剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか   作:REDOX

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ええ、久しぶりです。ゆっくり更新していくとか言いながら一ヶ月たってました。はい、すみません。考えていた展開が少し納得いかなかったので、かなり書き直したのも時間がかかりました。

まあ、色々言いましたが、楽しんで読んでいただけると幸いです。


滴る血より生まれしモノ
奇跡を追い求めて


 夢を見ていた。しかし、不思議な事にそれは私の中にあるはずのない記憶から形成された夢だった。

 

 ある男が刀を振るう。ある女が刀を振るう。ある子供が、老人が、貴人が、浮浪人が刀を振るう光景を延々と夢に見ていた。

 刀が振るわれる度に何かが斬られていく。腕が、脚が、首が、銀の閃きが瞬く毎に血を吹き出しながら誰かが倒れていく様を延々と夢に見ていた。

 何度も何度も、私はただ無感情にその光景を眺めていた。

 

 そこに恐怖などなく、ましてや嫌悪感もなかった。ただ、その振るわれる刀が美しく見惚れていた。誰が振るおうともその剣閃は揺らぐことなく、何を斬ろうとその勢いは衰えない。剣にして剣士、その二つの要素を同時に持つその刀を私は知っていた。

 

「花椿?」

 

 形は違えど、その刃から放たれる剣気とでも言うべき雰囲気が私にその事実を伝えた。その名前を呼んだ途端、目の前に流れていた記憶がすべて消え、新たな場面へと飛んだ。

 自分の周りに人々が群がってくる。ひたひたと素足で地面を歩く音が辺りをひしめき、暗闇の中から今まで夢に見ていた人物たちが浮き上がってくる。

 

『捧げて』

 

 一歩一歩私を囲うように歩みを進める彼等はまさしく死人のようだった。その顔からは生気がまったく感じられず、ただ一つの意志に従っている人形のように見えた。

 

『すべてを捧げて』

 

 彼等の手には夢と変わらず一本の刀が手に握られている。それを私に向かって構えるかと思いきや、彼等はその刃を自分の首へと押し当て始めた。

 それは異様な光景だった。見渡す限り幽鬼のような人型が自らの首を刀で斬ろうとしている。

 

『刃に、すべてを捧げて』

 

 次の瞬間、彼等は一斉にその刀を自らの首へと沈み込ませた。頸動脈が裂かれ血を吹き出しながら彼等は一人一人地面へと倒れていく。そして、最後に一人だけがそこに残った。

 

「……」

 

 気が付くと自分の手にも刀が握られていた。鈴音が私のために打った、花椿という剣の化生を内に閉じ込めた一本の刀、ホトトギスだ。まだ持ってそう長くは経っていないのに、まるで産まれた頃から握ってきたかのように手に馴染むその感触を私は忘れるわけがなかった。

 

「さあ、捧げて」

 

 後ろから突然衝撃を感じ、振り返ろうとするがそうする前に抱きつかれる。その人物は巧みに腕を使い私の腕に絡めながらホトトギスの刃を私の首へと持ってきた。

 不思議なことに抵抗することができなかった。いや、抵抗する気さえ起きていなかった。

 

「そう、そのまま」

 

 徐々に刃が首元へと近付いてくるのが分かった。底冷えするするほど冷たそうに鈍色の光を放つ刃が私の肌に触れる。しかし、そこで止められる。

 

「ねえ、アゼル。もう一度、もう一度私の名前を呼んで」

「……花椿」

「ふふ、違う。私の名前はホトトギス。生みの親から授かった、大切な名前」

 

 その瞬間、手に持った柄も首に当てられた刃も燃え上がるような熱さを発した。その灼熱は私の手を首を伝って私の中へ、そして中心へと突き進む。余りにも懐かしく、親しみすぎた感覚と共に、私の奥底へと斬りこんでくる。

 

「アゼル、貴方こそが私達の担い手に相応しい」

 

 じわじわと押し寄せてくる熱と、首を斬ろうとする刃の鋭さを感じながらも、彼女の言葉からは耳が離せなかった。

 

