剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか   作:REDOX

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剣士、迷宮に立つ

「君はダンジョンに何を求めているんだい?」

 

 それが所属することになった眷属(ファミリア)の主神が私に最初にした質問であった。その問に対して私は

 

「修行のため」

 

 と答えた。

 村に居た老師にはもう教えることがないと言われていた。しかし、恥ずかしながら私には実戦経験というものがあまりにも不足していた。当然だろう、モンスターと呼ばれる怪物などあまりいないし、野盗にもついぞ会うことはない生活をしていた。

 人外がそこら中を彷徨う迷宮(ダンジョン)は実戦を積むにはうってつけの場所に違いない。老師にそう言うと、彼も笑いながら同意してくれた。

 

 結論から言おう。

 私は間違ってなどいなかった。

 

『ウヴアァァァアァァァァァアアアアッ!!』

「……うるさいな、こいつ」

 

 目の前に立つのは半人半牛の怪物。老師に聞かされた英雄譚などにも出てくる怪物の一体。その名は『ミノタウロス』。その肉体は、人間の限界を越えておりかなり筋肉が隆起している。

 ギルドで聞いた話によるとミノタウロスというモンスターは中層に出てくるモンスターだったはずだ。討伐の適正レベルは2、しかもかなりの熟練者でなければ倒せないと言われた。まあ、まず出会うことはないだろうとも言われた。

 しかし、現実では出会ってしまった。最初の方は私も逃げまわっていたが、だんだんと面倒くさくなってきた。レベル2のモンスターという事前情報に惑わされていたのか、ちゃんと相対してみると、そこまでの気迫ではない。

 少なくとも、あの老師が本気を出した時に比べれば生易しい。

 

「斬れるか……」

 

 否、それはなんと無駄な問答だろうか。斬れるか、という疑問など私には似つかわしくない。斬るか、斬らないか。それだけが私の出せる答えなのだから。

 

「こいつは」

 

 ギルドから冒険者となった日に支給された剣を抜く。それは、ただのショートソードだ。しかし、そんなこと私には関係ない。

 『斬る』という概念は、剣にあるのではない。斬ることを選ぶのは他ならない私自身なのだから。手に持つ剣がなんであろうと、斬れない物などないと信じる。

 

「斬るッ!」

 

 爆音を伴いミノタウロスも前進してくる。その速度は、今まで戦ってきたモンスターのそれとはかけ離れていた。

 しかし、見える。相手が次に繰り出す攻撃が、確かなイメージとして視界に映される。

 

『ヴォアアアッ!!』

 

 自分より遥かに背の高いミノタウロスは私に向けて右手を振り下ろした。その攻撃をミノタウロスの股の間をくぐりながら避け、その足首を斬った。当然、足を失った者は立てない。

 それでも、後ろに回った私に振り向こうとするミノタウロスは姿勢を崩し、膝立ちになった。

 

「巨体というのも、不利な点が多いものですね」

『ヴォアアアアッ!!!』

 

 人語など分からないであろう怪物に話しかける。返事は大きな咆哮であったことなど、分かりきっていた。

 すでに立てないにも関わらず、歩いて近付く私にミノタウロスは拳を力いっぱい振るった。しかし、足による踏ん張りが利かないからだろう。その拳は本来の速度には格段に劣っており――そんな拳を私が見えないはずもなく。

 

「しッ!」

 

 斬り裂く。腕が一本宙を跳んだ。

 

「潔く死ね」

 

 そうして、最後にその首を斬り落とそうとショートソードを上段に構えた時だった。

 

「いたーッ!!」

「でかしたわティオナ!」

 

 突然の来訪者。それに合わせて、本能が告げる警戒本能。

 数瞬先の未来を見ることができる目も、見えなければ意味がない。しかし、老師と幾度も手合わせをしてきたからだろう、攻撃という物を肌で感じることができるようになっていた。

 

 風を切りながら飛来してくる物体。それを、目を向けずにショートソードで斬り払う。もう一つ飛来してきた物体はミノタウロスの頭に突き刺さり、貫通して壁にめり込んだ。目を向けるとそれは投げナイフであった。その威力たるや、そのまま当たっていたら私の身体をいとも容易く貫通していたであろうほど。

