実はいろいろ考えてたんですが、初っ端からそれで飛ばすと、多分またしばらく死ぬことになると思い、日和ました。スンマソン・・・
まあ、それはひとまず置いといて。
では、どうぞ!
『グオォォォ!』
「お前はすっこんでろ!」
吸血鬼に向かって突っ込んだ古城を相手にヒグマの眷獣はその鋭い爪の生えた熊手で襲い掛かる!だが、古城もただ真っ直ぐ突っ込むだけではない。一度バックステップを挟んで一撃を回避した後、一足飛びに斜め上方へ跳躍し、重力+吸血鬼、それも第四真相である身体能力で脳天に拳を振り下ろす。
『ガウッ………グ、オォォン!』
「くっそ、やっぱタフだな!」
古城の完璧に決まったと思った一撃を眷獣は耐えて、四つ足で踏ん張り下へと降ろされた頭を上げて、古城を睨みつけるが、まったく効いていないという訳では無いようだ。事実、その巨体がグラついているのだから。
「やっぱ、消しきれねえか。だったら、本体の方が先だ!」
古城はターゲットを吸血鬼の方へと絞る。しかし、吸血鬼の前に躍り出たその瞬間にカウンターとばかりに、吸血鬼の足下から氷麗が飛び出した!よく見ると、眷獣の地面に付いた足から地面が凍り、それが吸血鬼の足下まで伸びていた。
「しまっ……」
「遅えっ、ガキ!」
氷麗が古城の眼球を貫かんとする間際、古城は横から何かにぶつかられ、軽く吹き飛ばされる事で難を逃れた。
「ちっ、本当にお前は何者なんだ!!」
吸血鬼が睨みつける先には東條を背に庇い、側にはヴォイドの冷蔵庫を具現化した集の姿があった。そう、古城を吹き飛ばしたのは彼の持つ、
「油断しないで、古城!」
「ああ、悪い、桜満。助かった」
古城は礼を言って立ち上がり、体勢を立て直す。だが、体勢を立て直した古城の事を吸血鬼は見てはいなかった。吸血鬼の目には、見た事のない能力を使う集の方が得体の知れない相手として脅威だと感じたのだ。
「お前は何なんだ?見た事のない能力……魔術か?だが、この島にいる魔術師なんざ、表に知られているのは『空隙の魔女』くらい……まさか、関係者か?」
「………は?」
見当違いの回答をした吸血鬼に、集は一瞬ポカンとした。あながち間違っても居ないのだが、集自身に今はそれを知る由は無い。だが、確かに絃神島に存在する魔術師の数は決して多くはない。であるならば、公にされている『空隙の魔女』こと、南宮那月の関係者と勘違いをするのも仕方がないと言えば仕方がないのだろう。だが、集の反応を見て吸血鬼は安堵する。関係者であれば、広く名の知られる魔女が現れる危険があるのだから。
「ちっ、違うのか。ビビらせるんじゃ無えよ。だが、それを知れたのは有り難え。これなら心おきなくお前を殺せるからなぁ!やれ、
眷獣は再び集に向かって氷麗を大量に飛ばす!集はそれを盾で防ぐ。
「だから、お前の相手は俺だ!」
『ガオォォン!』
眷獣は横から殴りかかろうとする古城に攻撃対象を変える。そして、攻撃の止んだ瞬間を集は見逃さなかった。集はヴォイドである冷蔵庫を底上げされた身体能力で持ち上げると、それを吸血鬼の斜め上の方へと向かって投げたのである。
「行っけえぇぇ!」
「あぁ!?こんなモンで俺をやれるわけ無えだろ!」
吸血鬼が飛来してくる冷蔵庫に向けて迎撃をしようとした瞬間だった。集の声が響く。
「戻れ!」
ヴォイドであったそれは、集の右腕へと引き戻される。しかし、中にあった物までは引き戻せない。そして、超低温のソレは吸血鬼へと降り注ぐ。
「なん――ぎゃあぁぁぁ!!い、痛え!あ、熱っ!!痛ええぇぇ!!」
そう、吸血鬼が頭から被ったのは−196℃以下で精製される超低温の液体であり、かつ空気中においては成分のおよそ8割近くを占める気体である窒素だ。その超低温の液体を頭から被ったのだ。いくら吸血鬼が化け物じみた再生能力を持っていようと、体の表面は人と同じ痛覚の通った皮膚だ。そこに超低温の物質が浴びせられれば無事で済むわけがない。吸血鬼の全身のあちこちが凍結するか、凍傷になっていた。
「な、何を…したっ!?クソガキィィ!!」
「今だ、古城!!」
「おう!そんで、お前は退いとけっ!!」
『ガフッ!?』
眷獣と取っ組み合いをしていた古城だったが、宿主の思いがけないピンチに動揺した眷獣の一瞬の隙を突いて、古城は眷獣の鼻っ柱に重い一撃を叩き込み怯ませる。そして、身動きの取れなくなった吸血鬼に突貫していき、吸血鬼の目の前で拳を構える!