「だから私達の」

 

 その次の言葉を聞いてしまったら何かが終わってしまう、そう思えて仕方なかった。それでも、逆らう気が起きなかった。そうして刃は首へと沈んでいく、そう思った瞬間。

 

 

 

『アゼル君!』

 

 私はヘスティア様の声で意識を一瞬で覚醒させた。

 

「大丈夫かい!?」

「……」

「アゼル君?」

「え、ええ。起きました」

 

 心配そうに私の顔を覗きこむヘスティア様を目の前に、私は数瞬前まで見ていた夢のことを考えていた。あの声と雰囲気を私は知っているような気がしたのだ。しかし、思い出そうにも何故かぼやぼやと感覚が散らばっていく。

 

「酷くうなされていたけど大丈夫かい? 怖い夢でも見たのかい?」

「怖い、かは分かりませんが夢は見ていた……気がします」

「まあ、夢ってそういうものだけどさ」

 

 ヘスティア様は私が夢を見たことを思い出せないことに同意を示してくれた。しかし、私が疑問に思っていたのはあれが本当に夢だったのかということだ。あれは、あの惨状は夢などではなく、本当に起こったことだったのではないだろうか。

 寝ていた私のすぐ近くの壁に立てかけてあるホトトギスを見る。いつもと変わらぬ風貌で、いつもと変わらぬ位置に置いてあるその刀。

 

「貴方なのか?」

 

 小さく、誰にも聞かれないように私は囁いた。近くにいたヘスティア様にさえ聞こえなかったその一言に、刀の刀身が僅かに朱色の光を灯したことに私は気付かなかった。

 

 

■■■■

 

「シッ!」

 

 ホトトギスを横に薙ぐ。火を吐こうとしていたヘルハウンドは横一閃に顔を斬られ絶命し倒れる。そのまま動きを止めずに走る。敵が攻撃するまえに一刀で殺す。

 ヘルハウンドが火を吐こうとすればその口を上から突き刺し閉じさせ、ミノタウロスが突進を繰りだそうとすればその脚を切断する。敵の僅かな動きも見逃さず、半ば無意識に反応し斬り刻む。既に中層での戦闘は作業と化していた。

 

 だから思考を巡らせる。

 自分の剣で放った斬撃のことを思い出す。今となってはその時の感覚がかなり薄れ、どのようにして繰り出したのか身体が覚えていないが、あれができた原因くらいは考えられる。

 

 一つ目の原因。

 それは鈴音から授かった妖刀花椿、改め妖刀ホトトギスだろう。刀単体としての出来は私からしたら完璧と言っていいが、その本質は刀に宿る思念である。詳しくは分からないが、ホトトギスに宿った『ホトトギス』と自ら名乗った思念体は極東ではお伽話の類に出てくる怪物の名前らしい。

 その実、遥か昔に刀を打つことに取り憑かれた男が生み出してしまった最高の刀を目指すべく人を操り血を啜り強くなっていく怪異である。その怪異を鈴音の先祖が結晶に封じ、それが巡り巡って鈴音の手に渡った。鈴音はその結晶を使い私に刀を打ってくれた。

 しかし、一つ疑問があるとすれば『ホトトギス』は一つの思念でしかないはずである。つまるところ、『ホトトギス』は「斬る」ということしか考えられない一方通行の感情の塊でしかないのだ。しかし、ゴライアスとの死闘の際私に話しかけてきた『ホトトギス』は確かに人格のようなものがあった。

 

 剣は口では何も語らない、それは当たり前のことだ。だが、剣は振るえばそれだけで自分に語りかけてくる。どの刃に宿った想いや願い、出来上がるまでの過程を話さずとも語ってくれる。だから私はホトトギスを振るう。

 何かを斬れば斬るほど理解が深まる、そのはずなのだ。斬ることで己を知り、そして剣を知る。それが剣士としての研鑽であり、目的であり目標でもある。己という剣士を知り、その限界を越えていく。己の剣を完全に理解することで自分の剣技を高めていく。

 