 

「あ」

 

 その豪速で飛来してきたナイフとの衝突に耐え切れなかったのか、ショートソードは甲高い音と共に中程で折れてしまっていた。

 

「うわあああ! 大丈夫ッ!?」

 

 突然の来訪者の片方、褐色の女性が駆け寄ってくる。

 

「ほら、ティオネも謝りなよ。殺しかけたんだから」

「ごめんなさい」

 

 どうやら、先ほどのナイフを投げたのはティオネと呼ばれる、これまた褐色の女性だった。かなりの速度だったので、てっきり男性とばかり思っていた。という考え自体が迷宮都市(オラリオ)に馴染めていない証だろう。

 

「いえ、生きてますし。どちらにしろ、助けようとしてくれたのでしょう? なら、別に構いません」

「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど……」

「あの……本当に失礼だとは思ってるけど。質問をいいかしら?」

 

 どうぞ、とティオネと呼ばれていた女性の発言を促す。

 

「貴方、見た目も装備も駆け出しの冒険者みたいだけど。レベルはいくつ?」

「仰る通り、一週間前に冒険者となったレベル1ですよ」

「嘘じゃないでしょうね?」

「ちょっと、ティオネ」

 

 傷付けかけた人間にいくつも質問をし、その上疑うような言動までするティオネに戸惑ったのか、もう一人の女性はその行動を止めようとしていた。

 

「だって、考えてみなさいティオナ。仮にもレベル5の私が投げたナイフを斬り落とすことなんて、レベル1の冒険者にできるわけないわ。しかも、あのミノタウロスよく見てなかったけど、腕が無かった」

「ええ、斬りましたから」

「それがおかしいのよ。レベル2相当のモンスターをレベル1、しかも駆け出しの冒険者が傷付けることがそもそもありえないわ。さあ、きりきり本当の事を吐きなさい」

 

 いつの間にか、自分が嘘を吐いていることになって、しかもそれを聞き出そうと尋問されていた。なかなか愉快な女性だ。

 

「正真正銘私はレベル1の駆け出しですよ。なんなら、ギルドに行って確認しますか? どうせ、武器も壊れたのでもう帰るつもりでしたし」

「あ。その、それもごめんね」

「お構いなく。あれは貰い物の上、大した物でもなかったですから」

 

 そう言って、私は踵を返して元来た道を戻るために歩きだした。まあ、二人が付いてくるかはどちらでもいい。というか、何か忘れている気が……。

 

「あぁッ!」

「どうしたのよ!」

「いえ、そういえば仲間とはぐれたのでした。できれば仲間を探してからでいいですか?」

「まあ、あのミノタウロスは私達のせいでもあるから、見つけるまで付いててあげるね」

 

 話を聞くと、なんでもあのミノタウロスは中層で出会った集団が、逃走して上層まで登ってきたものらしい。

 

「あ、私ティオナ・ヒリュテ。こっちは姉のティオネだよ。所属はロキ・ファミリア」

「親切にどうも。私の名前はアゼル・バーナム。所属はヘスティア・ファミリアの新参者です」

 

 ふむ、まさか大手のファミリアの冒険者だったとは。あまりにも冒険者について疎く、興味の薄い私にこれだけは覚えておけと言われたファミリアの中にあった名だ。

 しかも、先ほどの会話でレベル5の冒険者であると言っていた。実は中々な有名人なのかもしれない。私は世間知らずなのでそこらへんが良く分からない。

 

「ヘスティア・ファミリア? 聞いたことないわね」

「それはそうでしょう。つい一週間ほど前にできたファミリアですから」

 

 私はベルのついでに入ったようなものですが。

 

「それにしてもまさかこんな浅い階層でミノタウロスなんて大物に出会うことになるとは。人生何が起こるか分かりませんね」

「ごめんねー。あれ、ウチのファミリアの不始末っていうか……そもそも、なんであいつら私達から逃げたのよ」

「モンスターにすら逃げられる冒険者とは……本当に恐ろしい」

「いやー、私もあんなこと初めてだったから驚いてね。それで、仲間っていうのはどんな奴なの?」

 

