剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか 作:REDOX
プロローグ
ただ、剣を振るい続けた。
剣を握ったのは本当に偶然で、もしそこに鍬があったら鍬を握って畑を耕していただろう。その程度の気持ちだった。
しかし、始めてみると自分に欠けた最後のピースが当てはまるように、すとんと心に落ち着いた。振るえば振るうほどのめり込んでいった。そんな私を周囲は気味悪く思ったことだろう。
私にとって、剣を握っている自分こそが完全に思えた。
一人の老人に出会ったのはそんな時だった。
「なっとらん!」
一人で剣を振るっている私に、その老人は笑いながら話しかけてきた。
白髪に赤目の少年と共に住んでいたその老人は、良く村の子供達に昔話、特に英雄譚を聞かせた。その人の、剣を振るう姿がいつも私の瞼の裏をちらついていた。
だから、私は素直にその老人に教えを請うた。もっと、もっと格好良く剣を振りたいと。きっと、このまま貴方に教えを請わずに振るい続けるのは剣に失礼なのだと。
老人は私の言葉に大笑いして、そのお願いを聞いてくれた。ただ、一つだけ忠告をした。
剣に飲み込まれてはいけない。
剣は己の一部かもしれない。
しかし、己は剣の一部ではない。
何を斬り、何を斬らないか。それを決めるのは己であって、剣ではない。
もし、己と剣を同一視してしまうようなら、それは周りの人間すべてを傷付ける人間だ。
何を斬り、何を斬らないか。深い言葉だと思った。しかし、老人はその後、なんてな、とおどけたので真意は定かではない。それでも私は敬意を込めて、老人のことを老師と呼ぶようになった。
それから数年経った今でも、彼の言った言葉は私の中で生きていた。
アゼル・バーナム
Lv.1
力:H 124
耐久:I 45
器用:I 76
敏捷:H 165
魔力:I 86
《魔法》
【
・ 常時発動。
・ 数瞬先の未来の光景を見る。
・ 魔力を込めれば込めるほど、より鮮明に、より先の未来が見える。
《スキル》
【
・ 稀代の剣士として認められた者の証。
・ 何を斬り、何を斬らないかの取捨選択権を得る。
・ 己の力を信頼する限り効果持続。
・ 己の力への信頼の丈により効果向上。
その日、私は冒険者となった。
何の変哲もない本屋の片隅で、私と友人は一人の神の眷属になった。私は、この身に培った剣技を十全に振るえる場所を求め。友人は運命的な出会いを求め。
人の欲望を押し固めたような
閲覧ありがとうございます。
感想を頂けるとやる気がうなぎ登りになります。指摘などもありましたら気軽に言ってください。まあ、作者のメンタルは豆腐なので、少し気にかけて貰えると嬉しいです。
※2015/07/05 1:51 「切」を「斬」に修正
※2015/09/14 7:04 加筆修正