 だが、ホトトギスでいくら敵を斬り殺しても私は何も理解できずにいた。どのようにして動けばより疾く、正確に斬れるか等は振るう毎に理解が深まっていく。しかし、私の知りたいことは何一つ分からない。

 しかし、私は剣を振るうこと以外は何も知らないただの剣士でしかない。いくら考えても真相など分かるはずもないので、結局はこうやって戦地に足を運び敵を斬る他ない。例え、今実らずともいつか理解できる時がくるのだと信じて剣を振るう他、私にできることはない。

 

「ふぅ……もう、いないようですね」

 

 中層でのモンスターの産出速度を上回る速度でモンスターを狩ったせいだろう。周りにはミノタウロスやヘルハウンドの死体が転がっているばかりで新たなモンスターが現れる気配がない。

 動かぬ屍となったモンスターから魔石を取り除く作業に取り掛かりながら、再び考え始める。

 

 二つ目の原因。

 これは、推測でしかないが私の【(スパーダ)】に原因があるのではないかと思っている。そもそも強力過ぎるスキルである、とヘスティア様には言われていた。一人の人間が所有するには最高峰のスキルの一つではないかとさえ神に言われたのだから、【剣】の破格さが伺える。

 信じれば斬れる。単純明快にして強力無比なスキルである。しかし、その説明欄に記載されている『稀代の剣士として認められた証』という言葉がずっと頭に引っかかっていた。私は()()認められたのかということだ。

 神々の与える【恩恵(ファルナ)】は冒険者の蓄積してきた功績を目に見える形で反映させるものだ。スキルともなれば発現するための経験はそれだけ重要なものになるはずなのだ。しかし、私は誰かに自分の剣の腕を認められた覚えなどなかった。

 出処と経緯が不明なこのスキルは私にとっても未だ謎が多い。そんなことを考えている事自体、斬れればいいというのがモットーの私らしくないのだが。

 

 しかし、そこに何か秘密があるのだと私は思った。例えば、ロキ様は私のスキルを『切断』という属性を生み出すスキルだと言った。だから私は手で物を斬ることができるし、刃の切断力を飛躍的に向上できる。

 もし、今までは自分の身体もしくは触れている物に対してしか付加できていなかった『切断』という属性を、外に行使することができたらどうなるだろうか。想像することしかできないが、恐らくはゴライアスに放った斬撃、切断という概念を放出できるのではないだろうか。

 

 そこまで考えて、私は虚空に向かってホトトギスを振るった。当然、何も起こりはしない。しかし、あの時私がしたことと何も変わらないのだ。

 

「答えてはくれないか……」

 

 右手に握るホトトギスに話しかける。きっと、この刀は答えを知っている。否、この刀が答えであるはずだ。しかし、いくら考えてもその方法が思いつかない。あの時、ホトトギスは勝手に私に話しかけてきたが、今はうんともすんとも言わない。

 夢には出てくるのに、現実では何も語らない。

 

「帰って寝てみるのも手ですかね」

 

 ゴライアスと再戦するというのは不可能ではないが、既にレベルが上がってしまった私では前回の再現は不可能である。ならば睡眠を試すのが道理だろう。

 

「では、帰りますか」

 

 善は急げとばかりに私は急いで残りの死体から魔石を回収し地上への帰路についた。斬るために寝るというのは少し奇妙な感覚ではあったが、私の行動すべてが結局は斬ることに帰結するのだと妙に納得できた。

 そう、すべては斬るためにあるのだ。己も、剣も、敵も、世界も、すべてが斬るために存在するのだ。

 

 

 

 

 

 バベルを出ると空は茜色に染まり、夕方になっていることが分かった。今日はヘスティア様に起こされ朝から活動をしていたので比較的早い時間に帰ってこられたようだ。

 態々人通りの多い大通りを通ることなどせず、私は入り組んだ路地へと足を踏み入れた。ひんやりとした空気が流れ、人が多かったバベルの広場から来たからだろう、少しだけ廃れた気配が漂う。

 