「がっ!?ま………待…で!今…は……!」
「これで終わりだっ、吸血鬼!!」
古城は今出せるありったけの魔力を拳に集めてそれを一気に解き放つ様にして、吸血鬼の顔面に向かって渾身の一撃を放つ!
「おおぉぉぉ!」
「が……っはぁぁぁ!?」
古城の拳は間違いなく顔面の中心を穿って炸裂した。古城の今放てる最上の一撃を吸血鬼はクリーンヒットさせられたのだ。そして、その衝撃で吸血鬼は再びビルの壁に吹き飛ばされ、意識を断たれた。それと同時に彼の眷獣も姿を消した。宿主が戦闘不能になった証である。
「く……そ………………こんなトコで……俺…の………儲け……………………まだ…う…た……の……………」
悔しそうにそう呟きながら吸血鬼はパタリと倒れた。こうして、集のこの世界での初の戦闘は幕を閉じたかに見えた。
◇
「はぁーー………終わったなぁ。ったく、吸血鬼の眷獣ってのは戦うとここまで厄介ってのは初めて知ったぜ」
吸血鬼を倒して直ぐに、古城は座り込み大きく息を吐いた。時間にしてしまえば10分掛かっていない程の戦闘だが、実戦に慣れていない古城にとってはそれよりも長く感じたのだろう。集自信も何度か実戦を積んでいるとはいえ同様の様だ。
「それを同じ吸血鬼の古城が言うの?確かに眷獣の強さはよく分かったけど」
そして、集はここでようやく矢瀬の言っていた『制御』の意味がなんとなく理解できた。眷獣というのは、ここまで強力なものなのだ。それこそ、今の戦闘だって集や古城の様なズバ抜けた身体能力が無ければここまでやれなかっただろう。この力が仮に一般人に向けられたとしたら?
考えるだけで集は身震いした。例えば人口の密集したアイランド・サウスにある様な住宅密集地で今の戦闘が行われたとしたら?今日行った様なアイランド・ウェストにある巨大なショッピングモールだったら?おそらく、それを行わせないための『制御』という事なのだと、集はこの時はそう思った。
「俺をあんな犯罪者の吸血鬼と一緒にすんな!……それよりも、東條さんは?」
「大丈夫だよ。一応東條さん自身が来ていた衣服を少し切って、さっきよりキツめに縛って圧迫してるから出血はだいぶマシになってる。けど、早く行かないと行けないのは確かだよ」
「そうか。じゃあとっとと、移動しよう」
「うん、今度は僕が背負うよ。さっきは古城にばっかり動いてもらっちゃったしね」
「ああ、そう――がっ!!」
立ち上がった2人の時間が止まる。集は一瞬思考がフリーズし、古城自身も自分の身に起こった事に頭が付いて行かなかったのだ。そうなるのは仕方がない筈だ。今しがた倒した筈の敵の能力である氷麗が槍の様に、古城の腹部を貫いていたのだから。
「古…城?」
集は自らの頬に掛かった血痕の生暖かさに意識を引き戻される。古城自身はその身の内にいる獣が荒れ狂いそうになる感覚を感じていた。
「は、はは…は……………ざまぁ…見や……が……」
そう、敵であった吸血鬼が意識を取り戻していたのだ!だが、動けなかった故に氷だけを地面に走らせ、氷麗で古城を貫いたのだ。思いがけない事態に集は行動が遅れる。そして自分でも迂闊だったと歯噛みした。せめて縛るなりの対処をしておくべきだったと後悔した。
「ヤバ……出て…来るな、くっ……がああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うわあぁぁ!」
突如として古城の周りに雷撃が走り、さらに魔力が奔流となって溢れ出す。その魔力の奔流に集は流され、吹き飛ばされた。古城を攻撃した吸血鬼も同様だ。だが、集の方は何とか途中で踏ん張り、何とか遠くまで移動させられずに済んだ。
「こ、これは……!?い、いや、それよりも!古城!?古城!!」
「がっ…あっが………ぐぅああぁっぁぁ!!」
集が必死に呼びかけるが、古城の耳には届かない。彼の体内では彼自身が支配し切れない獣が暴れまわっているのだ。そして、ここへ来て集は矢瀬の言っていた『制御』の本当の意味を理解した。これは異常だ。先ほどの吸血鬼が可愛く思える様な威圧感を今の古城は持っている。
