルとの戦闘は私にとっては冒険ではあったが、冒険者的な意味合いでの冒険ではないので報告する必要はない。

 

「本当ですよ。あ、できれば個室でお願いします」

「うん、それがいい」

 

 ロビーで大声出したら問題だからね、とミィシャさんは付け加えた。彼女の中で自分がどういった存在なのか少し気になったが聞かないでおいた。確かに常識破りで常識知らずの行動をしている自覚はあった。

 

 個室に移動して机に向かい合って座る。ミィシャさんはメモ用紙を広げて私に話し始めるよう促した。

 

「ちょっと待って下さい、なんでメモするんですか?」

「上からの通達だよ。アゼル君に関する情報はどんな細かいことでも書き留めて報告するようにって」

「どんな細かいことでもって……変じゃないですか?」

「変だけど、仕事だし……文句があるなら私じゃなくてもっと上の人に言ってね」

「別に文句はないですけど」

 

 ただ何故ギルドの上層部が私の情報を事細かく知りたいのかが気になっただけだ。異例のランクアップを遂げた冒険者ではあるが、ギルドの上層部に注目されるような心当たりはない。別に何もやましいことはしていないし関わってもいない。

 

「それだけ注目されてるってことだよ、自覚してよねー」

「自覚、ねー……そう言えば、神々が私のことは追いかけてこないんですけど何か心当たりありますか?」

「えぇ? うーん……アゼル君が稀に見る問題児だからとか?」

「ミィシャさんが私のことをどう思っているのかよく分かりました」

「冗談! いや、嘘だから!? 普通だったらアゼル君みたいなビッグルーキーは追い掛け回されるはずなんだけどなー……」

 

 どうやら私より冒険者事情に詳しいギルド受付嬢であるミィシャさんも知らないようだ。未だ神斬りもしていない私を神々が恐れる理由はないので、もしかしたら彼等が私を避けている理由は私以外にあるのかもしれない。

 

「あ、でもそういうことは私達じゃなくて本人達(神々)に聞けば分かるんじゃない?」

「それもそうですね。別にそれほど知りたいというわけでもないですけど」

「そうなんだ……で、相談事ってそれ?」

「いえいえ、相談事というのはですね」

 

 どう切り出そうかと一瞬思考を巡らせる。

 事細かく事情を説明してもいいが、正直過程を説明したところで結果はあまり変わらないように思えるし、そも過程はそこまで大切ではないように思えた。

 私は目の前に座るあどけなさの残る顔を少し強張らせながらで身構えるミィシャさんを見る。恐らく彼女なら、このオラリオについて延いてはこのオラリオにいる人々や神々について自然と詳しくなる職業に就いている彼女なら私の望む答えを持っている。

 私は、単刀直入に切り出すことにした。

 

「師を探しているんです」

 

 後に私の第二の師となったその神は語った――この出会いは運命であったと。

 




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