 私の仲間は同郷の友とでも言うべき人だ。老師からはそろそろ旅に出ろと言われていたので、ちょうどその時オラリオに冒険をしに行くと言っていた彼に付いてきたのが始まりだ。

 

「白い髪に赤い目。兎のような印象の少年です。まだ十四歳なので、結構小さいと思います」

「ほえー、十四歳で冒険者かあ」

「ティオナさんもまだまだお若いでしょう。十七くらいなのでは?」

「あたりー。でもアゼルも若いんじゃないの?」

「そうですね」

「待って! 当てるから。むむむ」

 

 唸りながら歩く私の顔、胴、足と観察するティオナさん。といったものの、私の見た目にそう目立ったものはない。

 可も無く不可もない、どちらかといえば可と老師に辛口のコメントを頂いた顔に短い赤い髪。黒単色のズボンに、緑のマントで上半身を隠している。中はただのシャツしか着ていない。零細ファミリアには防具を買う金などないのだ。

 

「二十くらい?」

「惜しいですね。十八です」

「それって惜しい?」

 

 さあ、それは個人の感性の違いと言いましょう。

 

「というか、ティオナ。何仲良くなってるのよ」

「別にいいじゃん。私達が悪かったのは確かなんだからさ」

「それは、そうだけど」

「私としてもティオナさんみたいな見目麗しい女性と仲良くなれて嬉しい限りです。ミノタウロスにも襲われてみるものですね」

「見目麗しいって……もっと、普通の言い方できないの? 後、さんは嫌いだから」

 

 これが私の友人、ベル・クラネルの言うダンジョンでの出会いなのだろうか。いや、彼が語ったのは男が女を助けるというシチュエーションだったので、今は逆ですね。

 

「いやあ、初対面の女性を呼び捨てで呼ぶなんて、恥ずかしくてとてもできませんよティオナ」

「いや、普通に呼んでるし」

「女性の嫌がる事をするのも嫌いなんです。あ、ティオネさんはティオネさんと呼びますね。それとも姐さん、とでもお呼びしましょうか?」

「なんでよ!」

「いえ、こう、雰囲気?」

「私のどこが怖いっていうの!」

 

 誰も怖いなど一言も言っていません。逆らえない感じがひしひしとするというか、逆らったら恐ろしい事になる、そんな未来を予想させるような女性である。

 

「あ、アイズいたー! ついでにベートも」

「チッ。漸く来やがったかバカゾネス共」

 

 数分歩いていると、ティオナが仲間を見つけたのか手を振りながら近づいていった。

 一人は銀髪の狼人。目つきが鋭く、醸し出す雰囲気も周りに比べると人一倍鋭い。好戦的、言葉を交わさずともその性格の一片が見え隠れする。

 もう一人は金髪の女性。その女性を見た瞬間、身体を雷が貫いたような感覚が襲う。

 

 スラリとした身体に金の髪が背中の中ほどまで伸び、こちらを振り向いた彼女の目は金色。美しい、そんな言葉では足りないような女性だ。

 

 

 しかし、そんなことは私にとってはどうでもいい。

 その存在が、その有り様が自分に似ているように感じた。鋭く、硬く、真っ直ぐな一本の剣。この女性(ひと)は強い、魂がそれを感じ取った。

 

「え」

 

 気が付いた時には地面を蹴っていた。予想外の行動にそこにいる全員が唖然とした。目の前の女性以外は。

 

 鞘に収めていた折れた剣を抜きながら斬りつける。その一撃は呆気無く彼女の剣に阻まれ、刃と刃がぶつかり火花が散る。

 弾かれた剣をもう一度、袈裟に振るう。しかし、それは彼女に当たる前に止まる。

 

「は」

 

 いつの間にか、とでも言うべきか。いや、見えてはいた。見えていた、というより見た。視界の中に行き成り彼女が私の首に剣先を突きつけるその景色。

 

「ははっは」

 