だが、威圧するだけではない。古城から溢れ出す黄金の稲妻と莫大な魔力で周囲の建物にヒビが入り、窓ガラスは全て割られ、地面が割れる!そして、島全体が振動しているかの様な揺れが起こっているのだ。先ほどの認識が甘かったと集は痛感せざるを得ない。これは、人の持つ力でも吸血鬼の持つ力でも無いと、本能的に悟った。古城はそんな種族の枠に入っていない『何か』なのだと、そう感じたのだ。
「コレじゃあまるで……天災そのものじゃないか」
集は全身の毛が逆立つ様に感じた。だが、集にも退けない事情がある。矢瀬が言ったのは『監視』、『協力』、そして『制御』だ。それが、楪いのりの情報との交換条件。つまり、ここで古城を『制御』仕切れなければ、集の目的も果たせない事になる。それだけは、何としても避けなければならない。
「………ゴメンよ、古城。僕にも退けない理由がある。だから……」
集は『全てを断ち切るハサミ』を具現化した。東條を降ろし、集はハサミを携えて雷撃と魔力の海に身を投げ出したのだった。
◇
第四真相の魔力が漏れ、暴走を始めた同時刻。遠くから様子を眺める人物が居た。魔力の暴走の影響で島全体が揺れ、さらに激しく揺れるビルの屋上に立ち、ヘッドホンを首に掛けた少年はただ眺めていた。彼の茶髪を強く揺らすビル風に目を細めながら、一体どうやってアレを止めるのかを監視していた。これは、本人曰く異世界から来たという少年のテストでもあるのだ。
彼自身、本来は監視すべきは第四真相だ。だがそれに加えてさらに監視対象が増えた上に、その本人から情報収集を頼まれている。それをタダでやるのは明らかに割りに合わない。だからこそ、第四真相の監視を少しでも引き継いでもらい、そして第四真相の『協力者』足り得るかどうかのテストをし、対価に見合うかどうかを試しているのだ。自分には決して出来ない『協力』と『制御』が果たして出来るのか否かを。
「さて、集はどうやってアレを止めるのか。最悪の場合は頼みますよ、那月ちゃん?」
「まったく、貴様らは揃いも揃って教師を"ちゃん"付けで呼ぶとはどういう了見だ」
そこに現れたのは、全身黒いゴスロリドレスに身を包んだ幼女に見紛うほど小柄な女性だ。実際に身長は小学校低学年くらいだろうか。
「まったく、貴様らの頼みを聞くのはこれきりにしたいところだな。さすがにあの数の幻術を使うのは骨が折れる」
そう言って彼女の後ろの巨大な地面の魔法陣の上に、大量に現れたのは集たちが目にした特区警備隊の隊員の屍体だ。彼女が持っている日傘を閉じて魔法陣の一角を叩くと光の粒子になるようにして霧散した。
「いやいや、本当に助かりましたよ。それぞれの特区警備隊の隊員にマーキングしておいて、致死性のダメージに至る前に転移して、質量を持った幻を残す。さすがは『空隙の魔女』ッスね」
「ふん、貴様にゴマを擦られても嬉しくない」
「うっわ、酷え。生徒が必死にゴマ擦りしたのに、それを一蹴とか」
「知らん。面白いものが見れると聞いて来てみたが、暴走したあの傍迷惑な生徒を眺めて何が楽しいんだかな?」
那月はさも退屈そうに遠くで暴走する第四真相の少年を眺める。未だに暴走した彼を止める術を、近付いて行く少年が持っているようには思えないのだ。手に刃物のような物を持ってはいるが、あんな小さな武器で止められるとは思えないのだ。にも関わらず、桜満集という少年は一歩一歩と第四真相である暁古城へと近付いていく。彼女は、なぜ今傍に居るこの自分の生徒の一人であるこの少年がここまで桜満集という少年に期待するのかを理解できていなかったのだ。
「………はぁ、見込み違いだったか?悪いが私は行くぞ?これ以上暴走させる訳にはいかんからな」
「待った、那月ちゃん!もう少し……もう少しだけ待ってくれ」
那月は矢瀬の制止を無視しようとも思ったが、普段は見ない自分の生徒の姿に転移を先送りにする事にした。代わりに自分に対する呼び方を注意する為に閉じた扇子を矢瀬の額に向けて一撃を降ろす。
「痛え!」
「教師を"ちゃん"付けで呼ぶなっ!馬鹿者!」
矢瀬は自分の担任教師から受けた体罰に渋い顔をしつつ、視線を集と古城に戻す。いつの間にか集は古城の目の前に迫っていた。そして、おもむろに手に持っていた武器を古城に突き刺した!