 道に迷うことなく路地を右へ左へと進み着実に歩みを進めていく。仮に迷ったとしても屋根の上まで登れば大通りに戻ることは容易である。細い路地なので三角飛びの要領で屋根まで登ることも簡単にできる。

 だからだろう。私はすこしばかりぼーっとしていた。今まで剣に関しては躓いたことのなかった私が、剣について考えていたからかもしれない。

 

「止まってくださいバーナムさん」

「え?」

 

 気が付けば私は誰かにぶつかりかけていた。ぶつかる前にその人物が声を掛けてくれたおかげでぶつからずに済んだが、それでも後二歩ほど歩いて入ればぶつかっていただろう。

 

「あ、これはすみません」

「いえ、構いません。しかし、貴方でもこういうことがあるんですね」

「ん?」

 

 「貴方でも」という言葉が引っかかった。相手は私を知っているらしい。別段有名でもない私を知っているということは知り合いである確率が高い。

 そして相手を見て、今一度自分が気を抜いていたのだと実感した。

 

「どうかしましたか?」

 

 目の前にいたのは給仕服を身に纏った豊穣の女主人亭でウェイトレスとして働いているエルフの女性、リュー・リオンであった。その空色の瞳は薄暗い路地でもはっきりと輝きを放っている。

 そういえば彼女も移動には路地を使うのであった。

 

「いえ、少しぼーっとしていたようで。声をかけてもらってありがとうございました」

「今の状態でぶつかられては買い出しをもう一度しなくてはいけませんから」

 

 彼女は食材が入った袋を抱えていた。どうやら店の在庫がなくなり買い出しをさせられていたようだ。

 

「じゃあ、頑張ってくださいね」

「……バーナムさん、少し話をしませんか?」

「はい?」

 

 帰って早く寝たかった私はリューさんの横を通り過ぎ帰ろうとするが、リューさんの一言で振り返りながら声を出してしまった。

 普段であればリューさんから話しかけてくることはあまりない。ましてや今は買い出しの途中である。リューさんはエルフの類にもれず清廉潔白であり、サボることをあまり好まないのだ。

 

「最近、とある噂を耳にしました」

「はあ、噂ですか」

「なんでも、どこかの誰かが単独でゴライアスを討伐をしたらしいという噂です」

「それはすごいですね」

 

 それは自分であるのだが、平静を装って返事をする。知られてまずいことではないが、ヘスティア様からはできるだけ知られるなと言われている。

 

「そしてもう一つ」

「もう一つですか?」

「はい。今まで見も聞きもしたことのない冒険者がランクアップのリストに入っていて、調べてみるとその人物が冒険者になったのは約一ヶ月前のことだとか」

 

 何かの間違いだろうと調べた本人も信じていませんでしたが、とリューさんは続けた。

 

「……人の過去を調べるなんて、暇な人もいるんですね」

 

 僅かであるが、リューさんから怒気を感じた。空色の瞳が静かに私を睨みつけているように思えた。薄暗い路地ではそれを確認することができないが、確認したくないのが本音である。

 

「私も、一ヶ月などありえないと思っていました。しかし、その冒険者の名前を聞いて、私は何故かゴライアスの噂を結びつけてしまった」

「……」

「そして、今確信しました。バーナムさん、貴方はランクアップを果たしたのですね? 僅か一ヶ月という短い期間で、階層主の単独撃破という偉業を成し遂げ」

「……ええ」

 

 仮に私が否定したとしても、リューさんはその確信を曲げなかっただろう。私は諦めてその事実を認めた。

 

「一応、なんで確信に至ったんですか?」

「分かるんです、長年冒険者を見ていると。雰囲気とでも言えばいいのでしょうか。特にレベル1とレベル2の違いは大きい」

「……なるほど。勘みたいなものですか」

「有り体に言えば」

 

 分かる人には分かるということだろう。私が剣士の力量を見るだけである程度予想できるように、リューさんは過去の冒険者としての経験と現在の酒場の店員という経験で冒険者の力量を予測できる。ただ、それだけのことだった。

 