 口からは乾いた笑いが漏れる。速過ぎる。瞬きをした瞬間に出現したわけでもない、にも関わらず私は一瞬で剣が出現したように見えた。彼女は、私より遥か高みにいる。

 降参と言わんばかりに両手をあげる。そうすると、彼女はあっさりと剣を鞘に収めた。

 

「それにしても、斬れないとは……その武器はなんですか?」

「デスペレート。不壊属性(デュランダル)を持った剣」

 

 しかも、私の質問に潔く答えるとは。驚きを通り越して呆れますね。

 

「なるほど、不壊属性。私も知らないことがまだまだあるようだ」

「おいっ、てめぇッ!!」

「はイッ」

 

 大声で呼ばれたので振り向くと、銀髪の狼人が鬼の形相で迫り私の胸ぐらを掴み壁に押し付ける。

 確かに、冷静ではなかった。出会った人間に通告もせず斬りつけるなんて礼儀がなってなかったという自覚はある。

 

「行き成り斬りかかるたあ、どういう了見だ!? ああ?」

「いやあ、謝りますよ。だから、手を放して頂けると」

「なんだその態度はよお!」

「ちょっとベート! 放して!」

 

 漸く何が起こったのか把握したのか、ティオナさんも駆け寄ってきて狼人の手を掴み私から引き剥がす。

 

「邪魔すんじゃねえティオナ! こいつぶっ殺す」

「もう、止めなって! というかアゼルも! 出会った瞬間斬りかかるってどういうこと!」

 

 彼女に言って分かるだろうか。強いやつがいたので、つい襲いかかってしまった、なんていうふざけた理由を言ったらどう思われるだろう。

 

「いい」

 

 その声は小さくも、その空間に鈴の音のように響いた。

 

「別に、気にしてないから」

「アイズ!」

 

 言っていることが信じられなかったのか、狼人は狼狽えながら金髪の女性に詰め寄ってあれこれ言っている。

 

「で、斬りかかった理由、きりきり吐いてもらうわよ」

「これには深い理由がありまして」

 

 壁に追いやられた私に追い打ちを掛けるようにティオネさんが尋問を開始する。先ほどの狼人も怖いものがありましたが、ティオネさんの背後には鬼が見える。

 今回はティオナさんも納得していないのか、姉を止めず同じように理由を問い詰めてきた。狼人が金髪の女性にあーだこーだ言い、壁際では私がアマゾネス二人に問い詰められる。なんとも変な空間になった。

 

「これは、どういうことだい?」

「あ、団長!」

 

 そんな空間を壊したのは、一人の少年だった。金の髪に青の目。団長と呼ばれるからには、ロキ・ファミリアの団長なのだろう。

 

「おい、フィン。こいつ殺していいか?」

「……はあ。まずは説明をしてくれないかなベート」

 

 突拍子もない狼人の台詞に溜息を吐きながら返事をする少年。

 

「この野郎、バカゾネスが連れてきたと思ったら行き成りアイズに斬りかかりやがった!」

「それは確かなのかい?」

「はい」

 

 ティオネさんが最早別人なのではないかというほどお淑やかな声を出している事に違和感を感じながらも、これは面倒な事になったと思わずにはいられない。自分のしでかしたことなので、自業自得なのだが。

 

「フィン。私は気にしてないから」

「そうは言ってもね。で、君は何か理由はあるのかい? アイズに恨みでも?」

「いえ、彼女を見るのは今日が初めてです。ただ」

「ただ?」

 

 なんと言えばいいのか。正直に言うと、比べたかった。しかし、そんな理由で襲いかかる人間は果たしてどれほどいるか。それに私が比べたかったのは実力ではない。もちろん実力という点も大事だが、何よりも比べたかったのは内面である。

 【斬る】ということにおいて、彼女と自分。どちらが優れているのか。結果は、自力に差がありすぎて分からなかったが。

 

「彼女と私、どちらが鋭利なのか。知りたかった、と言いますか」

「何言ってんだこいつ? グダグダ言ってねえで本音を吐け、おらぁ!」

 

 痺れを切らしたのか、狼人は一歩踏み込み蹴りを放ってくる。

 その鋭さは、あのミノタウロスなど比べるのが恥ずかしいほどだ。しかし、まだ見える。彼女ほどではない。いや、彼女の常識はずれの速さを見た後だからこそ、見えたのかもしれない。