矢瀬はその行動に目を疑い、那月も珍しく一瞬だけ動揺したが、よく見ると刺した部分から銀色の帯状の光が何本も飛び出し、古城自身も別段それが苦しいという訳では無いようだ。それよりも自身の魔力の暴走の方が苦しそうだ。そして、糸が切れた様に古城はバタリと倒れた。
「……一体何をしたんだ?」
「……一応は生きている様だぞ」
那月は東條に付けたマーキングを通じて様子を盗み見ていた。そして、古城が息をしているのを確認できたのだ。
「一体如何やったんすかね?」
「……矢瀬、あいつの武器類はヴォイド、と言ったか?」
「ええ。本人からそう聞きました」
「ふむ……確か暁深森が読み取っていた筈だな?」
「ええ。集の奴のヴォイドの形状って分かりますか?」
「少し待っていろ………長さとしては50cmくらいか?持ち手は丸いな。ふむ、分かり辛いがハサミ、か?」
「ハサミッスか。確か本人曰く『全てを断ち切るハサミ』ッスかね?」
「ほう、『全てを断ち切る』か。また大仰な名だな。おそらく『全てを断ち切る』というのは概念的なものだと思うがな。これは推測だが、あのハサミで暁古城の中の何かを断ち切ったんだろう。『意識』とかな」
那月はニヤリと笑いながらそう言うと、面白い掘り出し物でも見付けた様な表情をする。その表情を矢瀬も読み取りクギを刺す。
「そういや那月ちゃん、メイドだか執事だかが欲しいって言ってましたね。欲しいとか思わないで下さいよ?」
「分かっている。先に契約したのは貴様ら公社の連中だからな。だが、あいつ自身が契約する相手を変えたがった場合は文句を言うなよ?」
「まぁ、俺の意思としては、集が決めたんなら何も言わないっすけど」
「ふふ、そうか。では、その言葉を信じておく事にしよう。では、あとは任せる。東條の回収は
「へいへい、リョーカイっすよ。俺も古城と集を迎えに行ってきますよ。じゃ、また夏休み明けに会いましょう、那月ちゃん♪」
「教師を"ちゃん"付けで呼ぶなっ!」
イタズラっぽく言った矢瀬に扇子による一撃を入れようとする前に、矢瀬は屋上から飛び去った。残された那月は去り際の自分の生徒の態度に悪態を突きつつも追いかける事はしなかった。
「ふん、まったく何故私が"ちゃん"付けで呼ばれなければならんのだ。だが、まあいい………矢瀬め、ツメが甘いな。それに、吐いた唾は呑み込めんぞ?」
不敵に笑う那月の手の中には黒いUSBメモリが握られていた。沈もうとする太陽にそれを翳しつつ『空隙の魔女』と呼ばれる彼女は微笑む。
「異世界からの来訪者、か。ふふ、矢瀬も偶には役に立つことを言うじゃないか。少し騒がしくなりそうだが、楽しめそうだ」
そして、ビルの屋上から人は居なくなった。居なくなった後に残ったのは相変わらず強く吹くビル風の音だけだった。
はい、ってな感じの戦闘パートでしたぁ。
・・・疲れた。戦闘を描くのが一番苦手。まあ好きなんですけど。
そして、再び登場した那月ちゃん。個人的に好きなキャラなので隙あらば、もっと出番を増やしたい。
あと因みに集は古城が第四信組だと未だに知りません。次回あたりにバラします。
ではでは、また次回♪