「バーナムさん、何が貴方をそこまで駆り立てるのですか? ゴライアスはギルドの推定レベルは4です。そもそも挑もうとすることすら自殺行為にあたる。それに自分から向かい、あまつさえ一人で討伐するなど常軌を逸している」

「何事にも例外というものがあるということでしょう。それに、倒せたのは奇跡のようなものでしたよ。ええ、本当に奇跡でした」

 

 そして今はその奇跡を追い求めて剣を振るっている自分がいる。

 

「人の冒険にとやかく言う資格は私にはありません。ですが、一つだけ言わせてください」

 

 その時、彼女は真っ直ぐと私を見ていたが、私には彼女が私を通して何か別のものを見ているような気がした。

 

「もっと自分を大切にしてください。貴方の事を心配している人がいるということを知ってください」

「……それは誰かに言われた台詞ですか?」

「昔、言われた言葉です」

 

 あえて言うならば、その言葉が彼女のものでないことが分かったのは彼女に合っていないと思ったからだ。抜身の刃のような彼女の雰囲気には似合わない、そう思ってしまった。

 

「リューさんも心配してくれるんですか?」

「私は……私はもう知り合いには死んで欲しくないだけです」

 

 目を閉じて呟かれたその言葉は誰を想って口から零れたのか私には分からなかった。しかし、その時目の前にいた女性はどこか儚く、悲しんでいた。

 

「それと、もう一つ」

 

 一つだけじゃなかったんですか、などと言ってもリューさんが何かを言うのを阻止できるとは思えず言わなかった。

 

「貴方がどのような手段でゴライアスを討伐せしめたか、私には分かりません。しかし、それが普通ではないのは理解できる。レベルを超えた相手を倒すというのは、それ自体が異常だ」

「そうですか」

 

 割りと前から中層で戦っていた私にとっては麻痺した感覚ではあるが、本来冒険者は自分のレベルを考慮してダンジョンを探索する。

 

「バーナムさん、貴方にはレベルを無視できるほどの()()がある。だからこそ気を付けてください。貴方が深淵を覗き込む時、深淵もまた貴方を覗き込んでいる」

「ええと、つまりどういうことですか?」

「力に溺れるな、ということです。力に溺れた者の末路はいつの時代も決まっている」

 

 その時リューさんが強張ったのが分かった。持っている買い出しの袋を持っている手に力が入り皺ができていた。

 

「……ご忠告ありがとうございます」

 

 私は一言礼を言ってから今度こそ帰ろうと足を進めようとする。しかし、またしてもリューさんに呼び止められる。

 

「ああ、それと。色々言いましたが、ランクアップおめでとうございます。では、私は少々急ぎますので」

 

 言うことだけ言って、私の返事を聞かずに歩き去っていくリューさんの背中を見る。薄暗い路地裏では少し離れただけで見えなくなったが、なんだかんだ言ってランクアップして初めて「おめでとう」と言われた気がする。

 

「『深淵を覗き込む時、深淵もまた貴方を覗き込んでいる』ですか……」

 

 リューさんに言われた言葉を呟きながら腰に差したホトトギスを眺める。今朝見た夢は、十中八九ホトトギスの見せた夢だ。その刃に宿った想いの一端を私は見たのだ。それと同時に、相手もまた私の一端を見たのだろう。

 そもそもホトトギスは人に取り憑き操る怪異である。触れれば触れるほど、覗けば覗くほど彼女もまた私に触れ覗く。そして、私という人間を熟知した時、私もその昔取り憑かれた人間たちと同じ末路を辿るのかもしれない。

 

「ふふ、望むところだ」

 

 そうであるならば、これは時間との勝負である。私とホトトギス、どちらがお互いを支配するかの勝負だ。確かに、相手は何百年と生きてきた思念体で私とは比べ物にならない程凶悪であるかもしれない。しかし、私には一つだけの矜持がある。

 

 剣に関する勝負で負けるわけにはいかない。ただ、それだけだ。

 




閲覧ありがとうございます。
感想や指摘などがあれば気軽に言ってください。

いつか没になった案をどこかに書きたいと思っています。たぶん活動報告になるかな。

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