 

 再び、鞘からショートソードを走らせる。

 今回は、弾かれることはなかった。キン、と甲高い音と共に、狼人の履いていたメタルブーツの爪先部分が斬り落とされる。私の半ば折れたショートソードは無事だ。

 

「どうやら、それは不壊属性という訳ではないみたいですね」

「なっ」

 

 ならば、斬れる。

 得物など、なんだって関係ない。極端な話、痛いが手刀でも斬鉄できる。スキルの説明に刃物の使用は必要とされていなかった。

 

「ベート、やめるんだ」

「止めるんじゃねえフィン!」

「やめろ、と言っているんだ」

 

 フィンと呼ばれた団長が少し声に怒色を込めると、勢いのあった狼人も嫌々ながら攻撃するのを止めた。かなりの形相で睨んでいるので怖いのには変わりないのだが。

 

「すまなかったね」

「いえ、元はといえば私が失礼な真似をしたのが原因ですので」

「そうね」

 

 ティオネさんがさも当然、と言わんばかりにさらりとそう言った。

 

「で、アイズ。本当に彼を許すのかい?」

「ん……そもそも気にしてない」

「そうか。なら、僕達が気にするのもおかしいか。この事は不問とする」

「ありがとうございます。アイズさんも、ありがとうございます」

「で、ティオネ。そもそもなんで彼を連れていたんだい?」

 

 フィンがティオネにそう質問すると、彼女は素直に起こったことを報告した。私の事を快く思ってないにも関わらず、その報告は公平であった。

 

「なるほどね。ミノタウロスに襲われて、ティオネの投げナイフを弾いて武器を壊してしまった、か。なかなかに信じがたいけど、当人達がそう言っているんだから本当なんだね」

「……はい」

 

 少し悔しそうな顔をするティオネさんを見て、なんだか状況が少し理解できた気がする。要するに彼女はフィンに惚れているのだろう。

 レベル1の素人に攻撃を防がれたのが気に入らないらしい。

 

「ティオネさん。一応言っておきますけど、私が防いでいなかったら、私大怪我をしていましたからね」

「分かってるわよ!」

「それで、本当にレベル1か確かめるためにギルドまで同行しようとしたけどまずはぐれた仲間を探したと。見つかったのかい? 白い髪に赤い目の駆け出し冒険者はそうはいないと思うけど」

「いえ、まだですね」

「その子なら、さっき助けた」

「本当ですか? 今はどこに?」

「……あっち」

 

 少し落ち込むような表情をしながらアイズさんは地上に向かう通路を指さした。なんで、落ち込んでるんだ?

 

「どうやら、仲間も大丈夫のようだね」

「ええ、これで心配事もなくなりました。ではッ」

 

 もう、色々面倒な上ベルが既に帰ったことが分かったので、帰ろうと歩き出そうとするとティオナに腕を掴まれ止められた。

 

「そんなあっさり帰すと思ってる?」

「そうだね。こちらとしても、随分迷惑も掛けたみたいだし、壊した武器くらいはなんとかしてあげないとね」

「て、いうこと」

「いえ、武器のことなら」

「買うお金あるの?」

 

 別に得物はいらない、などと言ったらまた不審に思われるかもしれない。ここは素直に相手の好意に甘えるべきか……。面倒くさい。

 

「ない……ですね。お恥ずかしながら、毎日食べていくのもやっと、と言った稼ぎなので」

「じゃあ、決まりだね。皆合流したらホームまで連れてって、適当な武器を見繕うよ」

「……ありがとうございます」

 

 まだ自分のホームに帰れないのか、と軽く憂鬱になってきたが、自分の行動の結果なのだからしょうがない。行くしかないのだろう。

 

 ロキ・ファミリアのホーム、黄昏の館へ。

 




 閲覧ありがとうございます。
 感想や指摘などがあれば気軽に言ってください。たぶん不定期更新です。

※2015/07/05 1:52 「切」を「斬」に修正
※2015/09/14 7:02 加筆修正

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